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火龍の力

※時系列は過去編 第20話の間。リオンが水龍の力を手に入れるのと同時期、アレンも火龍の水晶石へと入っていった。


※火龍自体はドラグーン編で初登場なので、そちらから読んでも面白いかと思います。

 其れは少年時代の星回り。双龍の力を手に入れようと躍起になる子供時代の話。

 少年アレンは雪山ドラグにて、火龍の元へ意識を飛ばした。リオンより先に手に入れて勝負を付けよう、そんな緩い事を考えながら。


「此処が、水晶石の中??」


 水晶石の中はまるで照りつく砂浜の上に立っているようだった。火龍と呼ばれるからには灼熱地獄を予想していたアレンは拍子抜けとばかりに暖炉の火の様な体感に上着を脱いだ。


(誰も居ない…)

「火龍〜〜?出てこい!とっ捕まえてやる」

?「上じゃ」

「ん?、…ぁ!?、ーーっくぅ!!!」

(わっぱ)、来よったか」

「オマエが、火龍……そうだな、そうだろ!?」


 青天井から降る火の粉が目の前でパチンと弾けたのを切っ掛けにアレンは歩き出した。人影、もとい龍影も気配も一切が見当たらず宛もなく彷徨い歩いていたアレンは、不意の天の声に火の粉を見上げた。

 アレンが視界に捉えたのは火の粉、ではなく巨大な影。一点の影は徐々に近付き大いなる力の塊となって地面に着地した。着地に生じた衝撃波と震撼で、自分でも訂正したくなるほど情けない声を上げたアレンは尻もちを付いた。


「なんじゃい!!ビビって日和るかと期待したのに詰まらんッッ!!」

「だってよ、格好良いだろ火龍!!ビビる要素無いって!」

「うぉ!?ぉおお……カッコイイか、フフンわっぱ分かってるじゃないか。で、何しに来よった」

「何しにって、決まってんだろ。火龍の力を手に入れる為だ」


 赤黒い鱗と体毛に加え、火山岩を彷彿とさせるゴツゴツとした質感、一口で岩石を砕く鋭利な牙と掠りでもすれば致命的な巨大な爪。要素要素が少年心を擽り、皮肉でも何でも無い純粋な思いを口にした。

 少年と言うのは実に正直者だ。久方振りの純情に意表を突かれた火龍は喉の奥を唸らせて素直じゃない反応を示した。


「ほー。ククク、クク、…ガーッカッカァッ!」

「ハーハッハッー!」

「ガーッカッカァ!!」

「ハーハッハッー!」

「か!・え!・れ!」

「はっ!?ちょっ、おい!!!」


 龍の大口を開けて火龍はドカドカ笑い出した。突然の行動にイマイチ生態が掴み切れないアレンだが、ノリに乗り一緒になって大声で笑い出した。きっと自分の思いが伝わったのだろう。

 否。拒否。全否定。火龍は空を見上げていた赤黒い眼をアレンへ向け、言霊を叫んだ。

―――――― ―――

 瞬間、眼前が光に塗れ急速に変わった外気に身震いした。


「はい???」

「アレン君、その様子だと追い出されたね」

「えっ。はぁっ!?!」


 急転直下な温度差に意味不明とばかりにアレンは目を丸くした。上方から降ってきた声、ドラグ家現当主ウィリアムを見上げて漸く己の立場を知った。火龍に追い出されたのだ。一方的に、身勝手に、我儘に。


「気を落とす事はない。双龍の気紛れはよくある事だ」

「…もう一度、俺を火龍のとこに連れて行ってください!!絶対に認めさせてやる!リオンよか早くに!!」

「やる気満々な少年にはトコトン付き合うぞ。それいけ!」


 然し、その程度ではアレンの心に滾った炎は消えやしない。彼の中に諦めの文字は無いと理解したウィリアムは全力で応援する事に決めた。火龍にとって恐ろしく迷惑な行為だが熱を上げさせたのは火龍自身である。


――――――


「うっし!」

「ぬぉおん!?また来よったなぁっ!?」

「うう………ぅるせぇ耳がいてぇよ!!」


 再び体感温度が上昇し、目を開けたアレンは水晶石の中で気合の雄叫びを上げた。

 だが、アレンの声を大きく上回る声量で火龍が叫声を轟かせた。人間の鼓膜など微塵も意識にない様子に苦情を入れるが、残念届かなかった。


「何で俺を追い出したりしたんだ」

「わしゃあ、わっぱなぞ好かん。力を手に入れようとする童はもっと好かん。童は童らしくお家に帰りなさい」

「嫌だね。火龍の力って手に入ったら絶対面白いだろ!それにリオンよか早くに手に入れて勝負に勝つんだ」

「誰じゃい」

「リオンはシルヴァのとこで一緒に暮らしてるダチで家族だ。シオンってのもいるぜ」

「あの小心者の童が大きくなったものよ」

「ん?」

「何でも無いわい。か!・え!・れ!」

「ちょっ、おま、またかよ!?!」


 やっと会話する気になったかと思えば火龍はまたしてもアレンを突き放した。盛大にパカッと大口を開けて帰れと。声量の落ち着きで油断したアレンは二度目の帰還を余儀なくされ、やるせない叫びだけが虚しく響き渡った。



 其れから、ころころと舌で回す飴の様に幾度となく出たり入ったりを繰り返した。時には歯でガリッと刺激を入れたり、舌の運動を止めてみたり、様々な変化を取り入れ追い出そうとするもアレンはその度に強気に戻ってきた。


「ゼェゼェ………」

「ガァガァガァ」

「風邪引くわ!!」

「知らんわい!!」


「違げぇだろ。歴代の龍の使い手がどうだったか知らないけど、決めるのは(ココ)だろ!俺を認める認めねぇを決定付けるのは子供嫌いな脳じゃなくて、心だろ!!」

「じゃあ」

「じゃあ…!」

「ご応募ありがとうございましたッ!まっこと残念ながら不採用!去れい!!!」

「ぐぐぐっっ………、……」


 幾度目ともなれば脳が冷静さを取り戻そうと深呼吸を催促する。荒い息遣いではまともな判断は出来まい。暖炉の火に薪を焚べる様に目一杯深呼吸したアレンが、己の心臓に指を指した。毛嫌いする相手でも能力の有無を分析しろと言い放ち、撃沈した。


「何でだよ……。俺が詰まんねぇ奴だから?俺が火龍の力を使うに相応しくない子供だからか!?」

「わっぱの血脈で何を云う」

「血脈?何の事だ……」

「不幸に泣くか?煩わしい。母親を亡くした童のようにワンワン泣くか?他所でやれ。わしゃあ水龍のマヌケと違って冷静な眼を持っとる。貴様のような子供には扱えん代物よ。諦めるんだな」

「諦める……?俺が?そんなの面白くねぇだろっ!火龍の力で騎士になって面白いもん全部見るんだ。大人しく俺を認めやがれ!!」

「……アスト能力、その年で発現させるとは」


 遂に不貞腐れたアレンは火龍に食ってかかる。散々追い出されたにも関わらず無謀にも戻ってきたのは自分だと言うのに、アレンは焦燥感を募らせていた。

 目先の勝負と動機の不純さも気に入らぬが何より火龍の癪に障ったのはアレンの血筋だった。然し其れについて明確な議論をするつもりはなく、再三の言霊を放とうとした時、アレンの身に変化が起きる。


 無意識下で漏れ出たアストエネルギーに反応しマジマジとアレンの顔を見やる。火龍の微細な変化にアレンが気付いたかは定かではないが、彼もまた火龍をマジマジと見つめ返す。


「わっぱ、もし己に高尚な血が流れているとして……それが強大な力を生むとしたら、己の力を世界へ向けて振るうか」

「世界とか規模がデカくてよく分かんねぇけど強い力が手に入ったら使いたくなるのは当然だろ。あんまりやり過ぎるとシルヴァに怒られるけどな」

「叱られが嫌で止めるか」

「そりゃあそうだろ。それに……正直者は堂々と出来んだ。素直で正直な俺の心だ!」


『正直な心が俺を堂々と表舞台へ立たせてくれる。嘘偽りはしない、それが信念ってやつだ』

「血は争えんな」


 かつて双龍は(おの)が自尊心と下賤な矜持を履き違え、痛い目を見た。一角を折られ水晶石へ封印された火龍はアレンの言葉に身に覚えがある為か、屡々耳を傾けた。

 そうして脳内で重なった面影に怒りを飛ばしつつ、アレンの心を再評価する。


「へなちょこ童は好かんが一丁(いっちょ)前に生意気云う童は面白い。特別だ、特別にとある条件を満たせば認めてやろう」

「本当か!?条件って何だ?楽勝だぜ!!」

「それは……」


 アレンの瞳より鮮明な深淵を映す火龍の瞳が、見定めるようぎょろりと動いた。重い胴体を上げ、アレンの身体が火龍の影で覆われるほど接近すると出来得る限り顔面を這い寄らせた。

 唸るが如し条件を受け入れたアレンは自信に満ち満ちた表情で火龍と目を合わせた。火龍の条件など余裕で乗り越えてやる、そう言った油断が屈辱的な結果を生む事になるとアレンが理解するまで、後数秒。



「はぁ…ゼェ、ゼェ……クソっ、はぁ……」

「全敗は無いだろう普通」

「うるせぇ……俺だって嘘だと思いてぇよ」

「歴代の継承者を認めた方法、その一つでも優れば認める。然し全敗は無いだろう」

「何度も言わなくて良いだろ…!」


 仰向けに寝転がり汗を拭う振りをして両手で真っ赤な顔を隠す。火龍の出した条件とは火龍が認めた歴代の方法で、一つでも飛躍を見せれば継承を認めると云うもの。歴史が積み重ねればそれだけ選択肢が広がりアレンに有利になる予定だったのだが、結果は惨敗全敗。

 さしものアレンでも気恥ずかしさの余り、ツッコミの精度も落ち高さ只の悪態付きになっていた。


「ガーッカッカァ!良い事を教えてやろう。他の誰も届かない、童だけの特性がある」

「何だよ」

「"ド根性"」

「!」

「限界突破する諦めぬド根性は、わしゃあを上回り歴代すらも上回る」

「限界突破するド根性か……面白ぇ!」

「認めよう。最年少継承者アレン。わしゃあの友として、力を貸そう」

「ーーっしゃあ!!!」


 沈んだ気を熱消させる勢いで火龍はドカドカ笑い出した。嘲り笑うにしても声量が尋常でないのは勘弁してくれと自暴自棄になりかけたが、火龍はアレンの器に火を灯すと言った。

 真正面から衝突し、意地を張りながらも諦めの二文字を吐かなかったアレン。それは誰にだって出来る行為ではない。限界突破する心が火龍を射止めた。


「手を出せ」

「あぁ!」


 火龍は咆哮した。刺々しい叫声とは一転して、彼方へ向けて奏でる吟遊詩人の音色の様だった。次第に目が眩むほどの光を生み出していく。これが本来の帰り方なのだと意識が途切れる直前で気付いたアレンは、火龍を見上げて元気溌剌とした笑みを見せた。




「ふわぁぁっ〜〜…眠いのぉ……水龍のあほんだらに見付かる前に眠るとするか」


 火龍は認めた相手を友と呼ぶ。友を喪えば知人以上に苦しむ羽目になる。アレンは火龍の友として何時まで、世界(ここ)に居残り続けるだろうか。争いが起こらぬ限りは泰平だ。起こらぬ限りは……。


 無事水晶石から生還したアレンが映す銀世界があるが、それはまた別の話である。

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