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クソ集め牛太郎


 ローカルなSNSで、近くの牧場主に連絡を取り、見学させてもらうことにした。

 

「まぁ、うちは牛乳だな。チーズ工房も作ろうとしていたんだけど、娘がやる気を失ってしまって」

「ああ……、俺もその口です」

 俺は簡単に自己紹介をして、ショーンという牧場主に挨拶をした。

「もし、ヒューマロイドやドローンが壊れていたら修理しますよ」

 日本の軽トラックには、修理キッドも用意していた。

「おおっ、本当か。かなり古い型のドローンだし、買い替え時だと思っていたんだけどな」

「放牧している牛の管理ですか?」

「まぁ、そうだな。ヒューマロイドは家事をしているだけで、力仕事は無理そうだ」

「牛糞の処理はさせてないんですか?」

「初めにやらせたら、関節に牛糞を詰まらせて、ずっと臭いからダメだった」

 ちゃんと撥水性の服を着せてやれば動くはずだ。熱がこもるから、それほど長時間労働には向いていない。ドローンもそうだけど、冷却が重要だ。


「牛糞は肥料にしているんですか?」

「しているけど、毎日出るもんだからな。ほとんど燃やす。オンラインで、牛乳石鹸も売ってるし、民宿も始めたんだけどな。なかなか上手くいかないよ」

 客はたまにしか来ないらしい。


「西にあるメタンガスのタンクに牛糞を持っていかないんですか?」

「あれは、タンクにあんまり入らないから、持ち回りになってるんだ。でも、ガソリン代がかかるからなぁ」

「ああ、遠いですもんね」

 俺はトラクターや農具が入っている納屋に連れていってもらった。


「これなんだけど、直せるか?」

「大きいですね。ちょっと開けてみても?」

「もちろん」


 俺は電動ドライバーで中身を確認。バッテリーも問題ないし、プロペラも回る。基盤が汚れているが、掃除すれば動くだろう。俺は軽トラから荷物を持ってきて掃除をした。あとは充電すれば、動くはずだ。


「これのコントローラーはパッドですか?」

「パッドだ。お、直ったのか?」

「たぶん。一応、パッドもウィルススキャンをしておいたほうがいいですよ」

「どうすればいい?」

「俺のでやりますか……」

 簡易的なウイルスバスターで、スキャンしたら7億くらいのウィルスをバスターしていた。


「変なサイトや広告は押さないでください。別に課金も必要ないサイトのほうが多いですから」

「はい……」

 田舎だとやることもないのだろう。


「修理代は要らないので、もし俺がメタンガスのタンクを作るときに、ちょっと牛糞を分けてください」

「ああ、いくらでも持っていけ」

「チーズ工房の再開も期待してます」

「やる気がなぁ……」


 こんな田舎で気力も失のは深刻だ。


「ゆっくりやっていきましょう。いろいろ直ぐにできませんから」

「なんか仕事があれば、また連絡してくれるか? 娘を行かせるから」

「はい」


 視線を感じて、母屋の方を見ると、大柄な女性がこちらを見ていた。俺が見ているのに気づいて、すぐに母屋に引っ込んでしまった。


「太り過ぎだ。アニメばっかり見て、リモートの仕事をしているとか言っているけどな」

「動く仕事の方がいいんじゃないですか。AIでできることは任せたほうがいい」

「親もそう思ってるんだけど、なかなかな……」

「ゆっくりでいいから成果が見える方が面白いんですけどね。それじゃ、また」

「おう。タンクができたら教えてくれ。あのネットに書いてあった計画表通りに進めるんだろ?」

「そうです。協力頼みます」


 俺がそう言って、軽トラに乗り込むと、手を振ってくれた。

 ガスタンクについては資金調達次第か。


 俺は一旦、家に帰りレトロに報告した。


「オーケー、スケジュール的には順調だよ」

「小型の発電所の土台はできてるんだろ?」

「ああ。確認しなかった?」

「雑草が伸び放題だろ?」

「たぶんね」

 レトロは全然、ロボットの気がしない。


「パッドで確認してみて」

「わかった」


 衛生写真で見ると草の中にコンクリートがうっすら見える。おそらく、タンクも近くに置く予定だったはずだ。土地の買収はすでに済んでいる。俺はただあとを継ぐだけだ。


「ん? これってなに? 工場なんてなかったろ?」

 パッドを横にスクロールすると、発電所建設予定地の近くに大きな建物が見えた。


「ああ、それ古い学校だよ。平屋だけど、山火事の時に、プールに溜まっている水を使うんだって」

「へぇ。これって借りれるの?」

「公共の施設ではあるね。なにに使うの?」

「いや、いろいろと……、使えるだろ?」


 俺はノートに火力発電で出る熱を上手く使わないと、発電量が無駄になると説明した。その熱で水も温められたら、温水プールができること、学校の教室を改装して宿泊施設ができる可能性まで書いた。


「ああ、理解した。発電だけでなく、全部繋げていくってことだね? アルって、意外と考えているんだね」

「そう見えなかった」

 パンにチーズとハムを挟んだだけの夕飯を食べながら、叔母たちの計画をどこまで広げられるか、レトロと話し合った。

 レトロは充電しながら、俺は夕飯を食べながら、夜中まで話した。レトロは後半、AIらしく称賛と調べ物を交互に繰り返し、俺は案を出し続けた。おそらく会議と呼べる事をしたのはこれが初めてだったかもしれない。


「これって、俺が生きている間にできるのかな」

「可能だと思うよ。初期投資が上手く行けばできると思うよ」

「わかった。寝る」

「うん。申請書類だけ調べて、朝までに用意しておくよ。プリンターくらいあるはずだから」

「頼む」


 眠らなくても壊れないのがロボットのいいところだ。

 家ではほとんど空調も入れないし、調理もしないので、レトロの充電と照明くらい。太陽光パネルと水力発電で十分電力は賄える。


 俺は簡易ベッドに寝袋を敷いて、寝転がった。正直、田舎に来てもやることなんてないと思っていた。むしろ、なにもしない期間を作ろうと思って仕事をやめてきたのに、気づいたら仕事を作り始めている。


「俺、考えるのも体を動かすのも好きだったんだな……」

 ボソリと呟いていた。


「今の言葉、メモリに保存しておくよ……」

 レトロには聞かれていたらしい。

「勘弁してくれ」

 そう言ったが、レトロは電波の入りやすいウッドデッキに出ていた。

 少なくとも、俺が動いている理由はレトロだ。叔父と叔母の計画を実現させたいという思いの外に、この託されたロボットをどうにか動かし続けないような気がしている。


 翌日、レトロが用意してくれた書類をPCで書き込み、オンラインで所轄の税務署に開業手続きを申請した。ヒューマロイドとドローンの修理と発電会社ということにした。

 今も水力発電と太陽光パネルで発電をしているが、半日も電力は持たないだろう。


「さて、草刈りをして銀行から金を借りてくるか」

「うん。節電のために休んでるから」

「ああ、一応、ドローンを飛ばしておいて。飛ばなかったら、無理しなくていいから」

「わかった。飛ばしたら、なんかする?」

「山の写真を取っておいて、地中情報も含めて」

「了解」

 

 俺は軽トラに、納屋に入っていた電動草刈り機と蚊取り線香、それから大きい業務用の袋を荷台に積んで、小型火力発電所の建設予定地に向かった。



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