対消滅と機関銃
ここで閑話をひとつ。
ナメクジノロノロと言いますが、それはもう今はむかしの事でございます。
いやはや彼らの乗り物と言えば、ジンソクコンゴウダイヨウリョウ、まさに理想の輸送車両。
そこへ名乗った人間が一人。
「やあやあ我こそは市長と申すもの、骨のない生き物が、やや音速とはどう言ったしだいで」
ナメクジノロノロと言いますが、身のやわらかくキレやすい次第で。ゲオスミンの芳醇たる芳香をまとい、プツプツと粘液に気泡をたてて抗議なされたそうな。
ともかく、いつの世も差別の消えぬ世界でございます。
皆様どうか、御心の清きよう。
ヤクニタテ、マヨワザルヨウ、シンジテススメ。
ソネミは子供向けの教育的な番組にハをたてる程食い入り見ていた。
青白く光るチマタの画面に相対したソネミの顔は、教育的教義をそのまま張り付けたように青白く明滅している。
ゴミはソネミの後頭部をガンツチで殴る幻覚を見てしまった。恐ろしくうらやましい光景を振り払うよう、ゴミは外出準備をした。
「にいちゃん、これから出掛けてくるから、ソネミは家でおとなしくしてるんだよ」
「ソネミ、きょうも、ケーキたべる」
「探してくるよ、それじゃあ」
ソネミを家に置いてコヤを出る。警邏のブタもヤリがふるとなれば、そのマエシマツに駆り出されていなかった。
シミンノメを掻い潜り学校へ向かうなか、ドバワーンドバワーンと遠くでヤリの弾ける音が聞こえてきた。
対消滅のオーケストラが市内に溢れるまでに、ゴミはマヨとケリをつけなければならなかった。
学校はシンとしており、ゴミの目にもムジンである事がわかった。セッタを脱いでからウワバキに履き替えようとセッタカゴを覗くと、キレイなパピルスにオンナ文字がかかれていた。
「オクジョウヘ、コイ」
ゴミは持ってきたワッフルダックからショウジュウを取り出した。
なにか爆発的な考えがあったわけではない。ただこの圧倒的な暴力性の鉄塊は、荒ぶるゴミのナイゾウを沈める安定剤に他ならなかった。
誰もいない廊下で、ゴミの足音だけがヒタヒタと反響を繰り返す。ニンゲンコピーが溢れかえる学校も、今や一年前のようにニンゲンの足音だけでミチミチていた。
屋上の戸は鍵が壊され開いていた。ゴミはジリジリと戸に近寄ると戸ノブに手をかけた。使う予定のないショウジュウを持つ手にも、自然と力が入る。非常に希なケースを加味して、アンゼンセレクタをレンソウへスイッチしたゴミは、屋上へ耳をカベゾエた。
ドバギャーンと、頭上でヤリの炸裂する音が聞こえたゴミは、勢いをつけて屋上の戸をあける。
わずか十メートル先でマヨが、ゴミのほう目掛けてショウジュウを構えていた。
慌ててゴミもショウジュウを構えた。緊張したゴミの指は、ゴミの意思より先に引き金を絞り、ショウジュウが作動する。
ドギャラララと凄まじい爆音を出しながらショウジュウは垂直方向へ飛び上がった。
「うわぁ」
思わずヘニクソな声を漏らしてしまったゴミは、暴れ狂うショウジュウから手を放した。使用者を失ったショウジュウは、そのまま地面へ落ちると、サイゴッペのように一発だけ弾を漏らしてから沈黙した。
ショウジュウの先端からモクモクと白煙が煙る先に、ゴミは全く無傷のマヨが立っているのを理解した。
「やっぱりお前も、妹と同じトッパッパーだな」
マヨの口から呆れた声色が流れ出る。
頭上のヤリが奏でる対消滅のオーケストラはフィナーレを向かえていた。一際大きく頭上で炸裂したヤリの閃光が、市上空のバリアから降り注ぐ。
その光に照らされたマヨの顔は、ゴミが学校で見る顔に比べて一際けわしく眉をひそめていた。