カブの港2
目立つのを避けて馬車は近くの森の中にとめ、王国騎士団の救援を待っていた。それらが到着すると、見習いメイド3人はサラたちと別れカブの港へと向かった。
「あれが王国騎士団か……初めて見た。」
「あれ?オリビアちゃん王国に行ったことないの?」
王国に行けば警備のため、騎士団は至る所に存在している。それを見たことがないというのは、王国に行ったことがないと判断されてもおかしくはない。
「私はいつも家にいたから。」
オリビアは貴族だった。多くの貴族は王国で過ごす期間というのもが存在し、妻と子を連れてそれにのぞむことが多い。しかしオリビアは家系はそうではなかったようだ。
「私は小さい頃よく王国に来たなー。もうかなり昔の記憶だけどね。」
今は王国によらずにカブの港へと移動していて、目的のものを届けたらその帰りに寄る計画になっていた。しかし、空を飛んでいると上から王国の様子が少し見えてしまうのだ。久々の王国にクレアは少しワクワクしていたが、あまりいい思い出がなかったなと考える。
「私も久しぶりに王国の街並みを見てみたいな……ちょっと怖いけどね。」
レイリンも王国にはあまりいい思い出がないようで、完全に乗り気というわけではなようだ。それもそのはず、ここにいる3人は下級貴族の娘であり、王国において下級貴族というのはそれほど良い待遇を受けているわけではなかった。特に正義感の強い下級貴族ほど、虐げられているというのが現状だ。
「私たちの顔が知られてたりするのかな……?」
「オリビアちゃんはないとして、もしかしたら私やレイリンちゃんはあるかも。」
レイリンは少し怯えたような表情を見せるが、すぐにクレアがフォローする。
「この服を着ている今、手を出してくる人はいないと思うから大丈夫……だと思う。」
「う、うん。」
クレアも確信を持てないようで言葉を濁していたが、この上質なメイド服を着ていると安全というのは的を得ていた。王国はグルンレイド領と目と鼻の先。“グルンレイドのメイド“とはどのような存在なのかは嫌というほど周知されているからだ。
「話してるところ悪いんだけど、まさかここ通るの?」
「あ、うん、そうだよ。」
気がつくと3人は王国を通り過ぎ、カブの港前の巨大な山脈にぶつかる。
「山賊は?」
「いないよ。フリーマウンテンよりもかなり強い魔物が出るからね。」
「それ、山賊より厄介じゃない?」
「いやそんなことはないと思う。出てくる魔物は私たちでも倒せるレベルだから。」
ではなぜクレアたちを圧倒するような力を持った山賊が、王国とカブの港の間の山にいないかというと、単純に強い魔物の対処が面倒臭いからである。危険度がAを超えてくると、より強固な隠蔽魔法が必要になるし、力の弱い下っ端山賊などは使い物にならない。山賊にとって快適に過ごせるレベルの魔物が出てくるのがフリーマウンテンなのだ。
「それにしてもまた高い山だね。」
「整備されている道が見えるけど、馬車のない私たちにとっては通る必要ないか。」
実際に見てみるとグルンレイド領と王国、王国と港などの移動がかなり大変だというのを、レイリンとオリビアは痛感する。
「じゃあ、ワイバーンに合わないように、木のてっぺんぎりぎりを飛んでいくからね。」
「了解!」
「わかった。」
クレアの指示に従い、3人は山を登って行った。
この場所はトリエ山脈と呼ばれており、王国の東側に連なっている。出現する魔物も特に目立ったものはなく、変異個体も発見されていないが平均危険度は周囲よりも少し高い。3人が魔物と戦うことになったとしても何の問題もないだろう。
「前方にボア発見!」
「レイリンちゃん、あれはギガントボアだよ。」
「あ、え……本当だ!」
レイリンはいつも見ているボアより一回り大きく、背中に澄んだ黄緑色の鉱石がついているのを見て気がついた。
「結構レア魔物じゃない?」
「確かにそうだね。」
オリビアの問いかけにクレアはそう答える。ギガントボアの出現確率はボアの1000分の1程度であり、なかなか出会えるものではない。
「ねぇ、あれ、とっちゃう?」
そしてその背中の綺麗な石は“高純度翡翠“という宝石であり、入手難易度から一般市場に出回ることはないほど貴重なものだ。その効果は魔力伝導率を上昇させるというもので、武器などに取り付けることが一般的な使い方である。
「私、欲しい。」
珍しくオリビアが目を輝かせている様子を見て、クレアもギガントボアを討伐することに決めた。




