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SIGMA

 初めての試みとなるが改造人間の六人が集合し分隊を作らずに出撃し今回は全面戦争になる。いつものような迎撃戦ではなく、今回は敵からの宣戦布告を受けて緊急召集を受けた彼らが射出ハッチから飛び出し各々の力をフルに使い敵を撃破していくという。今回の前線指揮をするのは零紫だ。敵は海中都市……ポセイドンと呼ばれる海中の要塞都市でミサイルや海中からの重砲撃によって攻撃してきたのだ。都市名は『大阪』古代より大都市として栄えていた都市だが近況としてはあまり芳しいという情報は聞かない。零紫と矛が連立して先導しているこの小隊が今回の鍵となって行く。……のだが、ここは空中都市、海面下、特に深海の海底への進撃経験など皆無の彼らにどのように攻撃させようと言うのだろうか。


「これ、露出高くない?」

「仕方ないだろう。海中戦闘用に兄貴が計算してくれたんだ」

「我慢して、琴乃。紫神はノリノリだけど」

「仕方ない……な」


 深海の戦闘経験はゼロでも水面下での戦闘経験者は少しばかりいる。そう、矛だ。彼は元々回遊都市の『静岡』所属の改造人間だった。しかし、海中戦闘は『ガイア』の改造人間では矛以外経験がない。射出ハッチから飛び出した六人は角が作った水中戦闘用のスーツを纏い海中に入って深く、より深く潜っていく。零紫と矛を先頭に2列目に紫神、皇太の兄妹が武器を構えて隊列に加わり最後尾に射撃系統の武器を扱う琴乃と篠がつき敵の本拠地を目指す。予想はしていたが『海中要塞大阪』に到達するその手前で海中の生物と戦闘になった。零紫が最初に感づき背負っていた剣を使い巨大な胸鰭と尾鰭を切り落として周りの皆と旋回し退避行動をとっている。先ほどの巨大な魚を筆頭にして次々に違う形態の海中生物からの攻撃を受けた。細長い白くぬめりのある生物。絡む八本の足がめんどくさい者、やたら遊泳速度の速い魚や集団で襲ってくる小型の微視物……いや、微生物型の海中生物などなど。皆はそれらと用心深く戦闘を続ける。海中では少しの負傷すら命取りになると矛から助言を受けていたからだ。零紫は味方の負傷具合を逐一確認してながら剣を振るっている。


『みんな大丈夫か!』

『俺を気にするな! 問題は後続だ!』


 篠が微生物型の群生生物に集られている。海中では彼女の凍結能力を使えない。そのため甲に仕込んだ暗器と荒神に習った格闘術を使いなんとか回避しているくらいだった。そこに救援部隊として空雅空軍が舞い込み撹乱させながら前進する時間を稼いでいる。その時……。あまり状態として良くないことが起きた。今、彼らは大陸棚の上にあるそこまで深くないエリアの最低点エリアに到達しもう少しで『大阪』へ侵入できるところまで来ていたのだが……。


『うわっ!!』

『琴乃!』

『だ、大丈夫だから!』

『何言ってんだ! くそ、二人だと出力が……』


 そこへ敵の水中機動兵が攻撃を仕掛けてきた。敵は流石にホームでの戦闘だけありこちらとは動きが全く違う。そこに最高の助っ人が現れ彼らにとって難を回避することに成功する。一機の最新式の海空式戦闘機から通信が入りある脱出方法に着手したのだ。他の四人は緊急脱出し同じように空中に水空戦闘機に引っ張り上げられ弾幕を避けた空路を通って『ガイア』本部に帰ってきている。海中に残った二人が生きていられるのは零紫の機転と空雅の操縦技能がかみ合った結果だが……。


『零紫! 大丈夫か!!』

『琴乃が負傷しました! 緊急離脱も出力が足りずに叶いません!』

『ワイヤーフックバーに手をかけろ! アルマガムに衝突直前に俺は退避する。後は何とかしろ!』


 空雅の機体が零紫に近づきホバリングエンジンに切り替える。彼は指で合図し琴乃を抱いた彼は指示を受けてワイヤーを引っ掛ける用途で付いているバーに手をかけた。その後、衝突まで神経を研ぎ澄まして琴乃を守るようにキツく抱きしめ……彼の金色のオーラを前方に噴出させて衝突に備える。それに合わせるように似通ってはいるが少し色の濃い琴乃のエネルギー波も重なり海水を遮断している軟機体金属と呼ばれ柔らかく液体に近い『アルマガム』に小さく穴を開け海中要塞都市『大阪』に侵入した。一緒に少量の海水と共に水面に落ちたため地面に落ちるよりはダメージが軽減されている。


「な、何とかか……大丈夫か?」

「う、うん……。ありがとう。守ってくれて……つっ!」

「毒は……無いようだな。なら、止血する肩を見せろ。ほら」


 『海中要塞大阪』内部。零紫と琴乃は空雅の助力により命の危機は切り抜けた。しかし、敵地のど真ん中に二人きり……。絶望的なのには変わりない。その頃、緊急離脱した四人のメンバーが思世と話していた。海中要塞は確かに強固だ。それを打ち破るには海中の戦闘に慣れなくてはならない上に戦力が違いすぎる。そして、何よりも彼らに痛手だったのは荒神兄妹が未帰還だったことだった。空雅によれば零紫からの最後の通信で無事なことはわかっている。しかし、先ほども述べたが二人は敵地のど真ん中にいるのだ。早急に増援と彼らの救出を施行しなくてはならない。ただし、それを行うにも海中には血に狂った原生生物と海流、敵の兵団が構えている。奇襲に一度しくじっているため二度目は最初のようにはうまくいかないだろう。普通奇襲をするような状況ではその突然の出現による敵の撹乱から成功率は低くないはずだ。その初回の攻撃に失敗……。それに関して矛はかなり凹んでいた。これまでに未帰還など出たことがなかったところに主戦力たる荒神兄妹が未帰還になった……加え篠は海中では戦力にならない。これでは攻めるにも攻められず広域破砕兵器なども零紫達が内部に居る以上は使えないのだ。


「零紫と琴乃、他数名が未帰還か……」

「厳しいな……」

「矛さん。気をしっかり持ちましょう。俺たちが頑張らなければ二人の奪還は不可能なんですから」


 『ガイア』の会議室で矛は頭を抱えている。そこに資料を持った思世が話しかけた。思世は細身の長身で日本人らしい黒髪に第一次緊張崩壊戦争末期に負傷した右目は眼帯、鼻が高い美形な顔立ちだが伴侶はおらず矛と二人暮らしだ。そんな彼は息子同然の彼に彼の全てを託すべく相応の教育をしていた。矛が落ち込めばその形に合わせた試練を与え、時には千尋の谷に突き落とすことまでする。今回の作戦は無謀極まりない物で成功は確かに薄かった。だが、それを推したのは彼と零紫。その責任は重い。


「俺と荒神はな。ある取り決めをした」

「親父、急になんだよ」

「いや、俺と空雅、荒神の三人の約束事だな。未帰還の時は必ずその者の安否を確認すること……」


 思世の目には懐かしさを思わせる淡い光があった。荒神や空雅、彼は先陣に立つ武官だ。そのことに関して思い出がたくさんある様子でかなり複雑な表情になっている。笑ったり、難しい表情になったり……兎に角複雑だ。矛は暗い顔をするような性格ではない。しかし、今回ばかりは連立するように戦って来た零紫が危機にある。そのために彼には少し重かったのだ。


「アイツはよく行方不明になるやつだった。荒神や空雅なんてやつはあっちに行ったりこっちに行ったり……兎に角大変だったよ」


 その頃の零紫と琴乃もかなり複雑な状況に見舞われていた。そこまで多くはないが敵の兵団に取り囲まれていたのだ。しかし、敵の様子もおかしく零紫も最初から血気盛んとばかりには態度を出さず敵も明らかに威嚇だけという格好のよに見える。エネルギー収束サーベルをしまい敵の大将との話し合いになった。零紫の背中の大剣を敵は興味深そうに見ては居るが武器なだけあり……やはり近くには寄らい。各々の代表である零紫とまだ若々しい男性が話を始める。相手の男性は真っ赤なブラッドレッドの髪に肩幅が広く何より印象的なのは腰から下げられた二本の日本刀だ。


「敵軍の将よ。俺達は戦う意志はない。話し合おうではないか」

「……荒神 修羅がここに居ると聞いたが……どうやら人違いだな。私は亜潟(あがた) 康介だ。よろしく頼む」

「俺は荒神 修羅の息子、剣刃(つるぎば) 零紫(れいし)です。こっちが妹の荒神 琴乃です。こちらこそよろしくお願いします」

「は、はじめまして」


 それから二人は亜潟と名乗る武官に案内され地下通路を通り破壊されて滅茶苦茶になった地下の街に出た。そこにはたくさんの傷ついた人々がいる。零紫はその代表らしい男性に引き合わされ話し始めた。男性はかなりの高齢に見えたがそれを感じさせないはっきりした目と口調が印象的で握手をした時に零紫も最初はその力に驚いている。彼もまた荒神の名を口にしたが彼が違う人物で零紫という存在だと解るや違う言い方で遠回しに真意隠しながら伝えてきた。ここの都市も何か問題を抱えているのだ。このあたりは人間の住めるような場所ではない。しかし、ここに居る……何かがあるのか? 零紫も周りを見回し老人からの言葉をかみしめている。


「荒神殿かな? はじめ……」

「おじい、彼は荒神さんの息子さんだよ。零紫君というんだ」

「はじめまして」

「ほう、……あの英雄ならこの大地を浄化してくれると思ったのだが……」

「あの、ここは何故こんなことに? こんなことは内戦でもしない限りはないでしょう?」


 琴乃の言葉に頷くように老人が答えた。それは付け上がりすぎた人間に罰として与えられた事象なのかもしれない。現状としては空中都市も例外ではなくこの地球は歪んだ時点で多くの異質な生物を生んだ。現存している古代の記録にある生物などは少ない。そして、異質な生物は海中要塞の周りに居た巨大な魚類や貝、他にも多数いる。空中要塞にはよく巨大な鳥が体当たりしてくるがバリアで弾かれるためあまり気にしていない。だが、移動できないこの海底の要塞都市は今や滅びに瀕しているらしいのだ。それに海中要塞と空中要塞の違いはその密閉性もあり海中要塞は簡単に害をなす生物を外に出すことが出来ない。そのため……内部でそう言った物が繁殖してしまったのだ。


「待ってください……なら『大阪』はどうやって攻撃してるんですか?」

「それは私から説明しましょう」


 それに関しては亜潟が答えた。この要塞は『愛知』などとは形態が異なり幾つかの軍事拠点ブロックに分けられる。今、彼らがいる場所は普通のエリアだ。しかし、南側と中央管理区には暴走した軍部が占拠し他の地域には軍が産み落とし対処しきれなくなった生物兵器がウヨウヨしているらしい。唯一無二の安全地帯に零紫と琴乃は居るのだ。零紫は亜潟と二人になり話している。琴乃もそれと同時並行で傷の手当てをしていた。亜潟を含めた義軍の数は少ない。だから、特出した生物学の知識と戦闘力を併せ持つ荒神はこの土地の問題を解決するのに持って来いだったのだ。零紫と亜潟は改造生物の侵入を防ぐブロックの防御壁に登り話している。亜潟はかなり沈痛な表情をしていた。大柄な彼だが何か他の所に何か異質なところがあり零紫ですらそこが読めないようだ。

「私達を……いや、罪もない一般人を助けて欲しい。私のような血にまみれた人間など捨て置いて構いません。後生です」

「……助けることに異存はありません。しかし、今の現実を知らなければ手のつけようがありませんが……」

「わかりました」


 その話の後に琴乃が零紫に近づく。二人がお互いの想いを打ち明けて今の状態になってから数日とせずに『大阪』の暴走した軍部が『ガイア』に宣戦布告してきた。零紫と琴乃は落ち着く隙もなく戦地にいるのだ。今の『大阪』の状態について亜潟から再び詳しい説明があったのだが……。酷いものだ。『愛知』と機関としてほぼ変わらないクオリティなのに完全に殆どのエリアが荒廃して緑色の苔や菌類が繁殖……生態系を崩した改造生物の兵器化でさらに人間を脅かしているように見える。もともとこの都市は小さな自治が点々とし、そこに簡易の軍、政府、裁判所などがあり議会制をしいて昔は安定はしていた。だが……、100弱あった自治は今やここの一カ所だけ……。人口は既にここの数百人程度になりあとは大部分は軍にいる人間。零紫と亜潟は作戦を決行するために集まっている。武器を装備する彼らを心配そうに住民が見ていた。特に亜潟は周りを老齢の人物に囲まれ苦言を呈されていたが……彼は既に決めたことだといいそれを耳に入れようとしない。


「零紫……」

「ん?」

「無理は……しないで、アタシたちはいつも……いつまでも一緒だから」

「あぁ、わかってる」


 その頃のガイアは『大阪』からの遠距離攻撃が一時的にでも止んでいる時に作戦を練る。中心は思世だが、荒神のように後継者を作りたいため矛に実質的な案件を任せていた。そこに集まったのは作戦の中で機動部隊の中枢に位置する『鬼神部隊』、空を牛耳る空雅空軍上層部の大隊長、本部管制からの指示で前者達を援護する水無月班以下数名と夢路班以下数名、主戦力となる改造人間三人、他にも多数いるが彼らの大多数が纏まらない策に苛立ちを覚えている。矛が纏められない訳ではなく今回の指揮陣頭に矛が立ち思世では無いため作戦の形態が違いすぎるのが大きく関係していた。これまで彼らが適応して来たのは思世の作戦で、それは緻密でかなり組み上がった物だ。しかし、矛の作戦は突飛でアイディアには事欠かないが臨機応変な現場指揮が求められる……。そんな穴があり現場指揮官ができていなければなかなか成り立たないのが難点となるようだ。


「だがなぁ、流石に俺達もそれはキツいぞ。確かにヘキサスピアシールドは強力だ。それを大陸棚に在るとは言え海底の都市にぶつけるなんて無理がある」

「……」

「悪いけど俺も同意だよ。流石に無理さ。せめて水の抵抗を無くすか固形化しない……」


 その時、スクッと一本細い腕が伸びた。意外性抜群の状態で挙手したのは篠だ。篠が立ち上がって指揮台に立ち強引に矛からマイクを奪い説明を始める。思世は面白くなってきたようで顔の隅に微笑みを浮かべ目を閉じて話を聞いていた。その作戦は相手の攻撃を完全に遮断できるが失敗すればこちらも相当なリスクを伴う物だ。ここで思世が口を開く。思世の目が久々に輝きそれなりに昔ほどではないが覇気を持ち出した。荒神が死んでからは彼は全く笑わない……笑っても変な作り笑いしかしなかったのだ。しかし、その彼が久々に楽しそうに作戦に着手した。篠の申し出に賛成しそこからのプランを矛に確認を取りながら決定……。


「私がやります。私が範囲を決定し海水を凍らせる。阻止たら使える」

「そんなことができるのか?」

「皆さんはいつからそんなに弱気になったんですか? 零紫はいつも任務の時に言っていた。『できる、できないじゃない。割り切ってやるしかないんだ』って」


 ハッとして顔を上げそれに同意するように頷き水無月と夢路が立ち上がって二人の部下に指示を出し次々に作戦への移行準備に入っていく。他のメンバーが次々に動きつつことを勧めていた。その時、『ガイア』のイマージェンシーコールが鳴った。矛と思世が状況を確認し指針を決定して敵襲と気づいたのだ。そこからは特殊暗殺系機動部隊『鬼神部隊』が皆、動き新手の敵襲の対処に走る。最後に皇太が矛に向かって言葉を継ぎ開け放たれたドアをくぐって先に向かった紫神と共に敵の迎撃に向かう。会議室が閑散として皆があわただしく動いていく。『ガイア』いや『空中要塞愛知』の平和は再び崩されたのだ。


「矛さん。零紫さんなら無事なはずです。僕らは僕らで任務をこなしましょう」


 今回『ガイア』が敵の侵入を許したのは敵の侵入が新手の方法であったからだった。『大阪』の空中機動兵を航空機から直接投下したのだ。それらはバリアを貫通し次々に高層ビル群に降り立ったとみられている。データによれば『大阪』は海中にありながら空戦対策や地上戦闘、海中の機動力すら持った最強の軍隊を持っているようだ。それが本当に直接攻撃を仕掛けてきたなら目的は絞られている。要人の暗殺、もしくは無差別破壊。そのような事しかできないという事は敵もかなり焦っているという事がうかがえる。矛や指揮官級のメンバーは落ち着きを持ちその事に対処していた。広域破壊兵器が使用されないということは何らかのトラブルが敵を襲っているのだ。こんなチャンスはない。今が転機のタイミングといえよう。


『O1敵部隊補足』

『O5敵部隊補足』

『O7敵部隊と接触、排除開始』

『O3待機中敵部隊補足』

『O4敵飛行機発見。破壊開始します』

『O2……』


 『鬼神部隊』は通称を『OGRE』と呼ばれ通信時のコードを『OGRE』のオーの字をとり部隊は数字で表される。彼らの総員は荒神の死後、一気に志願者が増え訓練も良質化。その影響からより練強な兵士が増えていた。結果、敵は侵入したはいいが……既にほぼ補足されていた。それに輪をかけたように思世がライフルを構えてセンターホールビルに陣取り近づく連中を片っ端から撃ち殺している。『ガイア』のホームは空中の機動。それをいくら訓練を受けていたとは言えそれに関しての猛者には適うはずもない。『OGRE』の機動部隊の最後の部隊からの通信を合図に思世が全体に指示を出す。


『O13敵部隊補足』

『イーグルアイ。これより狙撃を開始する。皆、注意せよ』

『了解』

『サァ!』

『敵部隊排除』

『敵飛行機を破壊完了』


 思世の通信中のコードは『イーグルアイ』という。その彼が指示を出し『鬼神部隊』が動き出した。逆手持ち用のエネルギー収束サーベルが各所で光り、次々に敵の部隊が落とされていく。通信が途絶したのに気づいた敵は目標を要人にさらに絞ったが……。次々と額を撃ち抜かれて死んでいく。思世が囮とも気づかない敵兵……。さらには改造人間の増員まで加わり敵兵は窮地どころか絶望に苛まれるはめになった。先に到着しイライラしていた彼女、紫神はその小柄な体格からは見受けられない程の剛腕と体の柔軟性、動体視力などの体の特徴がフルに使える。そのため今の六人の中では肉弾近接戦闘において彼女が最強だろう。ただし、彼女一人では深追いや任務の無視をよく起こすため一人では戦闘をさせない。後方から武器の簡易火器を構えた兄の皇太と組み、二人が合わさることで最強をほしいままにできる。皇太の指揮能力と洞察力、観察力は指揮官球の『ガイア』のメンバーを凌駕するのだ。その統率力で紫神に的確な指示をだして敵を潰して行く。


「やぁぁぁぁぁ!」

「こ、子供!?」

「甘く見るなぁ!!」

「紫神! 抑えなさい! また、ビルを打った斬る気か?」


 思世の周りには夜井兄妹が張り付いていた。これでは敵も攻撃は愚か近づくことすらかなわない。そんな敵部隊が大損害を被るなか零紫たちも作戦を決行した。出撃するのは義勇軍の全員。敵の拠点を撃破することが目的だ。序盤は好調な進行も隠密作戦の遂行中にトラブルに見まわれた。敵の軍が攻撃してきたのかと思いきやその敵の軍が植物系の改造生物に襲われ捕食されていたのだ。こちらの手勢はそれらの特徴を熟知しているため被害は出なかったが……。敵の軍は植物の玉が飛んできてそれの吹き出す溶解液に溶かされて吸収されたり丸飲みにされている。道を迂回してそちらに向かっていくがついにこちらも被害が出た。琴乃と後続に居た少年兵士が蔦のような物に絡め捕られたのだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「な、何なのよ! これ!」


 その時、零紫と亜潟がほぼ同時に空中に飛び上がった。亜潟は黒鉛色の曲刀と赤い波紋が入った黒鋼の曲刀を構えて少年兵士の足に絡まった蔦を断ち切って着地。少年兵は尻餅をついて逃げ出し味方の部隊の方に四つん這いで這っていった。次に零紫がエネルギー収束サーベルを取り出し琴乃の蔦を切り裂き空中でキャッチして空中を飛び回る。エアシューズの出力を上げブラストモードに切り替えて逃げるが……零紫の右腕が攻撃型の蔦に絡まれた。その蔦はとげが付いていて彼の腕の肉に刺さり絡めとると彼らを根に近い株の方に引きずり込もうとする。零紫は亜潟の方に琴乃を投げちゃんと受け止められたのを見届ける。その後はその蔦にわざと絡め取られたまま大剣を振るい蔦の株らしい塊を真っ二つに切り裂いた。何故そのようにしたかと言えば耳に刺さったピアスを引きちぎるように彼の腕に深く突き刺さったとげを無理矢理に引き抜こうとすれば腕ごともぎ取られかねないからだ。彼が株に近づいて斬りつけたその瞬間に蔦や種の猛襲は止み彼も帰って来たようだ……。しかし、彼の左腕は……。


「もってかれちまった。結局な……」

「零紫君。気丈に張るのは止めろ……。死ぬぞ」

「父さんと同じ運命を辿るだけですよ。簡易でいいので義手はありますか?」


 植物の食胞に肩からごっそり食いつかれ……肉が削がれて筋肉の一部と骨が見えている。その彼に琴乃が駆け寄って泣いているらしい。零紫は背中を優しく撫でながら落ち着かせ一度、基地に帰った。その時に左腕を義手で補い第二段の策を考えている。亜潟は心配そうに零紫と付き添い続けている琴乃を見ているようだ。今回は……少数精鋭で向かい、この都市を捨てる覚悟で敵陣を討ちに行くという……。その前に零紫は『ガイア』本部に向けて電信を送っていた。それは父に教わった重要な暗号だ。零紫自身もこれを使う事になるとは夢にも思わなかっただろう。しかし、いずれは使わなくてはならないのだ。そう、いずれは彼らも一つにならなくてはならない。


sigma(シグマ)……by0(ゼロ)』


 零紫の電信をキャッチしたのは水無月だった。彼は瞬時に意味を理解し思世と矛にメッセージを転送している。次に送られてきた日時の電信を解読しそこから思世と矛の思案の結果、全員の任務の動きが決まったようだ。作戦実行日時を待つ間に篠と矛が話している。蒼い長髪に濃紺の瞳を持つ篠が弓道場の隅で座禅を組んでいたのだ。その隣に矛が現れて座り少しイライラしたように話しかける。赤いスポーツがりの髪を引っ掻き回しながら愚痴積もりを篠に打ち明けた。彼も人なのだそれくらいはあり得る。


「あ゛~~~~~~~!! 指揮官なんてやるもんじゃない!!」

「どうしたの? あなたは上から見てればいいのに……」

「それが嫌なんだよ。俺の守りたい仲間達を遠巻きから戦わせるなんてできるかよ。俺はお前だってそうなんだぞ」

「え……」

「俺は誰一人失いたくないんだ。幸いにして空雅空軍の未帰還者は重傷も居たものの皆、命は持って帰って来たんだからな」


 篠が俯き矛に打ち明けた。確かにそうだ。あのタイミングで一人……力を使って重荷を背負うのだから緊張もする。気を落ち着かせるために座禅を組み座っていたのだ。矛と話しているうちに彼女も笑い始めていた。彼女が笑うのは珍しい。そんな時、矛が面白いことをきいた。矛は自分のことに関してとても鈍い性質の人間ではあるが他の人間に関してはとても敏感なのだ。観察眼は思世からも受け継ぎ情報の集積はとてもうまいようだ。


「お前さ。零紫のこと好きだったんだろ?」

「……え?」

「ま、見てれば解るさ。俺はそう思ってた。どうだ?」

「うん。確かに……そうだね。でも、琴乃が好きなのも零紫だったから。私は諦めた。私の気持ちより強い気持ちが見えたから……」

「そうか……」

「運命なんだよね。あの二人。時間を超えた愛か……羨ましい」


 矛の顔が一瞬厳しくなり元々の顔に戻った……。それからも二人は話を続けて任務開始まで時間をかけて待っている。夜井兄妹や思世の動きのおかげで敵の襲撃などは特に気にすることはなし……という程度で終わった。『ガイア』の本部内でも文、武官達が話している『sigma』それは彼らにとって懐かしいものだったのだ。荒神が考えたこの暗号。メールで送れば彼らは皆、一カ所に集まる。そう、『総和』、『全員の力を結集しよう』という合図だ。彼が零紫に教えたようで全員が懐かしそうに……しかし、少し重く心を集めた。


「懐かしいな『sigma』。サボリの合図か」

「うん。あの頃はそれだったけど『ガイア』になってからは『総戦力戦』だけど……」


 『ガイア』誕生以前の思い出を噛み締めつつ、次に策を投じるまでの時間までを待つ。そして、作戦決行の時刻になり亜潟、零紫、琴乃が動いた。エアシューズをブラストモードに切り替えて三人が敵の本部に奇襲をかけたのだ。零紫の大剣が敵の要塞の壁を砕き中にはいる。基地内に侵入し片っ端から未完成の『コア』を制御している装置を破壊しに向かう。ここの改造生物はその『コア』によって制御されるからだ。それが停止すると細胞へのエネルギー供給がストップしすべてが腐敗して消え去るらしい。次々に敵兵を斬り捨てる二人の後ろを双拳銃を構えて敵のこぽれた者を撃ち抜いていた琴乃……。表情が暗く零紫から目を離さない。彼女はとても心配していた。零紫の肩からは緊急手術だったこともあり完全な接続がされていない義手が付いている。それから流血していたのだ。ドロドロと滴る血が床に垂れて跡ができている。


「零紫君。君は後ろに下がったほうがいい。流血しているじゃないか」

「いえ……大丈……」

「大丈夫じゃないわよ。零紫……お願いだから……下がって」


 琴乃に言われて零紫は折れた。隊列を変え琴乃が前に出て行く。基地の中心部に入り体を酷使しているらしい零紫は亜潟の勧めで休まさせられている。生物を管理しているコアを見つけ破壊しようと刀を亜潟が構えた。そこに初老の武器を構えた男性が現れる。それに対して亜潟は刀を構えて相対す構えをとった。その男は二人の会話から考えて敵と考えるべきだろう。それから彼らの凄まじい打ち合いが始まり火花が散るところも間々見られた。二人とも刀を構えたまま一度後ろに飛び退き無言のままに再び斬りつけあう。長い間の斬り合いの末……。亜潟が敗北した。日本刀できき手の肩を切り落とされた亜潟はまだ息はあるがほぼ虫の息だ。刀が零紫の目の前に落ちそれを抜き取って構える。


「荒神 修羅?」

「俺は息子の零紫だ」

「ヤツに子がいたなど聞いたことがないが……」

「養子……だが。俺は彼から多くを学んだ」


 零紫が日本刀を構えたタイミング……ここで要塞が揺れた。海中のその部分の水分が凍結され体積が上昇したからだ。それを起している海面では篠の周りを三人の改造人間が守りを固める。水無月のバリアが水中の一定エリアを囲い凍結させる原因の篠の弓矢の放つエネルギー波を補正しつつ夢路の班と一緒に彼らの援護、補正を行う。彼らは零紫の意志通り『ガイア』で一丸となってことに当たっていたのだ。


「大丈夫か! 篠!」

「な、なんとか……」


 それが激しさを増す中で海底でも動きが始まった。生き残った住民を連れて脱出の準備をするのだ。脱出用の小型艦船をエンジンに点火した状態で待機させ三人が今『大阪』の本部にいる。亜潟は戦闘不能だが……零紫が刀を構えて対峙した。零紫の構えは居合いの構えでそれを見た相手も同じような構えに移る。しかし……零紫の力では到底太刀打ちできない。たちまち窮地に追いつめられてしまった。彼はあくまで洋剣の使い手で日本刀のような曲刀の扱いには慣れていない。それでも琴乃を守りたかったのだ。彼はボロボロになるも、日本刀を構えてなお対峙する。


「流石に荒神 修羅の息子でも手負いでは他愛ないか……これで最期だ」


 零紫が目を閉じて心の中で考えをまとめるように軽く域を吐いた。荒神に言われたことを思い出したのだ。それを心に留め自分には何ができるのかを考えている。そして、結論に至ると零紫がカッと両の目を見開いた。決心が強くなったその強い輝きに呼応するように彼の体にも大きく変化が生まれている。


『父さん……俺は、守りたい物を守るためなら……その道が修羅道とて、恐れはしないよ。貫けるなら……戦渦だっていい。俺は……守りたい者のために戦う』


 零紫の構えた亜潟の黒刀が輝き……いや、違う。表情の変わった零紫からエネルギー波が溢れ出している。『ガイア』に保護される前に軍の未完成なデータによって不完全な覚醒を迎えた零紫はエネルギーの制御が下手くそだった。その彼から黄金に輝く波動や薄く立ち込める黄金色のオーラが放たれているのだ。衝撃で構えが崩れたためか仕切り直し、琴乃を下がらせ零紫が黒刀を構える。


「俺は……無駄に命を奪わない。生きたいと願うなら生かす。だが、俺の征く道を塞いだり奪おうとするのなら……俺は真っ向からぶつかり対峙するその道を……絶つ!」


 太刀筋が定まり刀捌きが尋常ではない技量に変化して先程までの零紫の動きではないような動きになっていた。エネルギー波の制御が精密化し、より細密な体重移動や威力の加算が可能になり移動速度が異様に上って腕力や脚力も増している。対峙した初老の男は防戦一方の一方的な展開を経て最終的にバッサリと上半身と下半身を斬り分けられた。そこで、彼らにとって恐ろしいことが起きる。矛や他の高官達も予想だにしない出来事で驚いている状態だ。気温や水温、海底の火山活動の急な温度変化の影響から理屈から考えるとおかしな海流を生みだしたらしい。それらの要因から水圧などに対する要塞の強度や『アルマガム』の対応値を越してしまったのだ。そのため砕けた氷が『アルマガム』の海水遮断壁を突き破り建物の金属柱や壁を破壊して砕けた岩や金属片がそれらを次々に崩している。壁や塀が崩れる中、零紫は恐るべき力で脱出を図った。琴乃はそれに関してパニックに陥っているため全く機転は働きそうもない。亜潟の息がまだある。彼も外に連れだそうと零紫が動き出した。


「わ、私はいい……君たちは生きるんだ。持ち帰るなら、私の刀を……」

「零紫! 入り口が! 入り口が塞がれちゃった!」

「俺にしっかり捕まって居てくれ……行くぞ!!」


 背中の肩甲骨の辺りが変形し翼龍のような翼が零紫の背中から現れた。琴乃をしっかりと抱きしめ亜潟も義手でなんとか抱き上げた形で軍の基地の天井を破り黄金のオーラを放ちながら空へと飛び出した。そして、空中近くで四機の中型輸送機に鉢合わせしそこでさらなる攻撃を受けた。空雅空軍の中型輸送機、『碧燕』が氷の穴を降下して住民の救出をはかろうとしたらしい。それが巨大な蔦に一機絡め捕られそうになっているのだ。『碧燕』の尾翼と左翼の端に絡まるとそこに赤いオーラを身にまとった矛が垂直に落下してくる。その矛が『碧燕』の横を抜いて垂直落下し蔦の株を貫いて再び上昇し『碧燕』に上昇を促した。零紫が矛に亜潟を任せ次々に襲い来る生物を狩りながら……上昇を試みている。


「まずい! 入口が閉まる!」

「矛! 亜潟さんを上に! 『碧燕』輸送機隊は退避だ! 俺が小型艦船を引っぱり上げる! 早く行ってくれ!」


 零紫が一気にエネルギー波を全開にし四機の『碧燕』のワイヤーを切断して上空に登らせていく。輸送機は戦闘機と違い速度の最高値は低い、そのため早めに脱出させなければパイロットの命にかかわるのだ。零紫が住民を格納している艦船を急激に加速しながら上空に抜ける。矛と亜潟、『碧燕』四機は無事に安全空域まで抜けた。零紫がいまだ危険空域……、篠が凍結させ穴をあけた空洞で艦船引き上げに奮闘中の時……。


「アタシも手伝う!」

「タメだ!! おとなしくしてろ!!」

「嫌よ! いつもそうじゃない! アタシは置いてけぼりで何もできない……守られるだけなんて嫌なのよ!」


 零紫の額にさらに変化が現れ一本の長い角が現れた。琴乃が零紫のように力を解放しようともがこうとするなか零紫の体が変化し遂にギリギリで危険空域を脱出する。ガラガラと腹に響くそこから『ガイア』の地下滑走路に滑り込み……。


「零紫! 琴乃!」

「みんな!」


 琴乃が出迎えてくれた君枝に抱きつくその暖かい輪の中に零紫の姿が見当たらない。艦船の横面にもたれて意識を失っていたのだ。琴乃が思い出したように思世に零紫の様態を告げ何とか命を取り留めた。琴乃の介抱のおかげで零紫は快方に向かい……再び小休止を彼らが待っている。失った者や守りきれない者もあると学んだ零紫……。加え、新たな感情の芽生えを感じ取っていた。

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