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極悪辺境伯の華麗なるメイド  作者: かしわしろ
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海底神殿6


それからどれだけの時間が経っただろうか。


三人は交代で攻撃を仕掛け、機械に休む暇を与えなかった。アナスタシアの闘気による攻撃を主軸に、リアが陽動と魔法による援護、私は地形を利用した足止めと連携の指示を出し続けた。


機械は強かった。魔力がないため観測魔法で捉えられず、自己修復能力も持っている。しかし修復には時間がかかる。修復が追いつかないほどの速度で攻撃を加え続ければ、いずれは動かなくなる。


「はぁ、はぁ……」

アナスタシアの息が上がっていた。……あまりにも耐久力がありすぎる。古の物質がすごいもの、という話であれば早いが、何か仕組みがある気がする。気になるのは……この不自然なくらいの聖力か。


「リア、瘴気を全力で開放して。」

「……了解!」

リアは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに私の指示に従う。


「アナスタシア、下がって。」

「かしこまりましたわ。」

アナスタシアも私の指示にすぐ従い、後方へと下がり、リアの瘴気に備えるためにすぐに全力で魔法障壁を唱える。私は、カバンから『平衡する女神像レプリカ』を左手に持つ。これは触れていると自身の瘴気を肩代わりしてくれる魔道具である。しかしこれはレプリカであり、許容量もそれほど多くはない。


「メルテちゃんの許しも出たし、全力、いっちゃおうかなー!」

そういった瞬間に、リアを中心に周囲にプラズマが走った。なんてエネルギー……私は、吹き飛ばされないように魔法でエネルギーを受け流し、機械に近づいていく。


「ふ、ふふふ……あはははは!一撃で消してあげる。」

魔神化……リアにまがまがしい角としっぽが生え、周囲の空気が一気に瘴気で満たされる。……性格も少し変わるのだろうか。私の指示を待つ前に、リアは機械に攻撃を仕掛ける。


「華流・黒花かんざし」

リアの剣先が機械に直撃した。凄まじい衝撃が空間を揺るがし、壁面の紋様が明滅する。機械の胴体が大きくえぐれ、右腕がもぎ取れて床に転がった。


「あはっ、どう?」

リアが不敵に笑う。普段のリアとは明らかに違う。瘴気に引っ張られているのか、声も表情もどこか攻撃的だった。

しかし——。


「修復……シマス。」

えぐれた胴体が、見る間に塞がっていく。それだけではない。もぎ取れた右腕の断面から新たな金属が生成され、数秒で元通りに接合された。


「……速い。」

さっきまでの修復速度とは明らかに違う。アナスタシアの闘気で胸部にひびを入れた時は、修復にそれなりの時間がかかっていた。しかし今の修復は一瞬だった。


「はぁ?もう治ったの?じゃあもう一発——」

「待って。」

私はリアの前に手を出して制した。


「メルテちゃん、邪魔しないでよ。もう一発撃てば——」

「同じことの繰り返しになる。落ち着いて。」

じろりとリアの目を見据える。魔神化した状態のリアは衝動的になりやすい。ここで冷静さを欠けば、魔力も瘴気も無駄に消耗するだけだ。正直、私の左手に持っている女神像も顔以外が真っ黒く染まっていた。顔まで染まってしまえば、蓄積量が最大になったということだ。そうなってしまえば魔神化したリアのそばで、流暢に考えを巡らせる時間などなくなる。


「……わかった。」

従ってくれなければ、力づくで抑え込もうと思ったが、おとなしく従ってもらえたようだ。そして、私にあまり瘴気が届かないように配慮をし始める。


 私は思考を巡らせる。損傷が大きいほど、修復が速くなっている。それは不自然だ。自己修復は内部のエネルギーを使って行われるはず。大きな損傷を瞬時に修復するなら、それだけのエネルギーが必要になる。にもかかわらず、機械の動きは一切鈍っていない。つまり——外部からエネルギーが供給されている。

そしてこの神殿に充満している不自然なほどの聖力。授業では言及されなかった聖力。

……繋がった。


「リア、瘴気をそのまま維持して。アナスタシア、こっちへ。」

「何か分かりましたの?」

「多分。確認する。」

 私は全力で観測魔法を展開した。通常の観測魔法では魔力と瘴気の反応しか捉えることができない。だから、瘴気を全力で観測する。

 リアの瘴気がこの空間を満たしている。瘴気と聖力は相反するエネルギーだ。瘴気が充満すれば、聖力は押し退けられる。つまり——聖力が供給され続けている箇所があれば、そこだけリアの瘴気が薄くなるはずだ。

 目を閉じ、意識を集中させる。瘴気の分布を読み取る。均一に広がっているように見えるが……。


見つけた。


 左奥の壁際。そこだけ、わずかに瘴気の密度が薄い。瘴気が押し返されている。何かが聖力を供給し続けている。


「あそこ。左奥の壁の裏側に何かいる。」

「何かって……?」

「聖力の供給源。あれがある限り、機械は何度壊しても再生する。」

「なるほど……それを断てばいいのですわね!」

アナスタシアがすぐに理解を示す。


「リア、機械を抑えていて。倒さなくていい、動きを止めるだけで十分。」

「了解……あんまり長くは保たないよ?」

魔神化の維持にも限界がある。早く決着をつけなければならない。


「アナスタシア、壁を壊して。供給源を叩く。」

「かしこまりましたわ。」

 リアが機械に向かって瘴気を纏った鎖のような魔法を展開し、機械の動きを拘束する。機械は振りほどこうとするが、魔神化したリアの瘴気は簡単には破れない。

その間に私とアナスタシアは左奥の壁に向かって走った。


「バルザ流・断頭!」

アナスタシアの闘気を込めた一撃が壁に叩き込まれる。古の物質で作られた壁は硬かったが、闘気の前には砕けた。壁の向こうに隠された小さな空間が露わになる。


「……!」

そこにいたのは、人型の存在だった。白い髪、白い肌。頭上には天使の輪。


「聖族……。」

私は息を呑んだ。海底神殿の壁の裏に、聖族が潜んでいた。その手は機械の方へ向けられていて、そこから絶え間なく聖力が流れ出ている。機械への供給ラインだ。

聖族はこちらを見据えた。感情の薄い目。しかしその目には明確な敵意が宿っていた。


「……人間が、ここまで来るとは。」

低く、静かな声だった。しかし、美しいとも感じる。


「あなたが機械に聖力を供給していたのですわね。」

アナスタシアが剣を構え直す。


「この神殿は我が管轄。去れ。」

「それはできない。」

私が答えると、聖族は片手を私たちに向けた。聖力が凝縮されていく。


「ならば排除する。」

聖力の光弾が放たれた。私はとっさに魔法障壁を展開するが——貫通された。


「くっ……!」

わき腹を貫かれ、血が出るが、すぐに回復させる。……しかし、回復の速度が遅い。聖力は魔力を打ち消す性質がある。つまり、魔法を主体とする私では、この相手とは相性が最悪だ。


「メルテさん!」

「私は大丈夫。アナスタシア、お願い。聖力は魔力を打ち消す。魔法では防げないし、攻撃も通りにくい。でも闘気は魔力じゃない。あなたの闘気なら聖力の影響を受けない。」

アナスタシアの目が一瞬見開かれた。しかしすぐに理解し、表情が引き締まる。


「かしこまりましたわ。」

「去れと言っている。」

聖族が再び聖力を凝縮する。しかしアナスタシアはもう動いていた。


「バルザ流——」

以前までとは違う、力みのない闘気の扱い方。外に纏うのではなく、体の芯を流れる水のようにな……そして剣を振る瞬間にだけ——解放する。


聖族の聖力弾がアナスタシアに向けて放たれた。しかしアナスタシアは身を低くして紙一重でかわし、一気に間合いを詰める。


「……。」

聖族の目が鋭くなる。聖力による攻撃を避ける人間など想定していなかったのだろう。


「穿一閃!」

凝縮された闘気が聖族の腹部に突き刺さる。聖力による防御膜が展開されたが、アナスタシアの攻撃はそれをたたき割る。もしこれが魔力であれば、聖法障壁の前に威力が大幅に減少して、いとも簡単に受け止められていただろう。


「がっ……!」

聖族が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。


「まだですわ!」

アナスタシアは追撃の手を緩めない。立ち上がろうとする聖族に対して、さらに踏み込む。


「聖法・ディバインシールド!」

聖族が全力の防御を張った。光の壁がアナスタシアの前に立ちはだかる。


「これで防げると思いましたの?」

アナスタシアの声は冷静だった。闘気を剣に流し込み、極限まで凝縮させる。


「バルザ流奥義——」

光の壁に剣を突き立てる。聖力の防御は魔力に対しては絶対的な効果を発揮する。しかし闘気は魔力ではない。人間だけが使える、人間だけの力だ。


「桜花断!」

一閃。

聖力の壁が、桜の花びらのように砕け散った。その先にいた聖族の胸に、アナスタシアの剣が届く。


「人間が……闘気だけで、我の聖法を……」

聖族は信じられないというように呟き、その場に崩れ落ちた。意識を失ったようだった。

その瞬間、空間から聖力が急速に薄れていくのを感じた。供給が途絶えた。

向こう側で機械を拘束していたリアの声が響く。


「あっ、急に弱くなった!もしかして——」

「今!リア、壊して!」

「了解っ!」

聖力の供給を断たれた機械は、もう修復ができない。


「これで——おしまい!」

リアの拳が、瘴気を纏って機械の胸部に叩き込まれた。

今度は修復の声は聞こえなかった。

機械の体が内側から砕け、光の線が完全に消え、金属の残骸が床に散らばった。

静寂が戻る。

リアの角としっぽが消えていき、元の姿に戻った。そのまま膝から崩れ落ちる。


「はぁ……はぁ……つっかれた……」

「リア!大丈夫ですの!?」

アナスタシアが駆け寄り、リアを支える。


「大丈夫……ちょっと、魔力使いすぎた……」

私もその場にへたり込んだ。三人とも限界だった。


「……少し、休もう。」

誰も異論はなかった。三人は機械の残骸から離れた壁際にもたれかかって、しばらくの間、ただ荒い呼吸を繰り返していた。


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