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第30話 魔獣討伐(10)

 「キャンプダホーーーイ!!」


やけくそ気味の声が洞窟に響く。

光る壁が現れると、それを置き土産にして全速力で撤退する。

これでしばらくは時間が稼げる。


それを延々と繰り返しながら、絶賛撤退戦を展開中である。

きっついー!

しかもしばらくすると、歌声やら轟音やらが聞こえてきて、壁がぶち破られてしまう。

嘆きの乙女(バンシー)と私の声(切実なる本音)が重なった。


 「私の魔法、弱すぎじゃない!?

  足止めにもなってないんだけど!」


必死に前を走るみんなを追いかけながら嘆く。

だがフランクさんは私をフォローしながら、肩を叩いて言ってくれた。


 「いや、君の魔法じゃなきゃ、一瞬で破られている。

  むしろ少しでも足止め出来るだけでも大助かりだ」


褒めてもらって嬉しいが、結果として追いつかれてはどうしょうもない。

しかしまぁ、ここに来て狼ちゃんたちの素早さが面倒くさくなってきた。

壁が突破されると、あっという間に追いついてきてしまうので、厄介な事、この上ない。


 「不甲斐ねぇ! すまん、エリー!」

 「もう少しよ、頑張って!!」


いや、グレンくんもキャロルさんも限界じゃん。

そもそも私たちじゃ敵わないような敵を相手に、私の魔法で底上げされて、ようやく渡り合えているわけで。

格上相手に要救護者抱えたまんま、よくやってくれてると思う。


 「エリーさん! もっと光を!」


モニカ様は私が元いた世界の、何か偉い人が最期に残した名言みたいな事を叫びながら、頑張って走っている。

お嬢様なので普段運動していないだろうに、なかなかの疾走感だ。 頑張って!


要救護者の生徒たちは、どうにかもう一人の騎士であるピエールさんのフォローを受けて、落伍者なく付いて来ている。

ピエールさんも傷だらけで剣を持つのもつらいだろうに、私の魔法を付与する事で、道を切り開きながら進む。

うう、もう見ていてつらい。


一歩間違えれば、再び包囲されてしまう逃走劇。


 「左の回廊には敵が2体、遠回りになりますが右には敵の気配はありません」

 「もう戦う余裕はない、右に行く」


全速力で逃げながらもケイジくんが情報を伝え、フランクさんが決断を下していく。

どんどん決断していく姿を見て、感心しちゃう。

私にはあんなに即断即決するのは無理だわー。

本当に、ここにいる誰か一人でも欠けていたら、とっくの昔に全滅していただろうな。


一番最後尾を走っているから分かるんだけど、みんなもう体力気力が底を尽きかけている。

いや、もう尽きてるのに、無理矢理走ってる感じ。


 「グレンくん、委員長遅れてる!」


だから、報われたいじゃないか。

せっかくここまで来たんだから、みんな揃って野営地まで戻ろうよ。


息が切れ、ふらふらになっているキャロルさんの手を引っ張って、何とかグレンくんにバトンタッチ。


 「任せる!」

 「おう、任された!」


そんな短い会話だけするや、振り返って、もう今日何度目か分からん神聖壁魔法を行使する。

直後に【歌】と強烈な打撃が壁を直撃して、ちょっと「うおお」ってなった。

あっぶねぇぇ!

嘆きの乙女(バンシー)一つ目の大巨人(サイクロプス)のコンビが極悪すぎる!

それに加えて続けざまに飛んでくる人馬獣(ケンタウロス)の弓は、もうマジかってくらいの威力。


どいつもこいつも、一発食らったら即死級の一撃だ。

壁を張るだけ張って、再びダッシュで合流する。


 「無事に戻れたら、殊勲賞だな。

  いや、魔法省の連中が放っておかないだろう」


疲れているだろうに、フランクさんが口笛を吹いて冷かしてくる。

ふへへ、もしかして生還したら、これまでと違った薔薇色の未来が広がっているのかしら!?

その言葉にピエールさんが応じる。


 「ああ。 でも、あいつら無茶するからな。

  四肢が繋がったまま、実験するなら良いんだが……」


それ、モルモットじゃねーか! 人体改造される未来しか見えないよ!

殊勲賞を獲得した人間に対する扱いじゃねぇなぁ!


でもまぁ、無事に帰れるんなら、その悪魔の取引にでも何でも応じますよ!?


その願いが天に届いたのか。 それとも悪魔が取引に応じたのか。

先頭を走るケイジが全員に叫ぶ。


 「この先を右に。

  そこまで行けば、魔獣の姿はなく、橋に到着しますよ!」


あらやだ、明日はモルモットかしら。


 「全員、最後の力を振り絞れ!」


ゴールが見えると人は現金なもので、地面を蹴る足に力が戻ってくる。

こんな時は得てして落とし穴が待ち受けているもんだけど……


 「見えたぞ、橋だ!!」

 「橋の向こうに騎士たちも見えます!」


報告にも喜びの色が見える。

そりゃそうさ、こんなに嬉しい事はない。

こうなったらモルモットにでも何でもなってやらあ!


背後を振り返ると、魔獣たちも接近をしているが、ここまでは届かないだろう。

届いたとしても私の作り出す壁で足止めを食っている間に、私たち全員は橋を十分、渡り切れる。


一人、また一人と橋を渡り始める。


 「いいぞ、エリー、やってくれ!」

 「あいよーっ!」


これが最後になると良いな。

心を込めて、突破されるなよと願いを込めて、全力で壁を張る。


 「完璧!」


橋の向こうにいる人たちも見ているからね。

美しく、華麗に、可憐に、聖女っぽく出来たかしら!?


振り向けば、私の方なんて見向きもせずに橋の向こうへ全力ダッシュする皆の背中。

ひでぇな、ちくしょう。

対岸を見れば、みんなが笑顔で救護者たちを迎え入れてやがる。

見ろ! みんな私を見ろ! そして聖女の誕生に喜び打ち震えろよお!


はー、しょうがないか。

何度も訪れた絶体絶命の危機を乗り越えたんだもんなー。

もう一度やれと言われても出来んよ。


すでにクラスメイトたちも橋を渡り終えようとしている。

私もすでに半分くらいまで到着してるし、向こう岸に着いたら橋を落とそう。

そうすれば、いくら嘆きの乙女(バンシー)だって一つ目の大巨人(サイクロプス)だって、こっちに来ることはできまい。


その時、本当に突然に。


私の視界が沈む。


 「………………!?」


魔物の魔法? それとも橋が落ちた!?

ちょっと待ってよ、何かの手違い!?

いくら平民だからって、切り捨てるなんて酷いぞ!!


前を向けば、対岸にたどり着いたみんなが、驚いた顔をしている。

何かを叫んでいるみたいだ。


……それを見て、やっと理解した。



私、エリー・フォレストは第2層の吊橋の真ん中で、倒れた。


沈んだのでは橋でなく、私の視界で。

地に突っ伏した私は、全身を痙攣させながら、一歩も動けずにいた。


―― 背後で、魔法壁が壊される音を聞きながら。


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