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レトロ・フューチャーズ・フォレスト  作者: 花黒子


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資金調達に成功した者の宿命


 夏が過ぎた頃、AIによって失業したエンジニアたちがモーテルで合宿を始めた。地域の学習支援プログラムの一環だという。特に学生たちとやることは変わらない。

 コンサルタントにツールの使い方なんかを渡して、各々、自己探求をしながら、時代のニーズを捉えていくだろう。

 

 小型火力発電機のための工事が着工。タンクを半分埋める穴も開けた。すべて外注なので、俺たちは草刈りをして待っているだけ。


工事の作業員が来れば、俺たちはモーテルに帰る。レトロとキャス、それから大量の雑草と一緒に軽トラでモーテルに戻ると、コンテナハウスが来ていた。


「これ、研究室ね」

「研究室!?」

 エイミーが驚いていた。

「そう。研究室も必要だろ?」

 水道工事と電気工事をして、エアコンも入れた。

「電気使い放題だし、水も使えるよ」

「いいの!? 研究所があると、全然違うんだよ」

 バイオ系の研究者にメールをしても研究所がないとあまり相手をされないが、研究所があることで実験もかなり進むのだとか。

「今でもプールの空き部屋でやっているけど、かなり揃うわ。棚も送ってくれる人がいるからサイズを測っておかなくちゃ」

 内装もキャスと話し合って、決めるらしい。


「お金はあるうちに使っておかないと、いつの間にかなくなるからね。ちゃんと計画的に使うように」

「自分に言ってない?」

 キャスが図星を突いてきた。

「そうとも言う。だって、タンクを設置したらすぐに発酵してメタンガスを作らないといけないだろ? 冬に間に合うのかわからないぞ」

「大丈夫だよ。発酵菌に関しては、取り寄せられるから。ちゃんと雑草を乾燥させておいてね。それも使うからね」

 エイミーが事も無げに答えた。

「そうなの?」

「今だって都会の方では発酵菌を使った大型のガス生成所があるでしょ? そこに言えば、いくらでもサンプルをくれるから。なんだったら、ちゃんと買ってもいいし。そうする? 研究室あれば、培養もできるし」

「エイミー、そんなことできるの?」

「一応、そのくらいの繋がりはあるよ」

「そうなんだ……。お願いします」

「うん、いいけど。それより、結局、火力発電で出た熱が無駄になるから、活用法を考えないと」

「それについては、温室を作ってベリーやハーブを育てたり、あと、水力発電のパイプ凍結を避けるのに使おうとしているんだよ」

「その工事の人が来てたよ」

「本当に温室を作ってくれるのね!?」

 パトリシアが驚いていた。

 パトリシアは早朝から来て、合宿中の人向けに簡単な朝食を作っていた。それも終わって今は、クッキーを焼いている。なんでも速い。最近は友達を誘っているから、キッチン周りは効率的だ。その分、人件費もかかるが、それほど高くない時給でやってくれているので、本当にありがたい。


「小さいのしか作れないけど、作れます」

「レトロ、こんなに施設投資をしたら赤字でしょ?」

「いや、それが、そうでもない。政府系の補助金を受けてから、アルの仕事量が一気に増えて、利益率も伸びている」

 タブレットに直近の収益グラフまで出して、レトロが説明していた。


「サーバー代が必要経費で出ているけどね。指標のコンサルタント業務が増えたよ」

「そうなんだ。パーソナルAIっていうの?」

「うん。今までは表面的な違いっていうか、性格を変えたりしていただけなんだけど、本質的に会議とかまで企業を測れるようになったから、利益が上がっている」

 レトロがペラペラと説明をしている姿は、なんだか前時代のホワイトカラーのようだ。


「ほとんど翻訳仕事みたいなものだよ。コンサルタントと言うかリテラシーを上げることが仕事さ。今までは、依存するか消耗するかの二択だったわけ。別に一緒に仕事できるでしょ? レトロみたいにさ」

「確かにね」

 企業や政府系のエンジニアに、すでにどういうシステムがあるのかを説明している。はっきり言えば、自分で調べられない人たちに向けて、理解できるまでゆっくり説明している状態だ。それで、モーテルの月収よりも稼げるのだから、本当に人間は自己理解に対する時間が本当に少なかったのだろうと思う。

 今は、AI時代の思考基盤しか教えていないことから考えると、随分時代に遅れた。AIはアメリカで生まれたのに、どこで間違ったのか。資本に寄りすぎると、他が見えなくなってしまうのかもしれない。


「とりあえず、俺は山火事対策をやってくるよ。レトロは自分の整備をしておいてくれ」

「了解」


 刈り取った雑草を日向に捨てて、俺は地元の消防局へと向かった。消防士たちがドローンで山を確認したら、異常な熱源を発見したとメッセージが来ていた。たいてい、電子機器の落とし物だが、実際にそれが発火の原因になったりするから、現地にいかないとわからない。あとは、いたずらで火を使ったとかもあった。


 登山道の入口で消防局員たちと合流して、熱源の位置までのルートを共有。不測の事態も考えて二手に分かれて、現地へ向かう。がけ崩れやクロクマ、コヨーテなんかも出るはずだが、見たことはない。馬鹿でかい鹿はたくさんいる。

 

 すでに日暮れ時だ。夏が過ぎたはずなのに、夜でも暑さはずっと残り続けている。ドローンのビーコンをめがけて山道から外れ、消防局員たちと駄弁りながら進んでいく。


「アル、なんか改装工事をしてないか?」

「いや、補助金が出たからコンテナハウスを買ったんだ。エイミーの研究所ね。美味い酒ができるかもしれない」

「そいつはいいな!」

「酒ができるのはだいぶ先だけどね。でも、迷っている学生や大人たちのヒントになるといいなとは思ってるよ」

「ああ、俺もAIの専門家になれるか?」

「なれると思うよ。世間も、ようやく気づき始めたくらいの時期だからさ」

「本当か?」

「うん。人間は思っている以上に自分のことを知らないし、自分のことを知りたいんだよ」


 目の前に懐中電灯の明かりが見えた。別働隊だろう。落ちていたのは、古いスマホバッテリーだった。袋に入れて終了。


「大したことがなくてよかったよ」

 それが一番だ。


「アル、たまには飲みに行かないか?」

「行きたいんだけど、明日から出張なんだ」

「モーテルの親父に出張なんてあるのか?」

「俺もないと思っていたよ」


 補助金商売がうまくいくとやめられなくなるというが、他の選択肢がなくなるのだろうか。俺はタブレットのスケジュールを確認して、溜め息をついた。


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