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2章15話 準備期間

久々の投稿です……忙しいと心が折れますね……

「イチャついてんじゃねぇぞ馬鹿ップル、リア充爆発しろ」


あの模擬戦の翌日、モニカ様に怒鳴られた。お嬢様らしからぬドスの利いた声である。何だか前回の終わりと同じ始まりのような気がするのは気のせいだろうか。2週間くらい空いたからな、何をしていたのか。

いや、こっちの事です、気にしないでください。


「動けないくらい右膝を悪化させておいて、どうするつもりだったのか聞きたいですわ」


モニカ様は大きなため息をついた。登校したら、先日に増してグルグル巻きになった右膝について問い詰められ、心配かけまいと色々誤魔化して説明をしていたのだが、とうとう白状してしまったらこれである。「怒らないから言いなさい」という言葉が信用ならない事を身をもって体験した。思いっきり怒られてます。


「あんな平気そうな態度を取るから、てっきり大丈夫なのかと思ったぞ」


グレンくんも少々、不機嫌である。そんな事なら喧嘩最優先ではなく、救助したのに、と。あのはっちゃけ具合からして、本当かどうかは疑わしい所だが、その心意気はありがたくいただいておきます。


「まぁ、アーノルドさんはさすがだね。エリーの性格も怪我の具合もお見通しだったとは」


ケイジくんはアーノルドさんに感心をしていた。そうなんだよ、あの先輩、意外と人の事を見てるんだよ。それなのに、どうしてあと一歩のところで、あんなに気が利かないかな?誰か教えてくれよ。そう言えば、モニカ様と並んで、私に苦言を呈するであろうキャロルさんの姿が見えないようだけど……


「謝罪と事後処理行脚中」


ミーアさんの一言ですべてを察した。土下座では足りないな。後で五体投地しよう。


「笑っていますけど、今回の謝罪は、お二人も関係あるので反省してください」


イヴェットさんがグレンくんとケイジくんに注意する。そうだよね、乱闘の原因は私が絡まれた事だけど、直接のきっかけは二人が訓練場に乱入したからなのだ。あれで、一気に訓練場が地獄絵図になった。ただ私が道を間違えて一番隊の待機所に迷い込まなければ、こんな事にはなっていなかったわけで……やっぱ申し訳ねぇな。


「それより一番隊の、あの騎士連中、クビになりそうなんだってな」


「よくもまぁ、あんなに堂々と名乗りを上げて女の子に手を上げたものですわ」


私に手を上げた貴族のヒューだか、フューだかっていう…「ヒュー・サーマン様」ああ、それそれ、さすがです、モニカ様。そのヒューという方は訓練場での行動が問題視されて、謹慎処分を受けたらしい。それもこれも、モニカ様が状況をばっちり抑え、証言者も多数、確保したからに他ならない。どんなに言い訳をしようとも、あれだけ目撃者がいたのだから、言い逃れもできないようだ。


「いいのか、サーマン家にたてついて、ただで済むと思うなよ!」


とか怒鳴ったみたいだけど、それはそれ、ウィッシャート家とホールズワース家に睨まれて、ご実家は沈黙したらしい。残念ながら、家格というよりも役者が違ったかな。ウィッシャート家の姉弟もそうだが、この件に関してはモニカ様は非常に家名を上手く使いこなしていた。すごく大貴族っぽい。そのひと睨みで、サーマン家の息子さんは家を追われる可能性もあるそうだ。何かと問題を起こしていた三男坊を、色んな手を使って、どうにか様になる騎士団に入れたというのにこれだから、父親がカンカンなんだそうで。


「逆恨みされては困りますので動向には目を光らせておきますが……皆さんもご油断なきよう」


つまらないゴミを払うかのような口調で言い放つ姿、さすがですわ、モニカ様。


「それより肩と膝、早く治せよ。また洞窟探索が始まるんだろ?」


グレンくんが声をかけてくれる。そうなのだ。またあの洞窟調査が改めて行われようとしているのである。探索隊の中心は、前回、私を救出するのを担当した二番隊……つまりアーノルドさんたちと聞いている。まぁ、今のところ騎士団で一番、経験値積んでるの二番隊ですからね。


「エリーがいなきゃ、大人数で下層に向かうのは無理だろうからね。せいぜい4層で止まっちゃうだろうから」


ケイジくんもそう言うのだが、二人は同行しないのだろうか。経験という意味では、治療に残ったイヴェットさん以外、洞窟で頑張ったと思うのだけど。


「それはエリーの魔法の加護付きだったからな。俺らが素の力で洞窟に向かった事はない」


そんなもんかなー。みんなあれから成長してるし、十分やれそうな気がするんだけどなぁ。


「それよりエリーさんは、怪我を治すのも大事かも知れませんけど、魔力の調整をしっかり勉強なさい。また魔力枯渇を起こしたらどうするつもり?」


モニカ様の指摘通りである。あの時、私は前兆をことごとく見逃してしまい、最終的に橋の上でぶっ倒れてしまった。魔力がなくなる前、頭がふらつき、鼻血を出していたのだが、それが魔力が欠乏しているサインだったとは。てっきりアーノルドさんに一泡吹かせてやる事が出来ると想像して興奮してしまったのだとばかり思っていた。今思えば、漫画じゃあるまいし、そんな事で鼻血出さないよな……


「はー、やだなー、勉強」


私はため息をついて窓の外を見上げてしまう。いや、勉強は勉強で嫌なんだけどね。何だかまた違うモヤモヤが引っかかるんだよなー。別にみんなの期待が重いとか、漫画なんかでよくある、嫌な予感がするとかではないんだけど。まぁ、落っこちた時だって、直前まで嫌な予感はしてなかったけどさ。


ああ、出来る事なら、ゆっくりとキャンプファイヤーでもやって、のんびり寝転がりたい。

そういう意味では、肩や膝の怪我が治って欲しいような、欲しくないような、複雑な気分になる私だった。


◇◇◇


イシュメイル王国騎士団の二番隊に所属するフランクは、自分で言うのもなんだが苦労人である。昔はそんな事もなかったと思うのだが、最近はとくにそう思う。憧れであった騎士団に入団したは良いものの、腕は立つがやや人間的にアレな奴の多い二番隊だったのが良くなかったのだろうか。

そんなフランクが珍しく隊長に感心していた。


「まだ悩んでいるんですか?」


二番隊隊長マックス・ランプリングは、変わり者の多い二番隊の中でも、その代表格である。何せ実力は騎士団最強と謳われているのに、その自覚がないのか、はたまた自覚はあっても規律を遵守するつもりが、これっぽっちもないのか。そんなだから先日、一番隊との合同訓練中に率先して大乱闘を起こしてしまうのである。きっかけはエリーたちだったかも知れないが、その火種に火薬を投げ込んだのは、間違いなく彼であった。

そんな彼が頭をひねって、うんうんと唸っている。奇跡的な光景であった。


「そりゃ、悩むだろうよ。この間みてぇな、瞬発力のあるだけの編成じゃダメなんだからな」


「この間」とは無論、エリー救出作戦の事である。あの時のメンバーは、とにかく疾くて強い、火力重視で後先考えないようなメンバーで構成されていた。その猪突猛進な戦力を、上手い具合マックスと、かつて宮廷に所属していた智者のフィリベール・ドゥメルグが調整しながらミッションを完遂したのだ。

だが今回は、洞窟の調査と、危険であればその駆逐が望まれている。であれば、尖り過ぎた編成は逆に仇となる可能性が高い。さらには偏屈で知られるフィリベールが今回も参加するとは限らない。前回が特殊すぎる事例だったのだ。


「何より、エリー・フォレスト……あの子の力を最大限に活用する必要がある。いや、しなければ、この作戦は失敗するだろうな。何せ、5層を超えたら半分は脱落、6層、7層はフランクでも厳しいだろ?」


「正直、あの【加護】がなければ、その前で力尽きますね」


「フランクでそうなら、大半の隊員は無理だ。しかも最近、あの子の調子が悪いと聞く」


「調子が?まだ体調不良なのですか?」


「魔力が安定しない……出力が弱まっているらしいぞ。それが体調と連動しているかは不明だが、彼女が本調子でないとなれば、作戦も編成も、再考しなきゃならん」


「でしょうね」


「そもそもだ、仮にも国の方策が、一人の少女に委ねられるってのは、どうなのよ?俺らみてぇに国に仕えてるってなら、給料分は働かなきゃなるまいさ。それが当人の善意を良い事に面倒事や責任を押し付けるってのは、どうにも納得がいかん」


「ご立派な志です。もしも先日、一番隊とやり合った後始末を、エリー・フォレストの同級生であるキャロル・ワインバーグ嬢の善意に押し付けていなければ、もっと感銘を受けたでしょう」


「お前、言うようになったなぁ」


マックスは一本取られたと言わんばかりに嫌な顔をする。先日、二番隊は一番隊と大騒動を起こした後、デスクワーク系の業務が苦手なアホが揃っていたため、書類の処理が尋常じゃなく遅延し、さらに担当者が過労で倒れたせいで機能不全に陥ったのである。もしもキャロルが


「あの、私で良ければお手伝いしましょうか?」


という一言がなければ、今も二番隊は書類を抱えて右往左往していたかも知れない。エリーに続く女神の降臨に騎士たちは狂喜し、詰所には二柱を祀る祭壇を建立して感謝の意を捧げる日々だ。


「話を戻すが、現実問題として、エリー嬢の力がなくては話にならんぞ。それだけは確かだ」


「しかし我々にはどうしょうもないですからね。宮廷に呼んで魔導士たちに指導をさせようにも、公には聖女はいないという事になっているので、手続きは難航するでしょう。そもそも報告を聞いた後でも彼女が聖女である事に対し、大半の貴族たちは疑義を抱いています」


「んな事、言ってる場合じゃねぇってのにな」


マックスとフランク、どちらが先ともなく、二人で頭を抱えてしまう。さて、これからどうしたものかと思索を続けようとした時、隊長室の扉をノックする者がいた。


「入れ」


マックスが返事をすると、そこに立っているのは他でもない、アーノルドであった。


「お前か。どうした、何か相談か?」


「はい。折り入って頼みがあります」


「なんだ?」


「洞窟へ向かう部隊編成について意見があります」


いつになく真剣な顔をしたアーノルドに、マックスとフランクは顔を見合わせる。マックスは改めて席に座って足を組むと、身を乗り出して返事をした。


「どうやら、俺より良いアイディアを持っているようだな。言ってみろ」


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