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ターニングポイント 第62話的屋

愛知県熱田の市場にて萬崎は大声を張り上げて


「さぁ、よってらっしゃい、みてらっしゃいそこの人達こんにちは、こんないい物がなんとこの値段買わなきゃ損損、いい品いっぱい。売り切れごめんときたもんだ。それ買った、買ったほれ百円、買わないかじゃあ二百円早くしなきゃ値はどんどん上がる世間は待ってくれやしないよ」


 萬崎のタンカを聞いていた客は慌てて


「待った!買う買う」


「おっ、その判断正しいね、人間瞬間的な判断が必要よ、それ他の人もこのあんちゃんを見習うんだ」


 萬崎は隣にいる飯田の頭を叩いて


「ほらぼさっとしてないであんちゃんに品物渡して」


「はい」


「ほれ三百円、四百円」


 萬崎の掛け声に


「はい、はい買う、買う」


「ほらさっきのあんちゃん二百円も得した。やはり人間素早い判断が大切よ、さぁ皆買った、買った」


「殿―‼」


 爺やは叫びながら走って来た。


 息切れしている爺やに


「おう、どうした爺や」


「殿こそどうしたんですかそのような恰好をして」


 爺やが驚くのも無理ない。萬崎の格好は腹巻に腕まくりをしたシャツにハチマキをしていた。


「的屋をやってんだから熊さんの格好をしてんだよ」


「熊さん?」


 萬崎は呆れながら


「爺や、熊さんも知らないのか、男は大変よ。の熊さんだよこの国の九割は知ってんだよ全く教養がないなぁ、爺やは」


「そんなにも有名何ですか知らなくてすみません」


「ちゃんと覚えておけよ」


「はい、そんなことより琵琶からの返事が来ました」


「内容はなんだった、申せ」


 爺やは困った表情で


「いやここは民衆がたくさんいるので」


「そうか、じゃあ城に戻ろう」


 萬崎と爺やの会話を聞いていた民衆の一人が恐る恐る


「すみませんがあなた様は殿様だったのですか?」


「生まれも育ちも日ノ本育ち性は萬崎名は智晴人呼んでうつけの殿と発します」


爺やは萬崎の袖を軽く引っ張りながら


「殿、くだらないこと言ってないで行きますぞ」


「あぁ」


 民衆は城に向かって行く萬崎の後ろ姿を見て


「あれが殿様だったのか」


「俺失礼なことしたかなぁ」


「殿様だと知っていたら買ったのに」


「俺買ってよかった」


 民衆はその日萬崎の話で持ちきりだった。




 萬崎は那古野城に帰ると家臣が揃って萬崎の帰りを待っていた。


「おっ、皆お揃いでどうしたの?」


「殿、お読みくだされ」


 爺やは萬崎に手紙を渡した。


「何々同盟の条件は智晴様の妹君の智江様をお嫁にください」


「何だこれは、おいこんなの断固として反対だね」


「しかし殿、岐阜が敵となった今岐阜の隣の滋賀を支配している琵琶殿と同盟を結ばなければならないですしそれにもう智江様は良いお歳、嫁ぐのは良い機会ではないですか」


 萬崎は大きな声で


「ダメだ、ダメだ、なぜ身元もわからない奴のところに俺の可愛い妹を嫁がせなければならんのだ」


飯田は笑いながら


「智之、身元はわかってるんだよ」


「そっか、確かに身元はわかってるな」


「そうですよ、相手はちゃんとした方なので大丈夫ですよ」


「しかしどんな奴かわからない者のところに妹を嫁がせるわけにはいかない!」


「殿、しかしそれは仕方ないではありませんか」


 萬崎は駄々っ子のように


「うるさい、なんと言おうと嫌なものは嫌だ」


 萬崎が騒いでいるといきなりスッーとふすまが開いた。


「おい、智江どうした」


 そこには顔もスタイルもパーフェクトの美形で戦国一の美人と呼ばれるにふさわしい智江の姿があった。


「兄上、私は嫁ぎとうございます」


「おう、そうかぁって、ええーえ」


 萬崎は驚いてひっくり返った。


「ダメだ、智江」


「兄上、なぜですか?」


「なぜ俺が可愛い妹を差し出さなきゃいけないんだ」


 怒る萬崎に爺やはなだめるように


「殿、琵琶と同盟を組まないと今の萬崎家は生き残れないんですよ」


「そんなことはわからないじゃないか、例えこの家が同盟を組まないと生き残れないとしてもなぜ俺の可愛い妹をそのための道具みたいに使わないといけないんだ」


 爺やは困った表情で


「しかし殿、ここは智江様に協力していただかないと」


 萬崎は大きな声で


「智江だって恋をして好きな人と結婚したいに決まっている、それなのに萬崎家の存続のために知らない人と結婚させられるなんてあまりにも可哀そうだ」


「しかし殿、このご時世他の大名もそうしてるんですよ」


「他の大名がしてようがしてまいが関係ない家の存続より智江の幸せの方が優先なんだ」


 智江は笑顔で


「兄上、兄上はやっぱり優しいね、でもね私は大丈夫だから好きな人もいないしもう歳だって二十六だし嫁ぎたいと思ってたから」


 萬崎は智江の両肩に両手を置いて


「そんな無理するな、琵琶と同盟なんてしなくたってなんとかなるんだぞ」


「兄上、ありがとうでもね私がここでわがまま言ったら萬崎家の人々が路頭に迷うことになるかも知れないんだよ、だから私は嫁ぐよ」


 優しい表情で言う智江に対して萬崎は


「そうか、好きにしろ」


 そう言って去って行った。


 俺はなぜいつも智江に迷惑をかけるんだ。


なぜ俺に智江を幸せにしてやれる力がないんだ。なぜだ、あいつは俺のたった一人の妹なのに俺はあいつの力になってあげることができないんだ。


 萬崎は自分の不甲斐なさと悔しさで思いっきり壁を殴った。


 俺は情けない日ノ本一の美女を幸せにしてやれないのだから


 黒髪ロングで綺麗に整った顔立ち、透き通る肌、スラっとした手と足、綺麗で大きな目をした智江は文句なしの日ノ本一の美人なのである。

 彼女と結婚できるのなら同盟を組むという大名はたくさんいるだろう。

 壁を殴って痛めた拳を抑えながら萬崎は自分にできることはないかと考えていた。


「大変だぁー‼」


 爺やは叫びながら凄い勢いで廊下を走っている。


「どうなされた」


 天子は凄い勢いで走っている爺やを呼び止めた。


「天子様、とっ殿がいないのです!」


 この爺やの言葉を聞いて皆は急いで手分けして萬崎を探し始めた。



 果たして萬崎はどこへ行ってしまったのだろうか?






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