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第2話 旅立ちと幼馴染と


「おい、エル。どこ行きやがるんです?」


 夜道を一人歩いていると、後ろから声がかかった。

 振り向くとピンク色の髪に二つの角、大きな瞳のわりに眠そうな、小さな少女がいた。

 リッタ。竜騎士デュークの竜の一人で、孤児院からの幼馴染でもある。


 彼女とは小さい頃からの仲だ。


「リッタ。会えてよかった。デュークも良いとこあるな。粋な計らいをしてくれる。飯に夢中と思ったが」

「でぶデュークは飯に夢中でいやがります。エルが出ていったことも気づいていねぇーです。そろそろ食べ終わって気づくころじゃねぇーですかね」


「また勝手に出てきたのか?」

 竜騎士が召喚しなければ、本来竜は出てこないはずなのだがリッタは特別だ。


「あたしを誰だと思ってやがるんです? 風と土の竜王リッタ、あたしが出たいときに出るに決まってるです。ところで、エルはどこに向かうか教えやがれです」

「そうか。竜王だもんな。どこに行くかはまだ決めてない。そうだな。とりあえず小麦と米が豊富な地域で、夢を追いかけようと思う」


「……あたしにも教えてくれねぇんですか? 確かにエルはここ数年馬鹿にされてばかりでしたが、あたしは一度も馬鹿にしてねぇーです。あたしのことも嫌いになりやがったんですか?」

 リッタは頬を膨らませて俺を睨んでいる。誤解させてしまったようだ。


「いやいや。本当に決まってない。急だったしな。だからリッタにお別れを言えてよかった」

「……あたしと離れるの、さみしくねぇんですか?」


 なぜかリッタはスカートの裾を持ち上げて、ニーソの絶対領域を見せつける。

「さみしいが、その行動はなんだ。やめなさい」


 手を掴んで謎行動をやめさせる。孤児院にいた頃はお姉さんに思ったが、おっさんになった今は小さな女の子にしか見えない。

 ついでに頭をなでる。角がなければただの美少女だ。彼女は見上げながら言った。


「昔のエルはこうすると顔を真っ赤にして言うことを聞いてくれやがった、脚フェチドスケベガキでかわいげあったんですがね」

「ふ。俺も経験を積んだからな」


「結婚もしてねぇくせに何言ってやがるんですか」

「い、忙しかったから……」


「あと髪をなでて許されるのはイケメンだけですが、あたしは心がひろいので、許してやるです。もっと触りやがれです」

 リッタは目を細めている。もっと彼らと一緒にいたかったと思ってしまう。

 名残惜しさを感じていると、どすどすと足音が聞こえた。


「エル! お前何追放されてんだよ! 焼き菓子食い終わったらエルいなくなってて、ガキどもがいちゃついててびびったじゃねぇか! ってリッタなんで勝手に出てきてんの?」

「馬鹿でぶデュークの無能野郎」

 とリッタがデュークの尻を蹴り上げる。


「いてぇっ」

「でぶデュークが焼き菓子独り占めしている間に追放審議終わっちまったじゃねぇーですか。エルが行先教えてくれねぇーので泣きそうなんです。なんとかしやがれです」


「リッタ、昔からエルのこと大好きだもんな」

「っ。誤解させること言うんじゃねぇですっ。エルの作る料理が好きなだけです。食べるとしあわせになっちまうんです……」

 

 リッタはそっぽを向いてしまう。

 一番の誉め言葉だ。

 彼らと旅をしてよかった。

 デュークのまんまるな顔を見る。孤児院の頃からの幼馴染だ。別れを言えないのは寂しいからな。


「もともと実力不足を感じていた。俺は冒険者向いていなかった。デューク、俺は夢を追いかけようと思う」

「……そうか。それは大賛成だ。もう異世界レシピの項目はだいぶ埋まったんだろ?」

 スキル異世界レシピ……俺の固有魔法。俺だけが見ることができる魔導書には、ありとあらゆる異世界のレシピが載っていた。

 いつの頃からか、異世界の料理を振舞って、デュークやリッタ、孤児院の皆がしあわせそうにする姿に俺は夢中になっていった。


 幼い頃、魔導書は虫食いになっていて、読めない項目が多かったが、モンスターや食材を見ると、次々に読めるようになりレシピが増えていくことに気づいた。

 冒険者になったのも、このスキルを育てるためだった。

 おいしい料理を極めたい、人々に食べて欲しい、笑顔を見ていたいという情熱は、今もずっと心の中で燃えている。


「何、大賛成してやがるんですかっばかでぶデュークっもうお前の好きな料理食べれねぇんですよっ」

「俺をなめてもらっては困る」

 デュークは腕を組み続けて言った。


「俺はこのまま冒険者を続けて食材を集める。そして、エルにそれを届ける。エルは料理店で最高の環境で最高の料理を作る。そしてそれを俺に送る……完璧だろ?」

 脳筋作戦だった。


「誰が届けるんだ?」

 デュークはリッタを指さす。そうか。確かにリッタの機動力なら問題ない。リッタはデュークの居場所を魔力探知できる。俺の居場所さえ分かっておけばいい。

 料理の保管は高価なマジックバックを使えば解決だ。

 リッタの頭をなでた。


「それはいい案だ。リッタは移動で大変かもしれないが」

「別にあたしはかまわねぇーです。目の届くところに、エルがいてくれればそれで文句はねぇーです。仕方ねぇから奴隷のようにこき使われてやるです。えっちな命令は聞かねぇですがね」

 リッタの髪を乱暴になでる。眠たそうな目で見上げてきた。


「やめやがれです。髪がぐちゃぐちゃになったじゃねぇですか。……ところでどこに拠点を置きやがるんです?」

「そうだな……うん。……アクアテラに行こうと思う。あそこは水もきれいで、米や小麦が豊富だ」


「そりゃ、最高だっ! 湿度はあってデブには生きづらいが、あそこはよかったっ! 米! 粉もの料理! アクアテラにしようっ! 俺は食材集め、エルは最高の料理の提供……グルメ革命で世界中を見返してやろうぜ!」

「エルは本物の天才……あたしもこのパーティーでエルがくすぶってるのは見るに堪えられねぇかったですよ。協力してやるです」


「ありがとう、二人とも。……ただ俺は大きな店ではなく、屋台をやろうと思っているんだ。デュークからの食材も限りがあるだろう? なら質は落とさず、来てくれる人、一人一人に喜んでもらいたい」


「「……」」

 二人は顔を見合わせて……そして笑った。


「そうか。いいなそれ。楽しそうな姿が想像できるわ。俺の席は指定席だから、予約不要のVIP席にしてくれな!」

「エルらしくていいんじゃねぇーですかね。糞バカお人よしのエルには似合ってやがるです」


 二人は俺の夢だけは決して否定しない。それがうれしかった。

 最高の幼馴染たちに心から感謝する。


「おっとこれは餞別だ。金貨10枚入っている」

 とデュークはマジックバックごと、俺に金を渡した。


「おい。これは何だ。俺はデュークにだけは金を借りたくない」

「勘違いするな。これは前金だ。天才料理人への投資。本当は俺専属にしたいくらいだが、これ以上太ったら死んでしまう」


 デュークは腹をさすっている。本当にいいやつだ。お人よしはどっちなのか。俺は笑ってしまった。彼の明るさ、恩着せがましくない、やさしさには昔から救われてきた。

 俺は天才ではない。

 ただ、異世界の人が苦心の果てに編み出したレシピを見ることができるだけ。

 俺自身には昔から価値はなく、地道な仕事を続けるくらいしか取り柄がなかった。

 あとは物心ついてから料理のことばかり考えてきたくらいか。

 笑ってしまうくらいの凡人だ。

 本当の天才はデュークのような人間で。


「もらっておけです。でぶがかっこつけてるんですから」

「……そうか。すまない」


 じゃあ、とお互いに明日も会うかのような気軽さで別れた。

 ずっと一緒に旅してきたから、明日から会えないと思うと不思議な気分だ。


 デュークは一人で勇者パーティーの元へと戻り、なぜかリッタはこっちについてきた。

「……なんでリッタこっち来てんの?」

「何言ってやがるんです? でぶデュークの場所は魔力でわかるけど、エルの場所は見ないと分からねぇからに決まっているです」


「アクアテラで再会と思ってた。ギルドに顔出して商売登録するつもりだから、そこで見つけられるしな」

「広いから探すのだりぃです。エルの気が変わってアクアテラいかなかったら一生会えなくなるじゃねぇですか。後悔したくねぇーんですよ。それに今のエルは弱いから心配なんです。そばで守ってやるから感謝しやがれでごぜぇます。もし死んでもアンデットにして一生一緒にいてやるから安心していろです」


 最後の一言は全く安心できなかった。竜王に言われると冗談に聞こえないからだ。

「ありがとうな」

「ん」

 リッタと二人で宿を探しに向かった。

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