第28話 魔獣討伐(8)
すごい絵だな。
私、エリー・フォレストが真っ先に飛び出した直後、思ったのは、まずそれだった。
目の前に 「一つ目の大巨人」。
周囲を囲む魔獣たちの群れ。
うおおお、怖ぇぇ!
あまりに現実離れした光景に、ちょっとでも気を緩めたら立ちすくんじゃうだろう。
だけど、何の策もなく突っ込んだわけじゃないわ。
一団の先頭、魔獣たちと目と鼻の先に割り込んだ私は、全力でぶっ放す!!
「キャンプファイヤアアアアアアアアア!!!!」
あれ、その場にいた全員が「すん」って感じで無表情になったよ?
……まぁ、あまりにも場違いな掛け声だったのは反省するけどさぁ。
でもみんなして、そんな顔をする事ないじゃん!
出来る事をやろうとした心意気を汲んでいただきたい。
「光るだけの魔法に何の意味があるってんだよ!」
飛び出してきたとこで転がっていた貴族子弟の子が叫ぶ。
本当にそうだけど、今、言う事ないだろおお!
そっちこそ転がってるだけのくせしやがって!
てめぇの面、覚えたからな。 学園に戻ったらただで済むと思うなよ。
だが何と言う事でしょう。
この光に驚いた魔獣たちが、何と後ずさりするではありませんか。
ふふふ、この為に光のを止めておき、魔獣たちの前でいきなり全力で光る!
もうこの周辺を包みこむくらいに光る、光る、光る!!
眩き光の閃光に、視界を奪われるが良いわ!
「でかした、嬢ちゃん!」
放心状態から一番先に復帰したのは、さすがのフランクさん。
目の前で邪魔をされて膠着状態だった二体の人馬獣をたちまち斬り捨てた。
続けてケイジくんがダガーを一閃すると、凶狼が悲鳴を上げて倒れる。
あまりに上手くいきすぎて、二人は倒れた敵を見下ろし、悦に入っている。
ちょっと、早くこっちに来いや!
全力で魔法ぶっ放したから、頭がくらくらするんですけど!
「離脱します!!」
キャロルさんが大声を上げて全員に伝達し、水魔法で大きな水球を出現させる。
「グレンさん、水を炎で斬って!」
「心得たぜ、委員長!」
炎を帯びさせた大剣で水球を思いっきり斬った瞬間、凄まじい蒸気が噴き出した!
「ミーアさん、風を向こうに!」
催眠魔法を魔獣の方に流した要領で、水蒸気を魔獣たちの方へ押しやる。
水蒸気は高熱であり、その蒸気で魔獣たちは蒸されて絶叫すると同時に、私たちにとっては絶好の目くらましになった。
キャロルさん、そういう使い方っていうか、応用が上手いよねー。
私の大道芸魔法もいつか、キャロルさんの手で生まれ変わらないかしら。
「撤収しろ!!」
フランクさんの声に合わせて一斉に駆け出した。
多分、即席のパーティーとしては奇跡に近い連携。
でも包囲をかろうじて突破するのが限界だった。
態勢を立て直すと、あっという間に間合いを詰めてくる魔獣たち。
それをかろうじてフランクさんが防いでいるのも奇跡に近い。
同僚のピエールさんが、疲労困憊ながらも先導をしてくれなければ、もっと早い段階でヤバかったと思う。
遠い。 あまりにも、出口が遠い。
あの橋まで到着し渡り切る事が出来れば。
もしくは援軍が来てくれれば。
おーい、先輩。
お前が駆けつけないから後輩たちが死の鬼ごっこでヒーヒー言ってんだぞ。
頼むぜ、ヒーロー、遅れて来るとか言ってないで、今すぐここに現れてくんないかな。
「ええと、ちんどん屋の君は…エリー、だったかい?」
ちんどん屋って言うなあああああああ!
「さっき使った魔法、やってくれるかい?」
「は?」
「試してみたい事がある」
こんな状況でですか。
まぁ、色々やんなきゃ死んじゃうんで、やりますけど。
「じゃ、いきますよ……【美女の加護】!」
「「「「何で名前を変えた。キャンプファイヤーだろ」」」」
全員から鋭いツッコミが入った。
おのれ、皆が皆で言わなくてもいいだろ。
だがフランクさんが追撃して来た「凶暴熊」に剣を振るうと、一閃でその場に打ち倒してしまった。
あれ? さっきまで苦戦をしていたのに?
じーっと自分の剣を見つめるフランクさん。
おいおい、自分の腕前に見惚れてる場合じゃないぞ。
「全員、光の輪の中に入れ!」
は? それってどんなフォーメーションっスか?
まるで「お姫様を守る騎士」陣形じゃありませんか。
あらやだ、こんなピンチの中、いきなりハーレムルートが……痛い痛い痛い!狭い!押すな!潰れるぅぅぅ!
中心の私が潰れてるよぅぅぅぅ!!
だが私の心の叫びをよそに、フランクさん、グレンくん、ケイジくんが次々に相手を迎撃しているじゃありませんか。
どうした事だ。
こいつぁ突破、いけるんじゃない?
「…………これは」
「……やっぱり」
…………あら?
何だか皆さん、不思議そうな顔をしていますわねー。
実際に魔法発動しているのは私だというのに、当の本人が蚊帳の外と言うね。
どういう事だか、教えてもらおうかしら。
「んとさ、これは僕と……多分、フランクさんも同じ意見だと思うだけどさ」
ケイジくんがダガー片手に「凶狼」をいなしながら、口を開く。
心なしか、さっきよりも余裕があるような……?
「君の魔法、魔獣に利くみたいだね」
は?
「いや、ちょっと違うかな……」
違うのかよ!
「君の魔法は……」
おう、もったいぶらずに教えてくれ。
どんなショボくても良いから、せめてちょっとでも戦力になれるような…
「「魔」属性全般に、異常に効果を発揮する。
おそらく対魔族に関しては比類ない効力を発揮するんじゃないかな」
「………………どゆこと?」
「簡単に言うと……
うーん、僕も知識があるわけじゃないんだけど」
何をそんなに口ごもっちゃうのさ。
今は非常事態なんだから、教えてくれよぅ!
「……聖女クラスの魔法じゃないの、これ」




