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BIRTHDAY OF GAEA

 第二次緊張崩壊戦争の引き金となったこの空中要塞『愛知』の防衛戦は世界各国のこの様な都市に衝撃を与え軍事的緊張を一気に高めた。未だに強い軍と信仰を持つ『創世主』軍の残等による奇襲を疑うユーラシア『大海底都市群島』に火急の報告が舞い込み再び戦火は広がりを見せている。『愛知』は交戦後のため軍事的被害の甚大さと『静岡』の住民の保護という人道的行動を評価され現在、謎の大軍団と交戦中の『海底小群島型都市』ハワイへの援軍招集は免れた。一日の臨時休暇を受け家族のもとに帰った『ガイア』の面々は復興と改革、そして『静岡』からの資源授受を目的とした採掘出張など個人個人で業務は異なるが多忙な日々を送っている。


「行ってきます」

「待ちなさいよ! あ、行ってきます!」


 綺麗に区画されているこの『愛知』の都市バランス自体を変えるプランを指導中の荒神。現在は思世の指示で成り行きで取った家庭保護士の資格を利用し鈴音姉妹を書類上の家族として保護している。零紫もついでに鈴音家宅に引っ越させ荒神とのモグラ生活を解消した。もう一人、保護を受けていた巌磨は今回の功績でニートから『ガイア』の機械プログラム主任として起用され高額の給料が配給されるようになったようだ。その後は荒神の紹介と調査の任務を併用した関係で一人暮らしを始めた。


「お父さん! アタシが遅刻しちゃうよ!」

「まぁ待て、今行く。それから俺と美琴が七歳しか離れていないこと解ってるか?」

「そんなことはどうでもいいよ。アタシ達としてはちゃんとした家族が出来ただけでもうれしいの。突っ張ってる琴乃も多分零紫君と一緒に生活できてうれしいんだと思うもの」


 荒神のバイクがエンジンを唸らせ猛スピードで一戸建ての普通の家のガレージを出て中心のセンターシティの方向に向って走って行く。中心のセンタービル付近には巨大な施設が多く立っているのは解りきっているとは思うがその周りを囲むようにして建ち並ぶ居住区のことは『ガイア』の面々にはあまり知られていない。そこで今回の戦闘で昇進し地理管理官の職を持つことになった荒神は彼が発明した数々の機材と『静岡』の技術者たちを集めこの居住区を機械化及び改修、建築する。そして巌磨のレポートと水無月の新しい職である教育部の主任や絵藤のデザイン、夢路の商工業規格を噛みあわせ街を造り変えているのだ。


「父さんの仕事はかなりきついな。このドーナツ型で貧富の差が激しく軍の機関や工業の騒音、治安維持の対策をしなくてはいけないんだからな」

「うん、アタシとしてはアンタが兄妹になったことの方がビックリよ。お父さんがアタシ達を保護してくれたのはうれしかったけどなんでアンタまで……」

「俺はまだ軍の管轄だからなちょっと違うが彼のことを信頼できる人として……」

「アンタ正直まどろっこしいのよ。アンタが一度、死に掛ける前に言った『面白い』ってつまりアタシの事が好きってことでしょ?」

「それについてはよく解らないんだよ。俺は幼少期から改造人間として育てられたから人間らしい感情はあんまりないんだ。だから荒神 琴乃がそう言うなら正しいのかもな」

「バッ馬鹿! 何マジになってんのよ。……まぁ、良いわ。今回はその話はなし。それから今日もあのビル超えるのは無しよ?」


 零紫と琴乃は学校に向っている。前回のような荒療治は絶対にしないように荒神に止められた零紫と琴乃は荒神が最初に手掛けた仕事の空中を連結して走るエアトレインのレール沿いに滑って行く。途中で上層の普通車両交通域の方から声が聞こえ上を見上げた二人に姉の美琴が手を振っている。そのままバイクは貿易センタービルに入り姉の美琴はその構内にある『愛知第一研究過程大学』に向って言った荒神は言うまでも無く彼の仕事をするためにそのまま地下にある『ガイア』本部に向って行った。


「零紫。早くしなさいよ」

「いいだろう……。別に授業の一回ぐらいさ」

「良くない」

「あのさ、言っとくけどまだ授業開始の一時間前だぞ? 解ってるか?」


 その頃、水無月は自宅から電車で学校に向っていた。婚約者の奈々代は夜勤で病院泊りが多い。彼は『ガイア』の文官の他にも教師という顔があり昼間はそちらに向っているのだ。座席に座り最新式に荒神がチューンを加えた小型のステレオで音楽を聴いている。込んでくるはずの時間帯だが最近はいろいろな意味で忙しい人が多くかなりすいている。自宅から貿易センタービルまでをエアトレインで移動しその後は徒歩で向う。そこに赤い最新式の磁気浮遊車が横付けし水無月を乗せた。


「助かったよ。夢路君」

「いいよ。しっかし、ひどい目にあったよ。修羅の開拓、改修、建築の伝票整理とこの前の戦闘での被害額は相当やばいぞ。戦闘機が21機落とされて砲台のエネルギーとバリアのエネルギーを補うための媒体の使用料。半端なもんじゃない。しかもこれからさらにかさむから嫌だよな。ま、食糧があるだけいいか……。あの薄暗い時代を生き抜いた俺たちにしか言えないことだけどな」

「そうだね。だけど今回の戦闘で見直された軍備のおかげでこれからはもっと楽に戦闘ができるようになるし新しい技術も増えたからね」

「違いないな。どうする? 今日も一杯行くか?」

「そうするよ」


 水無月は校舎に入って行き夢路は車を走らせ貿易センタービルの隣に敷設された工場に入って行く。巨大な工場の奥にある円柱型の本社に入りノルマを二時間ほどできりあげすぐに乗って来た車に乗り込み『ガイア』の地下本部に車ごと降りて行く。巨大な地下の研究施設を下りていくと建設中の施設の概要が見えてくる。荒神が着工しているのは地上の居住区以外にも数か所ありここもそのうちの一つだ。夢路はその資料設定やデータ管理なども行っている。水無月は物理工学の研究と事務に追われているものの夢路の事務を手伝うだけの余裕はまだあるようでそこまでやつれていない。


「まったく、荒神と巌磨に最速で作らせているハイパーコンピューターができるまでは手作業で仕訳とわな」

「仕方ないんだ。俺も手伝ってるだけ良いと思え……。絵藤」

「わかってるよ。だがこれだけあると流石につらいぞ」

「馬鹿を言うな。荒神や夢路はこれが日常だからな。俺達が楽すぎるだけだ」


 巌磨、夢路と荒神の三人はこの空中都市『愛知』の防衛を担う組織である『ガイア』の中枢の構成をなし始めている。今は思世の指示で新しい機材を使い居住区、中心地区の移動用の機材、生活水準向上の環境設備、『ガイア』の本部。全てを同時に改築、改修しているためかなり速度は早いもののその分、彼らの疲労は大きい。


『カァーン……カーンジジジ』


「それにしても大変だな父さんは……」

「うん、ホントは現場指揮だけすればいいくらいの地位のはずなのにね」

「しょうがないと思うぞ? あの人はそういう人なのさ」


 零紫と琴乃のクラスにさらに二人の転校生が入って来た。他にも中等部に二人。その二人は双子の兄妹で夜井と言うらしい。細身で大柄な兄の皇太、小柄でかわいらしい顔立ちの紫神の二人だ。そして高等部の零紫のクラスにはおなじみのとっつきにくくてドジな矛、最後に無口で何を考えているか解らない名前は星弓 篠という長身の少女で華奢かつ比較的長身、水無月の所に居る正体不明の少女だ。


「おい。矛、お前もそろそろ研究所に来いよ」

「馬鹿を言うな。俺はお前ら『ガイア』とつるむ気はない」

「貴方達……『改造人間』?」

「お前は星弓 篠。その言葉が出るってことはお前が『弐』だな」

「これで残る『改造人間』……別名『ログ』は一人。創世主の子孫である超人類『アダム』と『イヴ』から生まれた最高の素体を持っている人類」

「ストップ。そこからは機密の内容だ」

「ここには創世主も……グハッ!」

「馬鹿やろう。機密って言ってるだろ」


 授業は差し支えなく過ぎる。『改造人間』の暴走を警戒して零紫に持たせている鎮静剤を使う必要は今の内はないようだ。地上を副官に預け現在、荒神が着工しているのは地下の施設だ。『ガイア』の本部と昇進した空雅が率いる空軍の本隊の格納庫及び滑走路を地下におさめ最初に完成させていく。その施設の仕上げとして『静岡』から技術提供を受け海空両用の戦闘機の水路を作りそこに水とそれを消費しないためのバリアを作動させ『愛知』の底面の隔壁の作動を確認しそこを閉めているところだ。


「今、真下に居るのか」

「あぁ、たぶんな。アイツが今、真下で軍の施設と結合させてる轟音が響てる。それにもう上がって来てるはずだ。今、俺たちが作ってるデザインと組織体のプランを取りに来るはずだしな。おっ……来たぞ」


 金属と金属の触れ合うよく響く音が聞こえてくる。その音が止まりシステムラボの入口が開いた。絵藤の予想通り工場の親父のようなつなぎ姿の荒神が現れそのまま絵藤が差し出すチップを受け取り作り替えた義手に差し込み絵藤に話しかけた。


「サンキュー……。絵藤」

「お前、休めよ。二日間寝てないだろ?」

「それは皆同じだ」

「俺は寝たい」

「黙れ、智基」

「同意」

「え? ちょっと待って絵藤?」


 絵藤は実は美術家としてだけではなく裏の世界では最強のボクサーとして輝いていた時代があったらしい。事務室にこもるのが飽きたらしく荒神とともに扉をくぐり大柄で筋肉質な体を少しかがみ自動ドアが閉じるともう一度顔を出した。


「おっと、夢路は上がりでいいぞ」

「あ。おう」


 街の内郭から順に硬化合金で作られた建物を配置換えしていくプランが完成していた。『愛知』は攻撃用巨大要塞として設計されており建物は地中に格納することも可能だ。巨大なタワー群の入れ替えを行い修繕、新築を繰り返しさらに新しい公共機関を加えていくのだ。教育機関、治安維持機関、環境維持機関のような各所必要機関など住民の希望や夢路、思世、絵藤、水無月、荒神などの文官や機械端が模索し続けている用途が実用化されて行く。特に水無月の教育機関の案件は急務とされ地区の割り振りも強化されドーナツ型の居住区をさらに東西南北に区切り小等部、中等部、高等部、大学研究部を各四区に置く。次に治安の維持は荒神と空雅の軍と協力し治安維持隊を結成し警察部隊として形を作り上げる。他にも軍の中から訓練も兼ねていろいろな機関の代用を始めている。作成作業は機械を使用し夜も続けられている。荒神と絵藤は途中で別れそれぞれの行くべき場所に向った。


「待ちなさいよ!」

「待ってたらその手に持ってる金属の棒で殴るきだろ? 荒神 琴乃」

「当たり前よ!」


 琴乃のシューズは荒神に改造してもらい零紫と同じモデルに引けを取らないスピードが出るようになっている。その後ろを見なれた二人が追いかけながら話していた。学校の終業後に少し零紫が琴乃をからかったことが今の状況に繋がった理由だ。


「まったくよくやるよあの二人は」

「……元気なら良いんじゃないですか?」


 ビルの壁面をイオン吸着グローブで吸着しながら滑空していく。今、四人が向っているのは『ガイア』の中央ラボ、荒神と思世の招集で呼ばれている。この空中要塞『愛知』には一気に三人の『改造人間』が集まった。この後『ログ』と呼ばれるこのメンバーは現在の兵器観点から見ても最強の部類に加えることが出来る種類の生物兵器。彼らがここに集まったことで世界の目はこの『愛知』に集まっている。そして先日の戦争の関係で各地に動乱が広がりつつある。丁度、十二年前に突然起きた世界を巻き込み母なる大地に癒えることのない大きな傷を残した緊張崩壊戦争の終結期。それと同じ広がり方を見せているのだ。思世が警戒するのも無理はない。四人や他のメンバーの記憶ではその当時に戦闘に終止符を打ったのは一人の『ログ』の犠牲……その『ログ』と同じ結果をたどらずに彼らを生き残らせるため彼らにも万全の態勢を敷かせるつもりなのだ。もはや戦争は回避できない。それならどのような結果になろうと向かい合っていこうとしているのだ。そして、四人が荒神と巌磨、思世が待つ中央ラボに到着した。


「父さん。今回の要件は?」

「お前達には悪いがこれから戦闘訓練を受けつつこれから起こるであろう『第二次緊張崩壊戦争』に備える」

「という事は『静岡』が破壊され保護された俺も……」

「素性の解らない私も……」

「指揮管制主任の俺が手続きをしておいた。お前達は以前からだが『ガイア』の特務兵だ。言っておくがこれからは零紫は今までどおりだが他は後に知らせがあるとおり各々に指示されるであろう上官の下について各種任務についてもらう。そこで巌磨主任と荒神主任から武器を受け取っておくように」

「解りました」

「了解」

「フンッ」

「…………アタシも?」

「…………はい」


 思世が円形の機材が所せましと並ぶ部屋を出て行った。荒神が高機能ハイパーグラスを上に上げ四人に視線を戻した。


「お父さん……アタシも?」

「悪いがそうなる。お前の素姓は隠し通す必要があるからな。で、これからは二人一組で任務を遂行してもらう訓練に関しては後からだ。まずは武器に関して説明しておく」


 巌磨が台車に乗せた武器の数々を固定機から外していく。その途中に見なれない男女一組が荒神に詫びながらラボに入って来た。一人は小柄で鮮やかな紫の長髪の女の子でもう一人は細身で大柄な少年だ。二人とも四人と同じ制服でこの二人の腕章を見ると中等部の腕章だ。


「あ、皆さん初めまして。夜井 皇太です。こっちは妹の……」

「紫神よ。言っとくけどアタシ達は双子で14歳なんだからね」


 荒神が手を叩き注目しろとでも言いたげな顔をして夜井兄妹を加えた六人を集めた。最初にとったのは大きめの剣。


「零紫、これがお前の剣だ。巌磨にプログラムチューンしてもらって可変にも対応した新しい武器だ。これは使わなくてはよくわからないはずだ」

「解りました」


 次に琴乃に手渡したのは黒い金属の武器だった。形状から見ると銃らしい。


「重!」

「我慢しろ。これ以上はもうどうにもできない。簡易レーザーガンとほれ追加だ」

「フエッ!」

「その中にジョイント用のパーツがある。そいつ等を利用して近、中、遠、拡散、収束、散弾、持続を使い分けろ」

「わかった」


 三人目は矛。長い袋に包まれた武器を投げて渡した。


「おっと……これは?」

「そいつはお前の細胞を組み込んで作った。生きた武器だ、上手く使えよ」

「あ、おう」


 身構えている篠に向って荒神が手渡したのは長身の篠ですら小さく見える大弓と琴乃と同じように袋が渡されしげしげと中を覗き込んでいる。


「お前には持ってた弓を改造したそいつと俺が作った特殊な箇手弓や折り畳み短弓の類がある。まぁ、上手く使えとしか言いようがない」

「了解しました。主任」


 待ち切れなかったらしい紫神が特殊な加工のされたトンファーを握ったが荒神に取り上げられ不平を吐いた。

「それ私のじゃないのー?」

「お前のはこっちだ。因みにそのトンファーは皇太のだからな」

「その大きいやつ?」

「そう、お前の力に合わせて大ぶりにした可変式のアックスだ。ついでに言うと皇太にはこの袋に入ってる火器とそのトンファーが武器。これで行きわたったな……訓練はカリキュラムごとに教官が違うから気を付けろよ」


 それぞれ返事をし思い思いに武器を触っている。剣、矛、弓、大斧、小銃、トンファー、個性豊かな武器の数々にみな目を輝かせている。荒神が再び手を叩き解散を告げ矛、篠、皇太、紫神に『ガイア』の身分証明書を手渡した。そのあとは零紫は荒神、琴乃と家に向う。夜井兄妹は荒神にメモを受け取り巌磨の案内で中央司令部にいる絵籐のもとに向った。残りの二人も荒神にメモをわたされ基地内を散策ついでに思世と水無月を訪ねに歩いて行く。この『ガイア』本部は『愛知』の科学の粋を集めて設立され簡単に改修できるように設計されていて今回はそれを利用して改修しているようだ。上の街も同様に簡単に改修できるが今回はブロック自体を変形させて改修工事をしているため地上はそれほど早く復興はしていない。靴音と口げんかをする声が響き三人が廊下を歩いて行く。筋肉質で小柄な荒神に続き細身で標準身長の零紫が、その斜め後ろにこれも女子の標準身長の琴乃が続く。現在の時刻は夕方の六時。空中に浮いているこの都市は日がくれるのも早い。センタービルの食堂で待たせている美琴を迎えに行くためエレベータを使って上に上がる。その間もずっと口げんかをしている二人。


「なんでもいいけどさ、アンタはこんな華奢な女の子が重い荷物を持ってるのに持とうとか思わないわけ?」

「……いや、持ててるなら良いんじゃないか?」

「そういうことじゃないでしょ!」

「うるさいぞ。荒神 琴乃」

「キィィィ――――」

「耳が痛いから金属がすれるような声を出すな。荒神 琴乃」

「何度だって言ってやるわよ」


 荒神が振り返り零紫の頭に拳骨を喰らわせ同時に琴乃にも喧嘩を止めるように言葉を強めて言った。


「お前らはホントに十六なのか?特に零紫は『ログ』の伝達意識の関係で感情が薄いのは解るが相手は女の子だぞ? 琴乃も向きになるな。お前らは書類上だが兄妹だから喧嘩の一つもするのは解る。だが、公共施設でデカイ声で叫べるのは憤怒した大人と駄々こねる子供だけだ。人さまへの迷惑を考えて行動するように。一応お前らも『ガイア』の一員でパートナーなんだからな」

「痛ぇ……。解ったよ」

「ごめんなさい……」

「わかればよろしい。姉ちゃんがファミレスで待ってるからな。今日の晩飯はそこでとろう」


 場面変わり基地内では巌磨と夜井兄妹が話している。中央司令部への廊下はかなり整備されベルトコンベアのような形態になっていて歩かなくても進んでいく。皇太の肩の上に紫神が座り足をぶらつかせながら鼻歌交じりに天井を見たり分岐点の装置を珍しそうにのぞいている。巌磨は先ほどの武器を乗せていた台車のとってを持って皇太に基地の説明をしているようだ。


「ここの基地はけっこう新しいんねんで。第一次緊張崩壊戦争のあと一番最初に作り替えられて以来数年に一度の割合で改修されてるみたいやからのう」

「そのようですね。見たところこの先にはこの『愛知』のシステムを制御する中枢システムのマザーブースがあるようですね」

「おっ、ご明答。そや、俺も成りあがり者さかい最近までは荒神っちゅう型物のパシリでニートやったんやがな、この前の戦闘の功績で起用されて……夢路はんっちゅうプログラムエンジニアとさっきの荒神はんの複合管轄になっとるそのシステム基盤管理をするとこの副監理官になったんや」

「おぉ、おめでとうございます。この先に司令部があるんですね?」

「それも当たりや。俺はその奥の『ログアームセットシステム』の管理室に行くさかいここでお別れや。絵藤はんによろしゅうな」

「ありがとうございます」

「ねぇ、巌さんの名前は?」

「君は確か紫神ちゃんやったかな? ワイのアンダーネーム角や」

「角か……決めた! 巌さんは今度からツノヤンね」

「ツノヤン……。おぉ、ふざけとるがなかなかどうしてしっくりきよる。おおきにな紫神ちゃん」

「うん、じゃぁね!」


 巌磨はさらにその奥に台車を押しながら進んでいく。流石に部屋の前にたどり着くとベルトコンベアは無いようだ。司令部に付くと絵藤が丁度出てくるところだった。


「皇太と紫神か。そっちは意外と速かったな」

「はい、荒神さんの説明が簡潔でしたので」

「うん、正しくは必要最低限しか言わなくて面白みも何もなかったけど……」

「荒神らしいな。帰ろうか」

「はい」

「うん」


 そのほとんど対極にある文官達が多く居るパーソナルステーション。書類整理などをするために文官が集まってくる多機能ブースだ。そこには既に人がほとんどおらず二つほどパソコンの画面が光っているブースがある。そこには水無月と夢路が居るようだ。思世からまわされてくる膨大な量の始末書、伝票、システムバグの改良要請、他いろいろをすり鉢でつぶすように終わらせているのだ。そこに篠が入り入口で止まった。矛は構わず二人のもとに行き思世の居場所を聞いた。


「お仕事中すみません。親……思世主任はどちらに」

「あぁ、鬼司令官なら多分、書斎に居るよ。ここをまっすぐ行ってつきあたりを右に曲がって一番奥まで行けばすぐわかるよ」

「ありがとうございます。それから篠が下宿してるのはどちらのお宅でしょうか?」

「あ……。俺だけど」

「水無月さん? ですね。入口で待ってるようなので終わり次第声をかけて上げてください」

「あぁ、解った」


 ドジな矛の本領を発揮しとなりのパソコンのコードに足を引っ掛け転んだようだ。夢路が馬鹿笑いをし水無月もクスクス笑っている。篠は結局扉の近くから動き水無月の隣の椅に座っていた。音も無い動きに夢路は恐怖を覚えたらしく少し顔をひきつらせた。その後、二人は仕事にきりを付け立ち上がりさらに下層にある、正確には移動した車庫に向ってエレベータで下りていく。もちろん篠も一緒に。


「篠、このあとは暇?」

「……。何もありません。どうかしましたか?」

「うん、夢路君と一緒に馴染みの店で飲もうと思ってね。予定がないなら一緒にきてご飯を食べていくと良いかなとおもってね。いいだろ? 夢路君」

「問題なし。取り合えず一度外に出よう」

「ありがとうございます」


 矛は夢路に教えられたとおりに進み思世の書斎についた。ノックをすると中から思世の返事が返ってくる。かなり広いらしく扉は近代化されている基地には似合わず樫の木の板で作られている両開きの扉で押して開くと思世が椅子から立ち上がり『帰るぞ』と合図してくる。矛もそれに続きすぐに外へでて近くにあったエレベータに乗って下りていく。その頃の外の街は治安強化と災害対策の成果を得てあまり大きな騒動は起きていないようだ。『ログ』もそれ以外のメンバーも楽しそうに平和な今を過ごしている。だが着々と広がりつつある戦乱はこの『愛知』を飲みこもうとしている。それまでになんとかして現状を把握する情報収集能力と国力を付けなければならないのだ。


「お父さんって昔は何してたの?」

「そんなこと聞いてどうする?」

「気になっただけ」

「琴乃、そのうちあなたも勉強すると解るわよ。この人ビックリするぐらいすごい人なんだから。他にもねぇ、『ガイア』に所属している管理職のメンバーは皆世に名を残すような英雄級の人よ」

「そうなの?」

「そんなことも知らなかったのか? 荒神 琴乃」

「フフフ、零紫君も琴乃を意識し過ぎ。そんなことしなくても十分よ。君ならね」

「?」

「まったく、お前らは怖いよ。どこまで話してよいやら。機会をみて話してやるよ、それを話すと『ガイア』創立の理由も明らかになるしな」

「創立って『ガイア』ってそんなに若い組織なの?」


 ファミレスに入り食事をしながら対話にふける荒神一家。琴乃が荒神の過去に興味を持ちしきりに聞きたがっている。そこに、姉の美琴が口を挟み遂に荒神が口を開いた。それはあまりにも現実からかけ離れていたが昔の戦時中ならあり得る話しだと美琴が再び口を挟んだ。


「どこから話して良いか解らんが俺の過去とほかの連中の関わりから話してやるよ」

「へ? もしかして皆同級生なの?」

「あぁ、巌以外は皆同い年だ。俺が中二で他の連中も言うまでも無く同じ、今の幼、小、中、高、大の一貫校とシステムは同じで学部も変わらない形の学校で俺たちは学生生活を楽しんでたよ。まずは俺からか。学年最凶の不良として頂点に居た」

「へ?」

「父さん。それは言ってしまってもいいのか?」

「問題ない。過ぎ去った過去だ。その時よくつるんでたのは思世と絵藤だ。お前らからすればどんな接点があったのか気になるだろうが至って簡単だ。思世は軍の訓練生仲間で絵藤は幼馴染と言う事だ。そして、それに加わるようにクラスメイトの水無月、夢路、空雅と増えたんだ」

「じゃあ……。ガイア創立の理由は?」

「簡単だ」


 荒神が下を向きエネルギー収束サーベルの旧型を取り出した。壊れている上に赤黒く固まってこびり付いている血が浮いている。そして、肩を触りながら話した。


「あの時はさっきも言ったように戦時中だったんだ。だから俺たちは遅かれ早かれ戦場に送られる運命だったろう。だがら俺たちはせめてもの抵抗で夢物語を描いた。思世と俺でストーリーを絵藤が挿絵を……それがこのガイアのもとになったものだ。俺達だけの夢は学校中に広がりそれに賛同する連中も増えて一種の宗教みたいだったな。そして事件は起きたんだ」

「事件……」

「日本崩壊事件……」

「そうだ。敵の創世主軍が作り出した空中要塞の戦闘用バリアを無効化する音波兵器のせいで『愛知』以外にも沢山の要塞が落ちていったんだ。そして『愛知』にも魔の手が伸びて俺たちも命が危なくなった」


 その頃の日本は創世主軍との対峙点で全ての戦闘区域の中でもトップに立つほどの危険な区域だった。その中で当時中学二年生だった『ガイア』上層部のメンバーは夢を描いていたようだ。その中でも思世、荒神、絵藤の三人が主体となり夢物語を描いていた。彼らは戦争によってつぶされた夢を取り返したかったのだ。


「空中要塞『愛知』が危機に瀕したのは第一次緊張崩壊戦争の終結期だ。味方の要塞は音波系のバリア破壊装置によって敵の旗艦の攻撃の防衛をする事が出来ずに次々に爆沈して行ったんだ」


  空中要塞『愛知』への攻撃が開始され敵の旗艦が周りを取り囲み弾道ミサイルが次々に放たれ都市へ撃ち込まれた。敵の攻撃の標的となったのはまずは軍の機関。次に交通機関、そして教育機関が次々に攻撃を受け陥落および爆破……。


『なぁ……。ホントにサボってよかったのかよ。修羅』

『問題ない。……ング!』

『酒くせぇなぁ! 荒神、俺にも分けろよ』

『荒神君ダメだよ。空雅君も!』

『荒神……。ちょっと来てくれ』


  その時、既に創世主軍の攻撃は始まり各地で爆炎がもうもうと撒きあがり旗艦が次々に滞空して輸送小型機で兵士を本土に侵攻させているのだ。その時現在の『ガイア』上層部メンバーは授業をサボり学校の裏手に作られていて森に隠されている廃兵器工場で夢物語の続きを編集していたのだ。


 夢路が運転する赤い車がスピードを上げて車通りが少ない道を走って行く。バーに向っているようだ。車内でも篠が水無月と夢路に問いかけている。彼らは荒神よりもソフトにはなしているようだ。


「懐かしいな」

「うん。十二年前か……過ぎると早い物だよね。俺たちが運よく生き残れたのが案外軽い思いでとして心の中にあるなんてさ」

「あぁ、生きていられるのには感謝だがあれももう昔のことさ」


  創世主軍の攻撃は荒神と思世が気付いたころには軍機関のほとんどを破壊しておりもはや抵抗すらできない状況だったようだ。そして、いつも俯き加減で小さい声しか出さない荒神とあまり口を開くことが多くなかった思世が同時に『伏せろ!』と叫んだのだ。


『伏せろ!』

『うわっ!』


  白い光が窓ガラスを貫き爆風らしき突風によって粉々に吹き飛んだ。荒神は夢路と水無月、思世は絵藤と空雅を覆いかぶさるように床に倒し爆風から守りすぐに荒神が起き上がり学校がある場所を見て口を半開きにした状態で固まった。思世が頭を右手でおさえながら立ち上がり荒神と同じ光景を目の当たりにし同じように固まった。


 思世も矛と話しながら暗い路地を歩いている。矛も前者達と同じように重政に話しを聞いているようだ。


「その後、校舎が爆炎と黒い煙に包まれている凄まじい光景を見たんだ。校庭には黒こげの死体が多数転がっていた。そこに敵の歩兵が集まり始め俺の背筋は氷着いた」

「親父でもか?」

「……。あぁ、まだ青二才だった俺にとって恐怖その物に近かったよ」


  思世が荒神の動きに気付きすぐに作戦を練った。絵藤も協力しスムーズとはいかない物のすぐに陣を組み回避組と迎撃組に分かれ一人でも生き残れるように行動を起し始めている。分隊方法はいたって簡単。迎撃組は思世を司令塔に特攻人員に荒神、補給と殿を空雅が務める。回避組は絵藤を班長に夢路、水無月が付き奥の部屋に逃げ込むそれが作戦の大まかな概要だ。


『荒神……死ぬなよ』

『馬鹿言うなよ。思世! こいつが死ぬ魂かよ! な、荒神!』

『解らんが……やるだけやるさ』


  迎撃組が入口から少し出たコンテナが大量に積まれている倉庫エリアに向い、逆に絵藤が先導し奥の格納庫へ三人が走って行く。そして、三人が奥に向って背を向けた瞬間に銃声と荒神の物と思われる怒声に人間の叫び声が聞こえてくる。絵藤が悔しそうに下を向いて走って行く。


 絵藤はエアトレインの車内で皇太と紫神に問われたらしく苦笑いをしながら答えている。大柄な彼は堀が深く骨ばっているため淡い光を受け石像のように見える。


「恐ろしかったさ。理由は簡単だよ。まだ中学生で命の瀬戸際を経験し思世に二人の命を任されていた俺は責任が重く感じられてな」

「そうですね……。自分の命だけならまだしも他人の命が関わると背筋が凍ります」


  絵藤達は膝を抱えて奥の格納庫で固まっていた。敵兵の断末魔の叫びが廊下に反響し聞こえてくる。そこは戦場なのだ。当たり前と言えば当たり前だが中学生には過酷で残酷なことだ。いくら戦闘訓練を受けていても中学生は中学生だ。


『絵藤……。俺達どうなるのかな?』

『解らない』

『思世君たちは大丈夫かな……』


  そして、あってはならないことが起きてしまうのだ。


 荒神は蕎麦のメニューにある海老天重ねを食べながらもそもそと話している。食べ終わったらしく箸を置きウエストポーチから血がこびり付きどす黒い円柱の物を机に置いた。そして、左腕に手を当てながら残酷な話しを始めた。


『ぐあっ!』

『思世! くそっ!』

『荒神! 伏せろ!』 

『……!』

『くそが!』


  思世は斜め左から右目を撃ち抜かれこめかみ前を貫通しコンテナの後ろで崩れ落ちた。荒神はその思世に駆け寄った瞬間に敵の兵隊の火炎放射機の攻撃を受け左手を大火傷し使い物にならない。思世をかつぎ空雅とともに元の部屋に逃げ込み思世を空雅に預け、火炎放射機を使用していた敵に刺してしまったサーベルの予備をポケットから取り出し自分の肩を切りおとした。


「若すぎたな……。自分で自分の腕を切りおとせるなんてな」

「これなら子供にも似るわけよ」

「どういうってさっきも言わなかったか?」


 バーのカウンターに座った三人は話している。夢路は比較的に低アルコールの水割りを飲んでいる。少しアルコールが入って声が大きくなって来ている。水無月はアルコールの高い酒を引っ掛けている。篠は小ぶりな茶碗をマスターに出してもらい白米をたくあんの付け合わせでちびちび食べている。


  荒神と思世が負傷し迎撃が不可能になった。迎撃組は空雅が手投げ弾で侵攻を遅らせつつ退避組が逃げ込んでいた格納庫へ駆け込む。荒神と絵藤が協力して隔壁を閉めたが直後に夢路と水無月に異変が起きた。


『絵藤! 修羅たちがき……た……』

『うっ……』

『夢路! 水無月! 大丈夫か?』

『くそ! これでも喰らえ!』


  思世は息荒く右目から流血しており荒神は左肩から下が無い。普通の中学生の二人には少々どころかかなりグロテスクでショッキングな出来事だったろう。外で敵兵の話す声が聞こえ遠くに行ったようだ。


「あれは流石に驚いたな。あれは」

「うん……。思世君は後から気付いたけどね」

「あれは…………。うぇ、今でも思い出したくないな」

「夢路主任位さんここでは吐かないでくださいよ」

「わかってる」


 バーのマスターに諌められ途中で酒をやめジュースをすすり始める。思世が家で料理を作っている。男料理とはこのことだろう質素で飾り気がまったくないが栄養バランスはばっちりな食事だろう。


  その瞬間に敵がどうして気付いたのか知らないが龍撃胞というバズーカのような武器を使い比較的薄めの隔壁を破壊し中に押し入ってくる。だが、彼らもやすやすと敵の手に落ちたり殺される気は全くない。空雅と荒神、夢路を支えていた絵藤の三人が近くにあったH鋼を横向きに投げつけ隙を作った。すると敵は煙幕を撃ち込み撹乱して拿捕をもくろむが……。


『くそ! 何もみえねぇ!』

『夢路! どこ行った!』

『うわ!』

『うぉ!』


  六人に何が起きたのかは謎だ。だが煙幕が治まった時には既に六人はその場から消え敵の創世主軍の兵隊は騒いでいる。


 絵藤はエアトレインを下りて歩いて行く。その後ろに紫神を背負った皇太が続き絵藤の話しに耳を傾けている。ここは大きな邸宅が多くそのうちの一つの中に入って行く。


  六人がたどった道は気付けば何の事無いが気付かなければ解らない道だ。そう、通気口の金網が夢路のある偶然的な出来事で開き急降下している真っ最中だ。その出来事とは本当に偶然に起きたこと……絵藤が支えていた彼はその支えが無くなったため三人がH鋼を投げた瞬間にたまたまダクトのスイッチを頭突きし開いたのだ。そして、まずはダクトの上で横に倒れている思世となんとか気持ちをしっかり保って失神しないようにしている水無月が落ち夢路が落ちるのと同時に足を滑らせて落ちた荒神、それを追うように下がってきていた絵藤、もう何が起きているか気付いていた空雅とダクトに吸い込まれていくし時間式だったのか自動で閉まったダクトの中を落ちていく


『絵藤! 水無月と夢路を頼む!』

『言われずともしてる! そっちはどうだ!』

『なんとか掴んだ!』

『この下は何なんだ…………』

『解らないがあんまり良い予感はしないな』


  落ちた場所は真っ暗な部屋だ。ゴミが腐った酸っぱい臭いが立ち込める中息を吹き返した思世が荒神を起し状況把握を促すようだ。落ちた衝撃はゴミの類がクッションになり完全とまではいかないがそれを抑えてくれたためみな外傷はゼロに近い。全員の安否を確認しまずはそこから脱出することを目指す。


 荒神は琴乃の注文を取りすぐに続きを続ける。既に夜も更けているが四人はまったく気にしていないようだ。零紫が荒神が持っていた旧式のサーベルを手に取り憧れを帯びたまなざしで眺めている。


  ゴミの山から壁を見つけ出し思世がカギをかけられており開きはしなかったが扉を見つけ皆で試行錯誤を続けるさなか、荒神がサーベルを使い切り開いた。穴をでた思世がすぐに気付いた……。そこは現在の『ガイア』の前身である組織の地下本部であることに……そして行動を起した六人が『ガイア』の重役として働く人物になっている。


『ハッ!』

『おいおい……。ホントにやりやがったよ』

『急ぐぞ。智基』

『あ、おう』

『荒神……。あとどれぐらい持つ?』

『未だなんとか行ける』

『わかった』


  サーベルを握った荒神が本人のカッターシャツを切って作った即席の胞帯を撒いている思世や絵藤、空雅、水無月、夢路とは逆の方向に走り出した。思世は所持していた携帯電はでハッキングをし組織の施設情報を抜きとり中層なある戦闘管制室に向う。途中で空雅が下層の荒神のいる所に向い走り出した。


 夢路は酒に飲まれてしまい泥酔し始めている。篠は茶碗にあった白米を腹におさめ黙って水無月の方向を見ている。


  空雅が向ったのは荒神の向った方向にある地下上層部のメインハンガーだ。戦闘機を探して進んでいる。荒神が無理やり体を動かし戦って道を開き空雅が後を追ってマシンガンや重火器で補助をする。そしてたどり着き荒神がメインハンガーに居たて敵を片づけるのを飛行機のコックピットで待つ。思世や絵藤、水無月、夢路も行動を起している。


『空雅!』

『荒神を見つけて下に行く! 戦闘機をさがして奴らを倒さないと何も進まないぞ!』

『解った……。俺たちも行くぞ。うっ……』

『思世君!』

『まったく……水無月! 手を貸せ!』

『夢路君……』

『行くぞ……。せぇの!』


  夢路と水無月が思世をかつぎ中層に向う。絵藤が近くにあった斧を持ち思世達の前を走る。すぐに着いたその部屋の扉をこわして開け中に入り水無月が猛烈な勢いで電卓とディスプレーのメモパッドを使用して防衛機能のパスをこじ開けるプログラムを作ろうとしている。思世が出来た数式をもとにハッキングプログラムを並行作成し夢路も空気に流され手近な席に着きコンピュータのキーボードを弾く。絵藤はその隣にあった医務室から薬品を運び手当がいつでもできるように準備をする。


「夢路君寝ちゃったな……。まぁ、いいか。あれが俺の生涯……ただの一度だけ本気で計算した式だった……。まさかホントにできるとはおもってなかったけどね」


 思世が食器を洗いながら小さいがよく通る声で矛に語っている。矛は思世に言われたとおりにワインと炭酸飲料を机にならべながら聞いている。


  パスをかいくぐり次にとりかかったのは防御システムの再起動と攻撃システムの機動だ。防御システムは水無月が再び計算を行い敵の音波兵器に耐性のあるバリアと戦闘用構築シールドの作成を行っていた。敵は『愛知』爆沈すべく兵を引き中型旗艦を本島に横付けして今にも離れようとした時だった。


『思世! ハッチを開けてくれ! 今から迎撃に移る!』

『解った!』

『思世君! こっちも準備出来たよ! 音波の恐ろしさを敵にも解らせてやる!何んで敵艦が反対にいないか解ったよ。敵はまだあれに耐性が無いんだ!』

『だぁぁぁぁぁ! わかんねぇよ!』


  夢路の行動が火種になり『愛知』は息を吹き返した。夢路が赤いガラスカバーを破り中にある砲撃システムを機動するスイッチを押してオートモードになっていた砲撃を再開させたのだ。その砲撃で横付けしていた中型旗艦はほとんど爆破し海に消えて行った。そして水無月がバリアを展開しシールドの座標を合わせて敵の応射を待った。


「まさかな。と思ったがアイツも一応俺たちの一員だ。やるときはやるのさ」


 紫神を寝かせウィスキーを水割りのオンザロックにして口に運ぶ絵藤は皇太と談笑交じりに話している。


  敵が再び音波を放ったが水無月がここぞと言わんばかりに耐性のあるシールドを張り跳ね返してしまったのだ。敵の大型旗艦から小型の戦闘機まで全てがシールドを失いその衝撃で味方同士でぶつかった。その時に空雅がメインハンガーを離脱し敵のコックピットやエンジンを撃ち次々に落としていった。その頃、内部では緊張が抜けたらしい思世が倒れ絵藤が手当をする。


『うぐ……』

『思世君!』

『言わんこっちゃない……夢路、手を貸せ手当が終わったら脱出しないといけないからな。ここも危なくなる。敵の残党が狙うとしたらまずはここだからな』

『わ、解った』


  そして、事実敵の残党は地上の入口から入り中央管制室を狙ったが完全に引き払い痕跡すら消した絵肘以下四名は荒神が居るとみられるメインハンガーに向って全速前進していた。


「俺や水無月が生きてられるのはまずは思世と荒神のおかげだろう。ついで空雅もその一人に数えられるな。俺達文官なんかは戦力にはなりはしないが相応に戦ってやったさ。そう言う意味では俺たちは最高のチームなのかもな」


 荒神たちがファミレスを出て家に向う道中も話は続く。


  難なくとまではいかないもの荒神に攻撃を受け負傷していた敵兵は絵藤が振る救助用の斧でなぎ倒し上層にあるメインハンガーへ走っていた。思世が負傷しているのでそこまで速くはないがそれでも着々と進む。そしてメインハンガーに到達し未だに居るらしい敵兵の掃除をしている荒神にであった。


『あ! 荒神だ!』

『お……前……ら。』

『おっと……。夢路君! この輸送機に乗るよ!』

『了解! 重! こいつ何キロなんだ体重……』


  敵の残党を一手に引き受けていた荒神が流石に精魂尽きたような顔をして地下滑走路の床に倒れこんだ。水無月と夢路が倒れた荒神を兵士輸送用の輸送機に潜り込み絵藤の慣れない運転の中だったが無事に『愛知』の上に出た。敵の旗艦や戦闘機は空雅の攻撃や夢路がオートモードのまま切らずにそのままにした祖国面砲の影響で壊滅し生き残り数機も味方の援軍に撃墜され始めた。


「ここまでが俺たちの武勇伝さ。ここからは執務の連中が頑張ってくれたんだ。『愛知』以外の空軍や兵士のおかげで大損害を被ったが大破とまでは行かずに再建する事が出来たのさ」

「じゃぁ、ここからは水無月先生と絵藤画伯。夢路さんが活躍するの?」

「あぁ、俺は言うまでも無く集中治療室行きで、思世も同様。空雅は動ける人手を集めて金属や資源になりそうなものを探しに行った。水無月は防衛システムの基礎を構築し絵藤と夢路は他の都市でギャンブルをして資金を稼いできた。危なっかしい時もあったが俺達新生『ガイア』は最後までへこたれずにここまで来たのさ」


 夢路を自宅に送った水無月は篠とともに帰宅し少しだけ自分たち文官のことを話した。あまりにも少し過ぎるがようやくされているだけで話の筋は通っていた。


『これからどうすればいいんだよ。巌磨っていうガキも拾っちまったし』

『俺たちはまずは思世君と荒神君を守るんだ。それが先さ』

『おい、夢路。お前の運を使うときが来たぞ空雅に送ってもらって稼ぎにいくぜ』

『またカジノか?』

『当たり前だろ?』


  先ほどの彼ら『ガイア』は個々にまったく違う性質や特徴、役割を担うことでここまで発展してきたようだ。六人に加えて巌磨も今では重要な役に着き『ガイア』を引っぱっている彼らの未来はどのような方向に進んでいくのだろうか……。また新たな世代に彼らの思いは届いたのだろうか。



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