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少年は走っていた。
ただひたすらに、地面を蹴って。
闇の中で、吐く白い息が消えて行く。
もがいて両足がもつれ、倒れそうになりながら、訳もわからずに走った。
顔に吹き付けてくる冬の厳しい風さえ、今は心地よく感じる。
何から逃げている?
何のために逃げている?
そもそも僕は、どうして逃げている――――?
気がつけば、灰色のコンクリートの壁にもたれかかっていた。
投げ出された両足はつっていて、少年は体中の血が逆流しているように感じた。
酸素を求める肺が、心臓が、止まることを知らないように脈打っている。
目をうっすらと開けると、いつの間にか、雪が降り始めていた。
真っ黒な絵の具を垂らしたような夜の空に、青白い月がこうこうと輝いていた。
手の甲に降ってくる雪は冷たくて、溶けずに積もって行く。
手が冷たすぎるのか、と少年は、頭の片隅でぼんやり考えた。
身につけている服も薄い。普通ならもうすぐ凍え死ぬだろう。
これが死なら、死ぬのも悪くないと思う。
少なくとも、全力疾走した後で眠るように死ねるのだ。
少年にとって、何かから逃げることさえ、もうどうでもよくなっていた。




