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迷走少年  作者: 青蒼 藍
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後編‐迷走の結果



「結局、答えが出せなかった」


 今日は担任との約束の週明け。俺は何も答えを出すことが出来なかった。悩んで、考えて、寝る間も惜しんで考えたけど答えが出なかった。


「と言うか、俺は何を悩んでいるんだ? こんな良い話し断る理由がないのに」


 推薦入試が決まれば、センターの結果に関係なく大学が早い段階で決まる。担任からは高確率で受かると太鼓判も押してもらえている。


 それなのに何か胸の中に引っ掛かっている。何ともやりきれない感じが残っている。このまま推薦を受けてもいいのか。


 こんな状態じゃあ絶対にどう言う結末になったとしても後悔する。この胸の中に引っ掛かっているモノが何か分からない限り、俺はどうすることもできない。


 そんな事を考えている間にも確実に時は進む。歩きながら考えていたら、気が付いた時にはすでに学校の校門の前だった。


「あ~~~、ここまで来て何だけどサボろうかな」


 逃げて、タイムアップのなし崩し的な敗北を選ぼうかな。そんなこと本気で考えながら、学校の敷地に入ることが出来ずに校門の前でうろうろしていた。


「あの~? 一体センパイは何をしているんですか?」


「うぉおおお!!!」


 いきなり後ろから声をかけられて洒落じゃなくて驚いた。かなりでかい声を上げてしまった。ちらほらだが登校していた生徒が一斉にこっちを見てきた。


視線が痛いがとりあえず気にしない。全身に刺すような視線を浴びるけど無視無視気にしない。何事もなかったように後ろを振り返り、声をかけてきた張本人をみる。


「久しぶりだな、後輩。朝から一体何用だ?」


「いや、まあ知り合いがサボろうかな~とか言いながら校門の前で不審者の如くうろついていましたけど、さすがに無視して行くのは失礼かと思いましたけど。今は本当に後悔しています」


 どうやら注目を浴びていしまっていることが相当ご立腹なようだ。まあ当たり前か。


「それは悪かったなあ。まあ気にするな」


「相変わらず適当に生きてますね、センパイは」


 この後輩の毒舌も相変わらずだな。二年半も付き合っているのでこの程度の毒舌はあいさつ程度しかない。


「後輩よ。そう言えば俺たち三年が引退してから部活はどうだい?」


 こいつとは元々部活で知り合った。元文芸部、現在名前募集中の部で出会った。何をやっている部活かと聞かれれば、何だろうと言うしかない。


対面的には文芸部として活動していることになっていたが、引退するまで結局そういう活動した記憶はない。いつもバカ騒ぎしていた気がする。ただ騒いで楽しんでいた気がする。


「良くも悪くも平凡ですよ。でもいい加減、誰かが何かやらかしそうですけど」


 そんな事を思いながらも、口に手を当てながら笑顔でそう答える後輩を見ていると、そろそろおもしろそうなことが起きそうなことがよく分かる。


 自分が関われないのが残念だが、それでも楽しそうである。


「さてセンパイいい加減はぐらかさないで何で校門の前で不審者をしていたのですか?」


「別にちょっと考えごとしながら歩いてたら、何と無く学校に行きたくなくなっちゃっただけだよ」


 100%嘘ではない。真実が含まれた嘘。これなら見破れるはずはない。


「嘘ですね、センパイの嘘はわたしにはすぐに分かるんですから吐いても無駄ですよ」


 どうして俺の周りにはこうも、人の嘘を見破る人しか集まらないのだろうか。


「分かったよ。全部説明してやるよ」


 仕方なく、後輩に推薦入試の一件を全て話した。嘘偽りなく話した。


「なるほど、そういうことですか。相変わらずヘタレで優柔不断なセンパイらしいですね」


「うっせえよ」


 人の話を聞いてすぐに毒舌を吐く後輩に何時も通りのやりとりをかわす。


「にしても、そういうことですか。もしも何かを期待しているのなら、殺気に言っておきますけど私から言えることはありませんよ」


「まあそうだよな」


 そんなつもりはなかったが、それでもこの後輩なら何か良い知恵を貸してくれると思っていた反面もある。


「だってこれはセンパイの問題何ですから。私が口を出していい問題じゃあないでしょ」


「分かってますよ。分かってますよ。これは俺の問題なんだからな。後輩のお前に言われなくてもそれぐらい分かってますよ」


 分かっている。自分で決めなきゃいけない事ぐらいことは最初から分かっている。


「そうですね。センパイは分かっているけど、気づいてないんでしょうね」


「気づいてない?」


 俺がそう聞き返すと、何か含んだような笑みを浮かべて後輩は何を言う訳でもなくこちらを見ている。


「何だよ? 一体俺が何に気づいていないんだよ?」


 再度聞くと、今度はゆっくりと口を開いた。


「気づいてないだけじゃないんですよ。見ようとすらしていないんですよ」


「意味が分からん。頼むからもう少し俺にも分かる言葉で話してくれ」


 後輩は稀に見るほどの満面の笑みで答えてくる。


「い・や・で・す」


 それだけ言うと満面の笑みのまま部屋から出て行く。そして出て行く前にちらりとこちらを見て再度笑って去って行った。


「はあ、俺も戻るか」


 結局、答えが出ないまま重い足取りで教室に向かった。




「それでどうすんだよ」


 うわ~、怖~~い。うん、ごめん。洒落にならないくらいに怖かったんだよ。


 そもそも何でこんなに威圧たっぷりの人間が教師なんかやってんだよ。この学校の査定はおかしんじゃねえのか!


「まだ決めてません。どうか後一日だけ待ってください!!!」


 まさか高校に入ってまで校内で土下座する羽目になろうとは色んな意味で悲しいぞ。しかも相手が担任の教師とは笑えねえぞ。


「世の中土下座一つで如何にかなると思っているか、お前は」


「思ってません」


 この担任が土下座一つで許してくれるとは微塵も思ってはいない。


「それでも土下座をするお前の度胸とアホ差加減は感心してもいいが、後一日は待ってもいいもいいが、それで何が決まるんだよ」


 三日与えて答えが出ないバカが後一日で答えが出るのかと言いたいのだろう。まあ正気言ってその通り過ぎて文句も言えない。


「つうか、お前は何を悩んでだよ。今回の件、お前にはメリットしかないのに何を悩んでいるんだよ」


「それが分かったら、ここまで悩んでませんよ」


 思わず本音が漏れた。何を悩んでいるのか分からない。良い話なのは分かっているのに、それでも何かすんなりと受け取ることが出来ないでいる。


「そうか。まあ、そんなもんだよなあ。お前何だかんだ言ってそういう奴だもんなあ。仕方ないと言うより、これが必然か。問題は気づくかどうかだが、まあ分かった。後一日だけ待ってやる。だからさっさと決めろ」


 いきなりそれだけ言うと、勝手に納得したようでさっさと席を立って部屋から出て行ってしまった。


 全くわけが分からないが、とりあえず後一日だけ時間を貰えたようだ。




「やばい。半日近く考えても何にも答えが分かんねえ」


 授業中もひたすら考え続けたが何にも答えを出せずにもうすぐ放課後だ。このままだと結局何も答えを出せそうにない。


 どうしたらいいんだよ。


「何てことを考えている内に、また迷子になるとかどんだけ学習能力がないんだよ」


 しかも今回はすでにけっこう暗いし、すこし肌寒くもなって来た。


「近所で迷子で凍死とか、洒落にならないぞ」


 と言うか、恥ずかしすぎて死にたくなるぞ。まあこれくらいの寒さなら、凍死しないだろうけど、さすがに風邪くらいはひく。


「ああ、でもよく考えると家にも帰りたくないんだよなあ」


 家に帰ったら、絶対に姉貴に聞かれるだろ。答え出してませんとか気まずすぎるだろ。


 どうすんだよ。よく考えたら答え出すまで家に帰れないぞ。


「何マジで俺って今ホームレスの一歩手前状態?」


 とりあえず考えながらも適当に歩き続ける。意味もなく歩き続ける。


まさに心身とも迷走していた。


歩き疲れた。仕方なく近くに見えた公園に会ったベンチに座る。近くの自販機で買ったコーヒーをちびちびと飲む。


「あ~、温かい」


 冷たく冷え切った身体に沁み込むように身体に熱が吸収されていく。


「しっかしどうするか」


 どれだけ考えても答えが出せない。


 受けるか、受けないか。ただそれだけのことのはずなのに。たったそれだけのことなのに。


 合理的に考えれば、これほど簡単な二者択一の問題はないはずだ。


「なのにどうしてこれだけ悩むんだよ」


 誰にでも無く言ってしまう。泣き言を、言い訳を言ってしまう。


 これ以上なく簡単なはずなのに、どうして俺は渋っているんだ。


 分かっている。自分の中にあるこのもやもやなモノを無視してしまえばそれで済んでしまう。


 それなのにどうしてそれが出来ない。


 どうしてもそれを選ぶことが出来ない。


 ここで全部を無視したら、自分が自分でなくなってしまうような気がする。


 相談した全員に言われたこれは俺の問題だ。だから俺が納得できなきゃ、ダメなんだよ。


 出そうとしている答えがどれだけ愚かしくても、俺以外の全ての者が笑おうとも、俺だけが満足できればそれでいいんだよ。


 グシャリと鈍い音がしたと思ったら、手に鋭い痛みが走ってた。


「何やってんだよ、俺は」


 手に持っていた飲み切った缶を握り潰していた。潰れた缶の断面で掌を何ヶ所か切ったらしい。


「本当に何をやってるんだよ」


 握りつぶした空き缶を近くのゴミ箱に投げ捨てる。


 切った掌がズキズキと痛む。痛みと寒さでいつも以上に血の流れを感じる。


 全身に血が流れて行くのがよく分かる。末端の冷え切った血が心臓に流れ込み、その血が頭の中にまで流れて行くような感覚すら生まれてきた。


 でもおかげで頭が今までにないぐらいに冷え切って異常なほど冷静に考えられる気がする。


 そして答えに至る。


 いや分かったのだ、この問いはどうやっても俺の満足のいく答えは存在しない。


「ここで推薦を受けても俺の中にあるもやもや晴れないままだし、受けなかったとしても受験に失敗した時、推薦を受けていればと言う後悔が生まれる。どうやったって無理じゃんか」


 おれが満足のいく答えは存在しない。


 どうやってもバットエンドしかない。


 本当にそうなのか? 何度も考えてみる。でも帰結する答えはこれしかない。


「だったら俺はどうすればいいんだ?」


 行き着く先が地獄だと分かっても俺は選ばなくてはならない。どちらの地獄を選ぶのか、最悪でしかない道を。


「本当にそうなのかしら?」


 俺の声ではない声が響いた。面を上げて見るとそこに居たのは金曜に再会した友人であった。


「お前なんで?」


 俺がそう聞くと、にんまりと微笑んで彼女は返す。


「そんなことを聞きたいんじゃないでしょ。本当に聞きたいのはそんなどうでもいいことじゃないでしょ。本当に聞きたいのは、本当に聞かなきゃいけないのはそんなことじゃないでしょ」


 俺が本当に聞かなきゃいけないこと。それは考えなくても分かる。それは。


「俺はどうしたらいいんだ。未来に絶望しかなくても俺は未来を選ばなくてはいけないのか?」


「選ばなきゃいけないに決まってるじゃないか。だって君の未来だよ。他の誰のでも無い自分の未来なら。自分で選べ」


 間髪いれずに言う。俺が何か言おうと口を開けるが声が出ない。こいつが正しいと分かっているからなおさら何も出ない。


 そして続けて彼女は言う。言い続ける。


「そもそも未来に絶望だけなんてありえない。君は自ら自分の希望しかない未来を潰している。他の皆にはその未来が見えているのに、君だけ自分の可能性を自分で潰して嘆いているんだよ」


 こっちを睨みつけるようにしっかりと見てから彼女は言う。


「ふざけるなよ。いつまでも本気を出さないで、言い訳とか、逃げ道を自分で作るなよ。本気でやれよ。自分のことを弱者扱いするなよ」


 言葉に怒気を孕ませ、俺の胸ぐらを掴んで躊躇も減ったくれもない全力の力で俺を引き寄せて、大声で言う。


「逃げるな!!! 惑うな!!! 迷走して動いている気なるな!!! 腹を括って、前だけ見据えろ!!! お前の道はお前が作り出せ!!! 逃げ道なんてくだらないモノ作っている暇があったら、目の前を道を真っ直ぐ歩め!!!」


「それが後悔しない人生だ!!!」


 夜の闇の中を引き裂くぐらいの大声で叫ぶ。


 その言葉は俺の中にずしりと重くのしかかった。でもおかげでもやもやは消えていた。


 彼女は俺の胸ぐらを離される。ドンとベンチの上に尻もちを付くように落ちる。


「これが私に言える全ての事だけど、答えは出たかい?」


 ゆっくりと今までとは打って変わって落ち着いた声尋ねる彼女の方を俺はしっかりと自分と力で見捨えて言う。


「ああ、出たよ。ありがとな」


「別に良いよ。昔の恩返しだよ。それでどうするんだい?」


 俺の言葉を聞いて優しい笑顔になって尋ねてくる彼女に俺は胸を張って答える。


「簡単だよ。実力で、自分の力だけで、俺の志望校に合格する。ただそれだけだよ」


 今の俺の学力じゃあ志望校には遠く及ばない。だけど、それが何だ。死ぬ気で勉強すればいい。


 逃げ道なんて作らない。本気で残りの期間を全て受験勉強にあてるだけだ。


 それで失敗したとしても、いや失敗することなんて考えない。


 逃げ道も、言い訳もなく、全力で他の可能性なんて考えずに進み続ける。


「それしかないだろ」


「まあ、そうだね。それしかないのだから頑張って」


 俺はベンチから立ち上がる。友人に別れを告げて家路に着く。


 早く家に帰ろう。一分一秒たちとも無駄にできない。


歩むべき道は分かっている。もう迷っている時間はない。


もう迷走をしている暇なんて無いのだから。






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