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迷走少年  作者: 青蒼 藍
1/2

前編‐迷走中


 世の中には選ばなくてはならない時が必ず来る。その時、強い者は考えずとも答えを導くことでき、弱い者は迷って迷って答えを導き出す。


 それが強い者と弱い者の違いだと思っていた。


 そして、だから俺は弱い者だと自覚していた。






「推薦入試?」


 思わず聞き返してしまった。その言葉は余りにも想定外で、予定外だった。


 掃除の時にいきなり放課後になったら来いと言われて、てっきりこの前学校をサボったのがばれたのかと思っていた。


 言い訳を考えながら恐る恐る職員室に行くと、担任に進路相談室に連れて行かれ、そう言われた。


「そうだ。推薦入試で○○大学××科を受けてみないか?」


 そう言って担任は資料を渡してくる。○○大学は県内でそれなりの国公立の大学である。


「この学科ならお前が志望している学科と近いことが出来て、満足の行く授業が聴けるだろうし、就職率も高いから進学後もいいだろう」


 担任は資料を見ながら言ってくる。俺も資料を見ると、確かに就職率も高く、授業の内容もそれなりにおもしろそうだ。


 その後も担任は大学についての説明を続けて行く、話を聞く限りではかなり満足が生きそうだった。


「それじゃあ、質問はあるか?」


 説明が終わり、聞いてくる担任に対してまだまだ混乱していた頭だけど幾つかの疑問が頭の中に浮かんだ。


「えっとじゃあ何で俺なんすか?」


 ぶっちゃけ、何で俺が学校から推薦を受けられるのか分からなかった。欠席(サボり)は多いし、成績だって普通だ。


「いくつか理由があるが、この学科と志望しているところが近いと言うことと、内申だな」


「内申は悪いですけど」


 夏休み前に貰った通知表は赤はないが、英語とか文系科目はかなりギリギリに近かった記憶がある。


「まあ悪いところはあるが、理系科目だけで見ればかなりだろう。つまりそういうことだ。他には?」


 理系科目を重視するってことかよ。まあそれなら納得はいく、釈然とはしないけど。


「推薦入試を受けるとして、どれくらいの可能性で受かるんですか?」


「それなりに高い確率で受かると思う。あくまでも私見だがな」


 俺の質問に対して、担任は間髪いれずに答えた。この質問は予測済みだってことか。


 なんだがこっちの考えていることが見透かされているみたいで良い気はしないな。まあ、とりあえずはいいや。


「次に推薦入試はどんなことをやるんですか?」


 担任はあらかじめ用意していた資料を見ながら、答える。


「○○大学の××学科だと書類、面接、口頭試問の三つだな。準備できるのは面接と口頭試問だな」


「口頭試問? それってなんすか?」


 聞きなれない言葉が出てきたので、思わず説明の途中だけど質問してしまう。


「まあ色々だな。普通に問題を解いたり、解いた問題を説明したり、あらかじめ解かれている問題を説明したり、まあそんな感じのことをやらされる」


 要するに、普通の学力試験の簡易発展版みたいなモノか。


「これについては前年の問題は分かっているから、練習することはできるぞ」


 担任は他にはと聞いてきたので、今のところはないですと俺も答える。


「じゃあ、最後に言っておくがこれは別に断ってもいいからな。答えは週明けには出してくれ。後、このことはクラスメイトには言わなよ」


 性急かもしれないがすまないな。そう言って担任は資料を持って部屋から出て行った。


「どうするか」


 悪い話ではないのは分かる。それでも何処か、何か、決めかねている。


 とりあえず俺も部屋から出て行った。


 まだ頭が混乱しているのか、それともただ気分が乗らないだけなのか、分からない。


けれどもどうも勉強をする気にならないので、教室に戻って鞄を掴んで学校をでる。


 ぶらつく。適当にぶらつく。当てもなく歩き続ける。どうもまっすぐ家に帰る気にはなれなかった。


 どうせ家に帰ったところで誰もいないし、いや今は一人いるけど。あれに相談してもなあ。まあ親父やおふくろがいた所で返ってくる答えは決まってる。


「お前の好きにしろ」


 あの二人は俺に何かを期待している訳じゃないし、ただ好きにしろと言うだけ。


 そんな事を考えながら、適当に歩いて、歩き続けて、気が付いたら。


「迷子になっていたとか笑えねえよ」


 見たことがない風景ではない。むしろどこかで見たことがあるはずだけど。


「どう行ったら家に帰るのかが分からないんだよな」


 見たことがない訳じゃないだけどなあ。でも道が分からないのと言うか、現在地が分からないと言うか。何と言えばいいのか分からない。


 まあ、そんな感じに途方に暮れていた時だった。


 いきなり真後ろから声をかけられた。


「あれ? 何であんたがこんな所に居るの?」


 振り向いてみるとそこに居たのは中学の頃の同級生であり、高校は別の所に通っている昔の友人であり、現状では余り会いたくない相手だった。


「いや、何も言わなくてもいいわ。当てててあげるわ」


 そう言って目を瞑ってこめかみのあたりに手を当ててう~んと悩むような声を上げて、正直言って無視しようかと思ったが、一応昔の友人なので答えを出すまで待ってやることにした。


「分かったわ。ズバリ」


 いきなり目を見開いて大声を上げる。ああ、やっぱ無視すればよかった。


「ズバリ?」


「中学の時、俺は選ばれし者だとか、疼くな俺の△△とか言っていた時のことを思い出して悶々としていたら気が付いたらここに居たんでしょ」


「てめぇはどんだけ人の古傷を抉る気だよ!!!」


 目をランランに輝かせながら言うバカを思いっ切り引っ叩きながら言う。


 だから会いたくなかったし、話したくなかったんだよ。思いっ切り俺がイタイ奴だった頃のことを十分過ぎるくらいに知っているからな。


「まあ、おふざけな会話はこれぐらいにして、ぶっちゃけ何で居るの? 偶然とか嘘だと丸わかりの解答はしなくていいからね」


「偶然なんだけどなあ」


 偶然以外の何物でもないだけどなあ。正直にそう言うと意地の悪い笑みを浮かべて言う。


「この世中には偶然なんてない。あるのは必然だけだ。そんな事を言っていたのはどこの誰だったかなあ?」


 とりあえず一発ぶん殴っておくべきなのか? と言うかこれは俺に殴られたいという意思表示だよなあ。


「それで偶然だとして、一体何でいつもとは全く違うところに来るまで何も気づかなかったの?」


「考え事していた」


「一体何を考えてたんの? ほら、お姉さんに言ってみい」


 そう言って、今度意地の悪い笑みではなく、普通の優しそうな笑みを浮かべて手招きして言う。


 昔からこういう奴だったなあ。少しだけ感傷に浸りながらも、今日起きたことを言う。


「ふ~~~ん。推薦入試ねえ。何か思いだすねえ。ちょうど三年ぐらい前だよね。似たような質問を私がした時そっちはなんて言ったのかなあ」


 覚えてないな。言われるまで存在すら忘れていた。確かにそんなことを尋ねられたは覚えているけど、俺は何て答えたんだっけ?


「強い者は迷わない。だからお前も弱い者なんだから好きなだけ迷って悩めよ。それにお前の人生なんだから誰かに答えを求めるなよ。お前の好きに生きろよ。そう言ったんだよねえ」


 三年前の俺は相変わらずと言うか何と言うか。


()めたと言うか(つめ)たいことを言ったモノだなあ。まあいまさらだけど悪かったなあ」


 三年も前の事だが一応謝っておく。でもこいつはぽかんとして口を開けていた。そして次の瞬間には大笑いしていた。


「あははははは!!! 何を言ってるの? あんたが言ったことは当たり前の事なんだから、謝ることなんて無いんだよ。だって自分の人生なんだから迷おうが悩もうが自分で決めなきゃいけないに決まっているんだよ」


「いや、確かにそうだけど」


「だけどなんてないんだよ。それだけが真実だよ。だから私が言えることもそれだけだよ。問う訳でさようなら~。また会いましょう。これ、私のアドレス」


 俺のポケットに紙をねじ込んでくる。それだけするとさっさとその場から立ち去ってしまった。


 徹頭徹尾相変わらずとしか言えないぐらいの自由さだった。昔からああいう奴だったなあ。


「帰るか」


 そう言ってから自分が迷子だと言うことを思い出した。






「ただいま~~~」


 いつもよりも二時間近く遅れてようやく家に着いた。あれから三時間近くようやく歩き続けてようやく家に帰って来た。


 途中で交番を見つけられなかったらまだ帰れなかっただろう。


「おかえり~。今日は随分と遅かったなあ。夜遊びもほどほどになあ」


 そんな感じに緩い声をかけてきたのは、家のニート姫こと姉貴だ。


「まだ夜遊びって言う時間じゃあないと思うんだがなあ。まあ、良いけど。それより親父とお袋は?」


「どっか行った?」


「何で疑問形なんだよ」


 とりあえず靴を脱いで家の中に上がる。俺がリビングに行こうとすると、珍しく姉貴も後ろからついてくる。


 何時もなら、すぐに部屋に戻っていくのに。一日の大半を自室に引きこもって過ごすのに。


 リビングに行くと書き置きが残っていた。内容は毎度のことか。


「どうやらお袋はまた実家に帰ったらしいな。そしてまた親父はお袋を追って行ったと」


「お財布は置いてあるから良いじゃない?」


「それもそうだな」


 うちの両親は毎月のように喧嘩して、お袋が出て行く。そして親父が追って家を出て行く。俺たちが子供のころから同じようにしているので、驚くにも値しない。


「何か買ってくる? それとも出前でも取るか?」


 冷蔵庫の中はモノの見事にすっからかんだ。作ろうにも材料がない。


「出前でいいじゃない。出て行くの面倒だし」


 この引き籠もりが。


「今、この引き籠もりが。とか思ったでしょ。ふふふふ、言わなくても私には分かるんだよ」


「幾ら姉弟だからって人の心を勝手に読むなよ」


 こいつは昔は神童とさえ言われるほどの天才児だった。年は3つしか違わないが、既に大学は海外と日本の二つを出ている。


「そんなに褒めてもお金くらいしか出ないぞ。実は今日もだいぶ儲かったからな」


「生々しいわ、ボケ。また株か?」


「むっふふふふ、その通り! 随分儲かったよ。何なら今日はお姉さまが驕ってあげてもいいよ」


 本当に成人になっているかと思いたくなるくらいにぺったんこな胸を張ってそんな言われてもなあ。


 普通に家の近くの安い店屋物に出前を頼む。


 出前がくる前に部屋に戻って制服から部屋着に着替える。リビングに戻ってくると姉貴がニュースを見ているので、俺もぼんやりとそれを眺める。


 頭の中には今日一日の事が思い出される。一日と言うよりは夕方のこと。


 どうするか。週明けに答えを出せと言われても、今日を含めても後3日しかない。本当に性急過ぎるんだよ。


 そんな事を考えを断ち切るように、チャイムが鳴ったので出る。出前が来たようなので、それを受け取り、代金を払う。


「待ちかねたよ、いただきます」


 リビングまで持って行くと待ちかねていたようしていた姉貴の前に置くと、俺が座る前に一人で勝手に食い始める。


 俺も席に着いて、いただきますと言って食い始める。やはり中々旨い。この値段でこれなら上々だ。


 基本的に食事中に会話がない。俺と姉貴だけの時ならなおさらだ。会話がある方が珍しい。


「ごちそうさまでした。ふ~~~、食べた食べた」


 食い終った皿を片して、玄関の外に置いておく。


 さてと部屋に戻ろうかと思ったが、何となくリビングに戻ってきた。そこには珍しく食事が終わったのに姉貴がリビングのソファで寝っ転がっていた。


「さてといい加減待っているのも飽きたし、そろそろ聞こうか」


 いきなり姉貴が起き上がって、ジッとこっちを見てくる。その眼に見られると、どうも心の中を全て見透かされたような気がする。


 そして姉貴はやや芝居がかった口調で言う。


「さて我が愛しの弟よ。一体何を悩んでいるんだい?」


 何を言っているのかはわかるけど、言いたくない。姉貴にだけは相談したくなかった。


「まあ言わなくてもお前がどう思っているかぐらいは分かるんだよ。でも一応聞いているんだからちゃんと答えろよ」


 うわ~。珍しく本気で姉貴が起こっているなあ。口調が命令口調になっているし、この年になって姉貴とマジ喧嘩はあんまりしたくないな。


 親がいない今喧嘩になったら下手したら、どっちかが気絶ぐらいの怪我をするまで止まらない。俺も姉貴も一度頭に血が上ったら止まらない。


「はあ~~~。分かった。いや、分かりました。俺が悪うございました。どうかこの無知な弟に知恵を貸してください」


 俺が折れた。推薦のことを話した。全て余すところなく、話した。


「そういうことだったのか。なら、無理に聞いて悪かった」


 話を聞いて姉貴は素直に謝った。分かったのだ。これは自分に相談されても答えを出せるモノじゃない。


「これはお前の問題だからなあ。下手に他人に何か言われて流されたら、ダメになるだろ」


「分かってるから言わなかったんじゃないか」


 自覚はしているから何も言うつもりはなかったのだが。まあ今さらと言うモノだ。


「まあ一応聞いた身だしアドバイスしていいけど、聞く?」


「聞くよ。そこまで分かっているなら変なことは言わないだろ」


 一応それなりには姉貴のことは信頼している。尊敬は出来なくとも、姉貴が信頼できることぐらいは分かっている。


「まあ大したことは言えないけど、ただ一つ言えることはどんな形であれ答えは出しなさいよ。週明けには自動的にタイムアップになるんだから、それまでに納得のいく答えを出しなよ。じゃないと後悔するから」


 そこで一度区切り、再度こちらを見据えて続ける。


「私にはなんでお前が悩んでいるのか理由が分からない。だからどうすれば最善なのかはわからない。もしもお前も何で自分が悩んでいるのか分からないのなら、問題を分割して、細分化して考えてみればいいんじゃない」


 そこで区切って、悩むように考えてから言う。


「まあ後はないね。まあ本格的にアドバイスつもりはないし、所詮自分の人生は自分で決めないとね」


 それだけ言って姉貴はさっさと自分の部屋に戻って行った。


 結局、最終的に言われたことはあいつと同じ。


「自分のことなんだから自分で決めないとな」


 俺は弱者なのだから悩んで、迷って、足掻いて、惑って、苦しんで、泣いて、嘆いて、憤って、ひたすら迷走して納得のいく答えを出すしかないのだから。


 それがたとえどんな結末だろうと納得のいくものでなければ、俺は前に進めないのだから。


 たった一歩を進む為にどれだけ迷走をしたとしても、その一歩を満足いくものにするために。


 俺は納得がいくまでひたすら迷走し続けることにした。




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