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FIRST ACTION

 巨大な力を徐々に内面より外面に露出し始めた空中要塞『愛知』にて数か月が経過し零紫や琴乃、矛、篠、皇太、紫神も任務に駆り立てられ忙しい毎日を過ごしている。『愛知』は完全に改修と増築が終了し荒神や夢路、水無月、他のガイアの重鎮等に余裕ができてきているらしく戦闘訓練などもはじまったようだ。彼ら、『改造人間』と『創世主』は来るべき大戦を目指し毎日厳しい鍛錬に励んでいた。


「零紫、踏み込みが甘い! それだと二撃目で首を持ってかれる!」

「ぐあ!」


 地下の巨大な核シェルター状の訓練施設の中で荒神の体術の講義を受けているのは比較的近距離戦闘をすることの多い矛と零紫。剣と槍を扱う彼らにとって体術は基本中の基本だからだ。一見すれば零紫や矛の方が体格があり強そうだが訓練を見ている限りではそうもいかないように見える。現に零紫は注意された瞬間に殴り飛ばされ壁にぶつかっている。


「いきます!」

「遅い! 後0、3遅ければ零紫に負けるぞ!」

「かはっ!」


 矛が地面にたたきつけられ大の字になった。荒神が溜息をつき近くにあった小型のタンクのような物に紙コップを近づけ透明な液体を注いで二人に渡した。スポーツドリンクのような物らしい。なかなか美味とは言えないような苦々しげな顔つきの二人に仁王立ちの体勢で彼は話しかけている。


「練習熱心なのはいいが三時間ぶっ続けはキツイだろ?」

「父さん。そんなに余裕そうな顔して言わないでくれよ。心が痛い」

「まったくですよ。荒神主任……。あなたは現役を引退したんでしょ?」

「まぁな、お前達は日に日にのびて来てる。後は体が成長するのに合わせてトレーニングすれば俺並にはなるさ。頑張れ」


 その隣の部屋では思世がパイプ椅に座って三人の講師をしている。メンバーは琴乃、篠、皇太だ。彼らは狙撃や火器の扱いを習うために過去に普通軍兵の訓練を受けていた……そして、教官をしていた思世に銃や弓などの扱いを習っている。思世は中学時代に弓道の達人として名をとどろかせた人物でもある。その関係から篠にも弓道を教えられるのだ。他にも中学在学の後半は父親の関係から軍の訓練兵……いや、大理石の階段で上層部に登れるキャリアの息子だったため少しの訓練だった。……のだがそれでもいろいろな訓練や武器の扱いで訓練兵時代ですら相当な腕の持ち主ではあった。


「琴乃はもう少し足を開き腕の高さを揃えなさい。双拳銃は制射力を問われる。それを付けるにはフォームが一番大切な観点になるからな。足は肩幅よりちょっと開く程度に……そうそう、流石は荒神の娘だ。飲み込みがはやい。後は訓練で感覚を覚えるんだ」


 射出機から飛び出す円盤に弾を撃ち、当たる精密さや思世の熟練の目からみたフォームを教えるのが主な目的だ。琴乃は二丁の拳銃が装備品で彼女の割と小さな手に合わせて作られている。円盤には十発中三発は当たるようになってきた。家でも熱心な彼女は父親の荒神に教えてもらっているようだ。二人目は篠、一分ごとに切り替わる大小の的を壁に映し速さと命中度を上げるのための特訓をしている。彼女の場合は基本はできているためこれからの訓練次第では大きく革新的な力を目覚めさせることが出来るかも……とい期待まである。彼女の力はとても強力らしいが未だにそれを知っているのは数名にとどまる。


「そう、目で確認するな。風や空気を味方につけろ。お前は弓が武器だからな。この後道場に来い。型はそっちで教える」

「わかりました。ハァ……」


 最後に皇太は多種の火器を目的に応じて使い分ける訓練だ。主に使うのはショットガンだが手投げ弾や小型の爆薬、スナイパーライフルも教えられてかじる程度だがそこそこ腕を上げて来た。彼は基本的に温厚な性格で戦闘をするよりも作戦を前線で的確に指揮するタイプの戦闘スタイルをする。そのためまずは生き残るためにオールマイティーな戦闘技術の円滑さを求められているのだ。彼自身もその明晰な頭脳でそれを理解し予、復習を怠らない。


「よし、時間だ。皇太は荒神の体術を受けに行け」

「はい、隣でしたよね?」

「あぁ。言っておくが荒神は俺ほど甘くないぞ」

「アドバイスをありがとうございます」


 この様に各技術の上で腕の立つ上官たちが部下に当たる『改造人間』や他のメンバーに訓練をしているのだ。特に技術などが関わる射撃、体術、作戦遂行能力は文官である絵藤なども参加し講義をとる。それが最近の彼らの日常だ。多忙を極める中でも彼らはそんな日常に満足感を感じ日々を楽しく過ごしている。上官の面々もそんな彼らの事が可愛いらしく日々張り切った講義を取るようにしているようだ。思世や荒神も久々に力を奮っているようだ昔のような輝きが表情に見てとれる。


「う゛うぅぅぅぅぅ……」

「どうした? 琴乃」

「あれ、今さ、名前で呼んだ? それはそうとアンタもつらそうだから聞かなくても解るでしょ? 訓練のせいで筋肉痛なのよ」

「ふーん」

「アンタこそ痛そうね。その頭」

「あぁ、父さんから愛がたっぷり詰まった拳を諸にもらったのさ」

「鉄拳が諸に……寒気がしてきた」


 毎日の通学路をエアシューズで滑空する二人はそれぞれの近況を伝えあっている。そこにさらに二人が加わり学校に近づいていく。ビルの間の道は大幅どころか恐ろしい改修区画工事の影響でかなり広くなりビルの上を抜ける法が楽になってしまったのだ。さらに、戦争は技術関連の進歩を生むためシューズも格段に性能がよくなっている。


「よう! あてて……。腹筋が痛い……」

「おはようございます……皆さん満身創痍という感じですね」


 矛と篠のペアがビルの上から現れ会話に加わった。大柄な矛は学生鞄を帯のような物で胴に巻き背中に背負っている。篠は制服自体が違うが一応それ以外は学校の規律を守った服装で現れる。いつもの四人で登校する姿を中層の普通車両域から手を振る者が見ている。零紫と琴乃はちゃんとした制服だが二人は微妙に違う。矛は思世が学生時代に着ていたもので少し型が古い。篠はどこの物か解らないセーラー服にブーツ型のアップシューズと呼ばれる物だ。制服の規定自体はそこまで厳しくないから彼らも教師には捕まらない。


「琴乃! ヤッホー!」

「君枝! おはよ!」


 上から声をかけるのは夢路についでに送ってもらっている大原 君枝だ。その後ろには大型のバイクがスピードを上げて追いついてくる。顔ぶれは解りきっているが荒神が娘である美琴を出勤のついでに送っているのだ。そして、水無月の教育改革案と思世の軍事改革の取り入れによって市街地の配置や施設自体が大きく変化した愛知。そして、その愛知には敵の旗艦や戦闘機などの攻撃を対処するための力が次々に導入されたびたび起こる小競り合いをくぐり抜けて来た。彼ら改造人間もその作戦に組み込まれる日が近づいているだろう。しかし、表だって作戦を遂行し指揮をとることはしていない。


「おっ、いつもの四人か」

「おっす」

「水無月先生が呼んでたぞ」

「わかった」


 水無月に呼び出された四人に言い渡された任務は毎度のことながら危険かつ彼らでなければ不可能に近いものだった。今回は作戦が特殊でこの四人と皇太、紫神を加えた六人にさらに実験段階だが機械兵や無人戦闘機などが稼働する特殊なところはここだろう。そして、何より不可能に近い理由は最後の一つ……。


「今回は荒神は不参加、そして最重要任務は空中要塞『石川』の住民保護と建築物及び技術の輸送だ」

「あの……それって。まさか」

「あぁ、そのまさかだ」

「空中要塞を接続し建築物を輸送する……。正気ですか?」

「仕方ないだろう。これから三時間後に実行する。配置や戦闘形態は追って思世君から説明がある。今日はそれに備えろ。学校の地下に『ガイア』本部に繋がるエレベーターがあるから使って下に降りろ」

「了解しました」


 作戦隊長は零紫、副官に篠が付き組み分けは三隊に分隊する、第一隊は零紫と琴乃、第二隊は篠と矛、第三隊は夜井兄妹と簡潔だ。文官の類は既に作戦通りに動いているらしく残るは零紫達『改造人間』と空雅の航空隊だけだ。すぐに四人は行動を起し学校の地下に降りて行く。水無月の言うとおりに行動すると本来動くはずのない壁が開き中からエレベータが現れそれに乗り込む。


「しかし、こんなに実戦が早いとは」

「あぁ、それに今回は父さんの助力も無いか……」

「何を弱気になってるんだか。アンタが居ればなんとかなるわよ。零紫」

「……。私もそう思うわ。荒神指揮官の弟子なんでしょう?」

「いや、問題は他にもいろいろあるんだぞ?」

「わかってるって。だがな、お前に荒神指揮官が与えた試練なんだよ」

「そうそう、だからこそよ!」

「……うん、私もそう思う」


 下に降りると既に紫神と皇太は支給された防具を身につけ武器を装備していた。紫神は体のわりに大きすぎるように見えるアックスをかつぎ初陣に備えて緊張感を高め、皇太は各所に火器が付いている防具を確認しながら表の軽装防具をつけているのがうかがえる。すると中から抑揚のある声が響いた。巖磨である。彼の出身は大阪だったらしく未だに根強く関西弁を使っていたのだ。それが治らない理由は荒神がそれを気にしなかったのもある。


「早くしいよ! あと三時間なんやで? 初任務は勿論、成功させたいやろ~?」

「巌さん、はい。それは皆同じです」

「わかってるっての」

「ねぇ、これってどうやって着るの? 篠は解る?」

「うん……。何となくは……あんまりジロジロ見ないで……恥ずかしい」


 三時間はあっという間だった。その間の零紫は顔には出さないが不安が募っているようだ。いらいらするように癖の剣の柄を撫でることを繰り返し続けている。そこにつなぎ姿の荒神が入って来た。彼の姿をつなぎとは言うが内側には特殊な合金の防御用金属板が入っていて拳銃の弾も通らない。いつも拳銃を所持しエネルギー収束サーベルや小型の爆弾を合わせて隠している。それでも誰も違和感を感じなかったが……ずっと一緒に生活していた零紫と巖磨だけはその変化を敏感に感じ取っている。


「すまない……。お前ら今回は別件で俺が動かねぇといけなくてな」

「解りました。全力を尽くします」

「零紫、焦るなよ? お前ならできる。『愛知』本島は夢路と水無月に任せろ。お前らは生き残ることとより多く命を救う事を考えるんだ」

「はい……」


 荒神から零紫に軽い平手打ちが背中に当たり荒神が笑っている。小柄で細身なはずなのにかなり筋肉質で見た目からは想像もつかない力を持つ彼は元高機動制圧系の部隊にいた。そんな荒神は変な威圧感がある。しかし、彼も人間であり弟のように扱う巖磨や息子になった零紫には……何かが感じとれたようだ。荒神も心配事があるらしい。


「安心しろ。俺も終わり次第、加勢に行ってやる」

「親父! 喋っとるくらいなら早くその『極秘任務』を済ませた方がええんちゃうか?」

「おっとそうだな。みんな、健闘をいのる!!」


 荒神が部屋から出て行った直後に愛知全体で緊急事態宣言が発令された。外でざわざわと人が動き始めている。零紫以下六人も完全武装の状態で地下滑走路のハッチ付近に集合し作戦実行の合図を待っいた。滑走路はエンジンのかかった愛知製鋼が荒神と研究作成し熟練のパイロットである空雅の意見を取り入れた『燕』型の爆撃機、格闘機、輸送機、偵察機などが甲高い音や低くて耳障りな音などをエンジンから噴いている。パイロット達もかなり緊張した面もちだ。


「こちら総司令部! これより二面作戦に緊急移行を開始する空雅の『燕』隊は各自任意で出撃し空中要塞『石川』の警護に付け! 『改造人間』の『零』以下六名は南方より接近中の敵大型旗艦の撃滅を開始せよ! 残りの攻撃、防衛班は打合せどうりに陣張りを行い、随時状況把握を怠らず班長の指示で行動しろ」


 重い声が響きわたりハッチで立ち話をしていた空雅空軍が次々に位置に着き元元帥の推薦で現在の元帥になった空雅の出撃命令を待っている。『改造人間』の面々は思世からの無線で出撃命令がでたため作戦を予定通り開始し分隊は各々空中で別れ敵の攻撃旗艦を破壊するために飛んでいく。


「零紫! 親父さんに良いとこ見せろよ!」

「わかってる。お前こそ司令にそのドジを見せるなよ」

「皆、頑張って行こう」


 次いで一機、また一機と空雅の親衛隊の『黒燕』がハッチを飛び出し遠目に見え始めた空中要塞『石川』を目標に五機ごとに編隊を組み空に吸い込まれて行く。その頃、思世と荒神はもう一つの作戦の遂行をするために最終調整をしていた。


「すまない。荒神。お前しかこの任務をこなせて『ガイア』の指揮官級であるメンバーが居ないせいでまた危険な目にあわせちまう」

「わかってるなら言うな。だが、これは俺の悲願にも関係することだからな。絶対帰ってくるさ。その前に下に寄ってく」

「あぁ、いつものか」

「そ、いつものだ。生きて帰ってきたらまた飲みに行こうや」

「あぁ、行って来い!」


 『石川』が接近し遂に作戦の第一弾が決行された。水無月の班員が一斉にコンピューターのキーボードを弾き音声も併用し計算及びプログラムを構成していく。そして小班らしき区分の代表が次々に手を挙げ声をあげて完成の報告と準備の完了を告げる。


「A班準備完了! いつでも展開可能です!」

「C班同じく!」

「F班も完成しました! いつでも行けます!」

「B班左右に同じ」


 水無月が立ち上がり全ての班の完成を確認すると総合的な指令を下し『愛知』と『石川』に変化が起きるのを待った。各所で問題なくシールド同士が結合したことを告げる信号が鳴り響き、二つの空中要塞がシールドに包まれていく。


「すげぇ……。あんなこともできるのか……」

「斧柄君、よそ見はダメよ……。私たちはもう敵の弾幕にいるのだから」


 『改造人間』の三隊の内、篠と矛のグループが敵の旗艦軍団に接触し交戦状態になった。その後も零紫、琴乃の二人も敵の爆撃機大隊と遭遇し戦闘へ移行。最後に夜井兄妹も戦闘機の大編隊と接触し撃墜を始めたらしい。そして、今回の作戦はなるべく戦闘は避け、機敏に行動し短時間で内容を終わらせることが成功のカギになる。荒神は……。


「母なる大地から見つかった聖石……。これがどうして大地を空に浮かべることができたのか……。それを知るために要塞のコアを回収するか……。さて、行くか」


 思世が指揮をとり次々に『石川』の住民と大地を切り取り愛知に結合させていく。簡単に言えば芋虫が蛹から羽化する過程で体を溶かし再構築するように『石川』の区画分化を上手く利用して大地を切り裂き建造物を地下に移動させ残った地盤を今から荒神と思世が行おうとしている作業を通して『愛知』に取り込ませるつもりなのだ。


「ここから先は行かせないわよ!」

「紫神……落ち着きな」


 戦闘機大隊はあらかじめ皇太が持たされていたある武器を利用しことごとくそれらの前進を止めつつある。数機抜けようともがいたが紫神の可変式のアックスが当たり黒い筋を残して落ちている。同じころに矛と篠は既に敵の旗艦全てを爆破させ二手に分かれて残る篠と零紫と琴乃の所に向う矛の分岐をおこなった。二人の作戦の全貌はかなりあっけない。篠の特殊かつ強力で残忍な力を見た矛は絶句し言葉が出たのは篠の勧めで別れた後に少し離れてからだったのだ。篠の力、それはパトリオットミサイルのような矢の機動変更追尾などだ。そして、彼女の弓が的である旗艦のエンジンに突き刺さるとエンジン部が凍結し停止してしまい全てが落ちて行くのだ。


「まさか、あの大人しそうな篠があんな能力を使うとは……」


 零紫と琴乃には爆撃機の大隊とその支援機が現れており対処はしていたが二人には部が悪い。敵の支援機がハエのようにちょこまかと飛び集中力を乱され撃ち落とさなければならない爆撃機が一機として落ちないのだ。そのためどんどん間を抜かれてしまう。だが、シールドの上に爆撃を開始した敵機にいきなりシールドが開き中から砲弾が噴水のように打ち出されそこに居た数機は全滅した。ただし、その後続がその穴をかいくぐり中に侵入し都市への爆撃を開始した。


「空雅! 行けるか?」

「了解! 全機攻撃用編隊を組み『黒燕』、『緋燕』、『黄燕』は敵を撹乱し機会をうかがい撃破せよ。その後、『蒼燕』、『碧燕』は要塞の端部に落ちた敵機にさらに爆撃を加えよ」

『サ! イエッサァ!』


 『石川』の周りを飛んでいた各編隊や部隊が目標を捕捉し次々に迎撃を開始した。『黒燕』、『赤燕』、『黄燕』の速度が恐ろしくでる格闘機タイプの戦闘機が動いている。中でも空雅の親衛隊である『黒燕』の精鋭部隊が次々に敵機の首元に喰らい着き落としていく。ドッグファイトになればまだよい。そんな状況にはならず左捻り込みなどの妙技を使い殆どの敵機を瞬時に落としていく。


「こんなに簡単に侵入できるとは。資料とデータを抽出……。よし…………。後は、大取りだな」


 零紫と琴乃に矛が加勢し敵機の漏れが減って行く。そして、要塞の結合作業も早々と終わって行く。この日のために思世と荒神が考案した『限界組織分解エネルギー』を使い建造物や残したい地形以外を水無月のシールドで囲いそこにそのレーザーを照射する。すると物質はたちどころに分解され一定の大きさの粒子となりシールド内で保存された状態になる。それを輸送機で運搬し開発中の区間にて粒子からエネルギーを抽出し元の物質に還元する。さらに構築していくというとても高度な作業だ。


「零紫……。こちらの構築作業はほぼ終了した。そちらの隊は全員引き上げシールドを一時的に解除しお前達の帰還後に要塞で敵旗艦は殲滅する。最後に『石川』動力炉と外郭以外を全て吸収しきったら海面に落とすのが合図だ」

「了解、これから全員で帰還します」


 敵の大隊はほぼこの時点で壊滅し外に出ていた空雅の編隊と零紫以下六人のメンバーが『愛知』に向って滑空していく。そのころ荒神も『石川』からの離脱を開始し空雅の『黒燕』にまぎれ本部に帰還し思世のもとに到着していた。


「無事に帰還何より……。で、例の物は手に入ったのか?」

「あぁ、あるぜ。あとで深層動力室に来い。今回もやはり別のタイプらしい。俺もそのうち結論を出すがあれがどんな物質でどんなものなのか……グフッ…………」

「わかった。また忙しくなるな…………おい! 荒神!」

「大丈夫だ……ゲホッ…………。気にするな……」

「気にするなったって……」

「いいか。これのことは誰にも言うなよ? お前だけに伝えておく。どの道こうなる運命だったのさ」

「……解った」


 荒神が吐血し倒れかけると思世が支え理由を追求する。荒神もさして彼には隠そうとせずに理由を話している。だが、彼以外のメンバーにはそれを伝えつことを拒みその後始末を彼に任せたようだ。その後、帰還してきた零紫達に気取られぬように処理を行い基地の下層にある『改造人間』の防具を管理している部屋で彼らを出迎えた。


「お帰り……よくやったな皆」

「ただいま。なんとか帰ってこれたよ」

「そのようだな。琴乃? 大丈夫か?」

「デビュー戦がこれだと少し厳しいかも」

「気にするな。戦闘なんて慣れなんだよ。どれだけ修羅場をくぐり抜けるかが問題なのさ。俺もその意味が解ったのはお前達より少しあとくらいだったな」

「……。なんか解りたくないかも」

「さぁ、帰って飯にするぞ! 今日は俺が作ってやるから楽しみにしておけ!」

「やり!」

「っしゃ!」


 零紫と琴乃の迎えは荒神が来たように心配そうに水無月と奈々代が篠を迎えに来た。紫神は皇太の背中で眠ってしまい皇太は絵藤と小さく笑っている。思世はいろいろな意味で思いつめていた。だが矛が無事に帰還したことを知るとあまり笑わない彼が珍しく小さく笑顔を作り肩に手をおいて出迎えている。『愛知』と『石川』が何故、結合を余儀なくされたのかはこれから解ってくる。思世や絵藤などの指揮官が外部より手に入れる情報を利用し上手く戦線をかわしている『愛知』だがこれからそれすらままならない事態に発展していくことをまだ知らない『ガイア』の面々だった。そして、数ヵ月後には『石川』の高い技術力で資源金属を補充した『愛知』は現在交戦状態にあったのだ。敵は『愛知』よりも大型な空中要塞で国外の量産型だ。円盤型の巨大な金属の塊はその形状を利用して回転しながら次々に砲撃を続ける。敵とこちらでは知識や学識はこちらが上であろう。だが、劣る物が一つある。人手である。敵は本土から次々に優秀な人材を送り込めるがこちらには替えが用意できるほど未だ教育がいきとどいていない。現在は戦闘を始めて72時間経過した。文官でインドア派の水無月の体にピークが来ているのである。本当ならとっくに倒れていてもおかしくない状態のはずだ。しかし、仲間のためと思いとどまった結果本当に倒れてしまったのだ。


「主任! 誰か担架を!」

「くそ! 誰が変わりをやるんだよ!」


 学校や病院などの公共機関は全て地下の格納庫に格納し陸上に侵攻されなければ安全なはずだ。司令部は騒然としている。砲撃管制は座標入力だけだがシールドのオペレーションは計算をしてそれをもとにシールドを張るというものだ。常時、張り続けている薄いポッド型のシールドでは保つことが出来て一時間……誰かがやるしかないのだ。そのため、緊急に会議まで開かれ民間から次々に彼ほどではない人材が派遣されてくる。だが、それも次々に脱落していき水無月の体力と精神力のすごさが浮き彫りになったかんじだ。


「私やります!」

「君は?」

「君枝ちゃん! 丁度いい! ほんの数時間でいいんだ! 水無月の変わりをしてくれ!」

「解りました!」


 琴乃の推薦で事務としてたまたま入っていた大原 君枝が変わりに計算を行い水無月程ではないが他の班員が行うより速度の面で速く、より正確にそして長くだ。外では懸命に敵のシールドを破ろうと『黒燕』他、親衛隊が攻撃を続けている。その中には零紫たち『改造人間』も加わって敵のシールドを破ろうと必死になっている。敵のシールドは新型で宇宙空間ですら耐えられる強度の物らしい。こちらの『愛知』が使っている『SHEシールドポッド』は強度としてはそれ以上に協力だ。しかし、消費電力と耐久性が悪くわざわざシールドを座標軸計算し演算して消滅させる工程を踏まなくてはならない。シールドの防御線はこれで固まったが……こちらの攻撃はいっこうに通らない。


「どんだけ堅いんだよ! このシールド!」

「これじゃ破れない。皆で協力しないと……」

「紫神! こっちに来てくれ!」

「わかった! で、どうするの? お兄ちゃん!」


 その頃、本部でも行動を起していた。前回、思世が使用し敵の旗艦の動力炉を打ち抜くことが出来た高火力ビーム砲を利用してシールドを消すつもりなのだ。それが上手く行くかどうかは解らないが思世はそれにかけるつもりでいたようだが……。


「荒神……。大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。あれから一度も吐血はしていない。それよりこいつで敵のシールド発生装置を壊すんだ」

「わかった。俺が狙う」


 ビーム砲にさらに三つのエネルギーを凝縮するプリズムとリアクターを加えた大型な銃……。高火力な砲撃を可能にしたがそれなりに扱いにくさが上がっているのは言うまでも無い。それを扱えるのはただ一人……。思世しかいないのだ。恐ろしく強力で経験が必要になる物であるそれが渡され彼は敵の母艦のコアを狙っている。


「水無月先生ってこんなにつらいことしてたんですね! 智基おじさん!」

「あぁ、言っとくが俺の仕事もそう変わらんぞ!」


 思世にライフルを渡したあと荒神も武装しハッチから零紫や琴乃のいる場所を目指す。だが、前線にいる零紫たち『改造人間』のチームも考えていた。空気中の元素を固化させた錬金術まがいのシールドも化学変化はするものだ。篠の矢に本人から直接エネルギーを放ち直径5センチほどの焦げ跡を作ってそこに矛の槍を力の限りつきたてる。すると少し亀裂が入り槍の穂先がシールドの内部に通って行く。敵の管制官が気付いたらしくそちらに敵兵が飛んでくるが零紫と琴乃、皇太が一機たりとも近寄らせない。……絶対に近づかせない。最後に怪力の紫神が矛の槍の石突きをアックスの柄で叩きつけ亀裂を広げていく。すると直径1メートルほどの穴があきそこから入れるようになった。彼らはそこから内部に侵入し敵の動力炉破壊を目指す。荒神が零紫達が開けた穴に気付き、空雅の『黒燕』に合図をし空いた穴に砲撃しろとメッセージを送信し中に侵入していった。


「すげぇな……。これだけ全てが全て金属だと…………うぉい!」


 矛の言葉が途切れ敵の要塞が大きく揺れた。その原因は思世が撃った高エネルギー圧縮砲だ。巨大な黄色いレーザー砲を放ったため敵の旗艦が大きくダメージを受けた。そして『愛知』の上空で太いレーザーを放った思世も驚いている。その威力はもはや軍艦に搭載するものと同等の威力を持っていたからだ。撃った思世も後ろにはねとばされて唖然としているしまつである。


「こんなに扱いづらいとはな……荒神! 生きてるか!」

『問題はない! 敵の動力炉を打ち抜いたみたいだな。だが、サブのエンジンが起動しているようだ。俺は中にはいって行った連中を追跡する! お前らは急いでシールドを融解させるプログラムを作成してくれ』」

「あぁ、解っている。こちらも水無月が倒れたせいで少しばかり大変なんだ!」

「『了解! 俺は急ぐ、通信は電信で頼むぞ!』」

「メールと言え!」


 零紫と矛が無造作に旗艦の内部を爆破したせいで緊急指令のアラームが鳴り響き後から侵入した荒神のいるエリアが防衛強化された。そこでは機械仕掛けの四足歩行戦闘兵器が作動し彼に襲いかかる。だが、荒神はそんな修羅場を幾度となく乗り越えた超人だ。そんな彼にはそれほどの敵ではびくともしない経験という名の力がある。荒神は扉を切り分けながら次々に奥えと侵入しある部屋にたどり着いた。


「……人でなしどもが……。こんなことして許されるはずがない……」


 その部屋には人間のクローン兵が詰められていたのだ。それも個体の数は知れたものでないほどいる。荒神はそれを育成停止状態にし動いた。その頃の零紫達も大きな壁にぶつかっていたようだ。敵の旗艦の制御は管制室の数人の人間で行っているらしい。それが中央のエンジンにシェルター並の厚さがある防護壁を張ったのだ。彼らでも簡単には切り分けられない。シールドは電子や薄い原子の構築でできる極めて簡単な形状だが原子が複雑にルミ居る防護壁は簡単にはが通らない。ここでは皇太と零紫が機転を働かせた。


「零紫さんはどう思いますか?」

「お前と同じことを恐らく考えている」

「劣化させますか?

「あぁ」


 零紫と皇太が手のひらの前に各々のエネルギーを集中させた。皇太のエネルギーは黒くもやもやした物だ。どのような物なのかは解った物ではないあがそんなことを行っている暇ではない。敵兵が近づき矛と紫神が一時的な迎撃に向ったからだ。皇太のエネルギー波がぶつかった場所が赤く光り出しその部分が溶けていく。そこに交代するように零紫が金色の波動をぶつけシェルターを破壊……その奥には真っ赤に光この旗艦を浮かせる程のエネルギーを作り出すメインエンジンに遭遇した。荒神の見たてではサブのエンジンが作動しているという所だった。だが、そうではなく自己修復機能で八割がた回復しシェルターで囲った形になっているのだ。


「うおぉぉぉぉぉ!」

「砕けましたね」

「ここからは私がやる。矛を残しておいてくれればいい。荒神主任が来てると思うから主任と合流し次第脱出しましょう」

「なかなかいいプランだな」

「えぇ、流石ですね」


 そこに運がよいのか悪いのか荒神が敵を引き連れて逃げ込んできた。そこに零紫が剣を構えて殴り込み荒神救出と同時に篠が策を動かした。エンジンの周りの空気が凍結し遂にはエンジンの金属部分が外側の温度との大差について行かず熱疲労で……砕ける。内部の燃料が溶けだすという面倒な展開を迎えるがここからは荒神の経験によって味方は皆安全に脱出し生き残る。


「なかなかあの時は驚いたよな」

「うん、篠にはそんな力があったんだね」

「ん……」

「何で黙るんだ?」

「は、恥ずかしい」


 普通の日常に戻った彼らを襲ったのは今度は……考えもしないような事実だった。それはいきなり通達され集められたのは極数人だけ……。その内容は……公表されるのはまだ先である。


「はぁ……」


 

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