合宿誘致を考える
山の監視小屋を掃除して、ドローンとヒューマロイドを持ち主に返す。そんな作業だけでも、2週間くらいかかった。
普通にGPSで場所がわかっていても、こんな山の中にいるはずがないと思う人やそもそも山に登れない、面倒などの理由で、放置されていたらしい。届けたからと言って、別に報酬があるわけでもない。ただ、捨てておいてと言われると……。
「いや、リサイクルに出してはどうです?」
「引き取ってもらえないの? ドローン業者でもあるんでしょ?」
「まぁ、そうですけど。じゃあ、こちらに所有権は移譲するという形でいいんですね?」
「うん。いいわ。新しいのに、アカウントは移しているし」
そんな風にドローンが2台も手に入ってしまった。さらにヒューマロイドだが、そう簡単に捨てられないし、捨てることも出来ないので、製造元にメールを送って、引き取りに来てもらうことにした。田舎の警察も、高額の遺失物は取り扱ったことがないらしく、新人警官に教えながら業者を呼ぶことになった。
「けっこう大変なんですね」
「そう。製造番号とか削られていたりするから、大変なんだ。持ち主がわかるだけいいよ」
「都会は捨てる人が多いんですか?」
「多いね。隠れて捨てないといけないヒューマロイドもあるからさ」
「ああ、そういう系の方が多いと思ってました……」
「あれはあれで技術が大変なんだ。熱放出とかな」
「なるほど……」
田舎の警官ほど、アダルトグッズに興味があるのかもしれない。
「高いよ」
「そうっすよね」
業者に引き取ってもらっている間に、パトリシアの家に行き、ローカルメッシュネットワークを繋いでおく。
「これで、宿泊客の状況もわかるわけ?」
「今でもわかりますよ。なんか足くじいたりしたら、すぐにレトロを呼べるし、自動運転のバスも来てくれるから、子どもたちも来てくれますよ」
「ああ、それは面倒ね。あ、畑の様子とか見れるのはいいわ。あと山のカメラもあるの?」
「監視小屋のカメラが復活したから、ベリーの様子も予測つきやすいかもしれません」
「いいわね。そういえば、ベリー狩りとジャム作りは今日からなんだけど、レトロを連れて行っていいのよね?」
「どうぞ。荷物が重くなりそうだったら、ドローンも向かわせますから。熱中症と日射病だけ気をつけてくださいね」
「うん。それだけは大丈夫」
参加者もパトリシアと同年代の人たちばかりで、ひとりだけ40代がいるらしい。
「この若い人は知り合いですか?」
「知らないけど、リハビリ施設の方らしいわ。薬じゃなくて、アルコールの依存症だったってメールには書いてあった」
田舎のリハビリ施設には、そういう人たちもいるか。
モーテルに一緒に行って、ベリー狩りツアーの参加者たちを送り出す。なぜかキャスと、父親であるショーンも先導役としてついて行くらしい。女性ばかりで心配だったが、ショーンが行ってくれるなら大丈夫だ。
俺はモーテルに集まっている消防士たちに向けたドローン講座を始める。同じ州ではあるが結構遠くからも来てくれた消防士もいる。ドローン合宿とでも言うべきか。山が多い州なので、情報の共有はしておきたい。もちろん、夕方からBBQもやる。
「本職の方たちにこちらが教えてもわかりきっていることだとは思いますが、一応、基礎的な講座は自分の方で説明して、わからないことや自分に合わないと思ったら、スマホに個人学習用のカリキュラムアプリを入れてください。自分はできると思って、いざ山火事の時にパニックになっては意味がありません。小学校で習うようなことでも、わからないで進むより、わかってから進んだほうが圧倒的に自分のためになるし、役に立ちますから恥ずかしがらずやってください」
まずは地図の見方から始めて、衛星写真でどんなデータを使うのか、ドローンで現地に向かい、地表の温度データを取得する方法など、具体的にドローンのカメラを見せながら、説明していった。
ドローンとパッドを繋いで、外で実際に飛ばす練習もした。初めての人もいたらしく、風の影響も結構あるということがわかってくれたようだ。
「使わなくていいなら、使わないですよね。でも、あると便利ですし、きりの中で遭難している人なんかも生体反応を見ればわかりやすいですし、ペットボトルとクッキーくらいなら届けることが出来ます」
「そういうシミュレーションもしたいんですけど、カリキュラムのAIに言えば、やってくれるんですか?」
「仮想現実を作ってやってくれると思います。ゲームみたいな詳細なデータは作れませんが、荒い地図なら再現してくれますし、十分に対応できると思います。ここのデータセンター自体が小型のものなので、もうちょっと都会に行けば詳細なデータは作れると思いますよ」
「なるほど、了解です」
「あ、雨や風も再現してくれているのはいいね」
「どうせ使いこなせないと思ってたけど、練習すれば出来そうだな」
「合宿なので、練習しましょう」
当たり前だが、消防士たちの防災意識は高いので、俺がエリアを区切って枯れ葉を集めていると言うと驚いていた。
「森林局や消防局が合同でやってはいるんだけど、民間会社が定期的にやるなんてあるんだ。うちの方にも支部を作ってくれないか」
「うちはモーテルと電力会社なので、出来ないんですけど、ぜひヒューマロイドと一緒にやると良いですよ。災害時に埃被ってたら意味がないので」
意外とヒューマロイドを持つ公的機関は多い。
「バッテリーの容量もわかってないもんな。単純に充電せずに何時間走れるかとか、実地で把握しておくことは大事か」
皆、防災の技術的な学習をしているなか、ひとりだけ熱心にスマホを見ながらノートを付けている若い消防士がいた。
「なにか見つけました?」
「消火剤を現地で作れるといいなと思って、AIに聞いたら、そっちのカリキュラムになってしまい……」
「いいんですよ。消防に必要なことなら。水を大量に持って行くよりも、軽くなるなら役に立つじゃないですか」
「いいんですか?」
「個別のカリキュラムになるので、ドローンから脱線してもいいですよ。ただ、現地の素材で必要なものを見つけるのに、ドローンは役に立つと思うので、そこまで来てからドローンを覚えてもいいですし」
「そうですか……。じゃあ」
人間それぞれ理解力に差がある。本道とは違うことが知りたいという人もいる。最終的に、自分の身になる技術や知識を得ることが、この合宿の目的だ。
BBQをする頃には、パトリシアたちも帰ってきていて、ジャムが大量に作られていた。
「やっぱり人がいるといいな」
ショーンは、人が大勢いるモーテルを見て安心したようだ。キャスには、モーテルには全然人が来ないと言われていたのだろう。
実際、翌週に大学生グループの合宿予約が入った。なにを学びに来るのかはまだわからない。




