FILE.8 「マヨイ保護局」
突然ここで働くことになってしまった美玖。
何が何だかわからないまま、美玖は案内役のニノンに部屋まで連れて行ってもらうことになった、のだが?
マヨイ保護局とは、この世界アルミナに迷い込んだ異世界人を発見・保護し、無事に元の世界へ還すことを目的としている。
マヨイのおよそ九割は言葉が通じず、翻訳アミュレットがなければ会話が成立しない。そして言葉が通じないからこそ、マヨイは余計に混乱し、最悪の場合アルミナの住民に危害を及ぼすこともある。
マヨイがアルミナに迷い込む時期は絞られていた。それは満月の夜。魔力が最も満ち溢れる期間であり、異世界への門が開かれやすくなる期間でもある。
マヨイのほとんどは自身の意思でやって来ることはない。その名の通り「迷い込む」のだ。
満月の夜に迷い込みやすいマヨイを狙う輩もいる。それらからマヨイを守り、保護し、還す。そのためにはマヨイ保護局の職員にも、相応の実力が備わっていなくてはいけない。
マヨイを狙う盗賊、人身売買の売人、そしてオークといった魔物。敵は様々であり、それらに対抗するための力を持っている人間のみが職員として採用される。
しかしごく稀にマヨイとして迷い込んだはずの者の中に、アルミナへ戻ってきた者もいた。彼らはマヨイ事故によって、アルミナから異世界へ飛ばされ、そこから再び戻って来る。
マヨイ事故もまた満月の夜に発生することが多く、アルミナでいうところの神隠しに近い。そんな彼ら、モドリは真の故郷であるアルミナに帰ってきたことになるので、モドリがこれまで生活していた場所に還されることはない。
そういった場合は、他に行く先のない異邦人として新たに戸籍と住む場所、職業が与えられた。モドリにとって故郷であるはずのアルミナは、むしろ住み慣れない場所そのもの。
そんなモドリが生活出来る場所は限られていた。彼らを制御出来る人間の監視下で、アルミナでの生活に慣れさせる必要がある。
「で、私がそのモドリってやつで? このままマヨイ……なんだっけ? そこの職員として働けってわけ?」
「そゆことー! なんだ、思ってたより飲み込み早いじゃん」
美玖はニノンに案内されていた。
自分がこれから住む場所、働く場所、生きていく街を。
とはいっても街中は窓の外からしかまだ見ていない。バスに乗ってやって来た森からは、彼らの乗り物で移動したから街の景色はちゃんと見ることが出来ていなかった。
時間帯と、美玖自身の疲れもある。今は深夜二時。とっくにベッドの中で熟睡していてもおかしくない時間帯だった。
それでもニノンは疲れた顔も、文句も口にすることなく美玖の案内役を買って出てくれた。
「あたしはね、実はマヨイなんだ~! 色々あってここで働くことになったの! ある意味同じような境遇じゃん? よろしこー!」
「ノリが私以上に軽すぎて、かえってやりづら……」
「ええええ!? こういう感じの子じゃないの~!? よかった! じゃあキャラ被りしないわ」
「ええ……?」
とにかくこのニノンという少女は明るかった。ノリも軽すぎた。ヨリやユーゴに比べたら、ニノンに案内してもらってよかったと思った矢先のこと。すぐに後悔。より一層疲れが増す。
学校の校舎くらいの建物が、マヨイ保護局の管理するものらしい。役所でいうなら大きな建物の中にそれぞれの課などがあって、そこにちょろっと「マヨイ保護課」とありそうだと想像したものだが。
仮にも「局」と銘打っているので、建物ひとつ分あってもおかしくはないのかもしれない。よくわかっていない美玖はそう納得しようとした。
「一階部分がマヨイ保護局の受付とか、なんか仕事する場所ね」
入り口から入ったが、どう見ても役所とか郵便局や銀行を思わせるような作りだと直感した。受付窓口があって、待合室であろうソファや椅子、相談するために設置された個室がいくつか。そして奥には局長室っぽい場所。擦りガラスで中まではっきりと確認は出来なかったが、きっとそう。
ここでみんながマヨイ保護局の職員として働いているんだ……、と想像する。
(いや、ここで一体どんな仕事をするってのよ! 想像も出来ないわ!)
すっかり想像することを諦めた美玖は、ニノンの後をついて行く。




