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第29話 魔獣討伐(9)

聖女?

えーと、何を言っているんだろうか?

思わず放心してしまう。


そりゃ私は聖女かなーとか思って(自惚れて)この世界を闊歩していたわけですが、度重なる心得違いによって己の無力さを痛感し、最近ではもう、いっそこのまま移動式キャンプファイヤーとして生涯を終えるか、モニカ様の庭園のオブジェになるかを真剣に検討していたのだが。


 「魔属性特化魔法だな。

  道理で敵の強さが上下して安定してなかったわけだ」


目の前の魔獣をざっくざくと斬り伏せながら納得したのはフランクさんだ。

先ほどまでの苦境が嘘のように、目の前で凶狼が一撃で倒されているのですが……


 「最初、順調に魔獣を狩れていたのは、お嬢ちゃんのおかげだったんだな。

  魔法がかかっているうちは順調で、魔法が切れたら底上げ終了……

  何の事はない。 守っているつもりが、守られていたとはね」


ああ、さっきフランクさんとケイジくんが魔獣を倒した時に武器を見ていたのは、悦に入っていたんじゃなくて、驚いていたんだ。

自己陶酔してんじゃねぇぞ、さっさと戦列に戻れよ…とか思ってごめんなさい。


 「これで0%だった可能性が、20%くらいには上がった」


フランクさんが希望に満ちた顔をする。

ちょっと待って。 これでもまだ20%しかないの?

それよりさっきまで0%だったの? 色々と初耳なんですけど!


 「いや、まぁ、あいつがいるからな」


一縷、生まれた望みが絶ち切られる圧力。

凄まじい轟音と衝撃、そして風圧は、目の前の敵、一つ目の大巨人(サイクロプス)からのものだった。


確かに、私の魔法が仮に「神聖」魔法であるとしよう。

だからと言って、別に一つ目の大巨人(サイクロプス)の脅威が去ったわけではないのだ。

その証拠に皆の顔がまた絶望色に染まっていく。


 「委員長! さっきの水蒸気出して逃げるアレは!?」


 「ちゃんと術式構築して熱調整しないと、アレ、みんなを巻き込んで爆発するから無理!」


水蒸気が爆発する事あんのか。

そんな恐ろしい魔法が発動されていたなんて、こっちも初耳だ。


 「それよかエリーよぉ、俺の剣に付与できるか?」


グレンくんが剣を差し出して聞いてくる。

ああ、なるほどな。 そんな事ならお安い御用だ。

私はグレンくんの剣をイメージして、授業で習った事を思い出しながら付与をする。

ボワン、と剣が光り出す。


 「ありがとよ、んじゃ………」


大剣を構えると、グレンくんの剣が炎を纏い出す。


 「改めて……【炎虎】………!!!」


燃える大剣が唸りを挙げて魔獣の群れを切り裂くと、今度は魔獣たちは……怯むどころか両断された。

うわ……えっぐ。

これからはなるべくグレンくんを怒らせないようにしよう。


 「なるほど、さっきのに比べたら雲泥の差だぜ」


ほー、さっきも放ってたんスか。

どうやら手応えは段違いのようで何よりです。

それじゃあ………


 「これなら半々くらいになりますかね!?」


全員の姿をイメージし、杖や剣に加護を付与させる。

続けて前を照らすように光を広げると、魔獣たちが本能的なものなのか、それを避ける。

なるほど、魔獣たちは暗がりから照らされたから逃げたんじゃなくて、この光から逃げていたのか。

ようやく合点がいった。


魔法の授業で何も起こらなかったのは当然だった。

だって魔獣や魔物を相手にしなければ、何の効果もないのだから。

学園内に魔物がいるわけないので、無用の長物なのも当然だ。

ましてや神聖魔法なんて、学園で使える人はいないわけだし、ほとんど前例もないみたいだし。

ふふふ、役立たずと馬鹿にしてくれちゃった連中よ、刮目せよ。

文字通り、光り輝いている私を! 人生の最盛期を迎えた私を!


ああ、そうだ、アーノルド先輩も待っていて下さい。

ぐへへへ、すぐに土下座させてあげますからね!


 「……エリーさん、鼻血出てるけど」


おっと、これは失敬、興奮してしまいました。

ハンカチを差し出してくれるキャロル委員長も、加護が付与された水魔法で相手を退け、モニカ様も高笑いをしながら神聖電撃魔法とも言うべき高威力魔法で制圧していく。


 「滅茶苦茶だな、この魔法……ここまで強化がかかるのか」


フランクさんまでもが感心している。

なかなかいい気分だな。

これ、もしかして撤収できちゃうどころか、逆転できんじゃないの?


……あ、いや、別に油断してるわけじゃないよ!

それくらいみんなが頼り甲斐があったってだけで。


でも、そう思った瞬間、背筋が凍りついた。


一つ目の大巨人(サイクロプス)の比じゃない、ぞわりとした悪寒。

私だけが感じたんじゃない。 正体不明の恐怖がパーティーを貫いた。

もしかしたら、私が感じていた脅威は、一つ目の大巨人(サイクロプス)のじゃなかったのかも知れない。


 『アレハ対峙シテハイケナイモノダ』


思い出される感覚。

あれは本当に、大巨人に向けての感覚だったのだろうか?

全身の毛が逆立つと同時に、フランクさんが叫んだ。


 「嘆きの乙女(バンシー)だ!」


その時、見てしまった。

魔獣の群れの、さらに奥の奥の死んだような瞳と、真っ赤な、まるで血のような唇をした女性を。


嘆きの乙女(バンシー)


それは死に寄り添い、死を招く、この世とあの世の狭間を漂うモノ。

彼女の歌声を聴いた者は、例外なく死が訪れるという怪異。


 (これはヤバい)


私の直感がそう告げる。

咄嗟に、本当に咄嗟に光の円蓋を限界まで広げる。

次の瞬間、嘆きの乙女(バンシー)の口が開き、圧倒的な【死の歌声】が直撃する。


 「―――――――― !!!」


うおおおおおお、すっごい手応え!!

これは……きっつい………ちょっとでも油断したら、全部持ってかれる!!

拮抗……というか、ぐいぐいと押されながらも、どうにかこうにか持ちこたえているうちに、歌が終わった。

あぶねー! あと1分続いていたら、ぜってぇに全員直撃食らってたわ。


…………え? 嘆きの乙女(バンシー)さん、どうして口を開いていらっしゃるの?

まさか…………


『アアアああああアアアアアアああアアアアあアアアあアア!!』

「ざっけんなああああああああああ!!!」


第二発目が放たれ、嘆きの乙女(バンシー)と私の声(切実なる本音)が重なった。

連発できんのかよ、それ!!

しかも人馬獣(ケンタウロス)が、びゅんびゅん弓矢を射ってくるんですけど!

こいつら、接近戦が不利だからって遠距離攻撃に切り替えてきやがったな、ずるいぞ。


 ズガンンっ……!!!


私の眼前を大岩が通過する。

今度は一つ目の大巨人(サイクロプス)が投げつけてきたらしい。

直撃したら、即死するやつだ。


 「エリーが防いでいる間に、撤退するぞ!」


フランクさんを始め、みんなが了解して、まだ包囲されていない一角へと走り出す。

馬鹿か、君たちは。

こちとら、ここいる魔獣たちからヘイトを一身に浴びてんだぞ!

私を守れ、私を!!



………………………………。



待って!! マジで置いて行かないで!!!

ガチ潰走してないか、これ!?


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