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第25話 魔獣討伐(5)

 「あいー、生徒~、生徒はおらんかね~~~」


暗い洞窟内で、キラキラと輝く私。

かれこれ1時間ほど、大道芸魔法「キャンプファイヤー」を使いながら歩き回っている。

死んだ目で先頭を歩く私は、さながらアンデット。

まさかこんな所で私の魔法が活かされる時が来ようとは……


 「なるほどな、遭難者捜索においては、こうした呪文も有用、か」


フランクさんが思案気にうなずく。

グレンさんが羨ましそうに肩を突っつく。


 「羨ましいな、エリー。

  騎士団がお前に目を付けたぞ!」


代わりたいなら代わってやるよ、こんちくしょう。

こちとら生ける提灯だぞ。


だが私の心が死んでいくのとは裏腹に、私めがけて次々と遭難者が見つかっていく。


 「ああ、助かった!」

 「光のある方に向かってよかった!」

 「暗闇の中で一筋の光がさしこんだよ!」


飛んで火にいる何とやらっぽいが、どうやら誘蛾灯の役割くらいは果たせているようである。

しかも光を広げると、凶狼よりも弱っちい凶犬や、大蜥蜴程度の魔獣は、キャインキャイン逃げていく。

暗がりに潜んでいたのに、いきなり照らされれば、さぞや眩しかろう。

うはは、もうこうなりゃあやけっぱちよ、さぁ、道を開けい!!


探索が進んで手分けする必要が出た場合は、万が一離れ離れにならないように、みんなにも同じ魔法をかける。

モニカ様はふわふわと光る自分の体を見ながら、感心して呟く。


 「侮っていましたが、なかなか使える魔法ですわね。

  まだ何にも分類されていない魔法で名前もないとか…。

  そうですわ、これを「迷い子への灯」と名付けましょう」


やめて! そんな中二病全開の名前を付けられたら、毎回それを言わないといけなくなるじゃん!

今は良いかもしれないけど、学校に戻って魔法学の授業をするたびに

 「『迷い子への灯』!」

とか決め台詞っぽく言いながら、発光するだけとか耐えられない!

せめて何か、何かの付与効果さえあればっ…!


 「でも心なしか、元気になった気がするぞ」

 「あ、明るいと精神的に、楽になるような気もするわ」


グレンくんとキャロルさんが務めて明るく言ってくれるのだが……

やめて。

気休め程度の優しさは、かえって傷つくから…。


 「そうですかねぇ。僕はあまり変わらない気が」


ケイジくんは素直すぎるので、それもやめてくれ。

やめろとか、やめるなとか申し訳ないが、乙女心は複雑なのだよ。


気が付けば、索敵をケイジくん、雑魚を騎士のフランクさんと、グレンくん、モニカさんで制圧し、与えられた情報からの指示はキャロルさんのサポートの元、フランクさんが最終的に決めていく。

定期的に取り巻き組のブリアナさんとミーアさんが補助や救護者の手当てを担当し、私が光る事になっていた。

素晴らしい役割分担。

これに回復担当のイヴェットさんがいたら完璧じゃないかしら。

私の負担がすごい軽い気もするけれど、まぁ、元々随行予定もなかったんでね。


 「うーん」


順調のように見える探索だったが、しきりにフランクさんが首を捻っているので、キャロルさんが不審に思い声をかけている。


 「何かまずい事でも?」


 「楽過ぎだな」


 「楽……過ぎですか?」


楽過ぎるなら良いのでは?

ぺかぺか光っているだけで探索完了なら、こんな嬉しい事はないじゃないの。

あ、グレンくん、光が消えかけているから追加しとくわ。


 「いくら低階層とは言っても、ここまで歯応えがないのは初めてだ。

  みんなが想像以上によくやってくれているのも事実だが、それにしても、だ。

  それだけじゃない、相手の強さにも緩急がある」


 「罠の可能性は?」


 「この洞窟に罠を仕掛けるほど知性のある奴がいるとは思えんが…

  それも疑ってかかった方が良いだろうな」


野生動物に近い魔獣、つまり知性をほぼ持たない魔獣しかいないという前提の洞窟に、知性のある怪物なり、悪意のある人間が入ってしまえば、それはもう学生の出番どころの騒ぎではない。

こっちを罠にはめようとするくらいなら、まだ良い。

もしそういう存在が深い階層の魔獣を率いて地上まで向かって来たら……

あ、終わるな。

私が断罪されるまでもなく、GAME OVERなんじゃないかしら。


 「じゃあ、もし罠だとしたらさ、前線で頑張ってる騎士さんたち、危なくないかな?」


 「……………。」


何気なく呟いた一言は、一同を重く沈黙せしめてしまった。

え? 私のせい?

どうにか場を明るくしようと、私は努めて陽気な声で言い直した。


 「で、でも、いざとなったら橋を落とせば良いんでしょ?

  そんな絶体絶命の危機にならないのが一番だけど!」



―― 賢明な方ならお分かりだと思う。

この時、私は盛大なフラグを立てていた。


ほどなくして、私たちは絶体絶命の危機に陥り、あの天井吊り橋は落ちる。


ゲームの知識はあるけれど、実際に未来の事など見通す力などない私は。

調子に乗って大道芸魔法を使いまくっていた私は、今考えればとても幸せだった。


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