ターニングポイント 第36話霧中
金崎は決戦の前に兵の士気を高めるため豪勢なご馳走を皆に振舞った。
兵達は目の前のご馳走に興奮し金崎軍の士気が上昇したのであった。
金崎は毘沙門天に戦の勝利を心の中で祈った後皆を集めて
「皆さん今から山を下りますその時絶対に音をたてないでください、馬には布を噛ませて絶対に鳴かせないでください」
金崎の指示に皆は低く小さな声で「はい」と返事した。
金崎軍主力隊九千と天羽軍千は妻女山を物音たてずに下って行く。金崎軍二千の兵と天羽軍士郎と片倉と稲荷と海老太郎を含めた千人は妻女山に留まる事になった。
山を下っている経丸は不安そうな顔で
「士郎達は大丈夫ですかね?」
凛は経丸の肩をポンと叩いて
「片倉さんと海老太郎君と稲荷君がついているので大丈夫かと、それに危なかったら兄貴の事だから逃げると思いますよ」
「それならいいですが」
経丸の顔は晴れない
凛は経丸の両肩を優しく揉みながら
「経丸さん、家臣を信じるのも殿の役目ですよ」
「そうですよね」
気持ちー‼気持ちー‼
経丸は士郎の言葉を心の中で叫んで自分に気合を入れた。
凛は経丸とひのの手を取って
「兄貴達は絶対に死なない、だから私達も必ず生きて帰ってまた皆でバカなことしましょう」
経丸とひのは声を揃えて小さな声で
「はい」
その頃士郎達は
稲荷が不安そうな顔で
「殿達行ってしまったね」
「そうですね、殿達大丈夫かなぁ」
不安そうな顔の海老太郎と稲荷に士郎が真剣な表情で
「今回の戦、それがしらがいかに足止めするかにかかってるから経丸を心配するより活躍することを考えなきゃ」
海老太郎は士郎の背中をバーンと叩いて
「士郎さん、いいこと言うじゃん」
「痛てぇよ。士郎君」
「あっ、すみません」
片倉は気を引き締めて士郎達に向かっていつもになく恐い表情で
「皆、とにかく敵を倒すぞ」
士郎達は片倉の表情に少し怯えながら
「おう!」
片倉は夜空を見上げて
殿、自分の命に代えてでも絶対に殿を死なせませんから
と心の中で誓ったのだった。
朝六時、川中島一帯は霧に覆われている。
「いいですか、皆さんこの戦いは日ノ本の歴史上最大の戦いになるでしょう、その戦いに私達は参加している」
金崎は右手で拳を作りグッと天に突きつけて
「自分達に誇りを持てぇー‼」
兵達は声を揃えて
「オー‼」
金崎はけして大げさな事言っているわけではない。日ノ本一、最強の騎馬隊と言われている松本軍と日ノ本一、最強の軍神と言われている金崎軍が総力をかけて戦うまさに日ノ本一、最強決定戦なのである。
金崎のこの一言で金崎軍の士気は上昇した。
金崎は経丸に
「経丸さんはこの戦ずっと私のそばにいてください」
「えっ」
金崎は鋭い目つきで
「戦というものをお教えしますよ」
「はい!」
凛が金崎に
「金崎さん、私達は?」
「我が軍の中心にいて今日の戦いをしっかりと見ていてください」
「はい、わかりました」
凛とひのの二人は声を揃えて金崎に
「殿の事をよろしくお願いいたします」
頭を下げる二人に金崎は優しい表情で
「任せてください」
金崎は経丸を連れて軍の前線に向かっていった。
その頃松本軍は別働隊一万二千を妻女山に向かわせて本陣は八千の兵で鶴翼の陣を構えて金崎軍が妻女山から逃げてくるのを待ち構えていた。
軍の中心に椅子に座っている松本徳博は横に立っている保守幹介に
「そろそろ来るか?」
保守幹介少し笑いながら
「後一時間は来ないですよ、お屋形様緊張しすぎですよ」
松本はバツが悪そうに
「そっそっか」
「お屋形様、この戦で勝って日本海を手に入れましょうね」
保守幹介の言葉を聞いた松本は先ほどまでのおどおどした表情とは真逆の強く頼もしそうなギラギラした表情をし低く力強い声で
「そうだな、日本海を絶対に手に入れるぞ!」
松本は不安な気持ちが飛び、闘志が湧き出てきたのであった。
松本徳博は広い領土を支配していたがその領土はすべて海に面してなかった。海がないために領民の暮らしはきつかった、海があれば領民が豊かに暮らせる、松本も領民もそのことを痛いほど理解している、海奪回は松本と領民の悲願である。そのためには日本海を支配している金崎を何としてでも倒さないといけないのだ。
金崎は強いしかし必ずこの戦で潰さなければ
松本徳博は気合を入れるため思いっきり木の軍配で左太ももを叩いた。
霧は晴れた。
今それぞれが色々な思いを抱えながらこの川中島で歴史上最大の戦が始まろうとしていた。




