魔法主体のゲーム世界で魔力0 〜拳ひとつで生きていきます〜
シュティーナ・ルーマンことティナは代々近衛騎士を輩出しているルーマン伯爵家の長女だ。
前世の記憶を思い出したティナは剣と魔法の世界であえてカラテ家を選択した事で追放される。
メイドのグレタと共に冒険者として自由に生きることを選んだはずであったが…。
私の名前はシュティーナ・ルーマン。代々近衛騎士を輩出しているルーマン伯爵家の長女だ。
この世界でも騎士と言えば男の仕事ではあるのだが、近衛騎士の中には「男性では同席できない場でも常時王妃や王女の側に居られる女性の護衛」と言う需要があるため、私も将来は騎士になることを期待されていた。
小さな頃は私も将来は近衛騎士になるんだろうなぁ、などと漠然と考えていたのだが、ある日、兄たちの訓練の場に忍び込んで木剣でしたたかに叩かれると言う事故を起こしてしまった。
私が振り下ろされた剣の先に駆け込んだような状況で、完全な自爆だった。幸いここは魔法のある世界で、即座に治してもらったので痕も残っていない。
問題はその時のショックで私がある記憶を思い出した事だ。
そう、ここは前世でやっていたVRMMORPGの世界だ。タイトルは〜、覚えてないけど、なんとかオンラインだ。
この世界では15歳の誕生日に神殿で職業を授かる儀式を受ける。
職業と言ってもゲーム的な、剣士だとか魔法使いだとか言う方の職業だ。
神官が呪文を唱えると目の前にエフェクトが表示される。
このゲームは、いや、前世でやっていたこの世界に酷似したゲームでは職業選択はデフォルトがランダム。だが、このエフェクト中にある操作をする事で選択画面が表示される仕様だった。この世界ではみんなその事を知らない様で固唾を飲んで見守っている。せっかくのゲーム世界転生だ。ここは場違いな職業を選択して追放されるのがセオリーだね(はーと)
この世界は魔法主体の剣と魔法のファンタジー世界だから、一番人気はパラディンなどの魔法騎士だろう。我が家が騎士の家系である事もあって、それらを選べば喜ばれる事だろう。だが、私はあえてこれを選ぶ。
【カラテ家】
「なんだ? カラテ?」
場内が象然とする。当然だ、【カラテ家】は不人気職どころかランダムでは発生しないネタ職だ。
「ステータスを見せてみろ」
親父殿、いえ、お父様が焦り気味に言ってくる。
「ま、魔力0、だと…」
そう、この剣と魔法の世界にありながら、ほとんどのステータスを打撃に持っていかれるため、魔力が0なのだ。
「しかも剣も槍も装備できませんね」
こうして私は家を追い出される事となった(はーと)
「お、お嬢様、お待ちください」
荷物をまとめて屋敷の門を潜ろうとする私をメイドが呼び止めた。
「ああ、グレタ。お世話になったわね」
彼女の名前はグレタ・ガドリン。
ずっと私の世話をしてくれていた、いわゆる侍女と言うやつだろうか。
彼女も男爵家の出なので一応貴族だ。私もそうだが貴族の家に嫁に行かなければ兄弟が家を継いだら貴族の兄弟と言うだけの平民になるわけだが、私のそばに付いているために結婚の予定はない、と思う。年齢は、私とそんなに変わらない気もするけど、随分小さな頃から居た様な気もする。
「お供させていただきます」
良く見るとメイド服ではなく、シンプルなワンピースにエプロンでカバンも下げていた。
「え? でも私はこれから平民として冒険者にでもなるつもりなのよ?」
「なおさらです。お嬢様は1人では髪も結えないじゃないですか」
「うぐぐ」
確かに。ゲームではデフォルトである髪型数種か別途購入した髪型の中から選択するだけで自由自在だったが、正直ポニーテールすら怪しい。短く切ってしまっても良い気もするが、それこそゲームと違って一度切ったら伸ばすのも大変だ。色んな髪型もしたい。いや、そもそも自分じゃできないわけだが。
「それに、伯爵様には内緒ですが、奥様には許可を取ってますので」
そう言って握り拳を肩の辺りに持ってきて、ドヤ顔でふんっと鼻から息を吐くグレタ。脳筋伯爵家で働いていたとは言え淑女のする事ではないですわよ。おほほほ。
「ごめんね。いえ、ありがとう」
「気にしないでください。お嬢様のお世話をすることが私の生きがいですから」
と言うことで、2人は乗合馬車に乗り、ダンジョンの近くに作られた町へと旅立った。
貴族社会から離れたらいよいよもって貴族と結婚するのは難しくなると言うのに。
申し訳ない事この上ないが、正直ありがたかった。
「この2人でやっていくなら色々考えないといけないわね」
「そうですね」
「とりあえず、私のことはティナと呼んで。お嬢様はまずいわ」
「そ、そうですね。えっと、ティナさー、さん」
「もう一声。ティナ。どっちかと言ったらグレタの方がお姉さんっぽいんだから」
ティナは背が低めでどちらかと言うと童顔の可愛らしい顔に赤毛のツインテール。
アンバー系の瞳の少女だ。
グレタはティナより頭ひとつ背が高く、上品な印象の美人顔。金髪に碧眼だ。
長い髪をゆるくまとめている。
「てぃ、ティナ…」
「そうそう。私はグレタさんって呼ぼうかな」
「それは勘弁してください」
「じゃあ、お姉ちゃん」
「………んっく」
グレタが額に手をやって空を仰いでいる。
「んっく?」
「いえ、今まで通りグレタでお願いします」
「仕方ないなぁ」
「冒険者になりたいんですけど」
CV OGRさんで再生されるよね、このセリフ…。
「はい、ではこちらに必要事項を記載してください。名前は偽名でも大丈夫ですよ」
流石にCV UCDさんではなかったが、綺麗な受付嬢が書類とペンを出してくれた。
「えっとティナさん、変わった職業ですね…、え? 魔力0?」
「あ、はい。魔力0だと無理ですか?」
「いえ、そう言った規定はありませんので、登録自体はこれで完了ですよ…」
「おいおい、魔力0で冒険者とか出来ると思ってるのかよ」
来ましたテンプレート。と言うか、魔力云々以前に服が胸の下のところをリボンで絞ったワンピースなのは突っ込まないのかしら。一応靴はショートブーツだけれども。
「あ、山歩きとかは自信あるので、薬草でも集めようかと思っているのですが、冒険者登録していた方が色々都合が良いと聞きまして…」
てへっと媚び媚びな返事をする。低身長の上目遣いを喰らえ。
「あ、ああ。まあ、そう言う雑用は子供でもやってるからな。出来なくはねーだろうけどよ」
「なんだかんだ、このせか、この国では魔法と関係ない様な職業でも魔力0かよとか言われますからねぇ。まだ冒険者の方がやりやすいのではないかと」
「まあ、確かになぁ…」
「あ、じゃあ私、連れを待たせてますんで」
「お、おう」
ちょろっ(笑
薬草などの素材を冒険者ギルドに納品してお金を稼ぎつつレベル上げをした。
「はっ!!」
正拳突きが仁王立ちした熊の腹に打ち込まれた。
ティナの軸足を中心に足元の土が渦を巻く様に舞い上がり、衝撃が熊の背中に突き抜ける。
熊はその場に崩れ落ちるように倒れた。
熊は魔物ではなく獣だが、立ち上がると2mもある猛獣だ。普通の人間だったら戯れつかれただけで骨折や内臓破裂、本気で襲われたら身元不明の残骸になってもおかしくない相手だがさすがカラテ家、手負いの熊も一撃だ。
「じゃあ、今回はグレタの番ね」
「はい。では報告に行ってきます」
冒険者の中には獣や魔物を倒して、そのまま放置するも者もいる。討伐証明部位やめぼしい素材だけ回収する場合の方が多いが、無くはない。動物同士の争いや事故などで死ぬ場合もある。そんな動物の素材は見つけた者が所有権を主張できる。ティナとグレタはその制度を利用し、自分たちが討伐した事を隠してギルドに報告を入れていた。
「どっちにしろ、私たちだけじゃ搬送も解体も出来ないしねぇ…」
特に2人の仲を隠すようなことはしていないが、別々の冒険者、と言う事にして、1人でやたらと発見している、とならないように調整しつつ他の冒険者に回収の手伝いを依頼していた。ちなみにグレタの職業はメイドだが、魔力が高く自分の身を守れるだけの力があった。単独行動でも危険はないだろう。
『お嬢様のことですからいつかこんな事になるのではと思ってスキルポイントを取っておいて良かったです』
この生活を始めた頃に言われた言葉を思い出す。
「なかなか立派な熊だな。お前さん、この前も大猪とか発見してなかったか?」
木の上に登って隠れて様子を見ているとそんな声が聞こえてきた。
「冒険者は余程何かないと山に入るより稼ぎになる依頼を受けますから、逆に穴場かもしれないですね」
「まぁ、そうだなぁ」
ギルド職員兼業冒険者のトゥールさんだ。
他の連中は駆け出しと普段昼間っから酒飲んでる冒険者だ。
「てゆーか、多分こいつ、度々山から降りてくるからって討伐依頼が出てたやつじゃねーか?」
「おー、じゃ、素材の買取+報奨金かぁ。運がいいなぁ、お前さん」
「そうですか。では報奨金の額によってはお礼に色を付けないといけませんね」
「おお、話がわかるなぁあんた」
だいぶ盛り上がっている。
どうやら解体してしまうらしいので枝伝いに離れて薬草を採りに行くのだった。
「いやあ、仕事上がりにお風呂に入れるのは良いねぇ」
今日は風呂のある部屋に泊まることが出来たので、入浴中だ。あまり綺麗な浴室ではなかったが、グレタがあっという間に綺麗にしてくれたので気持ちいい空間になっている。さすがハイレベルメイド。宿屋の主人が驚くんじゃないだろうか。
風呂と言っても中世ヨーロッパ風の世界だ。石畳の部屋に猫足のついた浴槽が置いてある。魔法があるのだから水やお湯が出るような道具でも有れば良いのだが、井戸から汲み上げた水を竃で沸かさなければならないし、入浴している本人はじっとしていて、介添え人にあれこれしてもらう必要がある。
浴槽に座るティナをグレタが隅々まで綺麗にしていく。実家にいた頃はいつもこうだった。温まってバスマットに降りると手早く水滴を拭き取ってバスローブを着せてくれる。相変わらずの手際だ。
「今度は私が洗ってあげようか」
「それはやめていただきたいのですが」
「んご」
「返って疲れそうですし」
「だよね…」
「それより、そろそろレベルも上がりましたし、実力を隠すのを止めて拠点を構えてもよろしいのではないでしょうか。このままではダンジョンなどにも入れませんし」
「レベル40か。未だに伝説みたいに言われているご先祖様がレベル38だったっけか」
「そうです。もう既にお嬢様は伝説級ですよ」
「とは言え、魔力は0のままだしね」
「………」
冒険者をはじめて三ヶ月。2人はかなり広範囲を巡回していた。一箇所にいると怪しまれるかと思ったからだが、森や山を巡っていると実際に所有者不明の魔物の素材を手に入れる事もあった。お金の余裕も出来たが冒険者ランクは底辺のまま。
そんなある日、森を抜ける道で集団に囲まれて立ち往生している馬車を見つけた。
王家の紋章が付いている立派な馬車だ。
ティナもグレタも元は貴族だ。それくらいは一目で分かる。
おそらく第三王女の馬車だろう。
護衛と思われる騎士達が倒れている。なんとなく見覚えがある顔ぶれだ。
「あのう、もしかして王女暗殺とかですか?」
「なんだ、貴様らっ!? 怪しい奴め!!」
「いや、こっちのセリフなんですけども」
赤毛を太い三つ編み2本にしたオレンジのワンピースにショートブーツの美少女と、紺のワンピースにピンクのエプロン、ロングブーツのブロンド美女が突如森の中から現れたのだ。こちらも怪しい事には違いなかった。
逆上した男達が襲いかかってきた。
マントなどで姿をごまかしていたが、第二王妃の関係者だろう。
「こんなところで側妃の関係者が第三王女を殺そうとしたとか噂になったらまずいですよね?」
なんとか説得しようと試みたが失敗に終わってしまった。釈然としない。
「おのれ、絶対に生かして返すな」
男達が魔法の杖や魔法の武具から攻撃を飛ばしてくる。
ひらりひらりと躱すティナ。
「な、なぜ当たらない。狙った獲物は地の果てまで追いかける魔法まで…」
「あー、私、魔力0なので、魔法は当たらないですよ?」
「何を?」
「ここであったのも何かの縁です。教えてあげましょう。この世界の全ては魔力を前提に動いているのですよ」
「そんな事は常識だろう」
「索敵魔法が探すのも魔力、魔法が追尾するのも魔力。つまり、あなた達は何もないところに向けて魔法を放っているのです」
「な、なんだとぅっ」
「そして」
一瞬にして男の1人に接近するティナ。
「防御魔法が発動するのも、魔法の鎧がその効果を発揮するタイミングも、全て敵の魔力を検知した時…」
ティナの正拳突きが炸裂。くらった男はすごい勢いで吹き飛んでいく。
「個人の身体能力的な強度も何割かは魔法による身体強化なので、普通に殴られた時は効果がない、のではないかしら。たぶん」
ティナの攻撃力は普通ではないが。
ようやく圧倒的に不利な事に気がついた男達の中の前衛と思われる者達が、一斉に襲いかかる。
「遅い遅い」
ひらりひらりと攻撃を躱し、1人の男の剣を手の甲で合わせて逸らすと、そのままの流れで拳を叩き込む。
攻防一体の動きだ。
後ろから切り掛かってきた男の剣をギリギリで躱しながら反転、その勢いで脇に蹴りを入れる。
相手には膝を上げたようにしか見えない。速過ぎて。
「クソっ、まとめて吹き飛べええええっ!!」
後衛の魔法使いらしき男が味方もろとも範囲攻撃で吹き飛ばそうとするが、吹き飛んだのは味方だけだった。
「サンキュー、グレタ」
「いえ、これが私の役目ですから」
少し離れたところで澄ましているグレタ。
「な、なぜ?」
「さあ、なんでしょう」
残った男達を瞬殺するティナ。
ティナを守ったのはグレタのメイドスキル【従者の献身】だ。
主の受けるダメージを肩代わりするスキルだが、メイドレベル666を誇るグレタはそこいらの魔術師の魔法程度ではびくともしないのだ。
こうして王女を救ったティナは、王女に気に入られ王城へと連行される。
「めっちゃ気まずいんですけそ」
「けそ?」
その後、近衛騎士である家族と模擬戦をして完封したり、王子の妾にされそうになって前歯全部折ったりするのは、また別のお話。
ゲーム世界転生物を書きたくなったんだった気がします。
ゴールデンウィークに上げようと思ってたのが全然面白くなかったのでそっから書き始めたので、終わってた。てへ(てへ言うな




