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地域密着の稼ぎ方


 一番近くのレストエリア(道の駅)に向かったが、本当に誰もいなかった。大丈夫じゃない田舎というものが世の中にはある。

 ファーマーズマーケット(農産物直売所)に行ってみたけど、活気のある女性たちばかりで、おそらく賃金を払えそうにない。


「地域の掲示板に張り紙を貼らせてもらうか?」

「そうだね」

 パッドで適当に作った張り紙をコピーさせてもらい、地域の掲示板に貼らせてもらった。

 そもそも廃校のリフォームに半年くらいはかかるから、かなり先の話だ。


 家に帰ると、工事業者から見積書が来ていた。ホワイトカラーの仕事は本当にAIによって高速化しているところが良い。しかも基礎工事だけで、後は自分たちでやるしかない。地下室も広いので、結構な値段だ。

 搬入するマイクロ水力発電機はすでに予約している。日本の企業だが、アメリカにもあるらしく、工事費込みでも安くしてくれた。


「金がねぇな」

「銀行からの融資がなかったら、クラウドファンディングでもするのか?」

「うん。考えないとな……」

 まとまった金がほしい時に、銀行は融資してくれない。


「いろいろ工事が始まるまでやることも多いから、続けていこう。貯金も叔父さんたちの資産もほとんど使ってしまったから、本当に稼がないとここからは大変だぞ」

「節約生活だね。仕事はかなり溜まっているよ。あと、退職金は?」

「あ、貰わないとな」

 おそらく退職金も廃校のリフォーム代で消えるだろう。


「あの!」


 突然、ウッドデッキから女性の声が聞こえてきた。見れば、大柄な女性がジーンズとTシャツ姿で立っている。どこかで見たことがあるような……。


「あ、ショーンさんとことにいた娘さん?」

「そうです! ここで働かせてください!」

 唐突だが、ずっと俺たちをここで待っていたのだろうか。

「あー、えーっと、仕事はあるけど、何ができるの?」

「チーズ作りと木工は出来ます」

「木工って言われても、お金ないから給料はほとんど出ないよ」

「構いません。本当に朝しか仕事がなくて、親から働けと言われてるんですけど見つからなくて、それで……」

「木工ってリフォームもできるの?」

「リフォームするんですか?」

「ああ、君の家の近くに廃校があるだろ? あそこを借りたんだ。そこの基礎工事を済ませてモーテルかペンションをやろうと思ってるんだよね」

「あの学校、ペンションにするんですか!? 隙間だらけで寒いですよ」

「だから改修工事をするんだよ。できる?」

「あ、えっとやります! 時間かかってもいいなら」

「まぁ、そのつもりだけど。あと金がとにかくないから。自転車操業もいいところで、しばらく赤字にはなると思う。それでもいい?」

 こんな田舎で人手はいくら合っても助かる。

「ええ。牛乳ならありますから」

「助かるよ。本当に」

「持ってきます。あと山の仕事もあるってSNSに書いてあったんですけど、あれは?」

「ああ、山火事の防災ね。熱源とか枯れ葉が溜まっている場所があったら、簡単に山火事になってしまうからさ。ドローンを飛ばしてカメラで測定しているんだよ。AIで自動だから、難しくはない。ただ、枯れ葉とか枝を運ぶのは人力だよ。レトロもいるけどね」

「なるほど……、それって稼げるんですか?」

「いや、全然無理。一応、データは保存してあるから、他の全国の山とも照合して、地形的にどういう場所が山火事の種火になりやすいかってことがわかると思うってだけだね。でも、結構大事でしょ。うちも山から来た水で発電しているし」

「そうなんですか?」

「うん。レトロの電気はだいたい水力発電だよね?」

「ああ、そうさ。太陽光パネルは夜間の電気で使っている。アルフレッドがエッチな動画を見ないと寝れないらしいから」

「逆だ。ポルノ映画を見ると寝れなくなるから見ないって言ったんだ」

「それは勝手にやってください」

「勝手にするよ。誰かの許可がないと見れないなんて勘弁してくれ。そんなことよりも、仕事だな。雇えって言うなら雇うけど、ホワイトカラーの仕事はほぼレトロがやるから体力がないと仕事にならないけどいい?」

「やります! 痩せたいんで!」

「名前は?」

「カレンです。でも、キャスって呼んでください」

 かなり前から口やかましい人のことをカレンというスラングになっているからだろう。

「わかった。俺はアルだ。よろしく」

「よろしくお願いします」

「ということで、収益が出るまでは本当にお金がないので、この会社は売れるものを売っていきます。そこんとこよろしく!」

「了解です」

「一応、電気も売っているけど、ほとんどがドローンやヒューマロイドの修理費用で賄ってるんだ。あとは、AIのエンジニア系のリモートワークでどうにか食えなくはないってところかな。人を雇える状況じゃないけど、やることはたくさんあるから」

「わかりました」

「じゃあ手始めに、草刈りからいきますか?」

「草刈りかーい! 牛に食べさせればいいのに」

「ああ、それが出来たらありがたいんだけど、ちょっと牛を放牧しに来るには遠いんじゃない?」

「坂があるからダメか……。あの坂の上にある、なんかコンクリートの土台みたいなところは、何をやるんですか?」

「あそこに火力発電器を置くつもりなんだ」

「ああ、なるほど」

「1年後か、2年後になると思うけどね」

「あ、そうなんだ。ベンジャミンさんが作っていたままになっていたから、何をするのか知らなくて」

「そうなんだよね。とりあえず、廃校周りの草刈りをしに行こう。工事の車両も来るはずだからさ。暑いから無理せずに、がこの会社のモットーだ」

「今、決めたのか?」

 レトロがツッコんでいた。


「うちに草刈り機あるので、持ってきます」

「頼みます」

 田舎の牧場にはなんでもある。


 その日は夕方まで廃校周りの草刈りをして、写真を撮りブログに載せるまでが仕事にした。


「SNSとかもあるのに、なんでブログなんか?」

「ああ、透明性のある会社のほうが応援してくれる人が付きやすいでしょ? 役所で言い過ぎちゃって。補助金を出せっていう圧力でもある」

「ああ、なるほど。だったらネットラジオやりませんか? 単調な作業をしていると聞きたくなるんで」

「え、自分たちのラジオを聞くの?」

「でも、ここら辺の老人たちはブログよりラジオの方が、まだ聞きますよ」

「あ、確かに。じゃあ、山へハイキングでも企画しようか。地域密着ラジオでいこう」

 スポンサーが現れることはないだろうけど、健康志向はいい。何かと理由があると老人たちも集まりやすいだろう。稼げない方法ばかり思いついてしまうが、おそらく今はそれでいい。地域の中で認知度を広げるほうが大事だ。


「地域を盛り上げるんですね?」

「いや、盛り上げない。だらだら歩いて、モーテルができたら客を呼んできてもらおう。電力会社だけど、省エネを推奨しているよ」

「老人を働かせるんですか?」

「あ、そうしよう。高齢者雇用給付金も出るはずだ」

「そんな……」

「実際、適度に儲けないとすぐ潰れちゃうから。学生の合宿とかに使ってもらえたらいいと思うんだ。あと山に登りに来る人とかさ。目標はこういうことね」


 俺はベン叔父さんとモリー叔母さんの計画表をキャスに見せた。納得していたが、どれだけ伝わっているか。


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