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暇なときほど、稼ぐ準備を


 廃校は基礎工事だけと言っても、始まるのにも結構時間はかかる。改修業者は「早いほうだぜ」と言っていたが、一月以上先だ。町の廃屋も多いので、こればっかりは仕方がない。


 その間に、俺たちはモーテルのためのベッドや椅子のほか、壁の補修作業で必要な物を調べていた。


「合宿所にするんでしょ?」

「ああ、別に特定の大学とか団体の合宿所じゃなくて、モーテルにするならそういう団体がいると定期的に収入になるって話さ」

 すでにキャスは丁寧な口調を止めていた。


「ああ、そうか。いろんなお客さんが来てくれることで、ここの商品も知ってもらえるってわけね」

「そうそう。だから、俺たちが今やっていることも売り物になるからね」

「覚えること?」

「その通り。別に学校がなくても学べる機会は多いだろ? ほとんどの大学が講義を配信している時代だし、どんどん知識や知恵は塗り替わっていくからね」

 AIによって多くの学問で、新しい発見が出てきた。


「基本的に無料で教えて、あとでその業務の仕事を振って、費用を稼ぐのが今の主流じゃないか?」

「それってデジタルになってからなの? あんまりわかっていない人たちも未だいるでしょ?」

「職人系の仕事だったらあったんじゃないかな」

「つまり総合的な基礎学力を育てるのが学校だったわけよね?」

「そう。だから、逆説的に考えると、その人にあった教育プログラムを組むって、結構新しいんだと思うよ。世代間ギャップがあるよな?」

 すでにAIエンジニアなんかは、ほとんど無料学習が主流だ。エンジニアとして働き始めたら、報酬が出る仕組みができあがっている。10代や60代で、フリーランスのエンジニアになる人も珍しくなくない。フィジカルやスピード計算などでなければ、学習に年齢はそれほど関係がないことを証明した時代なのだろう。

「確かに。都会にいた時に、親の期待とか社会的意義とか言われて精神的に潰れていった同僚がいたのよ」

「自分のモチベーションが保てなくなるんだよな。この会社ではそういうのはやめよう。そんなことよりも廃材でベンチ作ったりしていたほうがいいや」

「そりゃそうね」

「あと、山の調査でも依頼が来ているから、定期的に登ろう。危ない斜面があると困るらしい」

「登山道だけでしょ?」

「そうなんだけどさ。工事が入るとタバコとか火気があるから、山火事の防災をやっている会社としては面倒なんだよね。重点的に谷底の枯れ葉を回収しないといけないから」

「なるほどね。インフラか」

「そう。必要だからやる仕事だ。お、廃墟が出たってさ。回収しに行く?」

 解体業者には言ってあるので、こちらに連絡が来る。

「うん。行く。古材は味が出るって言うけど、腐ってるものもあるからさ。ちゃんと選ばないとね」

 解体を手伝いながら古い木材を回収しに向かう。キャスは男たちと紛れても力はそれほど変わらない。解体には結構コツがいるが、木材を剥がすのはキャスが一番うまいかもしれない。


「遠くから取り寄せている木材は重さも色も違うからわかりやすいんだよ」

 そう言いながら、解体屋のおっさんの話を聞いて、どんどん作業を進めてしまう。

 解体中には俺たちの他にアンティークショップのスタッフも来る。

「椅子とか写真立てとか作ったら売りに来てください。物が良ければ買い取るんで」

 廃屋にはまだ価値が眠っているかもしれない。

 午前中で俺たちは軽トラに積めるだけ木材を詰め込み、家へと帰る。


 早速、木材を荷台から下ろしてガレージの外で、キャスがベンチを作り始めた。工具は牧場からのものとガレージに残っていたものを使っている。ベン叔父さんがきれいに使っていたから電動ノコギリも問題なく動いていた。


「じゃあ、俺は草刈りに行ってくる」

「はい。ラジオで喋ることを決めておいて。レトロも付いていく?」

「うん。充電は満タンさ」


 俺とレトロは、今日も今日とて廃校の草刈りへ向かう。


「雑草を舐めたらダメだな。自動の草刈り機があるだろ? 結構、事故が多いらしい」

「石ころが転がっているからな。安く手に入るか調べておこうか?」

「害獣対策にもなるからほしいんだけど、今はこのままでいいよ。まだ稼ぎがないからね」

「じゃあ、はじめの目標は自動草刈り機だね。問題はコンポストだよな。あれって全然肥料になりにくいんだね」

「そうなんだよ。結構割合が難しいだろ?」


 山の枯れ草と牛糞を入れても臭いだけだった。穴掘り式で撹拌が足りないのかもしれない。


「メタンガスを作るときも割合が重要だってことだろ?」

「そういうこと。小さいコンポストの中で実験しまくっておこう。枯れ葉も牛糞も唸るほどあるからさ」

「窒素量と炭素の割合もそうだし、メタンの場合は水も必要だからね。臭ければ臭いほどガスになる」

「ドラム缶でちょっと実験してみるか」

「いいね。それ。結局よくわからないものを作っても、自分たちで改善できなくなるからね」

「そうしよ」


 目的がちょっとでもあるだけで、草刈りはそれほど苦じゃなくなる。なんてこともなく、汗だくになって夕方帰った。まだまだ、時間は掛かりそうだ。


「え? ベンチ、出来てるじゃん!」

 キャスはすでにベンチの形を作って座り心地を試していた。


「いや、全然まだだよ。高さを合わせただけ。もうちょっと低いほうがいいと思う。肘掛けとか作らないといけないし、もうちょっと素材に拘りたいよね」

 釘ではなく、ちゃんとボルトで止めたいとも言っていた。金具を使わない作り方もあるので、それも調べているようだ。


「どんどんやっていいからね。俺も、せっかくだから肥料とメタンガスを作ってみようと思ってる」

「発酵が好きなの?」

「そうなのかもしれない。何もしなくても出来上がっていくのが楽しいよな。だからチーズ工房も諦めないでくれ」

「諦めているわけじゃないよ。燻製にしたら匂いがきつすぎてダメだったんだよね。売れないしさ」

「ネットで?」

「いや、ファーマーズマーケットに行って試食してもらった時点でちょっと違った。このベンチもネットで売ってみたほうがいいかな?」

「やってみる? 壁は白く塗っていいよ。その方が商品として映えるでしょ?」

「あ、そういうことか。やってみる!」

 うちの会社は本当に手探りで始まっていた。


 翌週、銀行から融資の金が口座に入っていた。今のままだと全然足りないが、ここからは成果も出していかないといけない。


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