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ロケットえんぴつ  作者: たちまちくらち
3/5

踊る名誉人間

翌朝早くに目が覚めたゴミは、昨日の贅沢の残骸を余所目に玄関へ向かった。なにせ昨日はヘドをそのままにしてしまったので、誰も起きてこない早朝のタイミングに回収しようと思ったのだ。

戸をあけると足元に昨日と同じような格好でヘドが横たわっていたので、ゴミは心底安心した。


ゴミはコヤブタのサボり癖を知っていたが、偶然昨日がそのサボり日だったのだと理解した。

それから誰かに感謝して空に手をあわせると、妹のソネミの為に朝と昼の食事を作り始めた。

ちょうどカネシを皿に盛り付けた時、玄関の戸ベルがパロパロと鳴いた。

朝食の時間に外を出歩くなんてクビタケな奴がいたものだとゴミは思ったが、念のため戸越しに声をかけた。


「あのー、どちら様でしょうかー」

「刑罰課のドヨメキです、伺いたいことがありまして」


ゴミのゾウモツが、裏返りしそうなほど跳び跳ねた。

昨日のヘド不始末の事か、ベンリーマートに出掛けたのを通報されたのか。

もしそうならアンカケは免れない。戸ノブにかけていた手のひらから、ピンクの汗がジットリと染みでてくる。


「ゴミ君、俺だよヒラメキだ」


ゴミのピットリした緊張は、聞きなれた別の声で霧散した。戸ノブに掛けた手からヘニヘニと力が抜け、やはりゴミは誰かに感謝した。


「ヒラメキさんでしたか、今開けます」


戸を開けた先には二人のキツネが立っていた。

ヒラメキと名乗ったキツネは古い制服を着ており、白髪マシ溝アリのトシゴロな見た目をしていた。ゴミもよく知る第二世代のヒトで、両親のいないゴミの面倒をよくみてくれる優しくジョウギな性格をしている。

もう一人のドヨメキと名乗ったほうは、メリの効いた綺麗な制服をきたヒトだった。顔はツルツルとしていて、アゴにはしょっぱいヒゲがチビチビと群生していた。


「ドヨメキは新人だから、俺がシドウに配属されたんだ」


ヒラメキは胸ポケットからヘラヘラの手帳とペンを取り出した。ドヨメキはヒラメキの仕事仕草をドリルするくらいに見つめている。


「それでヒラメキさん、今日はどんなごようですか」

「昨日このニンゲンゴヤにオンナがいたと連絡があってね。同じ階層の目撃情報だったから一応」


ゴミの脳裏に浮かんだのは、戸の下に放置されたホヤホヤのヘドの事だった。しかしその事を話せば、きっとヒラメキはゴミが外にでていた事に気がつくだろう。結局、ゴミにはヨソゴトを貫くしかなかった。


「学校の間ソネミが外をみていたのかもしれません、でも大丈夫かと思います」

「もしかして、オンナがいるんですか、重大な条例違反ですよ」


ドヨメキがいさんでコヤの中に入ろうとするのを、ドヤを取り出したヒラメキが制した。


「落ち着け、例外処理を忘れるな」


ヒラメキがいつものを出してくれと頼んだので、ゴミはシリタブに挟んでいた父のカードをわたした。

キラキラと光るそれには、父の名前と「名誉人間証明」のナンバーが書かれていた。


「名誉人間ですか」

「ドヨメキ、このあたりに来るなら覚えておくんだな、朝食中に邪魔して悪かったよ」


ヒラメキがコヤの奥に向かってニカニカと手を振った。ゴミがふりかえると、チラリと顔を除かせたソネミが、ニカニカと手を振り替えしていた。

ドヨメキはケゲンガンな顔をしていたが、ヒラメキに小突かれて背筋をピリッと伸ばした。


「そうだゴミ君、今日はヤリが降るから学校はないよ」


ヒラメキはそういってヤリ回収のビラをゴミに渡した。それから二人のキツネは深々とイチレイすると、ニンゲンゴヤから立ち去っていった。

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