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三 対決『乾坤一擲』

 誰にも気付かれないうちに梅雨が明けてしまった。いつもと変わらない、とてもよい天気である。

 「な、なんやねんこの格好は!」

 宝船高校のグラウンドが見渡せる森の中に三人は潜んでいた。

 「落ち着け、駿平。白昼堂々学校に侵入するとなると、変装するしかあるまい?」

 「そ、それにしてもなんで俺がセーラー服着らなあかんねん!」

 「人に気づかれないようにするにはなるべく実際とかけ離れた格好をする必要があるんだよ。」

 「似合うわよ、とっても。駿ちゃんて、本当にかわいいわ。キー坊、ちょっとクラクラってきちゃうんじゃない?」桃子は普通の制服を着て、頬に詰め物をして眉を太くしてロングヘアのカツラをかぶっている。「ねえ、女装した駿ちゃんて男が見ても十分かわいいわよね。」

 「と、とにかく、一般生徒になりすまして侵入を試みるんだ。いいな。」

 「なら、なんで鍵司は変装せえへんねん。」

 「そりゃあおまえ、もし俺がセーラー服着たら、」

 「変態そのものよね。」

 「そ、そうだ。」鍵司はしぶしぶ認めた。「だからおれは別行動をとることにする。」

 「別行動?」

 「グラウンドの体育用具室に忍び込んで抜け穴から例の放射線発生装置の部屋まで行く。」鍵司の手には桃子が作った強力な爆薬が握られている。「桃子、もう一度聞くが・・」

 「なあに?キー坊。」

 「この爆薬、本当に安全なんだろうな?」

 「安全な爆薬なんかあるわけないでしょ。でも大丈夫、相当強い衝撃を与えない限り爆発しないから。手から落としたぐらいじゃ何も起こらないわ。」

 「絶対だな?」

 「んもう、キー坊ってほんとに小心者なんだから。」

 「おまえを信用してないだけだ。」

 「大丈夫ったら。じゃ、あたしたちは放射線計画の証拠書類を捜しに行くわね。」

 「くれぐれも無理すんなよ。正体がバレそうになったら何をおいても逃げるんだぞ、いいな。」

 「心配してくれてありがと。さ、行きましょ、駿ちゃん。」

 「気い進まんなあ・・・。」駿平は桃子から借りた眼鏡をかけた。

 グラウンドを堂々と横切って手をつないで駆けて行く二人の後ろ姿を見送りながら、鍵司は軽い嫉妬を覚えた。え?嫉妬?いったいどっちにだろう。

 「お、俺いったい何考えてんだ?」


 体育用具室に忍び込むのは極めて容易だった。入口の鍵はかかっていなかったからである。それがかえって不気味だった。

 「おれたちの行動、見透かしてるって感じだぜ・・。」

 そして積み上げられた石灰の袋の棚の一部に仕掛がしてあるのもすぐにわかった。

 「いかにも、さあ入ってこいって言ってるようで・・・。」

 棚の脇の床にぱっくりと口を開けたのが、設計図に書かれている抜け道の穴であるのは明白だった。鍵司はおそるおそる地下に降りるコンクリートの階段に足を向けた。

 「もしや、」 階段を下りながら鍵司は付近の壁を調べた。「やっぱりだ。」

 そして彼はプールの女子更衣室や体育館の秘密の入口と同じように隠されている最後のコインを見つけた。

 「7つ目のコインだ。」

 それには布袋の文字と絵が彫られていた。

 「ついに全部そろったぞ。」

 鍵司は狭いコンクリートの階段で小躍りしたが、ふと動作を止めると低くつぶやいた。「だからなんだってんだ?」

 しげしげとそのコインを見つめながら彼は続けた。「いったい、このコインの意味は何なんだろうな。まったく・・。」

 ぶつぶつ・・。彼は階段を下りて通路をたどり始めた。地下はひんやりとしてやはり先に行くほど暗くなる。当然懐中電灯を持っているのでその灯を頼りに彼は敵の陣地に向かって歩いて行った。


 仲のよい二人の女子生徒は、堂々と生徒昇降口から校舎内に入り込んだ。そして職員室の方に極当り前を装って歩き出した。すれ違った二人組の男子生徒が少し怪訝な顔つきで振り返った。

 「おい、あんな女、この学校にいたっけか?」

 「・・・・さあな。」

 二人の男子生徒は立ち止まった。

 「でもよ、」

 「ん?」

 「あの、眼鏡の女、なかなかかわいいじゃん?」

 「・・俺もそう思ってたんだ。」

 「楊 桃子も顔負けってところだな。」

 「まったくだ。この学校の美女のトップの座、完全にあの眼鏡の女に奪われたな。」

 「楊もなかなかかわいいと思っていたが・・・」

 「性格が災いしてるよな。」

 「確かに。」

 「それにひきかえ、あの娘なかなかおとなしそうだし。」

 「なんかぞくぞくするほどかわいいな。」

 「何年生だろうな。」

 「クラス知りてえな。」

 「後をつけてみるか?」

 「ああ、そうしようぜ。」二人は見慣れぬ女子生徒の二人組をつけ始めた。

 駿平は桃子にささやいた。「ピーチ姫、誰かつけて来てるで。」

 「気づかれたのかしら?」

 「どうやら三年生らしい。」

 「何の用なのかしら・・・。」

 「どうする?このまま・・」駿平が桃子に言いかけた時、桃子はくるりと振り返って、その三年生の男性生徒をにらみつけた。

 「何か用なの?」

 「あ、い、いや、えっと・・・」

 口ごもったその男子生徒Aを後ろに追いやってもう一人の三年生Bが言った。

 「君たち、どこのクラスなんだい?」

 「やばい!」駿平は桃子に身を隠した。

 「そんなこと聞いてどうするつもりなの?」桃子は腰に手をあてて二人を威嚇した。

 「なに、できれば話をしたいな、と思ってさ。その後ろに隠れてる子と。」

 駿平は正体をばらされるのを恐れて桃子の背中に隠れていたが、どうやらそれが初々しい恥ずかしがり屋の女の子と受け取られたらしかった。

 「ね、いいだろ?」

 「あんたたち、この子をナンパしようなんて10年早いわ。おととい来なさい。」

 「そ、そんなこと言わないでさあ。」Bは無理やり桃子の腕を掴んだ。

 「な、何すんのよ!離してよ!」

 その時、反射的に駿平はBの胸ぐらを掴んで、無言のままビシバシと往復平手打ちを浴びせた。Bがひるんで桃子の腕を離したとたん、桃子と駿平は手を取り合ってすたこら駆けて逃げて行った。

 ぼーぜん・・・。AもBもその場に立ちすくみ、ぽかんと口を開けて桃子たちの駆けて行った方を焦点の定まらない眼付きで見続けていた。


 「ねえ、君、何ていう名前?」


 「見慣れないけど、どこから来たの?」


 「かわいいね。俺とつき合わないか?」


 桃子たちが校長室に近づくまでにつごう3人の男子生徒が、変装した駿平に別々に声をかけてきた。その度に桃子はだんだんと不機嫌になった。

 「なんで本物の女に声をかけないのかしらっ!」ぷんぷん。

 「あかん、このままやと、ほんまにばれてまう。」

 「そういう問題じゃないでしょ。駿ちゃんがこんなに男の子にモテるなんて思わなかったわ。」

 「そういう問題やあれへんて。はよ証拠を探さな。」

 「そうね。」無愛想に桃子は答えた。やっと二人は校長室の前に立っていた。

 急に駿平は手を叩いて言った。「そや、ピーチ姫、ちょっとわいヤボ用があんねん。ここで待っててや。すぐ戻るさかいな。」

 「ちょ、ちょっと、駿ちゃん、どこ行くのよ!」

 桃子の制止にもかかわらず、駿平はもうすでに二階に通じる階段を駆け昇り始めていた。


 ずいぶんと長い距離を歩いて、やっと鍵司は放射線室のドアらしきものの前にやってきた。途中に罠は皆無だった。それもまた不気味だった。

 「森の井戸から入ったところとは違うドアだな・・・。」鍵司は恐る恐るそのドアのノブに手をかけた。電気が流れているわけでもなさそうである。そしてガチャリ。ドアはあっけなく開いた。むやみに重い鉛色のドアだった。鍵司はその暗い部屋に足を踏み入れた。人の気配はない。懐中電灯でわりと大胆にその部屋を調べ始めた。教室の4倍ほどの広い正方形の空間である。壁も天井も床もすべて赤銅色に磨き上げられている。鍵司の手の懐中電灯の光はその壁に当たり、不気味に赤い光に変化してあたりを浮かび上がらせた。

 今入ってきたドアのある壁にもう一つドアがある。鍵司はそれが森の井戸につながる通路に出るためのドアであることを悟った。そしてドアを背にして左側の壁にはなにやら複雑なコードやスイッチがやたらとたくさんついた大型の黒い機械が据え付けてあった。そしてその機械の正反対の壁、すなわち今鍵司がいる所から見て右側の側面にも鉛色をしたドアが一つついていた。

 「異様な部屋だぜ・・・。」

 鍵司は部屋の中央に進んだ。なぜか床の中央に直径2mほどの銀色の円盤が取り付けてあった。

 「何だ?こりゃ。」

 その時、何者かが鍵司の背後から襲いかかり、彼の口にひんやりとした布を当てがった。

 「むぐ、むぐぐ!」鍵司は抵抗したが、すぐにあっけなく気を失ってしまった。


 コンコン!「どうぞ。」部屋の中からの声の主を確認して駿平は生徒会室のドアを開けた。権堂妖子は変装した駿平の姿を上から下までじろじろと観察した。

 「誰?見慣れない生徒ね。」

 駿平は後ろ手にドアを閉めた。見たところこの部屋にはその体格のいい生徒会長以外には誰もいないようだった。

 駿平は、無言でテーブルにあった紙切れになにやら書くと、けげんな顔でその様子を見ていた権堂妖子に、それを手渡した。権堂妖子はその走り書きに目をやった。「『何が起こっても大声をだすな。』ですって?あなたいったい・・。」

 「俺や。」駿平はかつらと眼鏡を外した。

 「き、君は!」妖子は立ち上がった。

 「心配せんでもええ。あんたを脅そうなんて思とれへん。」

 「速水駿平?」

 「そや、訳あってこんなカッコしとるけど、落ち着いて話、聞いてくれへんか?」

 「いいわ。」妖子は座り直した。駿平もそこにあった椅子に腰掛けた。

 「あんた、権堂校長が何やっとんのか、知ってるな?」

 「・・・・・」

 「隠す必要ないで。俺たち調べあげてん。やつの企み。放射線のこともな。校舎の設計図も持っとるんやで。」

 「私にどうしろと?君たちの要求は?」

 「やから、脅しやない、言うとるやろ。」

 「君たちは退学した身。もう関わりあわなくてもいいんじゃないの?」

 「俺たちはな、自分さえ無事ならここで何が起こっても知らんふりしよう、と思えんぐらいにいろんなこと知ってしもたんや。おとなしゅうしとるわけにはいかんねん。」

 「権堂校長に正体がバレたら怪我するぐらいじゃ済まないわよ。」

 「承知の上や。」

 「私は敵なのよ?」

 「それも承知の上や。」

 「ずいぶん大胆だこと・・・。」

 「あんた、生徒会長や。去年全校生徒の選挙で選ばれたんや。それ、忘れたとは言わさんで。」

 「き、急に何を・・・」

 「あんたが生徒会長になれば学校に安心して登校できる思とる一年生や、あんたを教師集団と対等に渡り合えるリーダーや思とる二年生が投票したはずや。そやろ?」

 「・・・・・・」

 「あんたが裏で校長の手助けして動いとるなんて、みんなに知れたらおおごとやで。」駿平は妖子の目から片時も視線をはずすことなく続けた。「それに、あんた自身の良心が痛めへんか?」

 「良心・・」

 「あんたは腐りきったこの学校の教師集団より、もっと俺たちに近いはずや。違うか?」

 駿平は立ち上がった。

 「いつか言おう思ててん。あんたがどう思おうと、俺は言いたいこと言ったから気は済んだ。ほな。」

 「速水くん・・・」妖子も立ち上がった。

 「校長に密告するならしてもええで。」

 「待って!」妖子の伸ばした右手の指の格好がいびつであることに駿平は気づいた。彼は立ち止まった。

 「あんた、右手どないしてん。」

 はっとして妖子は右手を引っ込めた。

 「ピアノ、弾けんようになった理由があるな?」

 「き、君には関係ないわ。」

 「そうか、ほな。人待たせとるさかい。さいなら。」駿平はカツラと眼鏡を元通りにつけ直すと、ドアを開けてさっさと出て行った。


 「んもう!何やってんのかしら、駿ちゃん。」桃子はイライラしてうろうろしていた。

 「いやあ、待たせてしもたな。ピーチ姫。」

 階段を早足で降りてきた駿平は桃子の肩を軽くたたいた。

 「誰かとデートの約束?」桃子は皮肉たっぷりに言った。

 「いや、ふられてしもたわ。」

 「ほ、本当?」桃子は驚いて聞き返した。

 「それはさておき、どうするんや?ピーチ姫。」

 桃子は眉間にしわを寄せた。「駿ちゃん・・・・」

 「ええからええから。気にせんといてや。」

 さて、二人は校長室のドアが見える廊下で他愛もない立ち話をしているどこにてもいる女子生徒のふりをして立っていた。校長室に権堂力造の企んでいる放射線悪用に関する証拠がある確たる根拠はなかった。だが変装した桃子と駿平は何というか、校長に対する仕返しの気持ちもあって、つい足が最初にこの部屋の方向に向いてしまうというのが正直な話だった。だから彼らは今ここにいるのだった。

 「私の計算では・・・」桃子が腕時計に目をやった。「やがて掃除の時間よ。」

 「その時に忍び込むわけやな。」

 そしてすぐに、

 キンコ~ン。

 チャイムが鳴った。しばらくして校内放送がおよそ掃除には不釣合いなA.ビバルディのBGMに乗って掃除開始を告げた。

 「今よ!駿ちゃん。」

 ドアをノックするのもそこそこに、それっ!と二人は校長室に飛び込んだ。もしかしたら、中で校長が何か人に見られてはまずいことをやっているかもしれないという期待があったからだ。こうなったら、どんな校長の行動でも怪しいものは追求してやろうという二人の、特に桃子の執念深い魂胆だった。が、あいにく校長は不在だった。

 「金庫がないわね。」

 二人は校長室を丹念に調べ始めた。もちろん誰かに見られた時のために桃子はモップ、駿平は柄の長いほうきを手に持っていた。

 「爆破されたあと、撤去されたんと違うか?」

 「たぶんね。」

 駿平は大きな黒いレザーのソファの下をのぞいてみた。

 「ほんまにここに放射線悪用の証拠があるんかいな。」

 「何でもいいから探すのよっ!」

 桃子は校長の机の引出しをかき回し始めていた。

 「そない派手に散らかしたら、あからさまに怪しいで。」

 だが桃子は聞く耳を持たなかった。

 駿平の心配はしかし現実にならずにすんだ。桃子がひとしきり机の中を引っかき回した結果、どうにか証拠になる書類を見つけたからである。それは講師灰駄の臨時採用決定通知書の写しだった。それにはクリップで別添の2つの書類もいっしょにされていた。一つは灰駄の放射線力学の専門的な実績と実験結果の一覧表。もう一つはある特定のプログラムされた放射線が人間の脳に及ぼす活性効果及びそのリスクについての論文だった。

 「ラッキーだわ。こんな有力証拠が見つかるなんて。」桃子は小躍りした。だが、駿平は比較的冷静である。

 「そりゃ、これで灰駄が放射線で危ないことやっとるってことはわかったで、そやけど、ここ荒した時に残るピーチ姫の指紋のことや、盗んだ書類で犯罪を立証できるかどうかまで考えとんのか?」

 「・・・・・・」

 「そこ、片づけた方がええんちゃうか?」

 わたわた!桃子はあわてて校長の机を片付け始めた。

 「元に戻せば、何とかなるかしら?」

 「ほんまに元通りにできるどうかが問題やな。」桃子に手を貸しながら駿平は悲観的に言った。

 幸運としか言いようがなかった。彼らが校長室の中をどうにか元通りにするまで誰もその部屋をのぞくものはいなかったからである。少なくとも校長自身が机を開けなければ、誰かがここを物色したことなどわかるはずもなかった。もともと桃子たちは校長にチェックされているので、指紋が出たところであまり趨勢(すうせい)に変化はないと言ってよい。将来的にはこの校長を懲らしめることができる、と二人、特に桃子は信じて疑わなかった。そうなれば、今自分たちがやったような軽い犯罪行為など取るに足りないものであると彼女は確信していた。が、駿平は桃子のそんな自信がどこから来るのか、どうしても理解できなかった。

 校長室を後にした二人は、何くわぬ顔で元来た道を引き返し始めた。

 「キー坊うまくやったかしら?」

 「捕まらんとええんやけどな。」

 生徒昇降口にやってきて、靴を履こうとした時に、背後から甲高い声がした。

 「あー、そこの二人。」

 振り向いた桃子と駿平は思わず絶句して硬直した。何と、権堂力造校長である。

 「今からどこに行くのかね?もうすぐ授業が始まるんだが。」

 「え?あ、い、いや、ちょ、ちょっと先生を探しに・・・」

 「誰をかね?」

 「あ、あの、げ、玄海先生です。そ、外においでではないのかなーなんて思っちゃって。あはは・・・。」

 「ああ、玄海先生なら今、校長室におられる。わしといっしょに行こうじゃないか。」

 「え?い、いや、べ、べつに大した用事ではなくて、その・・。」

 「そう言わずに、さあ、来たまえ。」

 権堂校長は有無を言わさず二人を校長室に連行した。

 「ど、どないすんねん、ピーチ姫っ!」校長の後ろを歩きながら駿平は桃子に小声で言った。

 「ごまかし通すのよ。」


 不気味な音を立てて校長室の入口が閉められた。

 「そのソファに座りたまえ。」

 校長に促されて二人はしぶしぶ腰を下ろした。

 「え、えっと・・玄海先生は・・」

 「私はここよ。」

 彼らの背後から声がした。そして彼女は二人の前に移動し、テーブルをはさんで向き合った。

 「私に何か用だったの?楊さん、速水くん。」

 「げげっ!」

 「ばれたっ!」

 「ふん!しょせん頭の悪い中国娘。きさまらの考えること、やることなどわしらのレベルではない。蟷螂の斧とはきさまらのことを言うのだ。」

 「ど、どうして私たちの本当の姿を見破ったの?」

 駿平に対してごまかし通せと言っていた桃子本人が、自分の正体をばらしている。しょうがないか、そういう性格だ。

 「説明するまでもないが、」校長が身を乗り出した。「ここできさまらがやったことは全部見られておったのだ。ばかめ。」

 そうか、あらゆる部屋に掛けてある校長の怪しい肖像画のことをすっかり忘れていた。

 「手口からしておまえらであることは疑う余地もない。変装としては見事なものだがな。特に速水駿平。」

 「・・・・・・・」駿平は屈辱感が高まった。

 「見慣れぬ二人の女子生徒が十数人の男子生徒を殴り倒して逃げたという情報が届かんとでも思ったのか?それに、」校長は薄気味悪い笑みを浮かべて続けた。「その内の一人はこの学校でもトップクラスの美女だというではないか。怪しく思われんはずはなかろう?どうだ。」

 「な、なんでやねん。」

 「この学校の女子生徒に美女などおらん。わしはそう確信しておる。」

 な、なんて失礼極まりない奴だ!と二人は思った。だが、今、彼らが立たされている窮地を脱するチャンスもきっかけも可能性もないことをもまた二人は思い知らされていた。

 「好いたようにしたらええやないか。」

 「そうか。それでは遠慮なくそうさせてもらうぞ。だが、いつも仲のいい小川にも会いたいだろう?」

 「えっ?!」

 「心配するな。処分する時は三人いっしょだ。ふふ、ふはははは。」権堂力造はきたならしい目つきで二人を見て笑うと片側だけの頬の筋肉をピクつかせて嘲るように続けた。「もはやきさまらは罪人。午後からの全校弁論大会できさまらの悪行を全校生徒に報告し、警察沙汰にしてやる。どうだ?大人の知恵にはかなわんのだ。思い知ったか。」

 「く、くっそー!」

 「今すぐに楽にしてあげるわ。」鮫子が二人に近づいた。

 「やっぱりグルやってんな!」

 「あなたたちに気付かれてることなんて、先刻ご承知よ。」ふふん。と鼻をならす鮫子を見て、駿平はこの女の醜悪さを思い知った。授業の時や、自分たちに協力すると見せかけていた時の表情とはまるで別人である。歯ぎしりで彼の顔は真っ赤になった。

 「知っていながら、何の手も出せないでいたのね。つくづく愚鈍な高校生だこと。」

 文句を言い返す間も与えられることなく、二人は玄海鮫子にクロロホルムを嗅がされてしまった。


 桃子は自分のかつらをむしり取られ、懐の書類も取り上げられるのを感じた。そして校長室の角の隠し扉から、秘密の通路を誰か体格のいい教師に担がれて運ばれるのを感じた。

 『どこに連れて行かれるのかしら・・・』

 秘密の通路はほとんど真っ暗だったが、先頭を歩く者が照らす懐中電灯の明りでほんのりあたりの様子を探ることができた。

 『あの放射線装置のある部屋だわ!』桃子は身動きせずにそう直感した。彼女の直感は外れたことがない。

 ロープで縛られた状態でその広い部屋に転がされた。すぐそばに鍵司がやはり気を失ったままで倒れているのを桃子は知った。

 「こいつらどうします?」

 「ふふん、どうせ逃げられはせん。そうだな?玄海先生。」

 「まず気がつくことはないわね。」

 「弁論大会が終わってゆっくり料理することにしよう。」

 校長たちが部屋を出て行くのを確認した後、桃子は身体を起こそうと激しく暴れた。すると、最初からゆるかったロープがほどけてあっさりと自由を取り戻した。

 「ちょっと、起きて、駿ちゃん!」桃子は駿平を揺さぶった。が、彼は愛らしい寝顔で気を失ったままである。

 「キー坊!しっかりしなさいよっ!」鍵司も起きなかった。それならせめてロープぐらいほどいてやればいいものを、桃子は男たちをほったらかしにして、プールの女子更衣室につながるドアを開けてその部屋を出て行った。全く薄情な女である。

 桃子の頭にはもう校舎の表と裏の通路の全てがインプットされていた。彼女は裏の通路を注意深く進んで調理室にやってきた。そうして調味料の入っている棚からコショウの小瓶を取り出して鍵司たちのいる部屋に戻った。そうしてまず鍵司の鼻に、それから駿平の鼻にも持ってきたコショウをしこたま振りかけた。

 「ぶ、ぶ、ぶえっくしょんっ!」

 「よかった、気がついたのね!」

 「桃子っ!は、は、はぶしっ!早くロープ、ほどけよっ!」

 「わかったわよ。慌てないで。」桃子は鍵司のロープを解いた。そして駿平のそれも。

 「ピーチ姫、おおきに。へ、へ、へぶしょっ!」

 「駿ちゃんもキー坊も、ほら、これで。」桃子はポケットティッシュを取り出して二人に与えた。

 「ったく、ひでえことするな。桃子。」鼻をぐずぐず言わせながら鍵司は悪態をついた。「もっとマシな気付け薬、なかったのかよっ!」

 「そんな物持ち歩かないわよ。」

 「爆弾は持ち歩くのにか?」

 「クロロホルム嗅がされた時にはこれが一番効くのよ。」

 「ほんまかいな。」

 「じゃあ、なんでおまえ平気なんだよ!」

 「馬鹿にしないでちょうだいね。あたしを誰だと思ってるのよ。泣く子も黙る大化学者、楊 桃子さまよ。」

 「化学者だからどうだってんだ?」

 「クロロホルムなんて平気のへっちゃんよ。もうあたしには効かないわ。」

 「そ、それも実験の賜物か?」

 「そうよ。何度実験用うさぎと一緒に気絶したか。あんたたちは知らないでしょうね。」

 「あほかいっ!」

 「それはそうと、これからどないするんや?」やっと駿平がまともな意見を出してきた。だが、少し遅かった。

 「どうすることもできんな。」

 「校長!」

 「い、いつの間にっ!」

 彼らの背後に権堂力造、玄海鮫子が立っていた。

 駿平がとっさに行動を開始した。三人の教師に飛びかかったのである。だが、どやどやと入ってきた体育の教師たち5名に取り押さえられた。

 「や、やろう!」鍵司も刃向かおうとしたが、無駄だった。柔道の教師にあっさりと寝技に持ち込まれ、床に組み伏せられた。桃子は校長が手を下した。そして彼らは黒い放射線発生装置の反対側の壁に縛りつけられた。

 「危うく逃げられるところだった。今すぐ処分してくれる。」校長はそう言うと用意してあった物々しいアルミスーツのようなものを着て部屋の中央の円盤に上に立った。

 「な、何しようってんだ?」

 権堂校長と放射線発生装置のコントロールをするらしいコンピュータのモニターに向かって座った玄海鮫子だけを残してあとの教師はあわてて部屋から出て行った。

 「何が始まるんや?」

 「きさまらの息の根を止めるのは簡単だが、少し楽しませてもらうぞ。」

 ジャラララッ。三人の両手首を束縛していた鎖がゆるんだ。が、ゆるんだだけで、壁とつながったままである。桃子たちは今、手錠をして壁から最大5mほどの範囲で自由に動ける状態である。

 「さて、楽しい鬼ごっこを始めるか。」

 権堂校長は不敵な笑いを浮かべて三人に向かって右手を伸ばした。その途端、彼の指先から青白い稲妻がほとばしり出て、駿平をかすめて背後の壁に突き刺さった。

 「危ねえっ!」鍵司が叫んだ。

 「ふっふっふ、逃げまどうがいい!」

 バシッ!次々に襲いかかる電撃を、三人は命がけでかわした。

 「ど、どうなってんねん!」

 「あれは耐電スーツよ。そして床が電極。壁も帯電してるわ!」

 「すると、やつが、」バシッ!「指を向けた方に放電するわけだな。」鍵司は息を切らして電撃を避ける。「剣呑なやっちゃな!」

 「そうだわ!」桃子が叫んだ。そして駿平に走り寄った。彼女は駿平にすばやく耳打ちした。「あのバケツを校長に向かって蹴り飛ばせる?」

 「バケツ?」

 何の意図があってか知らないが、彼らが繋がれている壁の端、つまり部屋の角に『防火用』と赤い字で書かれたブリキのバケツが置いてあった。

 「場違いやな。」

 「いいから、早くっ!」

 「よっしゃ、いくで!」バシッ!バシシッ!次々に襲いかかる稲妻を避けながら駿平は信じられないスピードでそのバケツに駆け寄ると、校長に向かって蹴り飛ばした。見事なコントロールで校長の足を直撃したそのバケツは、その時に中の水をぶちまけ、校長の耐電スーツの足元をぐっしょりと濡らした。

 「ぐおおおおおお!」

 権堂力造は痙攣し始めた。

 「は、早く電気を切ってくれ!」

 慌てた玄海鮫子が何かスイッチをいじると校長の痙攣は収まった。

 「よ、よくもやりおったな。」

 「ばーかばーか。変なこと考えるからよ。なにファミコンゲームのボス気取ってんのよ。べーだ。」

 「こ、こらっ!桃子、刺激すんじゃねえ。」鍵司が言った。だが、桃子はやめなかった。「水が電導体だってこと知らないあんたはばかよ。へへーんだ。」

 そういう桃子の悪態を聞き終えた後で、駿平は言った。「事態は一向に好転しとれへんで。」

 そうだ。単に権堂校長の怒りに油を注いだだけである。好転どころか、三人はいよいよピンチにさらされることになるわけだ。

 「こしゃくな真似をしおって!」アルミスーツを脱ぎ終わった校長の目は怒りに燃えていた。当り前である。

 「たった今、きさまらの記憶を消してやる!」

 「な、何だって!」

 「き、記憶を?!」

 「玄海先生、頼みますよ。」

 権堂力造の右腕玄海鮫子はコントロール盤のスイッチに手を伸ばした。ウィーン・・・。かすかだが地獄の底から響いてくるような不気味なうなりが聞こえ始めた。そしてほのかに青白い光が天井からスポットライトのように桃子に降り注いだ。

 「一人ずつ楽しませてもらおう。まずはその中国娘からだ。ふっふっふ・・。ふはははは!」

 権堂力造は部屋のまん中に仁王立ちになったまま高らかに笑った。

 「や、やめろーっ!」鍵司が叫んだ。しかし、その直後、ジャラン・・。突然桃子ががっくりと声も立てずに床に倒れ込んだ。

 「桃子!」

 「ピーチ姫!」

 二人は桃子に駆け寄った。彼女は気を失っている。

 「きっさまー!桃子に!よくも!」鍵司は真っ赤な顔で身体を震わせた。「ゆ、許さねえ!」

 ぐぐぐっ!鍵司は腕に力を込めて壁につながれた鎖を引っ張った。「うおおおおおお!」がちゃん!鍵司の鎖は二本とも途中で引きちぎれた。

 「な、なにっ!」権堂は後ずさりした。

 鮫子にスイッチを押させる暇も与えず、鍵司は桃子と駿平の鎖も引きちぎってしまった。火事場のバカ力である。

 ひょんひょんひょん!鍵司は腕についたままの鎖を振り回し始めた。そして権堂に迫った。「こっ!殺してやる!」

 「こ、こらっ!危ない!やめろ!」権堂は逃げまどった。

 「危ないだと?!桃子を元通りにしろ!今すぐだ!」

 ぶーん、ばしっ!「うあっ!」鍵司の振り回す鎖が権堂の足を直撃した。そしてその悪の校長はぶざまな格好で床に転がった。ひょんひょんひょん!それでも鍵司は攻撃の手をゆるめることなく権堂に迫った。「殺してやる!きさまなんか!」

 「や、やめてくれ!た、頼む!」権堂は悲鳴を上げた。

 「鍵司!やめるんや!鍵司!」駿平が叫んだ。

 「ええい!構うな、駿平!」鍵司の目は怒りに燃えている。

 「権堂が憎いのんはわかる。わかるけど、今はやめとき。」駿平が振り回される鎖の間をぬって鍵司を後ろから捕まえた。

 「離せ!桃子のかたきをとるんだ!」鍵司は抵抗した。

 「あかん、あかんて、そないリスク。よう考えてんか。」

 セーラー服姿の駿平は鍵司を後ろから抱きしめた。

 どん!鍵司の心臓がときめいた。ガララ・・。そして振り回していた腕をだらりと下ろした。すでに権堂力造は恐怖のためか気絶していた。

 「しゅ、駿平・・。」

 「今はピーチ姫のこと、」

 「・・・・・。」

 鍵司は無言のままコントロールパネルの所で恐怖におびえている玄海に、鎖を引きずってつかつかと歩み寄った。その化学の教師は青ざめている。

 「わ、わ、わたしは権堂校長に命令されて・・・」

 「やかましい!」鍵司が大声を出すと鮫子は口をつぐんだ。「桃子を元通りにしろ!」

 「そや、記憶を元に戻すんや!」

 「そ、そんなことは・・できないわ。」鮫子は右足を気づかれないように移動させた。

 「なんだと?!この期に及んでまだ逆らうつもりか!」

 「ち、ち、違うわ!そ、そんな方法は、」そこまで言った時、玄海鮫子は床に大きく開いた穴に身を躍らせた。そして次の瞬間その床は元通りになった。

 「な、なんやて?!」

 「し、しまった!逃げられた!後を追って・・・」

 「待ちいや鍵司、とにかく今はピーチ姫を休ませんと・・。」

 「くっそー、覚えてろ!」そう言いながら鍵司はそこに落ちていた鍵で駿平と自分の手かせを外すと、その鎖で気絶したままの権堂力造を縛り上げた。そして急いで桃子の所に駆け寄り、彼女の鎖も外した。「桃子・・・桃子・・・・。」鍵司の目から涙がこぼれた。鍵司は優しく桃子を抱き起こした。「記憶が戻らなくても、俺が、俺がずっといっしょにいてやる。」そして彼女を抱きしめた。

 駿平は二人の様子をうなだれて見ていた。彼は桃子の足がもぞもぞと動くのを見た。「あ、ピーチ姫気が付いたみたいやで。」

 「なにっ?!おい、桃子!」

 桃子の閉じられた目から涙がにじみでた。

 「しっかりしろ!桃子っ!」

 「キー坊?」ぱかっ!桃子の大きな目が開かれた。

 「おおっ!鍵司のこと覚えとるで!」駿平が歓声を上げた。

 「気が付いたか、桃子!」

 鍵司は桃子の肩を揺さぶった。

 「キー坊!」桃子は叫んで鍵司にしがみついた。

 「速水くん、小川くん。」

 不意に聞こえたドスの効いた女性の声。鍵司たちはとっさに声のする方を見た。その巨大な女は体育館からの秘密の通路を通って来たドアを開けた状態で叫んだのだった。

 「あっ!権堂妖子!」鍵司が叫んだ。「どうしてお前が!」

 鍵司の問いかけに答えもせずに権堂妖子は鎖で縛り上げられた自分の実の父親を見おろした。そして振り向いて後ろに立っていた男に声をかけた。「青木くん頼んだわよ。」

 青木草男は今まで玄海鮫子のいた椅子に座るとパソコンのキーを目まぐるしいスピードでたたき始めた。

 「か、会長、データはどうします?」

 「そこらへんのUSBメモリか何かに記録するのよ。」

 「わかりましたっ!」

 「な、なんでおまえたちが・・」

 驚く鍵司に向かって妖子はにっこり笑って言った。

 「後でゆっくりお話しましょう。」

 「お話だと?」

 「そう、今度は純粋な麦茶をごちそうするわ。」

 「わかってくれたんやな、権堂妖子・・・。」

 「速水くん、さっき言えなかったことがあるの。」

 「え?」

 「セーラー服がよくお似合いよ。」

 「な・・・・」

 ほんのり赤くなってますます魅力的になった駿平に、妖子は少し羨望の眼差しを送った。

 「さて、クラスの代表者は中に入ってちょうだい。」

 妖子が叫ぶと、彼女が入ってきたドアから学校の全てのクラスの代表者がこわごわ様子を見ながら放射線発生装置の部屋に入ってきた。

 「どう、これが校長の陰謀の証拠。これであなたたちの脳に細工をしようとしていたのよ。」

 どよどよ。生徒たちはざわついた。「私たちは騙されていたのよ。学校の名誉のために私たちは実験室のハムスターのように使い捨てられていくところだったの。」

 鍵司はちらりと桃子を見た。桃子の目はまだ虚ろである。

 「でも、ここにいる小川鍵司くん、速水駿平くん、楊 桃蘭さんのおかげでこいつらの陰謀を潰すことができたのよ。今まで私たちが思い込まされていた彼らとは違う。とても勇敢な生徒なの。」妖子は生徒会長らしいよく通る声でそこに集ったクラスの代表者たちに語りかけた。

 「どよどよ・・・。」その生徒たちのどよどよの中身の一部が鍵司に聞こえてきた。「あれが速水駿平だと?」「信じらんなーい!」「す、すると、俺が声をかけたのはやつだったのか?」「げげーっ!」「かわいいっ!」「女としてもやってけるわね、駿平。」きゃーきゃー。

 「・・・・・・・」駿平は言葉もなく立ちすくんだ。

 「権堂妖子・・・おまえ・・」

 妖子は鍵司たちの方を向いた。

 「さっきの弁論大会で私が全校生徒に全てを説明してきたわ。」

 「全て・・・って?」

 「権堂校長のやってきたこと全てよ。」

 「お、おまえいつの間にそんな善人になったんだ?」

 「とってもかわいらしい女子生徒に諭されたのよね。」そういって妖子は駿平にウィンクした。

 「あなたたちはもういいわ。」

 どよどよ・・。クラスの代表者たちはぞろぞろと去って行った。

 妖子はいつものチャーミングな笑みを浮かべて言った。

 「どうもありがとう。大変だったわね。」

 「妖子さん・・・」桃子はつぶやいた。

 「おい、桃子、おまえ権堂妖子のことも覚えてるのか?」

 「なんや、いつもと変わらんな、様子が。」

 「桃子、おまえ、ひょっとして・・・」鍵司は桃子を抱いていた腕の力を緩めた。

 「え?何のこと?」ぱんぱん。桃子は服のほこりをはたいて立ち上がった。

 「げ、元気そうやな・・。」

 「記憶喪失になったんじゃねえのか?」

 「あの程度の放射線にやられる桃子さんじゃあないわ。」

 「す、すると、おまえ・・・」

 「ぜーんぶ覚えてるわ。心配してくれてありがと。キー坊大好きよ。」桃子は鍵司にまた抱きついた。

 「こっ、こっ、こいつはっ!」鍵司は赤面した。

 「つくづく丈夫な身体やな。ピーチ姫。」

 妖子は目を細めて彼らを見た。「あとは警察と教育委員会に任せて。私たちのできることはここまでよ。」そして妖子は次に青木に目をやった。「どう、青木くん、データはとれた?」

 「そ、それが・・・」

 「どうしたの?」

 「はい、会長。このデータ、全部ダミーです。」

 「ダミーですって?!」

 「これじゃあ、この機械をコントロールするどころか、電源を入れたり切ったりすることもできませんよ。」

「ど、どういうことなの?」

 鍵司はつかつかと放射線発生装置に歩み寄った。そしてその複雑なランプ、ゲージ、レバーやスイッチにまみれた物々しい機械を見上げると、手で軽くたたいてみた。

 ぼこぼこ・・。

 「ぼこぼこ?やっぱりこれ青木が言ったようにただのはりぼてじゃねえのか?」

 「キー坊、あんた私の爆弾まだ持ってる?」

 「え?ああ、持ってるけど。」

 「貸して。」そう言うと、桃子は鍵司の返事も聞かずに無理やり彼のポケットに手を突っ込んで、その手榴弾に似たものを取り出した。

 「みんな下がってちょうだい。確かめるわ。」そう言うが早いか、彼女は数歩下がってそこにいる人々の安全の確認もせずにおもむろにその巨大な装置に手の中のものを投げつけた。

 「ばっ、ばか!やめんか!」鍵司が叫んだが、遅かった。

 どごーん!

 部屋に煙が充満した。

 「げほげほ!」

 「あほかい!」

 「見て!キー坊、駿ちゃん。」桃子はすでに破壊された装置のところに立っている。

 「むっ!こ、これは!」

 「鉄板の残骸!」

 「キー坊の推測は正しかったのね。レバーもランプもみんな飾りだったのよ。」

 「むむむ・・だ、騙された・・・」

 「あっ!権堂校長!気が付きおった!」

 「灰駄め・・・」

 鍵司は床に座り込んで上体を起こした校長に近づいた。

 「どうやら、きさまの企みもバブルだったようだな。」

 「・・・わしは・・・」

 「もう諦めな。初めっから放射線だの記憶操作だのの仕掛はなかったんだよ。きさまが灰駄や玄海を信用したのが運の尽きだったってわけだ。」

 「まさに玩物喪志ってとこね。」

 権堂校長はがっくりとうなだれた。

 「そうだ、校長、7つの金色のコインの秘密を教えてもらおうか?」

 「コイン?ああ、あの七福神のコインのことか・・。」

 「いったい何だ?ありゃあ。」

 「わしの心のお守りだったのだ。」

 「お守りだあ?なにかわいらしいこと言ってんだ。」

 「君たちは知らないだろうが、わしは今までの人生で自分のやることがうまくいったことがなかった。」

 「てめえのその性格のせいだろうが。」

 「そう言われても返す言葉はない。」

 桃子と駿平、それに妖子も権堂校長を取り囲んで立った。

 「昔からわが家に伝わる家宝なのだ。その7つのコインはな。」

 「で?」

 「自分が一番大切にしている場所にそれを置けば、そこからかならず運が開ける、という言伝えがあるのだ。」

 「へえ。ずいぶん迷信深いやっちゃな。」

 「厄払いのつもりだった・・・・。」

 「厄払いだあ?」

 じゃら・・。7枚揃ったそのコインを桃子は自分の手に広げた。

 「悪夢を葬りたかったのだ・・・・。」

 「何だよ、その悪夢ってのは。」

 権堂は何も言わずにうつ向いた。

 「大切な場所ねえ・・・。それで秘密の入口にそれを隠してたってわけか。」

 「森の中に福禄寿、体育館の毘沙門天、プールの恵比寿、噴水の寿老人、体育倉庫の布袋、やったな。確か。」

 「あと二つあるわよ。弁財天と大黒天。」

 「・・・・パパ・・」今まで黙っていた妖子が口を開いた。

 「そうか、妖子さんが持ってたんだ、この大黒天のコイン。」桃子はそのコインをつまみ上げた。

 「この弁天さんは?」

 「私の・・・弾いてたピアノなの。」妖子がぽつりと言った。

 「な、何だと?!」

 「こ、この学校のピアノがか?」

 「私が指に怪我して、ピアノが弾けない身体になったから、学校に寄付したの。」

 「怪我?だと?」

 「右手の小指。手術したけど、もう動かない。」妖子は父親を抱き起こした。

 「妖子・・・」

 「パパ・・もう終わりにしましょう。」

 「一番大切にしている場所・・・か。」鍵司がため息をついた。

 「お返しするわ。権堂校長。」桃子は権堂力造の手を広げ、持っていた7枚のコイン全てを握らせた。

 「桃子くん・・・。」

 「今度はきっと運が開けるわよ。いい娘さんもいるしね。」

 「好運を運んで来てくれたのは・・・・君たちだったのかもしれんな・・。」力造はまたうなだれた。


 桃子たち三人は壊れた中庭の噴水から表に出た。

 「桃子、おまえの復讐はこれで終わりってことでいいのか?」

 「・・・・・」

 「まさか、ここを校長もろとも爆破しちまおうなんて考えてたんじゃねえだろうな?」

 桃子はため息をついた。「なんだか・・疲れちゃった。」

 「同感やな。」

 少しの沈黙の後、鍵司が再び口を開いた。

 「帰ろうぜ。」

 「そやな。」

 「待って。」桃子が立ち止まって言った。

 「どうしたんだ?」

 「学校のピアノで鍵司の演奏聞きたいなっ。」

 「なにぶってんだよ。」

 「だって、しばらく聴いてないし、この学校にももう二度と来られなくなっちゃうし。」

 「そんなのどかなことやっててもええんか?ピーチ姫傷だらけやで。」

 「大丈夫よ。」

 「桃子、おまえのその『大丈夫』の根拠、どこにあるんだ?」

 「え?」

 「ま、丈夫な桃子のこった。確かに大丈夫だろ。行こうぜ。」鍵司は先頭に立って歩き出した。「ここのピアノも弾きおさめか。」


 音楽室は夏の陽の光が容赦なく窓から差し込んで、いつものように異様に暑苦しかった。鍵司はピアノの蓋を開けた。

 「ちょっと指馴らしするぜ。」

 「いいわ。待ってる。」

 桃子は駿平といっしょに窓際に立っていた。鍵司の指が鍵盤上で遊び始めた。

 「ねえ、駿ちゃん。」

 「なんや?ピーチ姫。」

 「眼鏡返して。」

 「ああ、そうやったな、すまんすまん。」駿平はかけていた桃子の眼鏡を手渡した。そしてかつらも外した。

 「女って夏は暑うてかなわんな。」そう言いながら胸の詰め物も取り出した。「しもた、着替え持って来んのわすれとった。」

 「外に出る時はまた変装しなきゃね。」

 「かなわんなー。」駿平はセーラー服のスカートをばたばたした。

 「それより、ねえ、駿ちゃん。」

 「なんや?」

 「あなた留学する気はない?」

 「留学やて?」

 「そう。スポーツ留学でノルウェーの大学が待ってるわ。」

 「待ってる・・って?」

 「私の家の奨学生制度なの。」

 「ピーチ姫んちの?」

 「そ、『楊建設北欧留学生募集』のお知らせ。」

 「募集っつっても・・・。」

 「学業や芸術、スポーツを生涯のものとして研究する意欲ある若者を対象に募集してるの。」

 「知らんかった・・・。」

 「今年から募集することにしたんだけど、3人分先に押さえてあるのよ。」

 「3人分?」

 「そうよ。あなたと私とキー坊の分。」

 「ほんまの話か?それ。」

 「私は嘘は言わないわ。」

 「やけど、おふくろに相談せんと・・・。」

 「もうパパから話してあるわ。彼女も賛成してる。」

 「え?」

 「お母さんもいっしょに駿ちゃんとむこうで暮らせる用意はできてるわ。」

 「そ、そこまで世話になるわけには・・・」

 「駿ちゃん二人暮しだから、一人で行っちゃうとお母さん寂しがるわよ。」

 「・・・・話、してみるわ。おふくろと。」

 「そうね。それが一番ね。早めに知らせてね。」

 「おおきに、ピーチ姫。」

 「おい、桃子、何が聴きたい?」鍵司が振り向いた。

 「決まってるじゃない。あれよ。」

 「あれか。」鍵司は一度深呼吸をして静かに『春のさざめき』を弾き始めた。桃子も駿平も目を閉じて聴いた。


 「やっとゆっくり茶が飲めるな。」

 「ほんまやな。」

 「最高の烏龍茶を入れてあげるわね。」

 「なんじゃい、その最高の烏龍茶ってのは。」

 「中国福建省特別限定生産の庶民には滅多に手に入らない貴重品よ。その筋では金観音茶って呼ばれてる。」

 「金観音茶だあ?」

 「ほんまかいな。」

 「いちいちうるさいわね。文句言わずに飲みなさいよ。」桃子は二人の前にカップを置いた。

 「ところで、あのコイン金ピカだったが、ありゃ本物の金だったのか?」

 「重かったから私も最初はそう思った。ところが、」

 「違ってたんか?」

 「じゃあ、値打ちのねえただの・・・」

 「あれね、私こっそり計測してみたの。」

 「計測?」

 「そうよ。化学者の血が騒いでね。」

 「まーた始まった。」

 「コイン一枚の質量は20.163㌘重、その体積0.95で割ると、21.22。これは1立方㌢あたりの重さ、つまり比重ね。純金の比重は19.3だから、それより重いってこと。」

 「で、結局、」

 「比重21.45に極めて近い。あれはプラチナのコインだったの。表面に金メッキが施してあったってわけ。」

 「へえ。プラチナ。」

 「昨日の新聞で調べたら今のプラチナの相場は1㌘あたり1532円だから、コイン一枚30889円。7枚でなんと216,223円の値打ちがあるのよ。」

 「すげえな。」

 「プラチナは純金より高価だって知ってた?」

 「ほんまかいな。」

 「一にぎりで21万円か。」

 こんこん、がちゃ。その時、桃子の父親がノックと同時に部屋に乱入した。

 「パパ、ノックぐらいしてよね。」

 「したではないか。」

 「私、入ってもいいなんて言ってないわよ。」

 「今入ってはいかんとでも言いたげだな。」

 「何言ってるの。常識よ常識。」

 「おまえから常識云々されるとは思わなんだな。」

 「また喧嘩売る気?」

 「さて、わしの調べた所によると、」ばふっ!桃子の父親はソファに腰を下ろした。びょん!座っていた駿平が30㌢ほど飛び上がった。

 「何よ、いきなり。」

 「黙って聞け。おまえらの知りたいだろうことを調べてきてやったのだ。」

 「パパじゃないでしょ?木村のおばちゃんでしょ?」

 「ええい、水を差すな。」

 鍵司と駿平は笑い合った。

 「どうやら権堂家の悲劇は三年前の中国旅行の時に起こったらしいのだ。」

 「な、何よその中国旅行って。」

 「うむ。この近辺の私学協会の会長を権堂力造がやっておった時にな、協会の主催で中国を視察旅行に行ったのだ。」

 「パパも?」

 「わしは都合で行けなかったが、旅行の企画は全部わしが立てた。」

 「ということは、おやっさんはその時から宝船高校の理事をやってたってわけだ。」

 「うむ。それでな、丁度旧日本軍の従軍慰安婦だったという人たちとの会見をしている時に、一人の中国人の男から襲われたのだ。」

 「襲われた?」

 「そうだ。両親を旧日本軍に殺され、妹は慰安婦として屈辱を受けたという男だった。本人もずっと捕虜として強制労働を強いられていたという。まだおまえたちぐらいの年齢の時にだ。」

 「・・・・・・」

 「わかるな。その気持ち・・。」鍵司が暗い表情で言った。

 「その時に父親をかばった妖子は、男の持っていたナイフで右手の小指を切断する怪我を負った。」

 「せ、切断?」

 「中学生でありながら、県のコンクールにも入賞する実力を持っていた娘だった。ベートーベンの重さと豪快さを見事に表現する女子中学生とは思えぬ怪物、と称されていた。」

 「えらいな褒め言葉やな・・・。」

 「あ、俺知ってるぞ。」

 「キー坊、そのコンクールに出たの?」

 「俺はコンクールが嫌いだって言っただろ?」

 「じゃあなんで知ってるのよ。」

 「その筋じゃ有名な話さ。そうか、あの女があの時の・・・。」

 「かわいそうに、彼女の小指はつながりはしたが、元には戻らなかった。」

 「なるほど。」

 「これで氷解だな。」

 「学校のピアノがベートーベンに向いていること、権堂校長が中国人を恨んでいる訳。」

 「でも、なんで中国人のおっちゃんがそのまま理事でいられてん?」

 「理事などというのはな、駿平、金を持っているだけでよいのだ。」

 「金を?」

 「おそらく、権堂もわしを好んではいなかったはずだ。だが、この町で学校を経営していくのに、わしの権力と財力が無視できなかったのだろうな。」

 「パパに権力なんてあったっけ?」

 「ばかめ、権力なんぞ、そう簡単にひけらかすものではない。金と同じだ。必要な時には必要なだけ惜しみなく使う。それも人さまのためにな。そうでなければただの極悪人に過ぎん。」

 「さっすがピーチ姫のとうちゃんや。」

 「俺、初めておやっさんを尊敬しちまったぜ。」

 「思い知ったか。」えっへん!桃子の父親は不必要にふんぞり返った。「わしが自分のことしか考えん平凡な権力者なら、今ごろ政治家になっとるわい。」

 「政治家に?」

 「おうさ。きょうびの政治家は選挙のことしか頭にない、金の使い道を知らん。世間の人さまに選ばれたという自覚もないではないか。」

 「たしかにおっちゃんの言う通りやな。」

 「だからおまえらには金を使うのだ。」

 「ありがとう。パパ。」

 「将来のある若者にこそ金とチャンスを与えるべきなのだ。」

 「俺、いつか必ず恩返しします。」

 「おえ、気持ち悪い。鍵司そんな口の利き方はやめろ。それにな、おまえらに恩返しを期待なぞしとらん。好きにしてこい。金はいくらでもある。安心せい。その代わり、」

 「え?」

 「必ずでかくなって帰ってこい。期限は3年だ。」

 こうして秋から鍵司はフィンランドのヘルシンキ大学の留学生として、駿平は母親といっしょにノルウェーのオスロに、そして桃子自身はスウェーデンのストックホルムの大学に化学の研究生として留学していくことになったのだった。

 桃子の父親は「あとは若いもんに任せて、わしは退散するか。」とわけのわからないことを言って出て行った。

 「桃子がスウェーデンに行くもう一つの理由を教えろ。」

烏龍茶をすすりながら鍵司が尋ねた。

「あたしがスウェーデンに行く本当の訳はね、日本にはまだ実現しそうにない社会福祉の実態を見てみたいからなのよ。」

 「難しいこと言ってんな。」

 「日本は物質面では豊かかもしれないけど、精神面にゆとりがない。そう思わない?」

 「思う思う。」駿平が言った。

 「一生安心して暮らす、人々が支え合って、ゆっくり生活するってことを考えてみたいの。あたし。」

 「日本って、確かに慌ただしいよな。」

 「それに、社会福祉が行き届いているにも関わらず自殺率が高いとか、環境に敏感なはずなのに原子力発電所が多いとか、結構矛盾もあるのよね。あたし、昔から北欧びいきだから、自分で真相を確かめてみたいのよ。」

 「なるほどな。」

 桃子は今度は鍵司の顔を見て言った。「森と湖の国、だったわよね、フィンランドって。」

 「そうさ。フィンランド人は自分の国をスオミの国って言うんだと。」鍵司は烏龍茶をぐいと飲み干した。

 「スオミ?なんやねん、それ。」

 「湖っていう意味なんだ。湖がフィンランドの誇りとも言えるかもな。なんせその数6万だぜ、6万。」

 「いいわね。二人で夕暮れの湖畔で過ごすなんて・・・。」

 「二人?俺が誰と・・・」

 「にぶいやっちゃな。ピーチ姫に決っとるやろ。おんなじ北欧に行くねんで?」

 「そしてキー坊は私を抱き寄せ、優しくキスしてくれるの。」桃子は指を組んで夢みがちな瞳を輝かせた。

 「なっ!な、なにが優しくキスだ!」

 「『記憶が戻らなくても、俺がずっといっしょにいてやる。』そして私の体を抱きしめた・・・。あれは偽りだったの?」桃子は鍵司を横目で見た。

 「そ・・・・。」

 「おーお、赤くなっとる。かわいいやっちゃ。」

 「うるせえ!」

 「神秘的な北極圏・・ラップランド・・・その夕暮れのイナリ湖畔が二人のファーストキスの場所なんだからね。ちゃんととっておいてよ。」

 「ファーストキスだあ?」鍵司は硬直した。テーブルのティカップが倒れた。

 「なに?その驚き方。ひょっとしてもうファーストキス済ませたの?」

 「ばっ!ばかな!」

 「怪しいわね。キー坊ってば奥手で私以外に女っ気ないと思ってたのに・・・。駿ちゃんは知ってるの?キー坊のファーストキスの相手。」

 「そ、そんな話、き、き、聞いたことないで。だ、大丈夫や。た、た、たぶん鍵司はまだ・・・・」

 「なに?どうしたの?駿ちゃんまで赤くなっちゃって。もしかして・・」

 鍵司はあわてて桃子の言葉を遮った。「わかった、桃子、フィンランドの湖畔で待ってる。待ってるからな。ちゃ、ちゃんと来るんだぞ。」

 「変なの。」

 桃子は鍵司のカップを立て直して、ポットから再び熱い茶を注いだ。


-劇終-

『春のさざめき』・・・ノルウェーの作曲家クリスティアン・シンディング(1856~1941)の作曲したピアノ曲作品32の3。北欧の厳しい冬を乗り越えた人々の喜びを繊細かつ快活に表現した佳曲。

 最後まで読んでいただき感謝します。

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