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極悪辺境伯の華麗なるメイド  作者: かしわしろ
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海底神殿5

深度が増すにつれて聖力はさらに濃くなっていった。リアは歯を食いしばって耐えているが、額に汗が浮かんでいるのが魔法障壁越しにも見える。


『リア、無理なら言って。』

『大丈夫……まだ、いける。』

強がりではないと判断した。リアの瞳にはまだ力がある。ただし、このまま聖力が濃くなり続けるようであれば、撤退も視野に入れなければならない。


そう考えていた時、暗闇の中にぼんやりと輪郭が浮かび上がった。


『あれ……建物?』

リアが指を差す方向に、巨大な構造物が横たわっていた。サーチライトの光を向けると、その全容が少しずつ明らかになる。


石造りの柱が等間隔に並び、崩れかけた壁が海底の砂に半ば埋もれている。しかし朽ち果てた廃墟というわけではなく、柱の表面には今も淡い光を放つ紋様が刻まれていた。紋様から聖力が漏れ出ている。これが聖力の発生源のようだ。


『これが海底神殿……。』

アナスタシアが息を呑む。


授業で文字として認識するのとは全く印象が違った。古の文明の遺産とは聞いていたが、こうして実物を目の前にすると、その圧倒的な存在感に言葉を失う。千年以上前の人間が建てたものが、海底でなおこの状態を保っていた。


『入口を探す。ついてきて。』

神殿の外壁に沿って移動しても、入り口となるようなもんなどは見当たらなかった。いずれの方向から見ても壁だけ……。


『聖力が強く漏れ出てるところがあるよ。』

そう言って、リアは神殿から少しはなれた地面……砂の上を指さした。私とアナスタシアは魔力や瘴気を観測することはできるが、聖力は精密に観測することはできない。わかるのは『今ここに聖力が充満しているな』というざっくりとしたことくらいだ。しかし、リアは聖力には敏感なようで、私たちよりは具体的に違和感を感じ取ることができるようだ。


私たちはその砂のもとまで近づき、手で払ってみる。するとそこから地下に続くような扉が現れた。


『これを開けるのかな。』

リアは取っ手を手に取り、ゆっくりと開ける。


『うえぇ……きつい。』

より濃密な聖力があたりを包み込み、リアの表情がひきつる。しかしここで立ち止まるわけにはいかない。



『リア、瘴気で守っていいよ。私たちは魔法障壁をより強くはるから。』

『ありがとう……!』

リアから瘴気があふれ出るのを観測したが、私は魔法障壁を展開しているので不快になることはなかった。


私たちは床にあった入り口から、中に侵入する。ずっと下へと向かうのかと思いきや、すぐに海底神殿のほうへと道が曲がった。道なりに進んでいくと、次は上へと続いていた。地下からの侵入が正規の道……と考えるにしては、整備されていないし、何より不自然だ。神殿とは、何か崇高な存在が出入りする場所だろう。それがこんな地下を通るはずがない。


「ふーっ!空気!」

狭い通路を抜けると、そこは空気に満たされた空間が広がっていた。私たちは空間魔法をいったん解除し、この空間の空気を吸ってみる。


「有害な物質が混ざっているわけでもなく、空気もよどんでいない……まるで森の中にいるみたいに澄んだ空気ですわね。」

アナスタシアの言う通り、ここの空気は長年外気から遮断されている場所とはおもえないくらいに澄んでいた。水中の負荷から解放された私たちは、しばらくその場に立って呼吸を整えた。


「すごい技術ですわね……千年以上海の底にあるのに、水を完全に遮断しているなんて。」

アナスタシアが周囲を見回しながら感嘆の声をあげる。

神殿の内部は想像以上に広かった。天井は十メートル以上の高さがあり、壁面には先ほどと同じ光る紋様が刻まれている。そして何より天井にある球体……浮いているのだろうか。その球体が出す光はまるで太陽の様に輝かしく、あたり一帯を照らしていた。私はサーチライトを消す。


「リア、体は。」

「まだしんどい。けど、空間魔法を使用していないぶん楽。」

本来であれば隠密行動をするべきなのだが、今回はリアも私たちも魔法障壁を常に展開しなければならない状況だ。多少観測魔法を使えるものであれば、すぐにばれてしまうので隠す意味はないだろう。


「先に進む。警戒を維持して。」

三人は神殿の奥へと歩き始めた。




——




通路は一本道だった。壁の紋様に導かれるように進んでいくと、所々に崩れた石柱や割れた床があったが、通行に支障はなかった。千年の時を感じさせる風化はあるものの、構造そのものはしっかりと残っている。


「ここ、何かの部屋だったのかな。」

リアが足を止めた場所には、石で作られた台のようなものが並んでいた。その上には砕けた器や、用途のわからない金属片が散らばっている。


「研究施設か、あるいは工房のようなものかもしれませんわね。」

アナスタシアが金属片を一つ拾い上げて観察する。よく見ると、非常に細かな構造になっているようだった。魔道具の内部もこんな感じだった気がするが、私はあまりそういう部分には詳しくないので断定はできない。


さらに奥へ進むと、通路は急に広い空間へと開けた。


「……ここ、すごい。」

リアが見上げる。その空間はこれまでの通路とは比べものにならない広さだった。天井はさらに高く、まるで地上の大聖堂のような荘厳さがある。壁面の紋様もこの部屋では一段と強い光を放っていて、空間全体が青白い光に包まれていた。


そしてその中央に、台座があった。

台座の上に、何かが光っている。ここからでは小さくてはっきりとは見えないが、あれがシーズロマンスだろう。


「あった。」

私がそう言った瞬間だった。




ピ、ピー、ピ。


人間の声ではない。機械的な電子音が空間に反響する。


「っ!」

三人は即座に臨戦態勢に入った。私は周囲に魔力を拡散させて索敵を試みるが——何も感知できない。魔力反応がない。


「コードネーム〇四七……起動シマス。」

ガシャン、という金属音が右側の壁際から聞こえた。暗がりの中から何かが動き出す。


壁に寄りかかるように静止していたそれは、人間の形をしていた。しかし肌は金属で覆われていて、関節部分には光の線が走っている。コトアルさんと同じ——マシニング族だ。ただし、コトアルさんとは明らかに異なる点があった。目に光がない。意思を持っていないということだ。


「生体反応ヲ確認。攻撃ヲ開始シマス。」

瞬間、機械の姿が消えた。


「メルテちゃん!」

リアの叫び声と同時に、私は剣を抜いて横に薙いだ。手応えがあった。しかし——硬い。刃が食い込まない。


「くっ……!」

弾かれた衝撃で体が後方へ飛ばされる。受け身を取りながら着地し、すぐに体勢を立て直した。


「華流・周断!」

リアが斬りかかる。魔力を込めた一閃が機械の腕に命中するが、火花が散るだけで傷らしい傷は見当たらない。


「硬い!全然斬れない!」

「バルザ流・断頭!」

アナスタシアが闘気を込めた一撃を振り下ろす。機械の肩に刃が触れた瞬間、わずかに金属がへこんだ。


「アナスタシアが攻撃。リア、攻撃よりも注意を引いて。」

「了解!」

「かしこまりましたわ!」

二人はすぐに私の指示に従った。リアが魔法で機械の周囲に攻撃を仕掛け、その注意を引きつける。その隙にアナスタシアが闘気を込めた斬撃を叩き込む。


「超加速——」

機械が何かを発しようとした。


「させない!」

私は地面の石畳を魔法で隆起させ、機械の足元を崩した。バランスを崩した機械の隙を、アナスタシアは見逃さない。


「バルザ流——」

極東で習得した新しい闘気の使い方。体の内側を通し、剣を振る瞬間にだけ解放する。


「穿一閃!」

凝縮された闘気が一点に集中して叩き込まれる。ガキン、という音と共に機械の胸部にひびが入った。


「効いてる!」

リアが叫ぶ。


「一部損傷……修復シマス。」

しかし機械はひびの入った箇所を自ら修復し始めた。金属が融解するように動き、傷が塞がれていく。


「治るんだ!」

修復より早く壊せばいい。私はそう判断した。



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