六話
話の展開上必要な内容だけどあんまりネタが入らなかった。
「徐庶殿が天水まで来て、ここ一ヶ月ほど滞在している理由はなんなのですか?」
音々音の放った言葉で私は凍りついた。
あ、真名ならいただきました。私は諸事情で持ってないけどね。
それはそうと。言えない。
ニート生活を満喫しようとしたら追い出されて、ニート時代の知り合いのエンカウント率が高そうな荊州から逃走して。中原を行先にしたら戦争に巻き込まれそうだから益州に向かって。自然の素晴らしさに感動していたが、洋食が涼州に存在することを知っていても立ってもいられずに天水に至ったなどと。
シルクロード経由で伝わったとおぼしき洋食もどきは、対五胡最前線の西凉よりも都に近い天水に店が多いということで天水でニート生活を満喫しているだけで目的とか無いと。
正直な話、徐庶は後悔していた。
夢にまで見て、自作しようとして失敗し断念した洋食が食えると考えた瞬間、凉州行きを決めた己の判断を。
凉州は五胡と激しく争う馬家と今は特筆する事はないが、三国志でもかなり有名な悪役である董卓の二大勢力がある。
天水はそのうち、董卓の支配下だ。
自分の記憶では天水の情報は無いが、悪役の支配下な以上は最終的には戦場になるだろう。
一週間ほど三食洋食三昧をした後に正気に戻りそのことに思い当たり頭を抱えた。
益州に帰ろうにもそろそろ路銀が心許ないから帰れないのだ。
張さんに紹介されてる店を頼ろうかとも思ってたが、なんだかんだでニートをしているのできまりが悪い。
路銀を貯めるためには就職をしなければならないが、求人をしている商店は張さんの知り合いが経営しているという店だけ。
体を使う仕事はひ弱な私には無理。
ということで残りが割と少ない資金を食いつぶしている。
…音々音が返事を待っている。
まだまだ未来は明るいと根拠無しに信じられる幼女にこんな情けない話を正直には言えない。
ならばそれっぽいことで煙に巻く?
無理だ。音々音は陳宮なだけあって無茶苦茶賢い。嘘はバレると考えた方がいい。
…仕方がない。ここ数日考えていたがデメリットが多いと却下していた金策を使うか。これならば音々音にも説明がつく。
「いやぁ、ここの太守の董卓殿に下級官吏として仕えようかと思ってね。これでも読み書き算術には自信があるから、下級官吏としてくらいなら受け入れてくれるだろうし」
科挙?そんなものはこの世界には存在しないんだぜ。
水鏡先生はそれなりに有名人だから頂いた紹介状を使えばそれなりの地位にはつけるだろう。
だが、それでは意味がない。
理想的なのは数ヶ月くらい働いて金を貯めてから辞職して益州か最低限、漢中まで行くこと。
それには辞めやすい下級官吏でなきゃまずいのだ。
「徐庶殿は軍師志望ではなかったのですか?」
やめて、私のライフはもう0よ!
「ほら、音々音。若輩者というのは実力云々以前に仕事を真面目に丁寧にやるところから始めなきゃいけないんだよ」
ただの誤魔化しだが、我ながら良いこと言った。
これでも誤魔化しきれないなら前途ある幼女に冷たい現実をさらけ出すことも吝かではない!
「なるほど。そういうことでしたか」
ふぅミッションコンプリートゥ!これが達成感というものか。
* * * * *
曹孟徳は、とある男が近くを訪れた時、必ず予定を変更しその男との会食の機会を設ける。
「久しいわね、張せ「Hey!張さんと呼んでくれ!Say!」張さん」
「Hey!孟徳もわざわざ呼んでくれてありがとよ!」
その男の名前は張さん。
本名不詳の粋な商人である。
「で、張さんは何か面白いものは持っていないのかしら?」
曹操が彼との会食をここまでして望むのは張さんの圧倒的な活動範囲に理由があった。
実にこの男。各地の店は部下に任せて、南は揚州、北は烏林まで恐ろしい程に広範囲に渡って行商を行うのだ。
当然ながらその過程で面白い道具やら情報やらも得ている。
頭もいいから話自体も面白い。
「Hey!今回はとっておきの話があるぜ!本人が望まないだろうから名前は伏せるが稀代の大発明家の話だぜ!」
隠密用の装束として利用された水着と画期的な計算道具の算盤は曹孟徳が初めて使い始めたと史書には残る。
* * * * *
「むぅ」
彼女は焦っていた。時代は停滞し、淀み、腐りきっていた。
しかし、己になせることはその焦燥と比した時に余りにも小さい。
彼女の主には間違いなく名君の素質がある。
軍師には広大な漢においてなお、有数の智を持つ自分が。
武官には漢最強とすらも言える将を筆頭に精強な豪傑達が。
天下を狙いうるだけの布陣はあるのだ。
しかし、時代の停滞がそれを認めない。
辺境の一太守が天下を狙う機会なぞいくら探してもありはしない。
だが、未だに諦めてはいない。
時代は確かに停滞している。しかし、溜まった膿は確かに化膿し悪化している。
人を集め、力を蓄え。来るべき雄飛の時を待つ。
そんな彼女が一人の才人を見つけたのは、あるいは必然だったのかも知れない。
「へぇ。あなた、名前は?」
「音々音は陳宮なのですぞ」
「そう。ボクは賈駆。賈駆文和。ねえ陳宮。一軍の采配。奮う気はない?」
急展開。
決してネタが思いつかなくて一気に話を進めた訳じゃある。