9.
(※リンダ視点)
私は病院から屋敷に帰ってきていた。
途中でウォーレンと会ったので、そこからは彼が車椅子を押してくれた。
しかし、そこから屋敷に着くまでの間、会話は短いものしかなかった。
彼の口数が少ないのが原因である。
何か、あったのだろうか……。
夕食のあと、大事な話があると言っていたが、いったいなんだろう。
私は部屋で待っていると、彼が入ってきた。
「何、話って? 今日は様子が変よ」
「ああ……、実は、自分でも嫌になるんだが、おれは君のことを疑っている」
「私のことを、疑っている?」
冷や汗が流れるのを感じた。
まさか、私の病弱が嘘だと、疑っているというの?
何か、まずいことをしたかしら。
私は、カフェに行った時のことを振り返った。
蛇が現れた。
そして、私はその蛇にかまれた。
かまれた時、私は……。
勢いよく飛び跳ねてしまっていたわ!
ああ、なんてこと……。
あまりの痛さに、無意識のうちに飛び跳ねていた。
そのことを失念していたなんて。
ウォーレンが私を疑うのも無理はないわ。
何か、言い訳を考えないと……。
「君は病弱だというが、あれは、病弱な人の動きではなかった。どういうことか、説明してくれ」
ウォーレンのまなざしは真剣だった。
私は、必死に言い訳を考える。
そして、閃いた。
「条件反射って、知っているかしら?」
「条件反射? なんだ、それは」
「熱いものなんかを触ってしまうと、びっくりして腕をはねのけてしまうでしょう? そんな時は、自分の意志で腕を動かしているわけではなく、勝手に腕が動いているの。今回私が蛇にかまれた時も、それと同じよ。あれは条件反射で体が勝手に動いたの。私の意志ではないし、病弱だろうと関係なく動くものなのよ」
私は思い付いたことをそのまま口にした。
こんなの、ただの出まかせだ。
論理的な説明なんかではない。
しかし、堂々と語ることでそれっぽさを演出した。
そして、その効果は……。
「そうなのか……。それは知らなかった。君は、物知りだな。いや、疑って悪かった。おれだって、こんなこと聞きたくなかったんだ。一瞬でも君のことを疑ったことが恥ずかしいよ。本当にすまなかった」
「わかってくれたらいいのよ。顔を上げて、ウォーレン。あなたが謝ることなんてないわ。あんなところを見たら、私が病弱ではないと思っても仕方がないのだから」
「そう言ってもらえると、疑いの言葉を君に向けたおれとしても助かるよ」
なんと、うまくごまかすことができた。
私は心の中でガッツポーズを決めた。
一時はどうなることかと思ったけど、病弱が嘘だとバレずに済んでよかったわ。
災難を乗り越えることができて、私は安堵のため息を吐いた。
しかし、災難はこれで終わりではなかったのである……。