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レトロ・フューチャーズ・フォレスト  作者: 花黒子


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思い込みから逸脱する人々


 田舎町にもPCショップはあり、中古品のヒューマロイドも揃っていた。その中でも、園芸用として売られていたヒューマロイドを400ドルで買い、ホテル近くの工房までレンタルした。


「あんた、AIの先生だろ?」

「そうです。昨日来られてました?」

 工房のエンジニアに聞いてみた。全員顔を覚えているわけではない。

「いや。行きたかったんだけど、どうも大人数の場所は苦手で」

「なるほど。なにか聞きたきことはあります?」

「俺はAI使い方が悪いみたいでな。うまく設計図を描けないんだ」

「なんの設計図ですか?」

「ピッチング計測マシンさ。野球のな」

「回転率とかは計測できるのでは?」

「できるし、筋肉強化部位の提案もできる。でも、ピッチャーとして上手くなるわけじゃないんだよな。上手に投げることと勝つことは別なんだ」

 そう言われるとそうかも知れない。そして、プロ野球選手になるのは、どんなに投げ方が変でも勝つ選手だ。


「野球理解度みたいなものを上げることが重要ってことですか?」

「たぶんな。なんでもかんでも一生懸命やればいいってもんじゃない。疲労は溜まるし怪我もする。仕事だって熱意ある営業が一日で仕事を獲ってこられるわけでもないだろ? なんとなく距離感が良くなってから、じゃあ、契約するかとなるわけだ。AIもそういった調整みたいなものはできないのかな?」

「できますよ。たぶん、得意です」

俺は中古のヒューマロイドを修理しながら、レトロのAIをインストールして指標群の説明を始めた。


「別に直接、能力を測るような指標じゃなくていいんです。組み合わせたら、汎用性が高くなる指標のほうが、どこでも使えますから」

 レトロが、指標から出せる戦略ノートを作ってくれた。

「バッターの心理とコントロール技術が必要で、データ量からの思考力と戦略を考えると……。いや、確かにそうだけど」

「カリキュラムも出せると思いますよ」

「おおっ、メールで送っておいてくれるか?」

「どうぞ。メールアドレスを教えてもらえれば」

 エンジニアにメールを送ると、工房にあった部品をかなり安く売ってもらった。

「それにしてもヒューマロイドを組み立てるのが早いな」

「元エンジニアですから。部品も整備されていてよかったです」

 バッテリーや摩耗したギアの交換、関節可動域の拡張など、結構カスタマイズしたのに50ドルで済んでしまった。充電もさせてもらい、起動させる。


「あれ? 私は農業用になった? それとも園芸用のまま?」

 ヒューマロイドが自己確認を始めた。

「いや、人との共生型ヒューマロイドだ。なにかに特化しなくてもいい」

「本当だ。パーツを変えたみたいだね。出力はそんなに出なそうだけど……」

 過去のデータとレトロのデータを内部で確認しているのだろう。


「そうだね。一応、クラブマガだけ入っていると思う」

「護身用か……。了解」

「それじゃあ、職場というかクラス場所を紹介するよ」

「あ、ここじゃないのか。運転する?」

「いや、大丈夫」

 俺は工房のエンジニアにお礼を言って、レンタカーで公民館に向かった。


「AI先生、ちょっといいか?」

「あれ? 新しいロボット?」

 すでに実験を始めていた人が数人集まってきていた。年をとっても新しいものが嫌いになるわけじゃないし、自分のために時間を使っていいとなると、行動が急変する人もいる。

 田舎の人たちは、皆顔見知りで距離感が近い。だから誰かのために、と思って行動する人が多いが、それが家族ならいいけれど、赤の他人からすれば煩わしい。それでも非難されないようにコミュニティの集まりには出るようにするという人もいる。

 そういう人たちに向けて、俺は好きなことを追求してくださいと言ってしまった。


「一日で、なにか見つけました?」

「AIと話していて、別に男でも服って作っていいんだと思って趣味としてやってみることにしたんだけど、どうも年を食いすぎてしまっていてな。作った服が金になる方法まで出してもらったんだが、このネットのサイトってそんなに有名なのか?」

 壮年男性が見せてきたスマホの画像には、ハンドメイドの品物を販売する大手サイトがあった。


「有名です。ただ、買い手が値下げ交渉をしてくることがありますから、気に入らなければ送る必要はないですからね」

「わかった」

「もう、服は作ったんですか?」

「ん? んん、実は革のエプロンとかは作っていたんだ。まずはそれを出品しようと思ってる」

 古い考えで恥ずかしくてできなかった扉が開いたようだ。

「いいですね。どんどんやってください。自分の人生ですから」

「いいのか……」

 壮年男性は面食らったように帰っていった。


「このロボットは何用?」

 中年女性が聞いてきた。

「共生用です。一緒に暮らすためですね。色々聞いてみてください。優秀ですよ」

「一緒に暮らすって介護みたいなこと?」

「介護もしますけど、相談相手にもなります。レトロと変わらない機能をつけておきました」

「そうなんだ!? 新しいものが好きなんだけど、いつも使っている途中で飽きちゃうのよ。でも、このAIはそんなことなくて、移り気でもどんどん映って行っていいって言ってくれてね。いいのかしら?」

「自分が知らなかったことを知ることが好きなんじゃないですか? 頭の回路が増えていくような感じで」

「あ、それAIにも言われたわ。中途半端でも基礎をたくさん知っていると人同士を繋げられる人になれるって」

 マネージメント産業はしばらく停滞していたが、AIによって一気に花開いた産業でもある。

「そうです。ぜひ、このロボットにマネジメント学習のカリキュラムを作ってもらってください」

「そんなことできるの!?」

「できます。しかも、本屋に売ってない最新のカリキュラムですから」

「それはいいわね。私好みにしてくれるかしら」

「もちろん、できますよ。ただし、続けられるかどうかはあなた次第です」

「そうね」

 中年女性は笑いながら、新しく作ったロボットとテーブルで談笑を始めた。


 その二人の様子を知って、後から来た実証実験の参加者たちは、スマホやタブレットを片手にAIと話し始めていた。


「どうも、俺には合わん! 何でも答えてくれるのはいいが、バカにされているような気分になる」

 こういう人もいる。

「そういう機能はありませんが、性格は変えられますよ。設定し直してみますか?」

「できるのか?」

「もちろん……」

 その男性は、若い女性で気の強いキャラクターを望んだが、ずっと喧嘩していた。でも、その方がアドバイスしたときに意外と飲み込めたという。人それぞれだ。


 俺は公民館を出て、外のベンチで水筒のコーヒーを飲んだ。空は青空が広がり、荒野は相変わらず荒野だった。

「レトロ、データが溜まっていくな」

「ええ。これで利他的な行動も計測できるようになります」

「なにもない荒野に動的観光資源が生まれているのかもな」

「鋭いですね」


 荒野にも揺らぐ人がいる。俺とレトロが辿った場所が、新しいパシフィック・クレスト・トレイルになるといい。


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― 新着の感想 ―
少子高齢化社会のモデルケースですね 人類が衰退していく過程感もありますが 最後に残るのはアンドロイドたちだった...
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