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レトロ・フューチャーズ・フォレスト  作者: 花黒子


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金策と、受け取りたくない金と


 客室のベッドを組み、スプリング付きのマットを敷いて、その上に薄いパット、さらにシーツとベッドだけでも出費が嵩んでいく。


「寝具が高いのか。それとも初期費用が高いのか」


 とにかく寝具をキャスとパトリシアに任せていたら、とんでもない出費になってしまった。

 俺はと言うと、ずっとペーパーワークだ。州への申請書はデジタルでいいのに、なぜか町役場には直接いかないといけないというヒューマロイドがいる世界だと言うのに、まるで時代が進んでいない田舎町に呆気にとられているところ。

 しかも、偉い人のサインが必要とかで、補助金の時に揉めている俺としては役所には行きづらい。

 とはいえ、税金だって払っているので、行政サービスを受けた方がいいし、なにより申請しないでモーテルなんか営業したら、警察に捕まるだろう。


 重い腰を上げて、軽トラで役所へ向かい、申請書を出す。モーテルの水回りや電気関係、キッチン等を見る検査員が2日後に来てもらう約束を取り付けて、モーテルに帰った。

 役所は、行くのがものすごい面倒なのに、用事はサラッと終わってしまう。だったら、オンライン申請でいいだろうと思うのだが、役所は直筆のサインを求めてくる。いつだかの大統領が、自動のサイン装置を使うからだ。


 ガスの工事も終わりお湯も出るし、入口にはカウンターも付いた。


「あったほうがいいでしょ?」

 キャスは廃材を使って何でも作れるのかもしれない。すでに家から扇風機や椅子を持ってきている。

 

「今年は暑さとの戦いかもしれないね。山のベリーがどんどん熟していくんだけど、ベリー狩りのお客の予約ってどうなってる?」

「参加者は6名いますよ。まだまだ、予約枠はあるので宣伝しましょう」

 パトリシアがレトロにアドバイスされていた。


「宣伝と言ってもねぇ。6名でも十分じゃない? キッチンもそれほど大きくないし」

「ジャム作りとセットならいいかもしれませんね」

「午前中に山に行って、6人分のジャムを作れるほど取ってこられるかしら……」

「前日までに用意しておけばいいんじゃないですか?」

「そうね。そうするわ」

 宿泊とは別の収入源があるのがいい。


「ペーパーワークは終わった?」

 ベンチを作っているキャスが聞いてきた。


「申請は出したよ。明後日、検査員が来るはず」

「よかった。洗濯機は買わなくていいのね?」

「あるものでいいと思うんだけどな。乾燥機も要らないだろ? 干すところはいくらでもあるしさ。火力発電機を作れたら、暖かい空気も来るんだけどね」

「ああ、そういうことなんだ……。でも、メタンのタンクとかも必要なんでしょ?」

「そう。しかもガス代も一気に減る。だから、宿泊で稼がないといけないんだよ」

「なるほどね。出来た。ちょっと座ってみて」


 出来たベンチに座った。ガタつくこともなく、青い空と緑の山が見える。ちょうど軒先があるから日陰にもなっているから、風さえ吹けば心地良い。


「いいね。ポストカードとか作って、掲示板に貼っておくか」

「ブログに写真を載せておけば」

「そうだな……」

「はい。ハーブティー」


 ベンチにパトリシアがハーブティーを持ってきた。ベンチで3人座っても、問題ない。3人座った写真をレトロが撮ってくれた。


「レトロも座るか?」

「重さに耐えられるでしょうか」

「大丈夫だ」


 レトロが二人の間に座っている写真も撮っておいた。ハットも被れば、レトロフューチャーな雰囲気が出てくる。


「まだ誰も知らないモーテルね」

「ええ。売り文句は大自然のモーテルですかね。今のところは……」

「あ、そういえば、なんか来てたけど……」

 水力発電が回るようになったので、頼んでいた小型のデータセンターが届いた。

「うん。あれで山の情報も保存しておけるし、CADも一気に進められるよ」

「今でも十分だけどね」

「でも、試験の勉強はできるってことでしょ? 私なんか、この年になるまで資格なんて取るつもりなかったけど、レトロのお陰で随分助かったわ」

「そう。いろんなジャンルの資格も一人ひとりに合わせて勉強できるようになるし、AI仕事も受けれるようになるんだ。レトロの仕事が増える感じかな。あと冷房も付けたから、本当に金がなくなっちゃったからね。キャスはベンチ作って売ってくれ。パトリシアさんは、ベリー狩りね。俺も山に行くから。山の中腹はどうしても山火事の火種になりそうな箇所が多いんだよね」


 実はすでに燃えて、自然鎮火している箇所をいくつか見つけている。もちろん画像データは消防署に報告しているし、ブログにも載せている。

 燃え広がらないようにするための方策も地元の消防署に提案もしているので、消防の方から町へ防災の補助金を出すように言ってくれているところだ。


「アルにとっては補助金にも種類があるの?」

「そうだね。なんでもかんでも補助金だよりにしたくないんだ。山火事の防災は地域インフラでしょ? だから、これに補助金が出るのはいいんだけど、別にメタンの小型火力発電はそこまで地域のインフラにならないじゃない? エコ活動とか言うけど結局変なNGO団体にマージンを持っていかれたくないんだよね。ちゃんとリアルに役に立ってないと意味ないでしょ?」

「確かに。地に足がついていないお金より、そっちのほうがいいわね」

「地球全体とか言われても、ねぇ」

「そういうこと。あと、宿泊客が増えたら清掃員の募集もかけようね」

「わかった」

「じゃあ、俺はヒューマロイドのメンテナンスに行きます。レトロも連れて行くから、なにかあったら電話して」

「了解。モーテルに誰もいない時は鍵を締めておくよ」

「頼む」


 キャスはベンチの梱包作業。パトリシアは朝のうちに山に入ってジャム用のベリーの用意だろう。ちゃんとモーテルが拠点になって、それぞれの仕事に向かう事ができている。

家の家庭菜園への水やりとコンポストの撹拌はレトロが済ませてデータを撮っていた。


「ちゃんとこれで回収できればいいんだけどな」

 軽トラに乗りながら、呟いた。

「計画では1年半後には出来ているはずさ」

「宿泊客次第だな。稼働率6割の計算だからなぁ。今のままで一日6人も泊まりに来るか?」

「無理だな。一人、二人泊まりに来ればいいほうじゃないか?」

「そう考えると団体客の誘致が急務だ」

「トレイル客なんかどう? 来るかもしれないよ」

「ブログに山の写真を増やしてみるか」


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