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レトロ・フューチャーズ・フォレスト  作者: 花黒子


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15/28

雨の日は、どうする?


 検査員が来て、滞りなくモーテルが営業を始めた。

 はじめのうちは物珍しさで来るだろうと思っていた客も来ることもなく、宿泊客0人が続いた。


「いや、用もないのに泊まらないよな」

「地域密着が過ぎるのよ。他に売りがないとさ」

 確かにキャスの言う通り、地域の人には自分の家があるのだから、モーテルに泊まる必要はない。むしろどうやって地域以外からのお客を連れてくるか、が重要だ。しかも山の中にあるモーテルなんて泊まるだけでも怖いだろう。


 その日は朝から雨が降っていて、外仕事は休み。客なんて来るわけもなく、俺とキャスはパトリシアが作ってくれた朝食を食べながら、ぼーっと水たまりができる駐車場を見ていた。


「美味しい?」

「美味しいです。なんで、これで人が来ないかな?」

「まぁ、需要がないのよね」

 パトリシアは元も子もないことを言っていた。写真映えする朝食ではないものの、健康的で家庭的だ。ブログにアップしているが、ハーブティーの方が評価は高い。

 今後はハーブを乾燥させて、販売する計画も立てている。


「片付けは俺がやっておくから、二人とも帰って大丈夫ですよ」

「ん~、そうするかなぁ。アルはなにするつもり?」

「え? なにが?」

「そう言えば、今日はなにか荷物が多そうだったけど?」

 パトリシアからも詰められた。


「ああ、えーっと、どうせ雨だからと思って、いろいろ持ってきただけだよ」

「なにを?」

「プロジェクターとか、スピーカーを。壁が白いからさ。入口のブラインドを下ろせばきれいに映るだろ?」

「ズルい。それ早く言ってよね」

「ポップコーンもあるよ」

「じゃあ、私はアイスとか持ってくればよかった」

「ガソリンスタンドでコーラを買いに行きましょうよ。レトロ!」

「はーい」

「プレイヤーは?」

「客室から引っ張ってくればいい」

「あ、そうか」

 一応、二部屋だけテレビが置いてある。山のモーテルなので、できるだけ電子機器を置かないようにしていた。若い層は都会のデジタル文化から離れるために来ることもあると聞いていたからだ。


「こんなことならクッション入りの椅子も作っておくんだったな」

「リネンはあるよ」

 多めに買ってあるが、ほとんど使っていない。

 ピロン。

「ちょっと待って。母さんがピザが焼けたって」

 キャスがスマホを見て言った。ショーン牧場の女将さんが作るピザは大きいらしい。


「え? 持ってきてもらう? 映画見るよって言ったら、持っていこうかってさ」

「あ、本当? ベンチはあるから座れるよ」

 軒下にあるベンチも玄関ホールに持ってきて、即席の映画館を作る。

「じゃあ、私も孫を呼んでもいい? ゲームばっかりやっててどうせ暇しているだろうから。孫に飲み物を買ってきてもらうよ」

 ベンチが増えた。


「雨だからってこんなことしていいの?」

「いいんじゃない? どこか雷落ちても大丈夫だよ。ここが停電することはないから」

「確かに……」

 避難所としても優秀ではある。


「じゃあ、いいか」

「孫も来るってさ。牧場のピザが食べられるって言ったら、すごい来たがってる」

 パトリシアはちゃんとボタンの押せる携帯電話で連絡を取っていた。実際、それで十分だし、レトロがいるのでそれほど不自由はしていない。


「でも、ちょっと時間はかかるよ。あ、いや、映画見るなら父さんを置いて来るって。車がないから迎えに行く」

 数分後、大きなピザを3枚焼いて、キャスのお母さんがやってきた。


「いつもお世話になっております。いいモーテルね。お客さんいないの?」

「ええ、だいたい暇してます」

「フライドポテトもあるよ。父さんは悔しがっていた」

「来ればいいのに。雷予報も出てるから牛が心配なんだって」

「真面目だな。生き物を扱っている人たちはそうだよな」


 それから数十分で、パトリシアの孫たちが来た。孫というから小学生くらいかと思ったら、20歳くらいの青年でプロゲーマーらしい。ゲームばっかりって言うから引きこもりかと思ったらプロだった。

 本当は都会に住んだ方がいいらしいが、オンラインの人間関係のほうが楽だと気づいて、こちらに戻ってきたという。


「え? なにこれ、いいじゃん! あ、ばあちゃん、ワインとかお袋たちが持ってけって。あとは超炭酸飲料ね。今日は飲んでもいいんでしょ?」

「今日はね」

 家では甘いソーダやジュースを飲ませないようにしているのだとか。そもそも動かない仕事だから太ると言って、なるべくお茶やコーヒーを飲んでいるらしい。食事もゲームをしていて忘れることもあるらしく、祖母としては心配しているのだとか。


「ピザ、美味そう!」

「で、なにを見るの?」

「ああ、ええっとなんでもいいんだけど、トレイルとか山登りしている人たちの話を見ようとしてたんだ。最新のアクション映画とかじゃなくて悪いけど」

「全然いいです。疲れる映画は散々見て飽きてるんで」

 最年少のパトリシアの孫がそう言うので、ちゃんと人生に悩んだ雑誌編集者がいろんな場所に行く話を見ることにした。

 おしりが痛くなることも考えて、床にシーツを敷いてクッションを置いたりして移動できるようにもした。


「始まった。映画なんて久しぶり」

「こんなに大きい画面で見ないよね」


 俺はカウンターの丸椅子に座って、ソーダを飲みながらピザとポップコーンを食べていた。

 一本見終わった後で、プロジェクターを冷ませるために休憩。キャスのお母さんはもう一本くらい見たいというので、今度は楽しいミュージカルを見ることにした。

 パトリシアの孫も楽しかったらしい。


「お茶淹れる? なんか雨脚が強くなってるわ」

「本当だ。最悪、帰れなくなっても泊まれるからね」

「合宿が出来そうじゃないですか?」

 ゲーマー界隈でも合宿があるらしい。配信をしながら、BBQをするらしいのだが、とにかく都会のゲーマーは疲れているから、時々自然の中でリフレッシュしたい時があると言っていた。

「チームがあるなら合宿来てよ。電源だけはあるよ」

「言っておきます。本気にしますからね」

「ああ、いいよ」

 そんなまったりとした会話をしていたときだった。



 スバババンッ!



 雷の光とともに、轟音が鳴り響いた。


「おおっ、近いな。レトロ! ドローンの準備ね」

「オーケー。周辺マップ起動しておく」

「皆、映画、見てていいよ」


 俺は合羽を来て、ドローンを準備。そのまま雨の降りしきる中、外に飛び出した。空は真っ黒な雷雲が立ち込めている。


「飛ばせるかな?」

「壊れたらメンテナンスしよう」

「そうだな」


 俺はドローンを飛ばし、音が鳴った方へと向かわせる。パッドを見ながら操縦していると、道路脇の樹木に雷が落ちて倒れたのが見えた。


「やっぱり近かったな。画像を撮影して、消防署に送ろう。一旦通行止めだな」

「了解」

 レトロと一緒に発光するコーンを立てに行った。

 スクールバスが通る場所でもあるので、急いで良かった。


 消防署は俺たちが何をやっているのかも知っているので、かなりスムーズに現場を引き渡せた。こういうのは日頃の情報共有が大事だ。

 すぐにチェーンソーで倒木を切って脇に寄せ、現場復帰。雨がやみ次第、切った樹木は回収されるという。スクールバスの時間にも間に合った。


 これが地域だけでなく消防署界隈で共有されることとなり、地域の防災エッジAIとして、売れるきっかけとなった。


「防災AI使い方の演習も誘致するから……」

「あ、ぜひ、家のモーテルを使ってください。電気はありますし、小型のデータセンターも自前で運用してるから、地域の停電にも左右されません」

「それも報告しておく」


 モーテルに帰ると、皆、映画を見すぎて玄関ホールで寝ていた。


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