カブの港8
「いらっしゃいませ……メイド服?」
「こんにちは、3人ですが泊まることはできますか?」
「は、はい、可能ですが、3人が宿泊できる部屋で現在空いているのがこちらのスイートルームしかありません。お値段の方が少し高く……」
そう言って部屋の間取りが書かれている紙を見せられて説明される。確かに一番きな部屋で、海が一望できるような場所だった。
「だってー、どうする?別のところ行く?」
「い、一応値段を聞いてもいいですか?」
クレアは恐る恐るその値段を尋ねる。
「1人金貨30枚になります。合計90枚ですね。」
受付の答えに3人は安堵のため息を漏らす。
「なんだー想像より安かったね。」
「よかった。」
レイリンとオリビアの呟きに受付ははてなマークを浮かべていた。
「その値段なら宿泊します。」
「し、失礼ですが、料金の方は大丈夫でしょうか?」
高級そうな服を着ている貴族ならまだしも、メイド服を着ている子供3人では払えないと思うのも納得がいく。しかしメイドはメイドでも、グルンレイドのメイド。ラキウスからの報酬である金貨100枚がなくても、3人の持参している金貨でも十分賄える額だった。
「これでお願いします。あまりはチップとしてどうぞ。」
クレアはラキウスからもらった袋をそのままテーブルに置く。受付が中身を秤の上に乗せて枚数を計測する。
「金貨100枚……!た、確かにお受け取りしました。」
そうするとすぐに部屋のキーをクレアへと渡す。
「オプションで食事をご用意できますが、どうされますか?」
「夜は町で食べるので、朝だけでお願いします。」
「……失礼ですが、年齢を教えていただけますか?」
「みんな15歳くらいです。」
「皆様のご年齢ですと夜間の食事は難しいと思われます。」
3人は首を傾げる。
「カブの港のほとんどがアルコールが提供される場所です。そしてこの場所は王国の管轄ですので、“夜間のアルコール提供がある店への未成年の出入りは禁止“という法が適応されてしまいます。」
「えっ、アルコールが出ない店はないんですか!?」
「申し訳ありません、夜間において、私が知っている限りではございません。」
現地の人がそう言っているのだから、クレアたちにはどうすることもできない。
「ですが、スイートルームご利用のお客様には食事の提供もございます。」
「……それでは3人分の夕食をお願いします。」
クレアは内心残念に思いながらも、受付にそう告げて早速部屋へと向かっていった。
「お!すごい!」
クレアが扉を開けると、目の前には豪華な部屋と茜色に染まった海が広がっていた。
「……綺麗。」
オリビアが窓を開けると爽やかな風が吹き抜ける。夏の匂いと、潮の香りが交わった、少女たちが初めて感じる匂いに心を奪われていた。
「じゃあ、ちょっと早いけど、お疲れ様パーティーでもする?」
夕日に目を奪われていた数秒の沈黙の後、レイリンはそう声を上げた。それに応えるように残りの2人もその景色から目を逸らす。
「お疲れ様パーティーって言っても、食べるものも何もないけどね。」
「ところが……じゃん!」
と言ってレイリンが自身のカバンから何かを取り出して机の上に置いた。
「これは、チョコレートにクッキーに……ケーキ!?」
クレアは驚きの声を上げる。なんとレイリンのカバンの中のほとんどがグルンレイド製のお菓子ばかりだったのだ。ケーキは一つ一つ丁寧に魔法障壁で包み込み、鮮度を保持し、形が崩れないようにしていた。
「ケーキの魔法障壁、頑張ったんだから!」
「頑張るところがそこ……?」
オリビアは呆れたような声と表情を見せるが、視線はケーキに釘付けになっている。
「それじゃあ、紅茶を入れて……」
茶葉は誰も持ってきていなかったようなので、この部屋に備え付けられていたものを使用する。
「お、ちゃんとお湯を生成する魔道具もある。」
グルンレイドの街の宿泊施設には必ずと言ってもいいほどあるものだが、一般的にはないことの方が多い。クレアは水筒の中の水を魔道具に入れて沸騰させ、備え付けの器具を使用し紅茶を入れていく。本来であれば、宿の受付などで水をもらうことができるのだが面倒臭かったようだ。
「それじゃあ、お疲れー!」
ティーカップを少し上げると、3人の小さな宴は始まった。
「何これ、美味しい!」
「リ・ルフランテの新作!頑張って並んで買ったんだよ!」
レイリンが自慢げにそう告げた。グルンレイドの街には様々な菓子店があり、そのどれもがこの世界の中で最先端を行っているのだが、リ・ルフランテという店はその中でも群を抜いている。グルンレイドの街にある菓子店の全ては、日々美味しいものを作ろうと研究しているのだ。
「でも、もうすぐ夜ご飯だけど?」
「っ……ま、まあ甘いものは別腹じゃない?」
オリビアが鋭い指摘をするが、それに目を瞑るようにクレアは話題を逸らした。
「私は半分だけにするけど。」
オリビアはそういうと、残り半分ほどになったケーキに丁寧に魔法障壁を展開させていく。
「お、レイリンちゃんは気にしないよね?」
「もちろん!いっぱい食べるよ!」
レイリンはお菓子を袋から開けては、美味しそうに頬張っていく。
「ほら!レイリンちゃんだってこんなに食べてるし、これくらい全然大丈夫……」
しかしクレアは手を止めた。レイリンはよく食べる。それは今まで3人で過ごす中で周知の事実となっていた。なのにだ、その体型は3人の中で最も細い。
「へぇークレア、いくら食べても太らないレイリンを参考にするんだ。」
「ぐっ……ケーキ、1つまでにします。」
「えー、いっぱい食べたらいいのにー。」
ガックリと項垂れたクレアを見ながら、パクパクとお菓子を口に運んでいるレイリンがそう告げていた。
軽い打ち上げが終わると、宿が用意してくれた夜ご飯を食べた。そのあとに少し外を散策するつもりだったようだが、今日の疲れのせいなのか、気がつくと3人ともぐっすりと眠りに落ちていった。




