ターニングポイント 第54話失踪
「兄上の首を刎ねる⁉」
驚く金崎国子に対して数男は
「そうだ、それが大将としての正しい判断だ」
「無理です、兄上の首を刎ねるなんてできません」
兄、数男支持派の家臣達も慌てて
「数男様、何をおっしゃってるんですか、悪ふざけはやめてください、我々は負けたので潔く国子様に従いますから」
数男は家臣達を睨みつけながら
「うるさい、お前たちが国子に従うのは当然の事だろうが」
家臣達は黙る。
数男は優しい表情で
「国子、当主とは時には非情にならないといけない時もあるんだ」
「だったら、私は城主なんかやりたくないです」
「この乱世でこの国を守れるのはお前しかいないんだよ!」
金崎国子は泣きながら
「それでも私は嫌です、兄上を殺したくないです」
「お前には力がある、力のある者が正義を貫き力のない者を助ける、これが我が金崎家の家風ぞ、それができるのはこの国で金崎国子ただ一人なんだ」
数男は微笑むように
「だから当主になってこの国の人々を幸せにしてくれ」
金崎は泣きながら
「でも、兄上を殺したくないです」
数男は天を見ながら
「どちらにしても病弱の身、天に行くのが少し早いだけさ」
金崎国子は刀を置いて
「やっぱり、私には無理です」
金崎国子はいきなりその場を走って逃げだした。
家臣達が慌てて追いかけるが金崎国子は物凄い速さで消えてしまったのであった。
一週間後金崎国子の姿は大多喜、南妙寺にあった。
士郎は本を持って走りながら
「先生、先生この本読んで」
「はい、はい」
自然にちょこんと金崎の膝に座る士郎を経丸は羨ましそうに見ていると金崎は優しい口調で
「経丸ちゃんもこっちおいでよ」
経丸も嬉しそうに走って来て士郎の隣に座わって金崎に読み聞かせをしてもらった。
読み聞かせを聞いている時の士郎と経丸はおとなしく真剣に聞いていてその読み聞かせが終わると物語の感想を三人で楽しく言い合うのが日課となっていて金崎はこの時間が凄く好きだった。
金崎は他にも士郎と経丸に読み書きや習字を教えた。落ち着きのなかった士郎も習字を習った事によって字は全くうまくならなかったが少しだけ落ち着くようになった。ちなみに経丸は字も上手くなったのである。
金崎は毎晩、夜空を見ながら酒を飲み自分の不甲斐なさに泣いていた。
いつも通り泣いていたある日
お手洗いのために起きた経丸と遭遇する。
毎日おねしょをする士郎と違って経丸は寝る前にお手洗いを済ませておねしょをしないようにしていた。
「先生、泣いてるの?」
泣いてるところを見られた金崎は誤魔化すように
「先生、はねぇ満月が綺麗だなと思って感動してるの」
「確かに綺麗だね」
金崎は純粋な瞳で満月を見る経丸を見て
いいなぁ、こんな純粋に満月を見れて悩みや不安とかないんだろうな
金崎は経丸をとても羨ましく思ったのであった。
金崎が南妙寺での生活に慣れて来たある日
「経丸ちゃん、その顔の傷どうしたの」
経丸の隣で士郎が泣きながら
「それがしのせいで経丸ちゃんの顔に傷がついちゃった」
金崎は経丸を抱きかかえ
「とにかく、経丸ちゃんの手当てをするから士郎君は中に入っていて」
金崎は救急箱を取り出して経丸の顔の傷の手当を始めた。
「しみる?大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「経丸ちゃん、どうしたのこの傷は」
「士郎がね、弱い者いじめされてたからかばったらね、やられちゃった」
金崎は優しい口調で
「とても勇気のある行動だけど女の子なんだから顔は大事にしないとダメだよ」
えへへと笑う経丸に金崎は
「何で士郎君を守ってあげたの?」
「士郎はケンカ弱いから私が守ってあげないと」
この言葉が金崎の心に響いた。
こんなに小さな子でも自分より弱い者を一生懸命守ろうとしたんだ。
金崎はこんなに小さい子でも逃げずに戦っているのに自分はこのまま逃げていてはよくないと思い新潟に帰る決心をした。
金崎は別れが辛くなるので書置きだけを残して新潟に帰っていった。
新潟に帰る途中に兄上が戦で苦戦しているとの情報が入って来た。
金崎は全速力で戦場に向かった。
「金崎家も、もはやこれまでか」
金崎家が諦めモードの最中
「殿、正面から一騎こちらに向かっております」
数男は警戒した声で
「敵か?」
一騎はドンドン近付いて来て
「殿、あれは国子様です」
「誠か‼」
国子は数男の前に現れ
「金崎国子、遅れながら参りました」
数男は嬉しそうに
「よう戻って来たな」
「此度の失踪誠に申し訳ございませんでした」
「謝罪などいらない、この状況を打破して見せろ」
「はい!」
金崎国子は軍を率いて先ほどまで苦戦を強いられていた相手をボコボコに完膚なきまでに倒したのであった。
金崎軍は意気揚々と城に戻ったのであった。
金崎国子は皆に
「皆さん、此度は迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
この言葉に兄支持派だった家臣達が
「ホントですよ、迷惑かけて」
「全く金崎家は滅びるかと思いましたよ」
金崎国子は頭を下げながら
「私はどんな処遇でも受けるつもりです」
兄支持派の家臣のリーダー格の者が
「じゃあ罰として当主になってください」
「えっ、いいんですか、私は逃げたんですよ」
「まぁ、数男様じゃ金崎家は滅びちゃうんで」
数男は笑いながら
「だから言ったろ、当主は国子がいいってそれなのにお前たちが余計な事するから国子が失踪することになったんだぞ」
「それはもう言わない約束ですよ、数男様」
「お前らホント都合いいな」
皆笑った。
兄支持派だった家臣達は真剣な顏で
「殿、我々は殿を暗殺しようとしてすみませんでした処分は何でも受けます」
金崎はニッコリ笑って
「じゃあ、一生私に仕えてください」
金崎の器の広さに兄支持派だった家臣は泣きそうになりながら
「ありがとうございます」
金崎は宣言するように
「私の最初の命令は兄上、私はあなたを殺さないし死ぬことを許さないこれは当主命令だ」
数男はこの前とは全く違う国子の態度に圧倒されながらも
「しかし、私がいるとまた跡目争いが起きるんじゃ」
兄支持派だった家臣が笑いながら
「もう、起きやしませんよ、こんなにも実力に格差があるんですから」
「そっか、起きないかって、やかましいわ」
皆笑った。
こうして金崎国子は金崎家の当主になったのである。




