02
少年の意識が遠のいてきた頃、辺りは突然の風に襲われた。
冬の厳しい風が、少年の体に容赦なく突き刺さる。
ぶるっと身震いして初めて、まだ生きていると少年は実感した。
吐く息が凍ってしまいそうだった。
目の前に鬱蒼と茂る木々が、ざわざわと、まるでひとつの生き物のようにうなる。
その時、少年の目に何かがちらつくのが見えた。
木と木の間に、小さな火のような赤い影が揺れた。
――――誰か、人がいる。
そう確信して、少年は唾を飲み込んで立ち上がった。
体は疲労で悲鳴を上げていたが、気にも留めず足を進めた。
せめて死ぬ前に、誰でもいい、誰かに会いたい。
コンクリートで舗装された道路を横切ると、そこには時代にアンバランスな森が広がっている。
何もかもが機械化し、洗練、統一された “東京”には違和感のある光景だった。
林に一歩足を踏み入れ、なるべく音を立てないように進んだ。
明りに近づくと、少年はそこに人影があることを確認した。火を焚いて暖を取っているようだ。
それでも、折れた枝や枯れ葉を踏む小さな音だけは、どう頑張っても誤魔化しようがない。
人影――男が振り返った。
少年と目が合うその男はまだ若い。
少年とあまり年は変わらないように見えた。
「――――どうも、君もあそこの出?」
軽く会釈をして、青年は少年の服――汚れた灰色のつなぎを見て言った。
少年が小さく頷くと、青年は静かに笑った。
「警戒しなくていいよ……まあ初対面だし、そうするのが当たり前か。
僕は零。ゼロって呼んで」
ゼロは不思議な男だった。雪のように白い肌、灰色の目に銀色の髪がよく映えていた。
その透き通る、中性的な声には、自然に相手を惹き付ける力があるのかもしれない。
「君は?」
ゼロが、焚き火のそばに手招きした。
火を挟んで、青年と向き合う形になってしゃがみこむ。
火の温かさが、体中に広がっていくようだった。
「僕は光――ヒカルです」
ヒカルは、昨日、東京の西にある矯正施設から脱走した。
矯正施設とは、未成年の罪を犯した子どもを、文字通り矯正する施設だ。
「あそこは狂ってるよ……」
ゼロが、ぽつりと言葉を漏らした。さっきまでの友好的な笑顔とは違い、今はこわばった表情だ。
「だから君も逃げてきたんだろ?」
ヒカルが頷く。
「僕はあそこが嫌いだ……それに怖い」
「脱走してきた先輩として言うよ。あれは矯正なんかじゃない。洗脳だね」
ゼロが冗談めかして笑った。それを見ているといくらか気持ちが落ち着いて、自然にヒカルも微笑んでいた。
施設を脱走してきて、良かったのかもしれない――――。
施設で過ごした日々が、いまだ脳裏に鮮明に刻まれていた。




