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後書き
あの日崩れた都市は再構し、赤煉瓦もなく、真っ黒な世界の端すらも感じ取れなくなっている。しかし、黒々しい地獄の中央で卑しい笑いを浮かべる男の姿は、はっきりと私の世界の中に現れていた。研ぎ澄まされた痛々しい声を辿っていく。男は私の隣にいた。手には白い骨がまっしろに光っている。黒々しい世界の中で唯一の白を私も手を伸ばす。
「あれが神様とやらの審判なのだとしたら、神様の思し召しは私にとっての救いをもたらしてくれた。汚れる前になくなったことを、未だに私は光栄に思っています」
男はそういうとくつくつと笑う。
大事そうに抱えているものがうっすらと見える。白い骨がまだ、そこにはあった。私は男の持っていた骨に一本の掴むには光りすぎてきわどい線がひかれているのが見えた。その線を、逃さぬようしっかりとつかみ取る。これを私は書かねばならない。男のその骨を、業を。その骨は、あまりにも美しかった。周辺は地獄だったとしても。
私の瞳には未だに映っている。男が地獄の中で笑うさまが。これを失わない限り、私は永遠に、筆を折らないでいられると、確信した。