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第24話 魔獣討伐(4)

野営地から少し先に進んだ場所に全員が集められる。

そこにまったく戦闘に不向きな魔法持ちの私までが、なぜか召集されていた。

3回ほど逃走を試みたのだが失敗し、今は前後左右を完全にクラスメイト達に包囲されている。

完璧な陣形だぜ、ちくしょうめ。


そんな光景を目の当たりにして、やや呆れ顔をした小隊長のフランクさんが私たちを前に説明を始める。


 「ここから先が、洞窟へのアタックポイントだ」


大きな裂け目にかかった、洞窟内に設置されたとは思えぬ橋が目の前にある。

騎士団の工兵隊が土魔法などを駆使して架けたんだとか。

松明が等間隔に設置されていて橋上こそ照らされているが、その明かりは裂け目の下にまでは届いていない。

なるほど、橋を支える柱が下からではなく、天井から吊るされているのは、それが理由か。

とてもとても、下から柱を伸ばすような高さではない。


 「まぁ、幅広いので落ちることはないと思うが、気を付けろよ。

  落ちたら3層じゃ済まんぞ。4層…下手すると5層にまで落ちるかも知れん」


はるか暗闇の下から変な音が漏れ聞こえてくるが、あまりに不気味な風音に、嘆きの乙女(バンシー)の叫び声とか名前が付いているとか。

ふえ~~、こりゃやべぇ。

落ちたら一巻の終わりじゃん。

ぽぅ、と私は大道芸魔法を発動させ、その深淵を照らそうとしたが、まったく分からない。

少なくとも3層をぶち抜いている事くらいは分かるけど。

………と、さらに光を強くしようとした時、手が掴まれる。


 「何のつもりだ」


私の手を掴んだのは、アーノルド・ウィッシャートさんだった。


 「な、何と申されましても」

 

 「勝手に魔法を使うな。 奥に行くまでとっておけ」


鋭い目つきで睨みつけられ、私は首をすくめる。


 「で、でも、ほら、私の魔法って、そう魔力消費も多くないし、ちょっとくらい…」


 「ちょっとくらい?」


私の手を掴むアーノルドさんの力が強くなる。


 「いいか、舐めるなよ。

  ここはもう洞窟だ、命のやり取りが行われる場だ。

  魔力枯渇、予期せぬ敵との遭遇、小さな怪我が遠因となる大きな怪我……

  少しでも油断をすれば、死が牙を剥いて襲い掛かってくる。

  生半可な気持ちなら帰れ」


え、怖い。

マジで怒っていらっしゃる。

茶化してやろうと思ったけど、そんな雰囲気ではない。


 「アーノルド、そのくらいにしてやれ。

  まだ1年生だろ」


フランクさんに指摘され、ようやく手を離してくれたが、思いっきり手首に痕がついてしまった。

痛いじゃないか、馬鹿力。

手の痕を体に残す事がどんな誤解を招くか知らないわけではないだろ。

この上級プレイヤーめ。


悔しいので恨めし気な視線を浴びせると、満面の笑みで応じやがった。

あいつ、いつか殺す。

フランクさんは、そんな私たちのやり取りを見て、さらに呆れて天を仰いだ。

すみませんね、全部この先輩が悪いんです。


気が付けばアーノルドさんが私たちの前に立って訓示を話し始めた。


 「俺がアーノルド・ウィッシャートだ。

  諸君の中には、知っているという人もいると思う」


全員がうんうん、と頷いた。

良い意味でも、悪い意味でも有名人だものね。


 「………悪いが俺が付いていくのはここまでだ」


 「逃げ帰る奴の訓示なんて意味ねぇんだよー、さっさと出て行けー」


 「…………………(にっこり)」


しまった、思わず野次を口にしてしまった。

それに対してアーノルドさんが笑顔で殴りかかってきたので、クラスメイトとフランクさんが必死で中に割って入ってくれた。

か弱い少女にマウントポジションで殴りかかるかなぁ、普通!?


 「………口を少し閉じてなさい。

  話が進まないわ」


キャロル委員長、ごもっともです。

貝になります、貝に。

それ以上に次やらかしたら、確実にあの野郎に殺られちまうぜ。

ゴホンと咳払いをして、改めてアーノルドさんが口を開く。


 「俺から言えるアドバイスは、ただひとつ。

  死ぬな、だ」


アーノルドさんの口調が一段、低くなった。


 「何があっても死ぬな。

  どんな怪物と遭っても、ダメージを受けても、苦境に陥っても、手足がもげても、諦めるな。

  諦めなきゃ人間ってのは、そう簡単に死にはしない。

  足掻いて、足掻いて、どんなに格好悪くたって、生き延びろ」


その言葉に重みが宿る。

みんなに緊張が走り、改めて今から私たちが向かう場所が、死と隣り合わせなのだと痛感させられる。

だがその重苦しさを振り払うような力強い声と、にかっ、という擬音がぴったりな子供のような笑みを浮かべて、アーノルドさんは、こう言い切った。


 「そしたら、俺が駆けつけてやるぜ」


おお、と級友達は顔を見合わせ、フランクさんも、やれやれと苦笑する。

さすがはイシュメイル王国騎士団を担うと目されている男の言葉は、重みが違う。

全幅の信頼を寄せても良い、そんな気迫と気概がこもった宣言だった。

ちょっと感動的ですらある。

思わず私は、黙ってろと言われていた事も忘れ、口を開いてしまった。


 「はいはーい、しつもーん。

  ここから逃げ帰る人が、どうやって駆けつけられるんですかー?

  無責任な発言は止めて欲しいんスけどー?

  あれ、それとも格好つけたかったのかな? 馬鹿なのかな?」


次の瞬間、再び修羅場が訪れた。

私はまだアタックもしていないのにHPが半分くらいにまで減らされ、アーノルドさんはフランクさんに羽交い絞めにされながら


 「そういう気迫と気概が大事なんだよ、バーカバぁーーーカ!!」


と涙声で叫びながら退場させられて行き、名演説が台無しになった。


 「おまえ………すごいな………」

 「感心するよ……」


グレンくんとケイジくんには感心され、女性陣からは


 「最悪……」

 「空気を読んで欲しいですわ……」

 「何を考えているのかしら」

 「問題児の面目躍如ですね」


と次々に苦言を呈される。

おかしい……みんなはあいつの発言を疑問に思わなかったのか。

それより顔が腫れ上がっているってのに、誰一人労わりの言葉をかけてくれない。

ぐぬぬ、薄情な奴らめ。


ひとしきり反応された後に、ようやくフランクさんが戻って来る。


 「さて、ひとつ言っておこう」


すげぇ、今までのトラブルがなかったかの如く歩き始めた。

ゆっくりと前を警戒しながら、橋を渡り始める。

ああ、私、本当に行くんだ……


 「この橋が絶対防御線だ。

  ここがもっとも迎撃に適しているんだが……なぜだか分かるかい?」


フランクの質問に、優等生のキャロルさんが答える。


 「一本道は迎撃がしやすい、からですか?」


 「半分正解だな。

  振り返って見てみろ」


私たちが振り返ると、今来た道……橋を渡った先は広いスペースがある。


 「橋を渡り切った先は、包囲するのに適した広場になっている。

  橋の出口を囲んで、渡ってくる魔獣に対して一点集中攻撃を仕掛けられる」


なるほど……とは思うが、橋が怖くてまともに説明聞けねぇわ。

本当に大丈夫なのか、この橋。

崩落とかしないんだろうな。


 「それだ」


 「はい?」


ん? 何の事?


 「一本道なら、その道中で迎撃すれば1vs1……と思うだろう?

  だがこの橋はお世辞にも頑丈じゃない。

  激しく戦えば崩落する可能性がある。

  間違えても橋の上で接近戦なんかするんじゃないぞ。

  そういうのは射手に任せておけ。

  それに………」


それに?


 「天井に起爆の魔法が仕掛けられている。

  あれが発動すれば、この橋は落ちる」


マジか!

天井を見れば、何か赤いのが見えるぞ!


 「もし魔獣たちが押し寄せて来た場合、この橋を落とす。

  間違えても、この防衛線を越えさせるわけにはいかないからな」


そういうと、フランクさんは私たちに指輪をひとつづつ、持たせてくれた。

はて、こんな場所でプロポーズではあるまいに、何の役に立つんだ、これ。


 「俺が無事で戻れる保証はない。

  その時は、君たちが橋を壊せ」


 「橋を……私たちが?」


 「指輪をはめて、強く念じながら「爆破」と唱えると魔法が発動する。

  「指輪」と、「念」と、「言葉」が鍵になるように設計されている魔導具だ」


え? 私たちにそんな重要な役割を持たせて良いんですか?

責任負わせ過ぎじゃありませんかね。

ほら、みんなも深刻な顔になっちゃってますよ?


 「使う機会は……ないとは思いますが……」

 「なるほど、最後の切り札ってわけですね」

 「そういうこった。

  少なくとも全員避難させねぇうちは使えねぇ」

 「高貴なる存在には、それに伴う責任が生じる…というわけですわね」

 「さすがはモニカ様、堂々としていらっしゃいますわ」

 「このような場所でも泰然自若としていらして……」


 「【爆破】」


全員が一斉に、ものすごい形相で私の方を振り向いた。


 「あ、本当だ。

  強く念じなければ、発動しないんだ。

  それとも動作不良だったり?」


 「エリーさあああああああああんんんっ!!!」


キャロルさんが凄い剣幕で首を絞めてきた!!

うぐぼぼぼぼ、く、苦しい!

アタックする前に死ぬかも知れん。

やめて、橋の上で接近戦は禁物だと言われたばかりじゃないか!

ちょっとテストしただけなのに!


 「マジかよ、おめー。

  分かってたって、やんねぇだろ、普通……」

 「死ぬのは勝手ですが、一人で死んでくださいね……」


グレンくんとケイジくんの台詞も辛辣である。

モニカ様も「何を考えてますの!」と言いながら、ボディに良いパンチを連発してくる。

首絞められてんのに、みぞおちに何発もかましてくるの、マジやめて欲しい。


 「はは、元気だね」


はて、フランクさんの目はどこに付いているんだろうか。

あなたの目の前で、か弱い生徒が瀕死の状態なのだぞ。


ようやく橋を渡り切った後、地面に転がされた私は、キャロルやモニカ様に見下ろされながら


 「「光れ」」


と命じられた。

何てシュールな光景なの……。

世界広しと言えども「光れ」って命令、そうないと思うんだけど。


 「「ひ・か・れ」」


はいはい、分かりましたよ、もう。

まったく人遣いが荒いんだから………


 「キャンプファイヤー!」


両手を上に掲げると、呪文と共に私の身体が光る。

同時に暗かった洞窟が明るくなり、陰に潜んでいた小さな魔獣たちが慌てて逃げていく。


 「さて、捜索の始まりだ」


格好よく決めたつもりだったのだけど……


 「え? 今のポーズなに?」

 「…………ダサいですわ」

 「おめー、やる気なかったんじゃねーのか?」

 「あはは、なんだか周囲を囲んで踊りたくなりますね」

 「テンション高」

 「あー、無理。距離感、難しい」


級友全員から壮絶にダメ出しを食らった。


良いじゃんかよおおお!

テンション上げて行こうぜーー!


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