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極悪辺境伯の華麗なるメイドRe^2  作者: かしわしろ
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ムムツの谷底11

魔力の反応は一切なく、高密度の瘴気のみが充満していた。そして淡く光り輝く瘴気結晶が至る所に存在する分、下層よりも明るい空間が広がっていた。


『待って、囲まれてる。』

メルテがそういった。感知魔法を使用しているのだが、囲まれるまで気付けないというのはやはりまだローズに比べてその精度は劣ってるようだった。


「みんな、もう羽はしまって。」

魔法によるメッセージではなく、声に出してそう告げる。この羽を持ってしても見破られるのだったら、もはや谷底において隠蔽魔法を使用する必要はない。


「まず、ここら辺の魔物を片付けてから“カタストロフの心臓“を探そう。」

「了解!」

「わかりましたわ。」

3人は剣を手に取り、戦闘体制に入る。真っ黒いゴツゴツした体の人型の魔物が数体現れた。種族名はゴーレム、普通であれば体を構成しているのはただの岩なのだが、この黒色は何かしらの鉱石だろう。


「華流・周断……っ!魔力が通らない!」

思った以上の硬度にアナスタシアはすぐに後退する。ゴーレムはその体を構成している物質で危険度が大幅に変わる。今回は“黒鉄鉱石“のゴーレムであり、その強度はただのゴーレムの数百倍まで跳ね上がっていた。


「任せて!華流・」

リアが飛び出し、周囲に漂っている瘴気を吸収し始める。


「黒花かんざし」

迫り来る黒腕をかわし、剣先を体に当てる。すると、音を立ててゴーレムが弾け飛んだ。


「なんかすごく調子いいかも。」

この瘴気の中で常に全力の魔法障壁を展開しているメルテとアナスタシアとはうって変わって、周囲の瘴気の力を借りているリアの表情はとても明るいものだった。


「私も負けていられませんわ。」

アナスタシアは闘気を解放させる。魔力とは違い、エネルギー自身も光を発するようで、アナスタシアの周りはうっすらと白い光に包まれていた。


「バルザ流・断頭」

ガギィンという音とともに一度は硬い体に阻まれるが、アナスタシアはそのまま力任せに剣を振った。ゴーレムはものすごいスピードで向こうの暗闇まで吹き飛んでいった。


「おー……すごいパワー、だね。」

アナスタシアの場合は切断する、というよりは砕き割るという表現の方があっているだだろう。


「あと3体……」

メルテは2人の戦いを見て冷静に相手を分析していた。攻撃力と防御力はあるが、素早さはない。そして、幾つもの鉱石が合わさって体が構成されているが、鉱石と鉱石の間を繋いでいるのは高密度の瘴気。


「二人とも、体のつなぎめを狙って。」

「了解!」

「わかりましたわ!」

メルテは2人の剣を包み込むように魔力拡散結界を展開する。その剣が鉱石と鉱石の間に向かって移動し、触れる。するとつなぎ目の部分の瘴気が拡散され、右腕と左腕が地面に落ちた。


「落ちた方はただの鉱石に戻りましたわ!」

「あとは頭!華流・」

メルテが飛び出し、ゴーレムの頭上へ移動する。


「周断」

剣を振りかざすと、頭が二つに切断された。体を構成する鉱石の量が減るたびに、防御力と攻撃力が低下していくようだ。そうしてゴーレムの群れは全滅した。


戦っていたゴーレムの危険度はAだったが、その程度の魔物であれば見習いたちでも難なく対応できる。しかしムムツの谷底の平均危険度はA+。カメレオン型の魔物のような非常に厄介な魔物たちが至る所に潜んでいる危険指定区域。そんな中、3人を観測している魔物がいた。


「クス」

「リアさん?何か言いました?」

「ん?何もいってないよ?」


「クスクス」

次の声ははっきりと聞こえ、3人は休む間もなく再び戦闘体制に入った。


「クス」

「クス」

「クスクス」

周囲を囲まれているかのように、至る所から声が聞こえてくる。


「っ……!」

「どうしたのメルテちゃん。」

「みんな逃げるよ。」

メルテの表情が険しくなり、その異変を察知した2人はすぐに命令に従った。


「何、どうしたの?戦わないの?」

猛スピードで地面を駆け抜けている中で、リアは尋ねた。


「あの魔物は相手にしたらだめ。私たちの実力じゃ多分勝てない。」

「強そうな瘴気は感じなかったけど。」

メルテはここに来る前に、いくつかのことをグルンレイドのメイド、ローズの1人、カルメラから聞いていたのだ。その中で特に重要だったのは“出会ったらすぐに逃げたほうがいい魔物“の話だった。この場所が危険指定区域であろうとも、ローズであるカルメラであれば単独でも撃破可能な魔物たちばかりなのだが、見習いたちにとってはそうではない。例え3人が同時に挑んだとしても全滅してしまう可能性がある魔物が存在する。


『多分あれは“こだま“』

十分に距離を取り、3人は羽を取り出しつつ岩陰に隠れた。


『こだま?』

こだまという魔物は洞窟や、深い森の中に生息していることが多い。手のひらほどの大きさの小さいダルマのような姿をしていて、真っ黒い目と真っ白い体が特徴的だ。


『笑い声が聞こえたでしょ?あれがこだまが近くにいる合図』

こだまの危険度はC-。ゴブリンよりも弱い魔物なのだが、それあ群れとなると一気に危険度が跳ね上がる。


『集団でいるこだまの危険度はS。地上ならまだしも、敵だらけのこの場所で危険度Sとは戦えない。』

メルテの判断は間違っていない。危険度Sは3人で挑むのであれギリギリ勝てるレベルであるが、それは地上の開けた場所で戦った場合の話。瘴気が充満するこの場所での戦闘は、そもそも人間には不利なのだ。


『こだまの能力は“対象のものの時間を0.1秒止める“こと。インターバルは10秒。』

『時間魔法を使えるというのはすごいですが、インターバルがそれではあまり意味がない攻撃だと思いますわ。』

これが単独では危険度C-と言われる理由だ。0.1秒間時間を止められたとしても、その次の瞬間に攻撃すれば簡単に倒せるし、そもそもこだま自体に攻撃手段は一切無いのだ。


『だけどさ、それが何体もいたらやばくない?仮に100体以上いたとしたら……。』

それが集団では危険度がSと言われる理由だ。100体いた場合、10秒という時間を止められてしまうことになる。そうなってしまえば、最初の0.1秒の時間を止めたこだまのインターバルが終了してしまい、再び0.1秒の時間を止めることができてしまうのだ。


『ずっと時間が止められたまま……怖いですわ!』

その間に他の魔物に見つけられるということは死を意味している。そして何よりも怖いのが、抵抗することも、叫ぶこともできないまま、次の瞬間には腕や足が噛みちぎられ、体のいたるところに穴が空いている状態になっている……かもしれないというところだ。


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