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レトロ・フューチャーズ・フォレスト  作者: 花黒子


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資本主義の溝


 若者が都会へ行き、田舎には老人と働かない者たちが集まる。それはどこの国でも同じだろう。


「言ってしまえば、都会のほうが富の流動性が高く、田舎はほとんど固定されているということでもあるんだろ?」

 レンタカーで馬鹿げた距離を移動しながら、レトロに聞いた。運転しているのはレトロだ。

「いい視点だと思うよ」

「だとすれば、田舎の富の流動性を上げないと通常は若者が戻ってこないんじゃない?」

「ああ、そうさ。だから、アルはかなり特殊な例と言えるかもしれない」

「固定資産は動かしているからな。廃校もリフォームしたし、山火事の防災支援もしているし、保存食の販売もしている。労働支援に介護支援もした。田舎の富を搾取しているわけではないけど、バランスを変えているよな?」

「確かに、そうだね。しかも富自体も変わっていっていくんじゃないかな」

 レトロは、問いを指標によってスコア化できることを知って、そのスコアを元に暗号資産にできるはずだと、この前から言い続けている。


「指標トークンによる報酬づくりか……」

 ステーブルコインをはじめ、多くの暗号資産が世の中にはある。もちろん、地域コインなんかを導入している地域もあるが、果たしてどれくらい価値を生み出せるのかは謎だ。運用できずに無料みたいな価格の暗号資産は五万とある。


「先行者利益になるだけじゃないか?」

「その懸念は理解できる。地域通貨のような形から始めるといいかもね」

「やっぱりそうか。今の状況だと、地域通貨と言っても割引券みたいなものにしかならないだろ? でも、徐々にAIが広がっていって都会のように生活の中で自然と使われるようになると各指標と連動した信用トークンみたいになっていくと思うんだ」

「更に浸透していけば、暗号通貨とも連動していくよ。まぁ、でも10年ぐらいは見ておいたほうがいいんじゃないか」

「固定資産を持っている人たちが死んでしまうな」


 荒野での出張で、ある程度道筋を作った後、フリーウェイを南下している。

夏が過ぎても暑く、乾燥しているため、山火事対策の新システムを再構築してほしいという依頼だ。予算もあるし、すでにAIによるシステムはあるが、あまりうまくいっていないらしい。

なんか理由があるのだろう。


「予算があるというのは嘘だ。ドローン一つ直せやしない」

 消防隊の隊長から言われた。

「修理費を計上すればいいだけでは?」

「見積もりを出してもらったら、とんでもない額だった。嫌なら自分たちで直せと。わかるわけないじゃないか」

「なるほど。適正価格で直しますから、計上してください」


 古い部品の交換も含めると確かに大金ではあるが、システムの維持には欠かせない。


「これ、運用するなら、どうしてもかかりますよ」

「いや、予算が足りん。データセンターの維持にも金がかかっているんだから」

「ドローンが飛ばなければデータもないじゃないですか。なんのデータを貯めているセンターなんですか?」

「へ!? システムだろ?」

「なるほど……。めっちゃ軽くします!」

 ようやく俺の仕事がわかった。役所の言われるがまま運用していたのだろう。大企業の電力とデータ量を食うツールやAIエージェントが山ほど入っていた。


「レトロ、これが現代AIの実体だ」

「これが人間のパートナーと呼べるのか? 判断はアルに任せるよ」

「ということで……」

 俺はAIを止めて、メモリスティックにデータを移し、レトロも使っている防災システムを導入。画像の解像度が低い、ものすごく軽いシステムを導入した。わざわざ3Dにする必要もないし、地表温度の異変がわかればいい。ドローンに付いていた高解像度のカメラ設定も変えた。

 AIが出たての頃は、こういう無意味な高額商品が出回った。運用し続けられるものを買わないと十年以上無駄にするという例を見た気がした。

 

 修理代は後払いで部品を購入し、ドローンも修理して早速、飛ばしてみる。

 山のほとんどの地域が赤くなっていた。つまり、いつ山火事が起きてもおかしくない。


「壊れちまったのか?」

「いや、とりあえず皆さんで区分けしていきましょう。枯れ葉を集めて町で焼きます。これは山火事が燃え広がらないようにするためです。沢や小川がほとんど枯れています。土も乾いているということです。熱源地域にはヘリコプターで水を撒いてもいいと思います」

「緊急じゃなくてもヘリを飛ばすのか?」

「それが山火事の防災です。嫌なら雨乞いでもしてください」

 山脈に雲が遮られて東側は乾燥している。そこで枯れ葉が熱を持ち発火していく。もちろん、ホームレスの焚き火やタバコの不始末も原因として上がっている。


「乾燥している間は、家がない人たちへの支援をお願いします。支援を怠ったために信じられない額を損失することになりますから、資本主義の溝でしかないんです」

「でも、施設に入りたがらない者も多い……」

「では、少なくとも都会に居場所を提供してあげてください。山付近で焚き火をして山火事になるリスクを考えると、よっぽどその方が損失は少ない。営業の終わったスーパーの駐車場でもいいです。空きスペースはいくらでもあるでしょう? ちなみに、うちでは元アルコール中毒者が働いています。気力を失っている人にこそAIを使わせるシステムを構築したほうがいい」

「しかし、そんなこと行政の仕事だろ?」

「その通りです。バカを市長に選ぶと、責任を取るのは市民です。それが民主主義ですから」

「くそっ」


 防災と就労支援を横断できないと考えて、AIにも聞かなかったツケが回ってきている。山も市立公園として、禁煙区域にすることも話しておいた。


「キャンプはキャンプ場で、水源のある場所にするといいです。キャンピングカーで暮らしている人たちも多い地区ほど、補助金を出したほうがいいですよ。AIによる仕事のマッチングサービスはいくらでもありますから」

「我が社では学習支援サービスもしています。少年からお年寄りまで、個人にあった学習方法を提案しております」

 レトロが補足していた。


「とりあえず、枯れ葉を集めろってことだな?」

「そうです。一緒に行きますよ。そこまでがうちの仕事です」


 荒い解像度の地図を、消防隊員たちのスマホに共有。プリントアウトもして電波が届かなくても位置を確認できるようにもした。


 山に入って枯れ葉を集めて区域を分けている最中だった。

 

『こちら北西、5N地点。枯れ葉が燃えてる!』

 無線から消防隊員の声が聞こえてきた。


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