ミラとロド
次の日、とりあえず健太は家にあった文房具を一式集め登校した。教科書はとりあえず他のクラスの友達から借りればいい為、とりあえず問題は無い。しかしずっと借り続けているのも申し訳ない為、どのみち再びあの異世界に行って、回収しなければならない。
健太はいつもより早く起きてトンネルを出たり入ったりして調べてみたものの、特に変化はなかった。時間帯が関係しているのかもしれないと、放課後になると健太は部活を終え、帰る時にトンネルを何度か行き来してみた。
「あれ、やっぱりだめだ」
何度試してみても、特に変化は無かった。夜も遅かったため、健太はとりあえず家に帰った。
自転車が無くなり歩いて帰っている為、いつもの倍の時間がかかり、部活もしてきた事からもう疲れ果てていた。
「あー、疲れた。あと少しあと、少し」
「ただいま」
健太は疲れ果てた状態で玄関の扉を開けると、全く知らない空間が目の前にあった。
「ここは・・・」
見たことのないテーブルやソファー全体を白で統一された部屋、人の気配は無いがテーブルの上に服があったりと使われている形跡がいくつかあった。
健太が戻ろうとすると、そこにはもう扉は無かった。
「ここは一体どこだ」
健太が少し部屋の中を物色していると、奥の扉から物音がした。
(誰かいるのか)
健太があたふたしているうちに、扉の向こうから誰かが入ってきた。
「えっ?」
「ん?」
扉の向こうからは、見覚えのある少女が現れた。しかも全裸で。
必死に両手で目を隠す健太、全く動じずただ健太を見つめる少女。二人の空間はしばし無音の状態が続いた。
「おい、なにが着ろよ!」
「・・・」
「頼む早くしてくれ」
「・・・」
「頼むから返事くらいしてくれよ!」
「あーごめんね、今服を着させるからね」
少女の髪の中からマスコットキャラクターのようなドラゴンが出てきた。
「ほら、ミラ服を着な」
「・・・うん・・・」
少女は健太の目の前でテーブルの上にあった服を着た。
「まぁ、とりあえず座りなよ少年」
「あっ、はい」
健太はとりあえずドラゴンの言われるまま、目の前の椅子に腰掛けた。
「まずは自己紹介だね、私の名前はロド。ここにいるミラの従者だよ」
「はぁ」
「この子はいまいちコミュニケーションが苦手でね、大体私が喋るんだよ」
「なるほど、じゃあもしかしてあの時も」
「ああ、私が話したんだ。見えなかったからミラが喋ったように見えただろ」
「はい」
初めて会った時と印象が違ったことに合点がついた。
「それで、少年の名前は?」
「あっ、はい。俺は健太です」
「ほう、健太か。いい名だ」
「ところでここはどこなんですか?」
「ここは弱肉強食の世界、強さを求める者だけが生き残れる『ウォード』」
その瞬間、健太は全身から冷や汗をかいた。ある程度武道を心得ている健太には、自分や周りの人間がどのくらい強いかを測り知ることができる。だからこそ、この世界に来た時にも感じた『自分はこの世界で最弱である』という事に恐怖心を感じた。
ここに初めて来た時も、戦っているところしか見ていない。思い出すと健太は生唾を何回も飲んだ。
「じゃあこちらからも一つ質問をしよう」
「はい、どうぞ」
「君はなぜ武器も持たずあそこにいたんだい?」
鋭い目で健太を見つめるロド。自分に向けられている疑いと殺気に、健太は息を飲んだ。確かにあんな無防備な格好でいれば、疑問に思われるのも無理はない。しかし、異世界から来たと言っても信じてもらえるはずもない。
「え、えっと、強うなりたくて」
健太が答えると、ロドは目を大きくして健太を見つめた。
「強くなるために、無防備で来ただと!」
「は、はい・・・」
まずい事を言ってしまったのか、さらに疑い深くなってしまったのか心配になる健太。
「強くなるために無防備で・・・、はっはっはっ、これは面白い!」
「えっ?」
「なるほど、事情は理解した。ならば私が健太を強くしてやろう。」
「えっ、いいのか」
「あぁ、どのみちここで生き残るには強くなくてはいけない。だから生き延びるために君を鍛え上げてやろう」
「おー、ありがとうロド!」
「その代わりここに住まわせてあげるから、家事を一通り頼んだぞ」
「なっ!」
ロドがにやけながら健太を見つめた。これは一本とられたと言わんばかりに、健太は笑った。そんな中、健太をずっと見つめ続けるミラ。ロドは笑いながらミラの事をチラ見した。
(あの時、ミラはなぜ彼に・・・)
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少し遡り、ミラとロドが家へと帰る時。ロドが健太を見つけた。
(ん、なんであんな所に倒れているんだ?まぁいいか、弱者は強者に喰われるそれだけだ)
そうロドが思った時。
「ロド、あそこに人が」
「えっ、ああそうだね」
(ミラが反応した⁈今まで倒れているやつがいても気にしなかったのに)
「ロド、彼助けてもいい?」
「えっ⁈あ、あぁ助けよう」
そして二人が生物を倒し終えた頃、健太は現実の世界へと戻っていた。
「あれ、少年はどこだ?」
「・・・」
少し寂しい様子を見せるミラ、それを見て怒り出すロド。
(ミラが助けたのにも関わらずお礼なしとは)
そんな中ミラが健太のカバン類を見つけた。
「ねぇロド、これ」
「これは・・・」
ミラはカバンの中のあさり、生徒手帳を見つけた。
「け、ん、た?」
「これは・・・。とりあえず持ち帰ろう、もしかしたらまた近いうちに会えるかもしれないからね」
「うん」
ミラが少し嬉しそうなのを見ると、ロドも少し安心した様子を見せた。
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「それじゃ、これからよろしくね健太」
「あぁ、よろしくお願いしますロド、ミラ」
健太が笑顔になるのを見つめる二人、その二人がさっきまでいた部屋の地下には健太のカバンと自転車が置いてあった。