2章第103話 悲しき論争
さっきタイトルの途中から2章が抜けているのに気が付いた。
1年以上放置していたのか……w
昼下がりのトラヴィス学園の生徒会室で、二人の男女がむくれている。
一人はエリー・フォレスト。
もう一人はアーノルド・ウィッシャート。
いずれも学内の風紀を大いに乱す不純異性交遊の疑いで拘束されていた。
「「全部、こいつのせいです」」
ついさっきまで、互いの心の中はすべてお見通し、通じ合っているとまで思い合っていた二人は、驚くべき事にすべての責任を相手に押し付けて自己弁護に励んでいた。
「あの場面で股間に手を伸ばす馬鹿と一緒にされたくありません」
「路上でおっ立てる奴の方がどうかと思いますけどねー」
悲しいかな、これが先の洞窟調査で騎士団を壊滅の危機から救った英雄二人の台詞である。
あまりに情けな過ぎて、連行した2学年の学年代表を務めるジュマーナと1学年D組の学級代表であるキャロルは呆れて言葉もない。
そして生徒会監査役を勤めるラルス・ハーゲンベックは、もはや色々な物を諦めたのか目を閉じて二人のやりとりを黙って聞いていた。
「あれは生理現象だからしょうがないんですぅー。むしろ手当と称して弄り回す痴女に言われたくありませんー」
「はあああ?心配してあげた可愛い後輩に向かって痴女とはなんですか、痴女とは!こっちだって、アーノルドさんのアーノルドさんが、あんなになるなんて知っていたら、もうちっと違う扱いしてました!」
「ほう、どう扱っていたのか教えてもらおうか」
「はいはい!!ここにセクハラ大魔王がいます!!とんだ変態野郎が学園に侵入してるんで逮捕してください!」
「それを言うなら先に昼間の往来でセクハラしてきた奴を先に逮捕すべきだと思いまーす!」
「あ、先輩、ついにセクハラという言葉を普通に使いこなしてきやがったな!」
この不毛なやり取りは、とうとう痺れを切らしたラルスの「いい加減にしろ」という一言がなければ永遠に続いていただろう。
「この二人だと主観が強すぎる。第三者の視点から報告をお願いしたい」
ラルスに促されてジュマーナが説明を始める。彼女の説明は概ね、公平かつ正確なものであり、ここに至ってようやく判断するに値する情報が開示された。
そしてアーノルドも知らなかった情報も、ここでようやく共有する事となる。
「……つまり、俺が行くまでもなく、既に手は打たれていたんですね」
「エリー嬢が危険に晒されているのが分かっていて、手を打たぬ道理はあるまい。校内で高慢な貴族連中に絡まれた時は助力するよう、監視を依頼していた。その事を告げる間もなく飛び出したのは、おまえだろう」
エリーが受難した際、ジュマーナが居合わせたのは偶然ではなく、前もってクリフォードやラルスらによって警護を依頼されていたのである。なるほど、いくらなんでもタイミングが良すぎるはずだとエリーは納得したが、一方で納得できない表情なのはアーノルドである。
「この処置に不満か?」
「いや、処置に不満はないんですけどね」
「ならば何に不満なのだ」
「………………」
黙りこんで口を尖らせるアーノルド。周囲の目が集中すると、ようやく観念して口を開く。
「良いっすか。これから俺は、我ながらすげぇ面倒くせぇと自覚して言いますよ。ついでにジュマーナ」
「私か?」
「お前に感謝しているって事は前提の話だからな。それを忘れるな」
「なんじゃ、面白そうではないか」
名指しされたジュマーナは、ニッと優美に笑うと、拝聴の姿勢に入る。
同様にエリーもまた、じーーっとアーノルドを見つめていたのだが、見つめられる方はその視線がわずらわしかったのか、ずびし、と彼女の目を潰しにきたので、また両者の間でひと悶着が発生する。
「はようせんか」
ひっかき傷をあちこちに作った学友に、ジュマーナはいい加減、呆れ果てて苦言を呈した。このままでは一生、生徒会室から出られない。
「つまりよ、もう少し早く止められたんじゃねぇかって事だよ」
アーノルドはようやく、ぶっきらぼうに言い放つ。
「なにを?」
「………お前が止めに入るのは、ひとつしかねぇだろ」
ジュマーナはちょっと考えた後、「ああ」と手を叩く。
「もう少し早ぅ、馬鹿共を止めておれば、エリーは叩かれずに済んだと言いたいのじゃな」
その言葉に、一同の視線が改めてアーノルドに注がれる。
「アーノルド、お前な……」
ラルスが口を開こうとしたのを、アーノルドは手で制した。
「いや、わかってます、ラルス先輩の言いたい事は分かってるんすよ。俺らに代わってエリーを警護してくれたのはジュマーナだ。ありがたい。それはもう心から感謝してるし、エリーが叩かれたってのも、明確に暴挙が行われて言い逃れできない段階を押さえる為だったってのも分かる。ああ、それはもう、十分に分かってます」
一気にまくし立てた後、アーノルドは天を仰いで息を一つ吐く。
「それを踏まえた上で、エリーが叩かれる前に止めて欲しかったと思った次第ッス」
そこにいた面々がそれぞれ複雑そうな顔をする。何か言おうとしても、何となく見当違いな言葉のように思えて、誰もが口を開くに開けない。
そんな空気がいたたまれなかったのか、アーノルドは誰かが口を開く前に、再び機先を制した。
「分かってます!ああ、わかってますよ、俺が面倒くせぇ事を言ってるってのは。逆の立場なら、「お前が言うんじゃねぇ」とでも言い放ってるところです。その上で、ですよ。その上で、何もかもを棚に上げて言わせてもらえば、あんな豚野郎をもっと早く始末できたんじゃねぇかって思ったんです。ジュマーナなら、なおさらだ」
そこまで言うと、ぷい、とそっぽを向いてしまった。
その後は、誰もが何を言うべきか、何と声をかけるか躊躇い、沈黙が流れる。その状況を打破したのは、やはりというべきか、空気を読めない事に定評があるエリーであった。
「めんどくせぇなぁ、もう」
ジト目でアーノルドを眺めるエリーの声は、うんざりしたような色を帯びている。
「だから言ってんだろうが!面倒くせぇって自覚してるってよ」
「まぁ、平手打ちなんて、洞窟での怪我に比べれば、怪我のうちに入りませんよ」
「…………ぇか」
「は?」
アーノルドが急に声を小さくしたので、エリーが追及する。
「なんつったんですか?急に声を小さくしないでくださいよ」
「良いだろ、別に」
「で、何て言ったんです?」
「…ね……たじゃねぇか」
「もう一声」
「……胸揉まれたじゃねぇか」
もうこれ以上、脱力しねぇだろと思っていたエリーの想像を、楽々とアーノルドが越えて来た。面倒くさいどころか、力が抜けるとは。
「なるほど。アーノルドは、エリーが叩かれた事もさる事ながら、胸を揉まれた事が気に入らぬか」
気を取り直したジュマーナが楽しげに聞いて来る。
対してエリーは、何でそんなにアーノルドが気に病んでいるのかが分からない。
(は?私が怒るならまだしも、アーノルドさんが何でそんなに怒ってるわけ?)
くらいのものである。
「そりゃまぁ、気分の良いもんじゃーなかったですけど……いいじゃないっすか、減るもんじゃなし」
「よくねぇよ」
「よくないんスか?」
「何か知らんが、ムカつく」
「はあ」
傍から見れば、明らかに「俺の女に手を出しやがって、ぶっ殺してやる」と言っているようなものなのだが、二人とも自覚がないので話がなかなか合致しない。
ジュマーナは苦笑しながら助け舟を出してやる。
「そう言ってやるな。アーノルドは君の胸が他人に触られるのが、たまらなく悔しいのだ」
「走れメロスかよ」
エリーは自分以外には分からないであろうツッコミを入れる。
ジュマーナは賢明にもそのツッコミには応じず、分かりやすく説明をし直す。
「つまりだな。アーノルドは淡泊に見えて、実に貞操観念と独占欲が強い男だという事だ」
「ほえー。アーノルドさんが淡泊だと思った事は一度もないですけどね」
「本当か?ふーん……」
逆にジュマーナの方が驚き、アーノルドの顔を興味深そうにマジマジと眺めやる。その表情は悪戯っぽく何かを品定めしているようであった。
「ずいぶんと、この子の前では素を出しておるようじゃな。私が求婚した時は、もっと冷淡な感じであったがの」
「求婚!?」
今度はエリーが疑問を口にする番だった。反応は、ジュマーナに比べてはるかに激しいが。
「どどどどどどどーゆー事っすか!?」
エリーの問いに返事をしたのは、それまで沈黙をしていたラルスであった。
「ジュマーナは皇女だ」
「こうじょ?」
「南方大陸のアトゥム王国は知っているだろう?彼女はその第2皇女だが、色々あって我が国に留学中だ」
「ふぁーー」
エリーが間抜けた声を上げる。
輩に囲まれた時、他国の出身とは聞いていたし、なかなかに尊大な言葉づかいをしているなぁとは思っていたが、まさかまさか、他国の皇女様だったとは。
凡人平民メンタルのエリーはその場に「へへー」とひれ伏してしまいそうになる。
「やめい、やめい。皆には一生徒として接してくれるよう、お願いしておる。平伏も「様」付けも無用じゃ」
確かにラルスも敬称などは付けて呼んでいない。
だがエリーは、そんな事、実際どーでも良くて、確かめるべき事があった。
「まぁ、それはそれとして!そのジュマーナ先輩が、アーノルドさんに求婚したってのは、どーゆー了見なんです!?」
「私はこの通り、皇女と言うにはお転婆での。留学と言う形で、体よく王宮から放り出されたのじゃ。ついでに外で良縁のひとつやふたつ見つけて来いとな。その点、ウィッシャート家は満点に近い」
そういうと、親指でクイっとアーノルドを指すが、同時に口をへの字に曲げて続ける。
「だがこの男、私からの求婚の申し出をにべもなく断りおったわ」
「当たり前だろ。上から目線の上、何の熱意もない結婚なんて、まっぴらごめんだ」
「美人で聡明、その上、王族という地位と名声がくっついてくるのじゃぞ。こんな優良物件など、そうそうないと思うが」
「義姉上とクリフォード殿下の間に男子が二人以上産まれなければ、俺がウィッシャートの跡を継ぐ事になる。おいそれと婚姻など結べるはずもない」
「……と、まぁ、色々難癖を付けられて、手酷く振られたというわけよ」
振られた割にはあっけらかんとした物言いである。この美女の性格的に、アーノルドに惚れたというよりは、親から言われたので業務事項のように一番手頃な物件に手を出したという所だろう。
「ほっとしたか?表情が安堵に緩んでおるぞ」
ジュマーナがニマニマとした笑みを浮かべてエリーに問いかける。
彼女がアーノルドに対する好意的な感情をとっくに把握しているのだろう。先ほどあったばかりなのに見事な洞察力である。
というか、分かりやすい程、分かりやすいのに、当事者二人がこじらせ過ぎなのだろう。
「ほう、エリーは俺が結婚して欲しくないのか。ふっ、モテる男はつらいな」
さっきまでの不機嫌はどこへやら、自分の手柄でもないのに上機嫌になったアーノルドがドヤ顔で言い放つ。
こいつ、どの口がそんな台詞を、とその場にいたエリー以外の誰もが頭に浮かべ、当のエリーは
「はははははぁ!?ぜ、ぜんぜん、ぜんぜん、気にしてないし!!」
と動揺丸出しで返事をしている。
そんなエリーを見て勝利を確信するアーノルド。一体、何と戦っているのだろうか、この男は。
しかしそこはエリーも負けじと反撃を試みる。
「そ、それより話を戻しますが、私のおっぱいに固執するなんて、そっちこそとんだ変態野郎じゃないですか!?」
「ぐっ……!」
「おっとぉ、図星ですかぁ?胸を他の方に触らせたのが、そんなに気になるんですか?女子の貞操について、厳しすぎじゃーありませんかねぇ?」
「女子に限らず、健全な男女が貞操を守るのは当然だろ」
「あらあら、アーノルドさんは処女厨でしたか。いやぁ、そうだとは思ってましたが、なかなか女子に幻想を抱いてますねぇ。こじらせてますねぇ~」
「しょ、しょじ……?」
「話の流れからして、女性に対して過度に純潔思想を抱き続けている男性を指しているのでは」
誰も知らない異世界の造語について冷静に分析するのはキャロルである。改めて言われると何とも恥ずかしい。さらに言えば、処女厨と断言された方がもっと恥ずかしいだろう。
ぐらつくアーノルドに対して、エリーはさらに追い打ちをかけた。
「そして処女厨である男性の95%が童貞です。体感的に」
「誰が童貞だ!」
「あら、違うんですか?」
「だ、誰もそんな事、言ってねぇだろ」
どもりながら返事をしてしまったせいで、図らずも生徒会室で童貞である事をカミングアウトするアーノルド。完全にエリーの術中である。
「やれやれ、そうだと思ってましたよ。あれだけのシスコン野郎が経験者だなんて、誰も思っちゃいません。ま、これから経験を積めば、私のように手練手管を使いこなせるようになりますから」
わざとらしいセクシーな目つきと手振りでアーノルドを諭すエリー。もうノリノリだった。
その仕草に絶句するのはアーノルド。
「お、お前、まさか……もう誰かと…」
「は? 処女ですけど」
「うぉーい、今の流れ、おかしいだろ!!心臓がすげぇバクバクしたわ!」
「いつどこにアーノルドさんみたいな処女厨が潜んでいるか分かりませんからね。婚活の時に有利になればと思いまして。備えあれば憂いなしです」
「お前の貞操観念って、そんな打算的なものなの!?」
「つーか、私たちくらいの年齢で経験者の人って、そんなにいます?特にこの学校、貴族の方が多いですし、身持ち固い人、多そうですけど」
「それもそうだが、お前、そんな際どい単語を連発して恥ずかしくねぇのか?」
「恥ずかしいですが、それ以上にアーノルドさんを貶められるなら、いくらでも恥をかく所存です」
「前もそんな事、言ってたよな!?本当にいい性格してるよ!」
どんどんと第三者に対して恥を晒していく二人を見かね、キャロルが論争に割って入り、私見を述べた。
「ともあれアーノルドさんが怒っている理由は分かりました。エリーも憎まれ口を叩いているけど、アーノルドさんが心配してくれてた事については悪い気持ちはしないでしょ?」
実に建設的な言葉である。少なくとも、とりとめもない罵詈雑言を交わし続けるよりもはるかに。
そしてこの流れにジュマーナも続く。
「アーノルドの言葉、一理ある。エリーが輩に囲まれた時、すぐに割り込む事もできた。しかしエリーがどのような対応をするのか興味があり、状況を静観し続けてしまった。その結果、対処が遅れ、おぬしを傷つける事になったのは事実じゃ。申し訳ない」
ジュマーナがエリーに頭を下げる。皇族が平民に頭を下げるなど、通例であればとんでもない事であり、その辺の常識が欠けているエリー以外は、目を丸くした。
エリーはエリーで、この世界の常識がないとはいえ、そんな真摯に謝られると、申し訳ない気持ちが先に立つ。慌てて「こちらこそ」と馬鹿丁寧に頭を下げてしまった。
「その件ですけれどね」
キャロルが先ほどのトラブルについて語り出す。
「エリーはこの通り、馬鹿なのですが……」
「え?いきなり悪口?」
「暴漢に嫌な思いをさせられて平気なわけではないと思います。この事がきっかけで学校に来たくなくなってしまうかも知れません。今は平気でも、後々、思い返して嫌な事になるかも知れないですし」
「むー」
確かに、とエリーは唸る。
一方、アーノルドの目が暗く沈んだのは「ほらみろ、やっぱりあいつらは屠殺すべきだったんだ」とでも思っているからだろう。
「ですが起きてしまった事はもう取り返せません。今後、こんな事が起きないようにするのは絶対として、エリーの脳裏から嫌な気持ちを払拭させる方法はひとつ……もっと良い記憶で上書きする事だと思うんです」
「上書き?」
「もっと学校で楽しい事をしましょう。学校行事でも良いし、みんなでご飯を食べたり勉強するのでも良いです。いい思い出で、今日の悪い記憶なんて塗りつぶしてしまいましょう」
何と言う建設的な意見だろうか。処女とか童貞とか話していた人間が低俗に見える立派な意見である。
エリーはぼそり、
「楽しい学校行事、あらかた終わったんだけど」
と、入院中に秋~冬のイベント行事があらかた終了していた事にたいして恨みがましい事を呟いたが
「え?学年末試験とか、魔法試験とか、まだまだあるじゃない?」
とキャロルがガチ顔で言うのを目の当たりにして
「こ、こいつ、試験が楽しいイベントと認識しているのか……?」
と戦慄しながら沈黙した。あまりに思考がかけ離れた人物に対して、人は交わす言葉を失うらしい。
とはいえ、キャロルの言葉は、頑なになっていた二人にも響いた。そしてここまで静観していたラルスが場をまとめるように一同に向かい語りかける。
「嫌な事があれば、その倍以上、楽しい事をしよう。怒りに顔を歪ませるより、笑って頬を綻ばせる方が人生、楽しいというものだ。我々もかくありたいものだな」
先ほどまで言い争っていたアーノルドとエリーだったが、そこまで言われては矛を収めざるを得ない。
「……その通りです。頭に血が上ってしまい、申し訳ねぇ」
「私もちょっと、大人げなかったです」
素直に頭を下げる二人。その様子に、他の3名はほっと胸を撫で下ろした。
そしてエリーは、笑顔でこう続ける。
「じゃあ、アーノルドさん」
「おう」
「おっぱい、揉みますか?」
その言葉に硬直するアーノルドたち。絶対零度まで冷却する場。
対してエリーだけが変貌した空気に焦りながら、しゃべり続ける。
「え?揉まないんですか?」
「揉まねぇよ!!! お前、話聞いてた!?」
「アーノルドさんが私のおっぱい揉んで記憶を上書きするって話じゃなかったでしたっけ?」
「ちげぇよ!そんな直接的っつーか、物理的なもんじゃなくて、もっと精神的な感じだったよ!」
「なーんだ、じゃあ揉まなくて良いんですね」
「………………」
「おーい、そゆとこだぞ、先輩!!そこは嘘でも「揉まねぇよ!」とか言えよ!ガチめな感じになるだろ!もしくは逆に「揉みたいです!」とか言ってくれれば「いやーん」とか冗談っぽい流れになるのに、まったく使えない先輩ですねぇ!」
「いやいや、言ったらぜってぇ罵声浴びせてくるだろ!」
「言いませんよ。こう見えても冗談には寛容なんです」
「揉みたいです」
「うっわ、キモ……」
「騙された!!もう絶対に言わねぇからな!!」
再び始まった騒音に、キャロルが眼鏡をずらし、目頭を押さえる。
「せっかく終わったと思ったのに……」
ジュマーナは首を振り、ラルスはお決まりの台詞を呟いた。
「馬鹿ばっかりだ………」
そしてこの醜い争いは10分後に
「ごめんなさい。冬季休校明けの授業について、先生方とお話をしていたせいで遅くなって…」
と生徒会室にノエリア・ウィッシャートが花のような笑顔で入室し、それに対して
「ほらほら、おっぱい揉んでくださいよ!一つと言わず、二つともどうぞ!!」
「そっちこそ俺の股間がそんなに気に入ったんなら、好きなだけ握らせてやるよ!」
という、地獄のような言葉で応じたせいで彼女が卒倒するまで続いたのである。




