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極悪辺境伯の華麗なるメイドRe^2  作者: かしわしろ
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ムムツの谷底10

3人はムムツの谷の下層に突入した。ここまでくると太陽の光はほとんど届くことはなく、感知魔法頼りで移動しなければいけない。現在3人はカメレオン型の魔物からドロップしたアイテムを所持しているので、そう簡単に敵から観測されることはないだろう。ということで、メルテは光魔法を使用することに決めた。


『中心部分に光源を置くから。魔物が寄ってきてもムシね。』

しかしメルテも、こちらの壁と向こう側の壁の中間地点を正確に予測することはできていないようだった。こちらの壁に灯りが届くギリギリの範囲に光源を置いた。予想通り、向こう側の壁が見える気配は一切ない。


『不思議と、魔力密度はさっきよりも薄くなったように感じますわ。』

『確かに。でも瘴気密度はかなり上がってるよ。二人とも気をつけてね。』

瘴気に触れても即死することはないが、体内に蓄積していくため一瞬たりとも触れたくないのが普通だ。だからメルテとアナスタシアはより強固な魔法障壁を展開しているが、リアはあまり変化がない。すでにリアの体内は瘴気によって満たされている状態だからだ。


『見てくださいまし!』

アナスタシアがどこにいてどこを見ているのかはわからなかったが、二人は自然と光源の方に目がいった。


『うわ……怖いね。』

そこにはコウモリの姿をした魔物がよってきていた。光に反応、というより魔力に反応したようで、光源から距離数センチの場所に顔を近づけても眩しそうにする様子は一切ない。危険度で言えばB+、そこまで強いものではないがあの数を相手にするとかなり骨が折れるだろう。


『下を見て。道……?』

光源によって照らされた下の部分を見てみると、手前の壁からおそらく奥側の壁まで伸びている道があった。


『橋、みたいだけど……これが自然にできてるの?。』

しかもこれが一本だけではない。下に行けば行くほどその数は増え、垂直に降りていくだけでは底へつかないようになっていた。


『橋から橋にも道ができていますわ。』

しかし3人にとっては少しありがたいことでもあった。例えば魔物が現れても、岩陰に身を隠すことができるし、何よりも地面が存在するというのが大きい。空中戦の訓練も行ってきたが、やはり地上で戦う方がメイド本来の力を発揮できるようだ。


『ここからは歩いて行こう。』

いったん3人とも例の羽をカバンにしまい、お互いの位置を把握しながら進むことに決めた。もし再びカメレオン型の魔物に見つかったとしても、この入り組んでいる道であれば問題なく逃げることができるだろうと踏んだ。


下層にいる魔物の平均危険度はA、もはやこの場所でさえ危険区域に指定されてもおかしくないほどの場所だった。人間が訪れた形跡などは全くなく、これも森や川などとはまた違った自然の形なのだろうと3人は感じていた。


『数メートル離れた場所に光源を置きながら降っていくから。』

足元を照らしながら移動するとなると、私たちはここにいるということを敵に教えているようなものだ。よって少し距離を置いて光源を置くことにしていた。


『お!エメラルド!』

『こちらにはルビーもありますわ!』

壁にはエメラルドやルビーなどの宝石類が数多く埋まっているのが確認できた。ここら辺一体の宝石を持ち帰るだけでも、生活に関しては一生困ることはないだろう。しかしグルンレイドのメイドは、現段階でも基本的な生活に関しては全く困ってはいない。宝石を取ることはなく、先に進んでいく。


幾度となく橋のような岩を降りていくと、ジュルリ、ジュルリと何かが地面をはっているような気持ちの悪い音が聞こえた。メルテは明かりを急に消すという不自然なことはせずに、少し遠くへと飛ばした。


『とりあえず、羽を持って岩陰に。』

メルテの指示で3人は羽を持ち、岩陰に隠れて息を潜めた。その魔物が光源に近づくと、徐々に姿が見えはじめる。


『ナメクジ……かしら?』

『でっか!』

全長3メートルほどある巨大なナメクジの姿が映し出された。こちらも光に反応する様子はなく、ゆっくりとそばを通り過ぎる。危険度で言うとA、こちらから攻撃しない限り襲いかかって来ることはないが、もし戦闘になった場合は毒耐性のほぼない3人にとってはかなり厄介な相手となるだろう。個体によって毒の種類が違うが、身体中から多種類にわたるもう毒の霧を噴出し、どれか一つでも耐性のない毒があった場合は致命傷となる。グルンレイドのメイドは毒に対する耐性を訓練によって取得するのだが、一つの毒に対する耐性を手に入れるには1ヶ月程度の時間がかかってしまう。見習いたちはそれよりも重要な剣技や魔法の訓練を重点的に行なっているため、まだまだ毒に対する耐性はないと言うのが現状だ。


『あれ、道がないよ?』

『確かに、あれでは落ちてしまいますわ。』

魔物を視界に入れるために照らしている光源の先を見ると、橋が破壊されている部分が見つかった。それも一本だけではない。そこらへんの橋全部が何かで切断されたかのように、真っ二つになっていたのだ。しかしナメクジ型の魔物は前が見えないかのように、真っ直ぐとその穴に向かって進んでいき……落下した。


『あっ……落ちてしまいましたわ……。』

『あの魔物を心配するつもりはないけど、後を追ってみよう。あの部分が綺麗に切断されているとしたら、谷底まで一直線で行けるかもしれない。』

橋が数十本程度であったら歩いて移動していたのだが、数千本以上ともなると時間がかかりすぎてしまうと判断したようだ。


『羽は……?』

『持って行こう。でもはぐれるのは危険だから、みんなで手を繋ぐ。』

3人はまずカバンに羽をしまい、隠蔽魔法をかけたまま手を繋いだ。そしてリアが再び羽を取り出すと、3人の気配が綺麗に消えた。


『すごいですのね。身体的に接触しているとその効果がみんなに反映されるなんて。』

『じゃ、降りるよ。』

二人はメルテに手を引かれるまま、さらに下へと進んでいった。


『やっぱりいろんな魔物がいるね。しかもかなり強い。』

観測魔法を使用して周囲を見渡してみると、中層の無音の空間とは逆にところどころから唸り声や動く音が聞こえてくる。このレベルの魔物になると、一瞬で倒すどころかヘタをすると大ダメージを負ってしまう場合もある。手を出さないのが無難だ。


『さっきから気になってるけど、この橋を壊したやつ、いるよね。』

リア下の方を見ながらそう呟く。


『多分中層の壁を抉っていたのも、同じですわよね。』

中層と下層にあった傷の切り口がかなり似ているものだったようだ。3人は自分たちの想像を優に超えてくるであろう巨大な魔物の存在を、かすかに予測していた。


「キュイ?」

と、その時そんな音が聞こえた。3人は聞き覚えのあるそんな音に緊張が走り、空中で止まる。近くに中層にいたカメレオン型の魔物がいる。不思議と先ほどまで聞こえていた唸り声や足音などが一切聞こえなくなる。リアとアナスタシアは不意打ちに耐えるために魔法障壁を分厚くしようとしていたようだが、それをメルテが止める。


「キュ……」

そんな声から数分、周囲にはさきほどのような唸り声が聞こえ始めた。


『いなくなった……?』

『あの魔物、下層でも上位の存在なのかな?』

他の魔物が恐怖し、唸り声を抑えるほどの魔物。羽がなければ、3人は再び見つかってしまい、攻撃を受けてしまったことだろう。


しばらく進むと、壁から伸びている橋が少なくなり、最終的には再び中層のような何もない空間が広がった。


『あの橋はどんな意味があるんだろうね。』

『谷底にいる魔物が、外敵から身を守るために作った、とか?』

『谷底にいる魔物の外敵って……?』

『確かに……いないですわね。』


『ねぇ、あれ……』

メルテの視線の先には、紫色の淡い光が広がっていた。真っ暗な空間の中ではより目立っていた。


『光る魔物?』

『あちらにもありますわよ!』

下に進むにつれてその光ははっきりとしたものになり、それらは至る所に存在しているようだった。


『鉱石……ですわね。』

『アナスタシア、触らないで。それ、瘴気を放出してる。』

『あ、私知ってる!これ瘴気結晶だよ!』

リアはその光を出している結晶に触れながらそう答える。瘴気結晶の構造は魔石とよく似ていた。魔石は魔力結晶とも言い換えることができ、瘴気結晶が高密度の瘴気の塊だということがわかる。


『ご主人様の部屋にあるってメイド長は言ってたけど……。』

『確かに見た目は綺麗ですけれど……危険ではなくて?』

ジラルドの部屋の中にも、インテリアとして瘴気の塊が置かれているのだが、それは“超高純度瘴気結晶“であり、単なる“瘴気結晶“とは価値が違う。超高純度瘴気結晶は美しい真っ白い光を放出し、魔力拡散魔法によってその出力を調整できる。しかし、その周囲の瘴気密度は魔界の数千倍まで上昇し、普通の人間であれば1秒も滞在できることなく死に至る。ジラルドの部屋はそのほかにもそのような絵画や魔道具が飾られているため、超危険指定区域以上に危険な場所だと言える。


『あれ?地面、さっきの橋かな?』

『いいえ、違うようですわ。』

面前には先ほどの落ちていったナメクジ型の魔物の死骸が転がっていた。それも無数に。


『ここが……危険指定区域。』

紫色の光に照らされた地面はどこまでも続いているようで、ここがこの谷の最深部であるということを示していた。


『ムムツの谷底、ですわ。』

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