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一話

プロットはあるけど書き溜めは無し。


「ふぁ~」


 なんとはなく目が覚めた。時計なんて便利なものは無いが、室内に鎧戸の隙間から差し込む光の角度からして大体、起床時間だ。


 特に覚えてはいないが、良い夢を見ていた気がしたので少し不機嫌になる。


 昨夜に行っていた作業の為に散らかっていた部屋を簡単に整理し、隣室へ入る。


「孔明に士元。起きろ。時間だ。」


 声を掛ければそこまで文句も言わず、おとなしく寝台から体を起こし目を擦る二人の。



 童女。



 彼女たちの名前は諸葛孔明に鳳統士元。


 歴史に名を残すであろう彼女たちは何故か幼い少女。


 まあ、だからといって手から火を出すわけでもなし。どうという事も無い話なのだが。


 一応は成人しているはずだが、体があまりにも幼いゆえか朝に弱い彼女たちを起こすのは自分の役目だ。


 しかし、起こした以降は彼女たちも自力で当然できる。私は私で厠に行ったり顔を洗ったりせねばならぬので部屋を去る。


 ここ、水鏡女学院の朝食は生徒と教師全員が一堂に会し摂る。その時間まであと半刻ばかり。


 …少し余裕があるし、アレを仕上げようか。


   *   *   *   *   *


 彼女たちの朝はまあまあ早い。


 隣室の古参学生に起床を促され、二人でもぐりこんでいた寝台から降りるとひとまずは伸びをする。


 密かに伸びをすれば身長が伸びるのではないかと期待しているのは秘密だ。


 未だに少し意識が眠っているが、二人がかりで窓の鎧戸を開け布団を畳んだころにはしっかり目も覚めている。


「ねえ朱里ちゃん。徐庶さん、なんか不機嫌じゃなかった?」


「雛里ちゃんもそう思う?なんか声が少し低かった気がするよね」


「どうしたのかな?」


「あの日かな?」


「あわわ」


「はわわ」


 長く同じ政治システムが機能し続けた弊害として官僚組織内の膿がどうしようもないところまで至り、大陸の多くの民が苦しみ、命の価値すらなくなりかけている時代。


 世のための人材を育成する水鏡女学院はいまだ平和である。


   *   *   *   *   *


「卑にしてこれを驕らせ、佚にしてこれを労し、親にしてこれを離す」


「「「卑にしてこれを驕らせ、佚にしてこれを労し、親にしてこれを離す」」」


 ここ、水鏡女学院は才と意欲、志ある者から学費は取らず、最低限の生活に必要な分担作業さえこなせば特に義務も無く、己が仕える主人を見定めたとき、あるいは見定めに行くときが卒業となり、それ以外では基本的に卒業は無い。


 何故か、その三つのどれも無いはずの自分はここでの学習課程は終了しているが卒業していないし、ここを出ても行くあても無い事もあり、学ぶ気もあまりないくせにこうして孫子の授業に出ている。

ここでは単位なぞ無いが、大学のように好きな授業を受講できる。


 逆に言えば、参加しないという選択肢もあるが、仮にも集団生活の場だ。学習が終了した人物が世に出ず、授業にも出ずでは外聞が悪い。


 というか、以前にここの校長にあたる水鏡先生に「なんで授業に出るの」と聞かれてビビった。


 やっぱり、これだけ在籍しているのは私だけだからなぁ。


 まあ、その時はかつての学生時代の倫理の教師の説教からソクラテスの名言『私は、自分が無知であることを知っていることで、より賢明であるらしい』というのを引っ張り出してドヤ顔で言ってみた。



 よく考えたらソクラテスなんて知っていないであろうことに気付いて落ち込んだのは秘密だ。

真面目に参加している少女達に悪いので最後列の席で手元の石板につらつらと落書きをしながら授業を聞き流す。


 かつていた時間から今のトンデモ時空に移った理由なんぞ知らん。あるいは私の妄想なのかもしれないし、妖術か何かかも知れない。


 だけどわかることはこの世界の人名は少なくとも三国志に近いはず。


 自分は某肥から出ていた三国志シリーズにハマった事もあったが、既に記憶も劣化してしまいほとんど覚えてはいない。とはいえ、諸葛孔明や鳳統士元の名前くらいは覚えている。


 ついでに私自身の徐庶という名前も確か曹操配下か何かの名前だった気がする。


 まあ、だからどうということもないのだが。


 特に深い意味もない思考に埋没していた意識を引き戻すと手元の石板に妙な図形が描かれていた。

単に手が微細に動いて付いた線だが、なんとなく陣形に見えるので補足してみた。




 …出来た。


 描いたのはファランクス。


 歩兵が密集して、大盾を上と正面に向け、その隙間から槍で敵を一方的に突き刺し、敵を踏み潰し蹂躙する陣形。


 某ゼロなライダーさんが正史に於いて騎兵との連携で多大な戦果を上げさせたという代物だ。

欠点としては機動力の低さと密集陣形故に横から突かれると痛い上に、現在の中華での歩兵は基本的に盾が無いということか。


 …なんつー物騒なもん書いてんだ私。


 描いている兵士の絵がなぜか『パンツじゃないから(ry』なネコミミ少女ズなのはアレとして、素で陣形を描けてしまうあたりは軍師として施された教育の賜物なのかね。


 はぁ。平和ボケした日本人どこ行ったよ。


   *   *   *   *   *


 授業の後、水鏡先生こと司馬微は一休みしながら生徒の残していった石板を眺めていた。


「先生?何を見ていらっしゃるんでしゅか?はわっ!?」


「朱里ちゃんどうしたの?あわっ!?」


 そこにやってきたのは生徒の中でも彼女が特に才を認めている二人組。


「落ち着きなさいな二人とも。確かに面白いけど、実用的じゃあ無いでしょうにこれ」


「しょ、しょんなことはありません!騎兵で外側を包み込んで鶴翼にしたときに運用すれば相当な戦果が出ましゅ!」


「あわわ、朱里ちゃん。盾だってこの形なら全員ではなく外側の人たちが持てば!一体こんな陣形を誰が…」


 彼女たちが目にしていた石板に描かれていたのは『重装備の歩兵の打撃力』を突き詰めた陣形。


 言われてみれば納得できるが、同時に思考の死角にあったそれの発案者が気になるのも当然。


 だからこそ、脳裏に一人の麗人を浮かべつつ雛里は問う。


「はぁ。ご想像の通り、これを描いたのは徐庶よ。でもね、やっぱりこれの実用性は低いわよ。鉄製の盾や援護に必要な膨大な騎兵の調達の手間は至難。しかも我ら漢の敵たる五胡やらなんやらは私たちよりもはるかに馬術に優れる。この陣形は攪乱された後に指揮官でもやられればいいカモになって終わりよ。」


「あわわ!?でも諸侯同士の「はい、そこまで」あわわっ」


「いい、二人とも。世は乱れないの。漢が、天子様がいらっしゃる限り大陸は安泰。いいわね」


「はわわ!?ごめんなしゃい」


「あわわ!?そうでしゅね」


 既に都の権威は無きにひとしい。


 諸侯がパワーバランスの都合上、そして都で権力争いをしている連中が利用しているからこそ漢王朝は生きながらえている。


 しかし、だからこそ口にすることは許されない。


「まあ、絵からしてもこれは南蛮の戦闘法じゃないかしらね」


「「南蛮?」」


「ええ、益州の更に南の地なのは知ってると思うけど、あそこの兵士は皆この絵のように猫を模した装飾を頭に着けるのよ。確かにあそこでは歩兵の数で押す戦術が発達しているとだけなら聞いたことはあるのだけどね」


「その戦術をこんなに詳しく?」


「水鏡先生でも知らなかったんですか?」


「ええ。確か南蛮では騎兵がいないとも聞いたことがあるけど、そこらはどうするのかしら気になるわね」


「徐庶さんは知っていられるんでしょうか?」


「そりゃあ知っているでしょうよ。知らなかったらもっと歩兵単独で有効な陣形になるように彼女の考察が加えられていてしかるべきでしょうし」


 逆に言えば、そういった考察がなされていない以上はこれがひとまずの完成形であるということ。


「さすが徐庶さんでしゅ」


「でも、なんで徐庶さんって授業に出てるんですか?あの方は全部内容は知っているんじゃ?」


「以前に聞いてみたけど、彼女曰く。彼女は己自身の無知を知ることでより賢くなるって言ってたわよ。だから書物ではなく私から学ぶのだと。」


「凄い自己研鑽ですね、でも彼女ほどなら世に出ても?」


「もう彼女は水鏡塾にいる必要もないんじゃ?」


「ええ、彼女の実力は私が保証するわ。でもね、絶対に彼女にはそれについては言わないように」


「何故ですか?」


「そうね、下手に黙っていて後でこじれても困るし。彼女には悪いけど話しておきましょうか。官匪によって全てを奪われた哀れな少女の話を」


   *   *   *   *   *


 実は、私は徐庶の両親を知らない。


 気付いたらここ、水鏡女学院の書生だった。


 夜にエアコンの効いた部屋で寝て、起きたら徐元直だった。


 彼女、徐元直の知識は曖昧ながら存在するが。行動パターンについての記憶は無いと言っていいほどに少ない。


 まあ、私と元の徐元直は似たような人間だったのか、特に周囲の人間に違和感を持たれたことは無いが。


 そんな徐庶の両親について知っていることは少ない。


 というか、父が若死にして母親も外出してそのまま行方知れず。そんな時に血相変えたおっさんがいきなり登場して私を保護。そんでその脚で私を水鏡先生のところに預けて、私の叔父だというおっさんもいつの間にやら死亡。


 実際にはもっとサスペンスな感じのようだが。


 しかし如何せん、それを知覚していたのはモノホン徐庶さん(ロリ)だったのでいまいちわからん。


 まあ、だからどうという事も無いのだけど。


   *   *   *   *   *


「彼女の父親はね、優れた武と忠心を買われてとある太守に使えた方。その時の太守様も優れた方で彼を厚遇したわ。しかし、彼が死んで新たな人物が賄賂でその都市の太守を継いだ時から彼女の不遇は始まった」


 そう。その忠義と双槍を操る腕力と技量。あるいは漢の歴史に名前を残し得たかもしれない男。


 ちなみに泣き黒子はなかったそうな。


「新たな太守となった男は彼の妻に懸想し彼に出世のために妻を差し出せと要求したの。当然ながら妻を愛していた彼はそれを拒否したわ。別に道徳的に考えても彼の行った行動は悪い事ではなかった」


 ただし、彼は一つの勘違いを犯した。


「でもね、それまで何不自由なく暮らしていた彼に取ってはそれは許されない言動だったの」


 彼の常識を超えて太守は我儘であった。


 冤罪を被せられ、あっという間に彼は殺された。


 前太守に使えていた家臣の多くが偶然に街を離れ、新太守の子飼いばかりしか居なかったことも状況を悪化させた。


「彼はあっという間に殺され、その妻は無理矢理に犯されそうになり自害した」


 彼が殺されてから一週間。状況がそこに至って初めてその暴挙の詳細が民草に伝わった。


「殺された彼の弟にあたる人物は大切な弟と義妹の死に深い悲しみを抱きつつも、一縷の望みを賭けて兄たちの暮らしていた家に飛び込んだわ。そしてそこには状況を知らぬ彼らの愛娘だけがいた」


 愛した兄夫婦の愛娘を保護した彼。しかし、彼は地位も権威も無くそのままでは太守の鬱憤晴らしかその子飼いの点数稼ぎに殺されるのは目に見えていた。


「だから彼は知人の伝手を辿って私に頼ってきた。ここなら幼い少女も目立たず、そもそも惨劇の起きた街からも遠いから」


 あるいは彼が逃げようと思えば逃げれたかもしれない。けれども彼には望みがあった。


 街に戻った彼はすぐに望みを果たした。


 太守の眼前で罵倒し、行ったことを糾弾した。


『殺せるならば殺せ。己が死のうとも貴様の悪業は世に知られた。あいつらの無念は世に知られる』と。


 逆上した太守は彼を斬殺。しかし、事実は広まり遠い洛陽での権力闘争にその情報は使われその太守もまた闇に葬られた。


「この騒ぎで起きた悲劇。その中でも一際、厳しい現実におかれえたのが彼女」


 両親に叔父が死に、他の血縁者は不明。親の仇も既に死に、彼女の怒りを向けるべき相手すらもいない。


 それどころか彼女は事の禍根を避けるために幼少期の名すら奪われた。


「だから私も彼女もこの話はしない。残っているのは彼女の行き場のない想いだけだから」


  *    *    *    *    *


「よし。完成っと」


 ここ一週間くらいかけて作製してきた某管理局の白い悪魔の木彫りフィギュアが完成した。

最初は天地魔闘の構えの予定だったのが一昨日に謎の衝動に駆られた結果、上下運動もとい乗馬装置に乗った冥王様になったのはご愛嬌だ。


 サイドポニーいいよね、サイドポニー。


 ポニテもいいけど、敢えてサイドに配する辺りが職人魂(笑)をくすぐる。


 ちなみに完成品はこれまでに作製した『算盤を弾いてる子狸(あくどい笑顔がチャーミング)』や『加速脱衣済み冥王様の嫁(何故か全身濡れ濡れでエロティック)』などが仕舞ってある箱に入れる。


 …今更だが見付かったら冷たい視線に苛まれそうだ。


 今は女の子だからいいよね。


 前世的なアレの時も私はインドア派だった。


 アニメにゲーム。同人誌漫画ライトノベルどんと来い。部活は工芸部だったので木彫り技術はそこで学んだ。


 はずだ。


 実は徐庶のこれまでの人生が映画か何かを見た記憶であるのと同様に前世(笑)の記憶もまるでそれを記した記憶媒体を観たような感覚なのだ。しかも虫食いだらけ。


 まあ、だからどうという事も無いのだけど。


 しかし、気にすべきことはそれではない。


 実は先ほど私は水鏡先生の部屋にちょっとした用があったのだが。聞いてしまった。


『彼女は水鏡塾にいる必要もないんじゃ』


 私もよく知っている諸葛亮の声だ。


『あの』ロリっ娘でさえ、私がいまだに水鏡塾にいることに違和感を抱いている。


 これは不味い。


 今はまだ、そこまで言われていないが、かの諸葛孔明が違和感を感じたのだ。このまま居候し続ければ他の生徒。ひいては水鏡先生まで同じ考えに至れば私のいたたまれなさはMaxに至る。


 ヤバイヤバい。


 これは厄介払いされるよりも先に自分で出て行くべきか。


 ううむ。


 これはどう「しようもないしなぁ」


 あっ、口に出た。


恥ずかしー。まあ誰も見てないけど。


   *   *   *   *   *


『旅装もないしなぁ』


 彼女にちょっとした用事があって部屋に来た。


 部屋に入ろうとしたときに聞こえた声だ。


 この言葉を聞いたときに私が感じたのはどうしようもない幸福感と寂寥の念。


 愛弟子が己の不幸の殻を破り、世に出ようとしている。


 喜ばない師がどこに居ようか。


 しかし、同時に己の娘同然の子がいよいよ独り立ちする。


 実の子を持ったことが無いのでわからないが、これが母性といものか。


 しかし、いかなる生物もいずれは親元から離れて独り立ちするもの。


 ここは寂しさを堪え、彼女の独り立ちを祝福せねば。


   *   *   *   *   *


 これは初体験というべきなのだろうか。


 前世も含めて初めて聞いた。


『話は聞かせてもらった』


 いきなり水鏡先生が入ってきてこう言った。


 世界が滅亡するとでも言う気だろうか?


 その時は『な、なんだってー』という準備はある。


 …まあ水鏡先生がそんなことをいうはずもないんだが。


「安心してくれ。旅装は今晩の内に用立てておく。どこを目指すかは知らないが推薦状も書こう。なに、これでも司馬微という名前はそれなりに有名な自負はある。君の役に立つだろう。ああ、護衛なら大丈夫。近くの村に知り合いの行商が来ていてな、彼に頼めば讓陽までなら一緒に行けるだろうし、その後も行き先が一緒ならばついて行けばいい。違うならば信頼できる護衛を雇える場所を紹介して貰いなさい」


 なん…だと…。


 さっきの水鏡先生の大声で何事かと集まった生徒ズの目の前でこの発言。


 …外堀を埋めにきている。


 既に生徒は。


「徐庶さんがとうとうニート脱却(^w^)」


「水鏡先生も養う気が無くなったんですねわかりますwww」


「m9(^Д^)プギャー」


 みたいな空気になってる。


 元が協調民族な日本人であるがゆえにこの空気。



 破れない。


 うん、そして明朝。私はとうとう社会進出したんだ。

亀更新になるのは確定的に明らか。


細かい勘違いネタを感想やメッセージで頂いてビビっと来たら感涙しながら使わしていただくかも。

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