15.
(※リンダ視点)
「えっと、単なるかすり傷程度ですね」
というのが、階段から派手に落ちた私に対する、先生の診断だった。
気を失っていた私は病院へ運ばれ、精密検査を受けた。
そして、その結果がこれである。
現在部屋には先生と私、そして、ウォーレンとレイラがいた。
ウォーレンとレイラは、私がまた医師を買収して病弱ということにしてもらわないか、それを見張るために付き添ってきたらしい。
まったく、余計なことを。
とはいえ、私にはもう、医師を買収するほどのお金はないのだけど。
「もう一度聞きますが、本当に階段から落ちたんですか? ちょっとその辺で転んだ程度の怪我ですよ」
「えっと、階段から落ちたのは本当です」
私は先生に答えた。
さらに続ける。
「あの先生、本当に私の体、なんともないのですか? 階段から落ちたのに、かすり傷程度だけなんて……。何か、後遺症とかありませんでした? 私、少し病弱気味でして……」
「いや、精密検査をしたけれど、特にそういったことはありませんでしたよ。おかしな人ですね。普通はかすり傷だと聞けば喜ぶものなのに、まるでもっと大怪我の方がよかったかのような言い方だ」
「えっと、それは……」
私は言葉に詰まった。
しまった、あまりに露骨過ぎただろうか……。
階段から落ちたことで、本当に病弱になっていればいいと願っていたのだが、残念ながらそういうことはなかったらしい。
「階段から落ちたのにこの程度のけがで済むなんて、あなたの体はとても丈夫だということです。いやあ、羨ましいですなぁ。病弱だなんてとんでもない。それとは真逆です。あなたの体は、まさに健康体そのものですね」
私は先生の言葉にショックを受けた。
ついに、医学的に私は病弱ではないと証明されてしまったのである。
それどころか、階段から落ちてもかすり傷程度で済む丈夫で健康な体だった。
私は、隣にいるウォーレンとレイラの様子を覗き見た。
ウォーレンは、何も言わない。
私の診察結果を聞いても、喜ぶわけでもなく、怒るわけでもない。
しかし、目が虚ろな感じがして、少し怖かった。
レイラはというと、こちらを見て微笑んでいた。
彼女からすれば、やっとこの時が来た、という感じだろう。
悔しいが、彼女の思い通りの展開になってしまった。
私は絶望していた。
これで、何もかも終わりだ。
私の病弱は嘘だと、完全に証明されてしまったのだから。
しかし、私は甘かった。
何もかも終わりだと思っていたのに、これは、私の絶望の始まりに過ぎなかったのだった……。




