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2章21話 反対者

色んなものを素っ飛ばして、どこかへと飛び出したエリーは放置して(まぁ、行く場所もないし、すぐに帰ってくるだろう)、今後について1年生とアーノルドは意見を交換し、今後について有意義な時間を持つことができた。


「意見や懸念については参考になった。A組の君たちが、補助で参加できるかどうかは、後で生徒会長やマックスさんに聞いてみよう」


すごく頼りになる先輩である。業務に限定するのであれば、であるが。その事を一同が思い知らされるのは、エリーへの接し方についての話題になった時、


「エリーは俺をあまり良く思っていない。だから今回も、あいつと話すつもりはなかったんだ。編成に対する提言だけして、あとは探査中もなるべく距離を置いて、話すのも控えるつもりだったんだが……」


全員が絶句する。そんな事をされたら、エリーの心は肝心要の洞窟内でバッキバキに折れていただろう。


「あ、だが安心してくれ。あいつを守れるくらいの距離には控えるつもりだった」


何のフォローにもなってないですよ、アーノルド先輩。特に女性陣の表情がスン、と引いた。これは重傷だ。今までエリーがポンコツだから、二人の関係が複雑怪奇なものになってしまったと思っていたが、こっちはこっちで相当に重傷だった。だが、そのポンコツな彼が、どうして今回、正解を引き当てたのだろうか?


「だが、それを話したら義姉上が怒ってな。もしエリーを見かけたら、距離を置かずに話しかけろって、厳命されちまったよ。逆効果だと言ったんだけどなぁ」


今度は全員が内心でガッツポーズをした。


「「「ナイスです、ノエリア様!」」」


この厳命がなければ、先にアーノルドが言っていた「エリー全無視作戦」が実行されていたかと思うと、空恐ろしい。今さっきの出来事で言えば、エリーと遭遇した途端、踵を返して教室から出て行くつもりだったのだろう。そしてせっかく復調したエリーが、顔を強張らせて精神的に塞ぎこんでしまう姿が容易に想像できた。この恐ろしい未来図を未然に防いだだけで、ノエリア・ウィッシャートは調査団編成の第一功労者だと、皆はこの場にいない女神に感謝する。


「それに、もし弱音を吐かれたら、優しく頭を撫でてやれば良いってな。だが義姉上にしては珍しく間違えたかも知れない。見ただろ、あいつ、逃げ出しちまったよ」


D組の面々(グレン除く)の脳裏に「本当にダメだな、この先輩」と同じ言葉が浮かぶ。


(あれ以上の妙手はなかったように思えるけどな)

(ああ、やきもきしますわ!!)

(エリーさん………少し可哀想になってきたわ)

(この先も苦労が絶えなそう)

(同意)

(これまでの相関図にトレヴァー君が入ってくるなんて想定外だったわ…まさかのNTR展開!?くっ、これは文化祭までに新しい解釈を取り入れなければならないようね……滾るわあああ)


「誰か一人だけ、おかしな事を考えていますわ!!」とモニカが魔法も使っていないのに誰かの脳内を覗いたような叫び声を上げたが、概ね皆の気持ちは一致した。


「先輩、人には間違いってものもあります。俺はその後の行動こそ、大事だと思いますよ!」


「グレンくん、君とは意見が合いそうだな」


他方、残念な事に、馬鹿二人同士はウマが合ってしまった。火の属性はアホが多いのだろうか。

不安は募るが、ひとまずは騒動もひと段落し、2年生たちにはアーノルドから釘を刺しておくと約束してくれたので、1年生一同は解散した。

なおエリーは別にどこに行くあてもなく、最終的には馬車でアーノルドと一緒に下校しなくてはいけないので、20分くらい校内をうろうろした挙句に戻ってきた所を捕獲された。


「じっくりと話を聞かせてもらう」


「はうううううう!お、お助けを……」


引きずられるように連行されるエリーには、この先、無自覚羞恥責めが待っているのだろうが、まぁ、その辺はよろしくやってくれと、彼女から救助を求める視線を受けつつも、これ以上助ける気が起きない一同であった。


◇◇◇


同じ頃、生徒会室ではクリフォード・オデュッセイアと、ラルス・ハーゲンベックの二人が話し合いを続けていた。議題は先程、1年D組の生徒たちに告げた洞窟調査の編成についてである。


「ラルスの見立て通り、感触は悪くなかったね」


「強いて言うならば、キャロル嬢が断る意向だった事だな。洞窟調査に参加できなかったイヴェット嬢や、当人たちが実力不足を痛感していたブリアナ嬢とミーア嬢は予想していたのだが」


「キャロル嬢の知性は机上の空論で終わらず、臨機応変な対応力にも長けている。それは本人が思う以上に貴重な資質なんだけどね……だが無理強いしないと言った以上、本人に任せる他あるまい」


エリーの落下を目の前で見ていたキャロルは、己の力不足に忸怩たる思いを抱いたはず。その時の雪辱を晴らしてやりたい気持ちも強いだろうに、冷静に判断できるとはたいしたものだと二人は評価した。もちろん、自分の力量を冷静に測って辞退の意向を示したイヴェット、ブリアナ、ミーアの3名も、あの場で物を言える勇気は素晴らしい。場の雰囲気に流されて「行きます」と言ってしまえば、もう後戻りできないのだ。


「後方支援部隊の人手が足りない。アタック隊には入れなくても、彼女たちが了承してくれるのならば、そちらで援護してもらおう。顔見知りが多い方が、休憩するにも心休まるだろう」


幸い、そちらの打診は引き受けてくれそうだ。もし仲が良い生徒が他にもいるなら協力してもらっても構わない。そこまでクリフォードが話していると、ラルスが思案顔で俯いているのが気になった。


「どうした?心、ここにあらずという感じだが」


「クリフォード、ひとつ提案がある。もしもキャロル嬢が、正式に調査隊への参加を断った時だが……」


「うん、なんだい?」


「彼女の手を借りたい。調査中の案件が行き詰っている」


スッ、とクリフォードの目が細くなり、周囲を警戒するように左右を見る。誰もいないのを確認して声を潜めながら問い返す。


「……何か進展があったのか?」


「ああ。だが複数の糸が絡み合っていて、整理が必要だ。その為に、優秀な仲間が欲しい」


「その助手にキャロル嬢を?」


「助手とは言っていないだろう。何せ彼女はかなり優秀だと聞く。私の方が助手として手駒のように動かされるかも知れん」


だから仲間だ、と言い張るラルスにクリフォードは律儀な事だと苦笑する。それにしても誰か手駒のように動き回るラルスか……と、そんな彼が想像できずに笑いがこみあげる。出来る事なら、見てみたいものだ。


「何がおかしい?」


「いや、なにも。それより、進展について、現時点の報告を聞きたいんだが……」


「状況証拠、物的証拠が揃い切っていない今、憶測が大半になっている。だがひとつだけ、確実だと報告できるものがある。聞きたいか?」


ラルスがこういう物の言い方、確認をするような言い方をする時は、あまり良くない報告だという事をクリフォードは知っている。そして、その報告は聞かなければならない類の物だという事も。

クリフォードはゆっくりと頷き、佇まいを正す。


「続けてくれ」


ラルスは眼鏡を直しながら、深く息を吐きながら報告をした。


「先に却下された、エリー嬢が行方不明になった時に討議された捜索隊の件だ。途中まで結成する方向で進んでいたのに、急遽、撤回されたのは間違いない」


「最初から、箸にも棒にも掛からない案件じゃなかったのか」


その時、却下された理由は

「生存確率の低い平民の捜索に費用はかけられない」

「皇太子であるクリフォードが生徒会長を務めている学園で問題が起きてはならない」

「事を大きくして、騎士団の問題にしてはならない」

などなど説明され、最初から捜索する気などなさそうな報告を受けていた。冷静なクリフォードが、その報告を受けた時は舌打ちを禁じ得なかったくらいだ。立場もあり、普段は控えている上奏すら行い、再考を促したのだが、まったく聞く耳も持たない雰囲気だったのに。


「それがひっくり返されたのは、さる方面からの口利きだ」


「さる方面?……財務省か?」


その件で、財務省の長官セヴラン・ルアールとひと悶着があったのは聞いている。もし口を挟んでくるのであれば、彼が真っ先に思い浮かぶ。


「それなら話は単純明快だっただろうな。それにご想像通り、財務省は反対意見だったそうだ」


その反対があっても派遣される流れだった。……ならば、よほど強い力か、説得力がなければ、決定は覆らないはずだ。だが、他に誰が……?


「エリー捜索に反対したのは………」


ラルスが重い口を開いた。


「王国騎士団第一番隊だ」


その名前を聞いて、クリフォードが目を見開く。間違いではないか、と問いただすが、ラルスは首を振った。


「間違いない。イシュメリア王国騎士団一番隊隊長イザーク・バッハシュタイン。彼の反対で、エリー捜索は頓挫した」


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