新たな見習いメイド5
「本当によろしかったのでしょうか?」
「グルンレイドには無益な異世界人だ。放っておけ。」
屋敷内のエントランスに到着したイザベラは、再度そのように尋ねた。しかし本当は『ご主人様に無礼を働いた異世界人に罰を与えなくて本当に良かったのか』という意味だったのだが、イザベラは納得することにした。
「今回の騒動でマーティンの影響力が下がっていくだろう。いつも以上に動向を探れ。」
「かしこまりました。」
そういうとジラルドは早速連れて帰った奴隷たちを眺める。3人とも貴族奴隷ということだったが、ボロボロの服を着ていて、お世辞にも綺麗だとは言えない状態だった。
「メルテやリアの時とは違って、目立った傷はないな。」
意味のわからない強大な魔法を使用されて、さらには巨大なエントランスを前にして、奴隷である3人は完全に萎縮してしまっていた。
「ステラは休め。イザベラ、あとは任せた。こやつらがまともになったら今夜にでも私の部屋へ連れてこい。」
「「かしこまりました。」」
そういうと再びイザベラは時空間魔法を唱え、ジラルドは自室まで送り届けた。そしてすぐに戻ってくる。
「……1人で3人相手は難しいですね。」
「休めと言われましたが、手伝うことは可能です。」
「ありがとうございます。あとは……」
「カルメラですか。」
「カルメラですね。」
これで1人につき1人がつくことになった。困った時のカルメラ頼みは、グルンレイドのメイドの中では浸透していることだった。
「そういえばご主人様は名前をつけていきませんでしたね。」
イザベラは3人に近づくと数歩後退りをする。足が震えていたものはその場に尻餅をついてしまった。
「す、すみま……」
「楽にして構いません。別にとって食べるわけではありませんから。」
イザベラは尻餅をついた奴隷に手を差し伸べた。奴隷はその手を掴むと、申し訳なさそうに頭を下げながら立ち上がる。
「名前を聞きたいのですが……あなた、名前は?」
金が混じっている茶色のセミロング、奴隷にしてはかなり綺麗な髪質だとイザベラは思った。
「クレア……と言います。」
クレアはこの3人の奴隷の中で、一番落ち着きを見せていた。しっかりとイザベラの目を見つめる。
「いい目をしていますね。ステラ、お願いします。」
「かしこまりました。……ついてきて。」
ステラはクレアの方を見ると、ついてくるように指示をする。その言い方は少しぶっきらぼうに聞こえるが、これはステラが緊張しているからであって、新しく増えるメイドを嫌っているわけではない。
「は、はい。」
ステラの腰に装備している剣をチラッと見ると、震えながらそう答えた。イザベラはクレアが一定の距離を保ちながらステラの跡をついていく様子を見ると、次の奴隷のことを考える。
『後の2人は恐怖で体も動かないようですね……。』
まだ青髪の方は体が震えているので、会話をしようと思えば可能なのだが、もう1人の方は目が死んでいた。震えることもせず、ただ虚な目をして全てを諦めているようだ。
『カルメラは……少し怖がらせてしまいそうですね。今回はリリィに任せましょう。』
イザベラはそう考えると魔法によるメッセージをリリィに飛ばす。リリィは戦闘能力こそ他のローズたちに劣るが、その独特の性格のせいか他のメイドたちの好感度はかなり高い。イザベラでさえも、リリィのグルンレイドに対する忠誠心には一目置いており、かなり気に入っていた。
「あなたたちは休んでください。温かいお風呂に入り、温かい食事をすれば多少は元気になるでしょう。」
リリィがこの場所にくると、イザベラはこの場を離れていった。




