ミンスミートのシロアブラ
ゴミは、えらく出来の悪い生徒だった。
第四世代のニンゲンとは思えない程で、おぼえの悪さや不器用さなど、第五世代のニンゲンコピーにさえ、ニンゲンとして遅れをとっていた。
ほかのニンゲンは皆卒業したのにも関わらず、ゴミより先にニンゲンコピーの生徒が卒業し始めた頃、ヒトタタキが始まった。
最初にゴミをヒトタタキし始めたのはマヨだった。
第五世代のマヨはとても優秀で、卒業間近ともうわさされていた。
それに比べてゴミの凄惨たる成績といえば、皆に優しく教えを説いていた教師のカンチョーも、今しがた、エイヤァとさじを投げた程だった。
カンチョーがゴミを見放すと、マヨはすぐにゴミの前に現れた。
クリーム色の髪の毛はニンゲンコピーの証だった。
身長も切り揃えられた紙束のように、正確に百七十センチ。どれだけ顔や性格が違うとも、マヨを含めるすべてのニンゲンコピーは、同じ体型をして、同じクリーム色の髪をしていた。
後ろからみれば誰が誰だかわからない程で、そのためニンゲンコピーは、髪型で個性を主張するのだった。
頭の左右に髪束をぶら下げるに飽きたらず、二本の金魚のフンを漂わせてマヨはゴミを見下ろしていた。
「あんた第四世代よね、他の奴等は卒業してるのによっぽどネジハズレなのかしら」
「僕に辛く当たるのはよしてください、その、あなたにはなにもしてないはずです」
机でちぢこまるゴミのとんちんかんな反論に、マヨは文字通りヘドをはいた。
カスタード色のクリームがゴミの机に広がるあいだ、マヨは薄黄色のひとみで、ネジハズレのニンゲンをにらみ続けていた。
それからコーンキーンコンカーンと、体育の時間を知らせるチャイムがなると、マヨはショウジュウを抱えてそのまま体育室へ出ていってしまった。
ゴミは、机の上のなま暖かいヘドを放置するわけにもいかず、チリトリで集めてから教室のヘド入れにしまうのだった。
マヨはことあるごとにヘドをはいた。
回収できない場所にヘドをはくのは条例違反だったが、はきどころがゴミであると知ると、みな知らぬ存ぜぬをつきとおした。
そしてゴミはやはり条例違反はしたくないと、せっせとそれを集めてはヘド入れにしまっていた。
その光景を見ていたニンゲンコピーも、やがてアタマガワリやらダイサンクズレなど、散々な言葉を浴びせ始めた。
もちろん、マヨを含めて周りのものは、死語の本当の意味など知るはずもないのだが、だからこそ、ここまで恐ろしい言葉でさえ、簡単に吐き捨てられるのだろう。
ゴミはほんの少しだけ、父のヤッカミから古い言葉について聞いていた。もう記憶も薄れるほどの遠い話だったが、ゴミの気分を惨めなミンスミート見たいにするには十分な思い出だった。