五話
どりるみるきぃちんきゅーきっくに捧ぐ
現在、私達は天水の街にいる。理由は後述しよう。
今、話題にすべきはその事ではなく。
「むむむ。流石ですな徐庶殿」
目の前で唸っている幼女。
こいつである。
この幼女。名を陳宮。字を公台という。
ついでに言えばこの幼女。
私が拾ってお持ち帰りしたのだ。
見つけたのは益州から凉州に至る途中に通った巳西の街。
『この陳公台を馬鹿にするななのです』
と八百屋で喚いているのを見つけた。
この『陳公台』という名前。
聞き覚えががっつりあった。
確か、脳筋メインな呂布勢の軍師だったはず。
そんでそれがなんで漢中の八百屋相手に叫んでいるのかが気になって話しかけ、しばらくしたら。
『ならばご一緒させて貰うのです!』
と着いてくることになった。
いいのかい?陳宮は知らない奴でもホイホイ着いて行っちまう幼女なんだぜ。
今は将棋みたいなかんじの象棋というボードゲームをやっている。
陳宮は自信があったみたいで頑張っているが、現代のネットでハマり二千年かけて作り上げられた数々の定石を記憶している私に死角はなし。
無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁっ!
* * * * *
彼女。陳宮公台は大望を抱いていた。
すなわち、己の力を世に示したいと。
彼女の体は幼い。しかし、それを補って余りある知謀が彼女には備わっていた。
しかし、一介の商人に過ぎない彼女の両親はその才を商売に使わせようとした。
だが、彼女にとってそれは有り得なかった。
親が商売で扱う書を読ませてもらい、街を訪れた識者には教えを乞うた。
そして得た智を彼女は軍師として振るいたかったのだ。
彼女の意志が本物であると理解した両親も最後は折れた。
こうして、陳宮の軍師への道は開かれた―――
という訳でもなかった。
あるいはもうしばらく後に発生する黄巾の乱の際であれば諸侯も才人を求めるので彼女の仕官も叶ったかも知れなかった。
が、今のところはいかに才があっても実績もコネもない若造を軍師と認めてくれる場所は無かったのだ。
結局、路銀も使い果たした彼女は日銭を稼ぎながらも誇りは失わず仕官先を探し求めた。
彼女にとって一つ目の幸いだったのは一族に伝わる奥義。『陳究詰苦』を会得しており、護身は問題がなかったことか。
そして、二つ目の幸いはこの人に会えたことだ。
彼女はそう確信していた。
出会ったとき、彼女は約束通りの賃金を払おうとしない八百屋と揉めていた。
そこに割って入ったのが彼女。『徐庶元直』だ。
最初は穏便に話を進めようとしていたが、八百屋の吝嗇がどうしようもないと把握すると同時に、『厳顔』の名前を出したのだ。
巳西の街も含めて劉焉勢力下で厳顔の武名を知らない者などいない。
最初からその名前を出せば典型的な強者に弱く、弱者に強い店主は折れただろう。
しかし、敢えて下手にでた姿は意地を張ることの多い陳宮にとって不思議なものであった。
徐庶が単に前世からの習慣で『謙虚は過ぎたることなし』を実行したなどとは想像の範疇にはないのだから。
しかし、彼女が徐庶に気を許した理由はそれではない。
陳公台が徐元直に気を許した理由は、あの厳顔に認められるほどの徐庶が無名かつ無一文の陳宮を一人の『軍師』として認めたからだ。
これまでに陳宮の出会った官吏といえば、明らかに陳宮よりも劣るにも関わらず、陳宮を子供扱いした。
そんな苦い経験もあるが故に陳宮は徐庶の自分への視線が軍師に向けるそれと理解したのだ。
陳宮はその場で決断した。
『ならばご一緒させていただくのです!』
路銀が豊富そうな徐庶の経済力を頼りにしようとしたことは否めないが、彼女が徐庶に同行しようとした理由は間違いなく『好奇心』に他なら無かったのである。
そして現在。
彼女はその『好奇心』が『尊敬』に変わってきたことを自覚していた。
象棋では見たこともない鮮やかな手から自分も見たことのある正統な手まで織り交ぜた圧倒的な実力。
本職でもそうそう描けないような斬新で鮮やかな絵画を趣味で描いたという余裕。
そして何よりも温和かつ冷静なその性格。
彼女の全てが陳宮の理想の軍師像そのものであり、同時に己にはいかに努力してもたどり着けない高みであることも理解した。
だから彼女の大望も変わった。
見届けるのだ。
今の未熟な己には理解できない徐庶の目指すものを。
徐庶が軍師であろうとするならば如何なる主に仕え、如何なる道を進むのか。
己では追いつくには遠すぎる境地。
いつか研鑽の果てに見てやるのだ。と。
携帯で執筆してからそのまま投稿しているので文脈などがおかしいかも
益州を出た理由は次回