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FILE.3 「誰か助けて!」

 思えばリュックを掴まれているとわかった瞬間に、美玖は手を離すべきだった。

 だけど私物を奪われたくない一心で、美玖はその機会を逃してしまう。

 ぐん、と強力な掃除機に吸い込まれたのかと思うほどの勢いで引っ張られる。

 猛スピードで走る車に掴まって、そのまま引っ張られているような感覚に似ていた。

 あまりに一瞬の出来事で「引っ張られてる」ということ以外、何もわからない。

 窓際に残っていたガラスの破片が、引っ張り出される美玖のお腹を、足を傷つける。

 痛みを感じている余裕はない。

 リュックを持ち上げた化け物、それにぶら下がる美玖。

 目の前には大きく太った豚の化け物が、獲物である美玖の臭いを嗅いで歓喜の声みたいに叫んでいた。

 何もかもが不気味で、気持ちが悪くて、家畜のような臭いがして、ただひたすら絶望という言葉しか思い浮かばない。


(このまま私、殺されるの!? もしかして、食べられるとかないわよね!?)


 それでも恐怖で固まってしまった美玖の手は、リュックを離すことはなかった。

 嫌だ、死にたくない、こんなところでまだ死にたくない。


「誰か助けてええええっ!」


 美玖が叫んだと同時だった。


「フレアアロー!」


 若い男の声と共に、美玖を持ち上げていた化け物に炎がぶつかる。

 まるで燃え盛った松明をものすごい勢いとスピードで投げ当てたような。

 ぶつかった炎は化け物を包み込んで、たまらなくなった化け物はリュックを離して美玖を落とす。

 尻もちをつく形で地面に落ちた美玖は、またしても何が起きたのかわからない状況のまま炎に焼かれていく化け物をただ見つめる。

 するとあちこちから、男女様々な声が上がった。


「フレアアロー!」

「ファイアブラスト!」

「グレイヴ!」


 バスを取り囲んでいた化け物が次々に、炎に包まれたり、地面から突き出したものが化け物を串刺しにしたり。

 さっきまで人間側として凄惨な場面に陥っていたが、今度は美玖たちを襲っていた化け物たちが見るも無残な状況に追い込まれている。

 ぽかんと地面にへたり込んだままその様子を眺めている美玖に、最初に聞いた声が話しかけてきた。


「怪我はありませんか」


 見ると美玖のそばに、白髪の若い男性が寄り添っていた。

 周囲を警戒しつつ、まるで美玖のことを守るような体勢でいつの間にか隣に片膝をついている。

 老人でもここまではいかないと思うほどの真っ白な髪、見ると少し気難しそうな顔つきをしてはいるが綺麗に整った顔だった。

 暗くて瞳の色までは確認出来なかったが、顔の造形と背格好から日本人ではなさそうに見える。


「えっと、窓ガラスで……」


 違う、怪我よりもさっきの化け物たちをどうにかする方が先じゃないだろうか。

 そう考え直した美玖が「化け物が」と言いかけた瞬間、男はほんの少し表情を和らげて「大丈夫」と口にした。


「もう片付きましたよ。我々マヨイ保護局の職員は、特に意味もなく強いので安心してください」

「え……?」


 優し気な微笑みを一瞬だけ見た美玖は、心臓の音が跳ね上がっていた。

 化け物たちに囲まれて恐怖した時の心臓の跳ね方とは明らかに違う。

 周囲を見渡してみると、白髪の男性の言った通り化け物たちは全員地面に倒れ伏していた。

【魔法】

・フレアアロー

 火炎系の初級魔法。火の矢を放つ。連射可能。植物系、生物系に有効。金属系、水棲の魔物には効果半減。


・ファイアブラスト

 火炎系の中級魔法。威力の高い火の玉を放つ。連射も可能ではあるが、技量によってインターバルの長さが変わる。植物系、生物系に加え金属系や水棲の魔物に対しても効果を発揮する。


・グレイヴ

 土属性の中級魔法。地面を槍の形に変化させる。槍の長さは最大2メートル。地面が無ければ使用不可。飛行タイプ、不定形タイプには無効、もしくは効果半減。

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